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■勇者幽閉編
【27】
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「──あ?」
目を覚ましたゼロの視界にまず入ってきたのは、不気味に黒く光輝く空だった。
太陽の光が消えた夜の空とは違い、例えるなら青空の青を黒に塗り変えたまま光を保っているような何とも言い難い光景が広がっていた。
「……うっ」
自分が死んでここに戻って来たことを理解したゼロだが、そのとたんに襲いかかってきたのは頭が割れるほどの痛みと、胃袋を鷲掴みにされ胃液が逆流するかのような吐き気だった。
「おっかえり、無事に死んだみたいね」
胸糞悪い気分と裏腹な、明るい口調が聞こえてきた。
吐き気をこらえるため口を手でおさえつつゼロが顔を上げると、手のひらを振る赤い長髪の女、そのそばに胴着を着た老人、幼い魔法使いの少女が座っていた。
「……ちっ」
アルナ、クルトン、ビクリアの姿を確認すると、ゼロはふらふらとしながらも弱みを隠すように立ち上がろうとする。しかし、どうにもならないほどの痛みと吐き気に勝てずにすぐに倒れこんだ。
「無理しなくていいよ。私たちもそうなった。死んでここに戻されると反動でそうなるみたいね」
そう説明するビクリアもまだ調子が戻っていないのか顔色悪く気だるそうだった。
「復活の代償とはいえ死ぬたびにこの気分を味わうのは考えものですな。もっともこの程度の代償で済んでいるのは魔王殿の力があってこそ可能なのでしょうが」
クルトンが言い終わると、アルナはそばに置いてある水晶玉を持ち上げ、いじわるそうな笑みを浮かべる。
「これで見てたぜ。逃げ回ってなにするかと思いきや、あれ悪魔タナトスだっけ、爆弾をおさえるついでに殺されてやんの。マジダサくてウケるわー」
アルナが持っているのは離れた場所の映像を届ける魔導具“映像水晶”。先にここに来ていた3人は、現場でなにが起こっていたのか一部始終をこれで見ていた。
「……てめえは殺す。絶対にな」
げらげら笑っているアルナを、倒れたまま動けないゼロは青筋を浮かべて睨みつけた。
笑いと殺気をぶつけあう2人を無視し、クルトンはビクリアに尋ねる。
「それで、爆弾を使ってまであの悪魔を召喚させたわけですが見たところどうでしたかな?」
「うん、想像以上だった。本当に魔王が一目置く価値のある悪魔。魔王以外でそんなすごい存在がいるのか半信半疑だったけど、この目で見てよくわかった」
「ふむ、そうですな。私も見ていて思ったのは、今の自分がいかに小さく弱い存在であるということです。強くなりたいものですな」
「なるよ。私たちは魔王の道具なんだから、その価値に見合う存在にならないと」
「その通りですな」
2人が話していると、そばで衝撃音が鳴り響いた。
見ると、アルナとゼロが光を輝かせ、剣をぶつけ合っている。
「はー、ダサい死に方したあとで、またかっこ悪く死にたいわけ?」
「いちいち癇に障る野郎だな。そんなにダサいのが好きなら両手両足切り落としてイモムシみたいにしてやるよ」
戦闘が始まると、クルトンとビクリアは虹色の光を輝かせるゼロを目で追った。
「もうあんなに動けるとはさすがは勇者の力。素晴らしい」
「ええ、ただ大きな問題は性格だね。まあ魔王に人間の性格の区別なんてつくわけないからその辺りは考えて作っていないんだろうけ……」
ビクリアが言葉を止める。
それを合図をしたかのようにゼロとアルナも動きを止めた。
「魔王殿に呼ばれておりますな。行きましょうか」
クルトンが動きだすと、ビクリアもそのあとに続いていく。
「へっ、命拾いしたわね」
「てめえがな」
アルナとゼロも互いの空気を悪くしながらも、戦闘をやめて先の2人を追って歩きだした。
目を覚ましたゼロの視界にまず入ってきたのは、不気味に黒く光輝く空だった。
太陽の光が消えた夜の空とは違い、例えるなら青空の青を黒に塗り変えたまま光を保っているような何とも言い難い光景が広がっていた。
「……うっ」
自分が死んでここに戻って来たことを理解したゼロだが、そのとたんに襲いかかってきたのは頭が割れるほどの痛みと、胃袋を鷲掴みにされ胃液が逆流するかのような吐き気だった。
「おっかえり、無事に死んだみたいね」
胸糞悪い気分と裏腹な、明るい口調が聞こえてきた。
吐き気をこらえるため口を手でおさえつつゼロが顔を上げると、手のひらを振る赤い長髪の女、そのそばに胴着を着た老人、幼い魔法使いの少女が座っていた。
「……ちっ」
アルナ、クルトン、ビクリアの姿を確認すると、ゼロはふらふらとしながらも弱みを隠すように立ち上がろうとする。しかし、どうにもならないほどの痛みと吐き気に勝てずにすぐに倒れこんだ。
「無理しなくていいよ。私たちもそうなった。死んでここに戻されると反動でそうなるみたいね」
そう説明するビクリアもまだ調子が戻っていないのか顔色悪く気だるそうだった。
「復活の代償とはいえ死ぬたびにこの気分を味わうのは考えものですな。もっともこの程度の代償で済んでいるのは魔王殿の力があってこそ可能なのでしょうが」
クルトンが言い終わると、アルナはそばに置いてある水晶玉を持ち上げ、いじわるそうな笑みを浮かべる。
「これで見てたぜ。逃げ回ってなにするかと思いきや、あれ悪魔タナトスだっけ、爆弾をおさえるついでに殺されてやんの。マジダサくてウケるわー」
アルナが持っているのは離れた場所の映像を届ける魔導具“映像水晶”。先にここに来ていた3人は、現場でなにが起こっていたのか一部始終をこれで見ていた。
「……てめえは殺す。絶対にな」
げらげら笑っているアルナを、倒れたまま動けないゼロは青筋を浮かべて睨みつけた。
笑いと殺気をぶつけあう2人を無視し、クルトンはビクリアに尋ねる。
「それで、爆弾を使ってまであの悪魔を召喚させたわけですが見たところどうでしたかな?」
「うん、想像以上だった。本当に魔王が一目置く価値のある悪魔。魔王以外でそんなすごい存在がいるのか半信半疑だったけど、この目で見てよくわかった」
「ふむ、そうですな。私も見ていて思ったのは、今の自分がいかに小さく弱い存在であるということです。強くなりたいものですな」
「なるよ。私たちは魔王の道具なんだから、その価値に見合う存在にならないと」
「その通りですな」
2人が話していると、そばで衝撃音が鳴り響いた。
見ると、アルナとゼロが光を輝かせ、剣をぶつけ合っている。
「はー、ダサい死に方したあとで、またかっこ悪く死にたいわけ?」
「いちいち癇に障る野郎だな。そんなにダサいのが好きなら両手両足切り落としてイモムシみたいにしてやるよ」
戦闘が始まると、クルトンとビクリアは虹色の光を輝かせるゼロを目で追った。
「もうあんなに動けるとはさすがは勇者の力。素晴らしい」
「ええ、ただ大きな問題は性格だね。まあ魔王に人間の性格の区別なんてつくわけないからその辺りは考えて作っていないんだろうけ……」
ビクリアが言葉を止める。
それを合図をしたかのようにゼロとアルナも動きを止めた。
「魔王殿に呼ばれておりますな。行きましょうか」
クルトンが動きだすと、ビクリアもそのあとに続いていく。
「へっ、命拾いしたわね」
「てめえがな」
アルナとゼロも互いの空気を悪くしながらも、戦闘をやめて先の2人を追って歩きだした。
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