☆なんちゃってクエスト★

Natsu

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■結成編

【―Start of story―】

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 剣と剣がぶつかる音が鳴り響いた。

「なかなか腕を上げましたね」

 それはお城の訓練所。国の治安を守る守備隊員が隊長にしごかれているのだ。

「が、まだまだ甘いですね。私に勝つなら殺す気で来なさい」

 乱激の最中、屈強な男戦士に向かって白銀の長髪をなびかせて女は微笑む。
 この女こそ男が多いこの国の守備隊の中で、史上初めて誕生した女守備隊長である。

「うわぁ……うっ」

 剣が跳ねとばされ地面に倒れた瞬間、隊員は首に剣先を突きつけられた。

「あなたが最後でしたね。では、今日はここまでにしましょうか」

 守備隊長が解散命令を出すと、隊員達は「ありがとうございました」と訓練所をあとにした。
 隊員がいなくなるのを確認した守備隊長は、訓練所に置いてあるくたびれた椅子に腰をおろした。

(……彼は今日は来るんでしょうか)

 半年前からだろうか。人がいなくなってから、こっそり修業にくる男がいる。
 しかし今日はパーティーがあると言っていたのでさすがに来ないかもしれない。

(でも来るなら私がいないと……嫌……なんでしょうか)

 訓練所の窓からパーティーが開催されている会場を覗くと、明かりは消えて人の気配はなくなっている。

(もう部屋に帰ってしまったのでしょうか。それとも、こちらに向かっている?)

 守備隊長は何回か窓からパーティー会場を見るが、誰も訓練所に来るような気配は感じない。
 夜も遅いし、今日は来ないようだ。そう感じた守備隊長は上着を脱ぎ、シャツと短めのパンツの軽装姿になった。

「……もう」

 隊長はため息のようにつぶやくと、訓練所から出ていこうとした。

「え、怒ってんの?」

「───」

 不意に聞こえた声に隊長が後ろを振り向くと、今まで座ってた椅子に、ひとりの男が座っていた。

「いや悪い、驚かせようと思って……でも、まあ、なんていうか気配消すのうまかっただろ?」

 男があせったように言うため、守備隊長は少し間を置いてから、

「私が服を脱いでるときどこにいました?」

「……んーと、月の裏側だったかな」

「覗きですね。王様に報告します」

「弁解させてくれ、断言できるが目はそらした! ただ自分でも声かけるタイミング見失ってパニックになったんだ! なので、ぶっちゃけごまかそうと思いま……」

 男の首筋に剣の切っ先が当てられる。

「隙ありですよ、王子」

 守備隊長は微笑みを浮かべ、この国の王子は「ずる……」とつぶやいた。
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