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■結成編
【7】
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国に薄っすらではあるが大きな影がかかった。
夜とは違い、黒に染まりながらも光り輝く空が、国の上に浮かぶ巨体を照らして地上に影を落としたのだ。
ドラゴンはいまだ動かない。まだ国を見渡しているような仕草を続けている。
人間側も先制攻撃するべきか、うかつに刺激しないよう様子を見るべきかで動くことができなかった。
時間にすれば数十秒程度だったのだろう。
先に動きを見せたのは、瞳を黒いもやに覆い、この世界で闇の法則をつかさどるとされる存在だった。
『この人間の集落において、我との対話にふさわしいのはお前でいいのか?』
響き渡る声と共にドラゴンの首が、1人の人間に向いた。
守備隊員たちも釣られるように、一斉にそちらに振り向く。
視線が一度に集中し、その渦中にある隊長は動揺した。
注目されたことではなく、対話が可能なことにただ驚いたのだ。
「……なぜ、そう思ったのですか?」
隊長が聞き返すと、ドラゴンはまた口を開く。
『なんとなくだ。我が見る限り、お前が人間たちの中心にいるように見えた』
「ええ……間違ってはないかもしれません。私はこの国の守備隊長をやっております。緊急時での権限は場合によっては王より上かもしれません」
『ほう、状況に応じては王を名乗るものより上の権力を握るか。人間の仕組みというのは以前理解し難いな……ああ、それを楽しいと思ってしまうこれが面白いと呼べる感情なのか……味わってみると思ったより心地よいものかもしれん』
くくく、と声を殺したようにドラゴンは笑う。一見すると、まるで子供のようにも見える。
あまりのギャップに、対話している隊長、それを聞いている隊員、国民も困惑しているだろう。
もしかしたら対話でなんとかなるのではないか、と。
「質問ですが…ドラゴン…魔王…あなたはどちらでお呼びするべきですか?」
『この身体は借りているにすぎん。お前たちの基準となるなら我の呼び名は魔王で相違ないだろう』
「では魔王、あなたがこの国に来た理由はなんですか? この国の資源、あるいは手に入れたいものがあるなら我々は惜しむことなくそれを提供します。お互いに血を流すような争いは避けるべき──」
突如、大きく開いたドラゴンの口から灼熱の炎が解き放たれた。
隊長は戦士特有の紫色の光を輝かせ、自身に襲いかかる火炎を切り裂く。
が、火炎の範囲は大きかった。
瞬く間に国は揺れ動く炎に支配され、耳を塞ぎたがるほどの絶叫がこだまする。
『この国来た理由は実験と、ここが竜の名を受けついでいるからどういうものかと見に来ただけだ。さあ答えたぞ。次はお前たちが我に答えを示す番だ』
燃え広がる国の悲鳴を聞きながら、魔王は笑みに近い表情を浮かべた。
夜とは違い、黒に染まりながらも光り輝く空が、国の上に浮かぶ巨体を照らして地上に影を落としたのだ。
ドラゴンはいまだ動かない。まだ国を見渡しているような仕草を続けている。
人間側も先制攻撃するべきか、うかつに刺激しないよう様子を見るべきかで動くことができなかった。
時間にすれば数十秒程度だったのだろう。
先に動きを見せたのは、瞳を黒いもやに覆い、この世界で闇の法則をつかさどるとされる存在だった。
『この人間の集落において、我との対話にふさわしいのはお前でいいのか?』
響き渡る声と共にドラゴンの首が、1人の人間に向いた。
守備隊員たちも釣られるように、一斉にそちらに振り向く。
視線が一度に集中し、その渦中にある隊長は動揺した。
注目されたことではなく、対話が可能なことにただ驚いたのだ。
「……なぜ、そう思ったのですか?」
隊長が聞き返すと、ドラゴンはまた口を開く。
『なんとなくだ。我が見る限り、お前が人間たちの中心にいるように見えた』
「ええ……間違ってはないかもしれません。私はこの国の守備隊長をやっております。緊急時での権限は場合によっては王より上かもしれません」
『ほう、状況に応じては王を名乗るものより上の権力を握るか。人間の仕組みというのは以前理解し難いな……ああ、それを楽しいと思ってしまうこれが面白いと呼べる感情なのか……味わってみると思ったより心地よいものかもしれん』
くくく、と声を殺したようにドラゴンは笑う。一見すると、まるで子供のようにも見える。
あまりのギャップに、対話している隊長、それを聞いている隊員、国民も困惑しているだろう。
もしかしたら対話でなんとかなるのではないか、と。
「質問ですが…ドラゴン…魔王…あなたはどちらでお呼びするべきですか?」
『この身体は借りているにすぎん。お前たちの基準となるなら我の呼び名は魔王で相違ないだろう』
「では魔王、あなたがこの国に来た理由はなんですか? この国の資源、あるいは手に入れたいものがあるなら我々は惜しむことなくそれを提供します。お互いに血を流すような争いは避けるべき──」
突如、大きく開いたドラゴンの口から灼熱の炎が解き放たれた。
隊長は戦士特有の紫色の光を輝かせ、自身に襲いかかる火炎を切り裂く。
が、火炎の範囲は大きかった。
瞬く間に国は揺れ動く炎に支配され、耳を塞ぎたがるほどの絶叫がこだまする。
『この国来た理由は実験と、ここが竜の名を受けついでいるからどういうものかと見に来ただけだ。さあ答えたぞ。次はお前たちが我に答えを示す番だ』
燃え広がる国の悲鳴を聞きながら、魔王は笑みに近い表情を浮かべた。
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