☆なんちゃってクエスト★

Natsu

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■勇者幽閉編

【28】

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 ──東北国で発生した事件から一日が経過した。

 勇者ロゼンの逮捕から始まり、お城から湧きだしたネズミ騒動、勇者ロゼンにそっくりな男の出現、その仲間と思われるものたちとのひと悶着もんちゃく、さらに置き土産としては派手すぎる黒い石の爆発を阻止したりと本当にあわただしかった。

「あー……まだダルいわ………」

 タナトスを呼び出した影響で自身の光力こうりょくと精神体に大きな負担がかかったため、一晩気を失っていたティアはおんぶされながら弱々よわよわしくぼやいた。

「おい待て、俺も同じ条件なのになんでお前だけらくしてんだよ」

 タナトスを呼び出す条件として術者と負担をかち合うことになっているゼンスは、重い足取りのなか背中にもたれかかっているティアを支えながらぼやく。

「だってまだ宿屋で休もうって言ったらあなたが嫌だって言ったんじゃない」

「当たり前だ。もうすぐロゼンの野郎が出てくるんだろ。どうせ情けない顔で出てくるから、それを見逃すのは勿体ねえだろ……て言ったらお前が付いてくるって言ったのに、なんで俺がおんぶしなきゃなんないんだよ」

「そういえば、あなたが相手したクルトンっていう武道家の老人だけど、やっぱりそこには水たまりだけが残されていて死体とかはなかったってさ。私が相手したビクリアって子と、ミモザが相手したアルナって子も同じくね」

 ティアが露骨ろこつに話題を変えてきたが、この展開に慣れたようにゼンスはそのそのまま話に乗っかかる。

「つまり死んでけたってことか?」

「そんな簡単な話なら嬉しいけど。私が相手したビクリアって子から魔王の名前が出てきたのは話したでしょ。黒い石、あれだけの魔導具まどうぐを彼女が自身の血を全部げたところで使用できるのは考えにくいのよ。でも魔王がバックについてるって考えると……できるよねってなっちゃう」

 ティアはため息をつく。

「彼らはきっと生きてるわ。勇者のコピーまで作っておいてあれで終わりはないでしょ。問題は魔王がなんでそんなことしてるのかだけど、きっとろくでもない考えなのは確かね」

「くだらね、あのドラゴン野郎がなにをたくんでいるのか知らんが、次あったら今度こそぶちのめせばいいだけじゃねえか」

「……短絡化たんらくてきな思考でうらやましいわ」

「ばーか、お前が考えすぎなんだよ」

 そんな会話を続けていると、目的地であるお城が目に入ってくる。

「あ、やばい、ロゼンがもう地下牢から出てきちゃう時間だ!」

「なに!? い、急ぐぞ、捕まってろ!」

 ティアがしっかりしがみつくのを確認すると、ゼンスは青い光を輝かせ速度を上げてお城に向かって走り出した。
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