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■結成編
【6】
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防衛部隊と連絡をとったところ国結界を利用した迎撃態勢はなんとか整っていることはわかった。
一番気になっていた世界守備隊に報告が行えたかどうかは、残念ながらこの国周りの空間になんらかの異常が発生しているようで、結界外部と連絡ができなくなっている状態であると伝えられた。
(このような偶然があるとは思えません……この空間異常もあのドラゴンのせいならば、たまたまこの国を見つけて向かってきているのではなく、元から狙いを定めていたということに……)
世界守備隊の応援がないのは最悪ともいえる状況だ。
こちらの勝利条件は、倒す、または追い払うことさえできればいいが、戦力的に足りているのかどうか。
「……隊長、どうぞ」
民家の屋根に乗って迫りくるドラゴンを待っていた隊長に、同じ態勢をとっている隊員の1人が剣を渡してきた。
「ありがとうございます。声がかすれていますが大丈夫ですか?」
「……大丈夫では……ないですね……」
「奇遇ですね、私もです」
そう言ったあと、隊長は隊員たちを見渡す。
「この国始まって以来の一大事かもしれません。でも、ちょうど良い機会ではありませんか」
隊長の言葉に、隊員たちはきょとんとする。
「た、隊長、ちょうど良い機会とは……?」
「ええ、ドラゴンを追い払い、我々が歴代最強の守備隊であることを証明できる最高のチャンスでしょう?」
鼓舞としては充分だったのだろう。隊員たちの顔つきが明らかに変わっていた。
「良い顔です。そう、我々ならこの事態も乗り越えられます」
会話ができるのはここまでだった。
国全体が震え、国を包む巨大な結界に攻撃魔法陣が浮かびあがる。
そして、すぐそこまで迫っている脅威に向かって大規模な魔法弾が発射された。
衝撃。
振動。
人間単体がこれを食らえばひとたまりもないだろう。
魔法弾が目標とぶつかると同時に粉塵が舞い上がり、結界外の様子が見えなくなる。
命中はしているようだ。問題は効果が出ているのか否か。
初めて神頼みをするかもしれない。もし叶うなら、国に被害がなくこのまま終わりにして欲しい。
願いの結果は……叶わず。
突風と共に粉塵が巻き散っていき、国結界がガラスでも砕いたような音を響かせ壊れていった。
頭上を黒く光る空に染め上げると、招かれざる侵入者は羽を羽ばたかせながら、ずんぐりとした肉体から伸びた首を動かして国全体を見渡していく。
頭部から生えた角、口から覗かせる牙、手足から伸びる鋭い爪、どれもこれもがその恐るべき脅威を教えてくるが、そのなかでひとつだけ見ることができない奇妙な部位があった。
それは目だ。
その部分だけ黒いもやでもかかったように隠されており、独特で不気味な雰囲気を醸しだしている。
(……魔王の目は見ることができないと聞いたことありますが、こういうことだったのですね)
逃げられない一戦を前に、隊長は剣を握る手が震えた。
一番気になっていた世界守備隊に報告が行えたかどうかは、残念ながらこの国周りの空間になんらかの異常が発生しているようで、結界外部と連絡ができなくなっている状態であると伝えられた。
(このような偶然があるとは思えません……この空間異常もあのドラゴンのせいならば、たまたまこの国を見つけて向かってきているのではなく、元から狙いを定めていたということに……)
世界守備隊の応援がないのは最悪ともいえる状況だ。
こちらの勝利条件は、倒す、または追い払うことさえできればいいが、戦力的に足りているのかどうか。
「……隊長、どうぞ」
民家の屋根に乗って迫りくるドラゴンを待っていた隊長に、同じ態勢をとっている隊員の1人が剣を渡してきた。
「ありがとうございます。声がかすれていますが大丈夫ですか?」
「……大丈夫では……ないですね……」
「奇遇ですね、私もです」
そう言ったあと、隊長は隊員たちを見渡す。
「この国始まって以来の一大事かもしれません。でも、ちょうど良い機会ではありませんか」
隊長の言葉に、隊員たちはきょとんとする。
「た、隊長、ちょうど良い機会とは……?」
「ええ、ドラゴンを追い払い、我々が歴代最強の守備隊であることを証明できる最高のチャンスでしょう?」
鼓舞としては充分だったのだろう。隊員たちの顔つきが明らかに変わっていた。
「良い顔です。そう、我々ならこの事態も乗り越えられます」
会話ができるのはここまでだった。
国全体が震え、国を包む巨大な結界に攻撃魔法陣が浮かびあがる。
そして、すぐそこまで迫っている脅威に向かって大規模な魔法弾が発射された。
衝撃。
振動。
人間単体がこれを食らえばひとたまりもないだろう。
魔法弾が目標とぶつかると同時に粉塵が舞い上がり、結界外の様子が見えなくなる。
命中はしているようだ。問題は効果が出ているのか否か。
初めて神頼みをするかもしれない。もし叶うなら、国に被害がなくこのまま終わりにして欲しい。
願いの結果は……叶わず。
突風と共に粉塵が巻き散っていき、国結界がガラスでも砕いたような音を響かせ壊れていった。
頭上を黒く光る空に染め上げると、招かれざる侵入者は羽を羽ばたかせながら、ずんぐりとした肉体から伸びた首を動かして国全体を見渡していく。
頭部から生えた角、口から覗かせる牙、手足から伸びる鋭い爪、どれもこれもがその恐るべき脅威を教えてくるが、そのなかでひとつだけ見ることができない奇妙な部位があった。
それは目だ。
その部分だけ黒いもやでもかかったように隠されており、独特で不気味な雰囲気を醸しだしている。
(……魔王の目は見ることができないと聞いたことありますが、こういうことだったのですね)
逃げられない一戦を前に、隊長は剣を握る手が震えた。
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