69 / 145
■勇者幽閉編
【26】
しおりを挟む
巨大な門から現れたのは、あきらかに人間とは異なる存在であると一目でわかる男だった。
その存在の異質さ、感じられるエネルギーの大きさ、そして詠唱呪文のなかにはいっていた言葉のひとつが、こいつがどういう存在なのかの答えとなっていた。
「悪魔……」
守備隊長がつぶやきを聞き、その種族の恐ろしさをここにいる誰も思い浮かべる。
人間種族にとっての天敵。10年に一度の厄災とまで言われる厄介な種族。
『………』
みなが見ている中、黒い光を輝かせる悪魔“タナトス”に絡みついた蛇は顔を持ちあげ、舌を出し入れしながら周囲を見渡した。
「タナトス」
名を呼んできた契約者のほうに、タナトスは顔を向けた。
「ごめん……あの黒い石をなんとかしてほしいんだけど……」
契約者であるティアが指さすほうに合わせタナトスが頭上を見上げると、目標に向けて無言で右腕をかざした。
そこからの出来事はあっという間だった、という言葉がしっくりくるのだろう。
頭上にかざした右腕が蛇に変化するやいなや、その長い身体を一気に伸ばし瞬く間に黒い石に向かって伸びていった。
速い。その速度を目で追えたのはここにいる人間ではほんの一握りであろう。
しかし黒い石はその一握りに当てはまることはなく、かろうじて間に合ったのは目の前にまで迫った蛇が巨大化すると共に獲物を丸のみするため口を大きく開けたとき、それをなんとかするために赤い鞭を自身から生やすまでだった。
蛇が口を閉じた時まるで、パクッ、と人間が可愛らしく口を閉じたときに鳴りそうな音が聞こえてきそうだった。
それほどあっけなくこの国に終わりを告げようしていた黒い石は姿を消し、ゴクリ、と飲み込む音が鳴るのも聞こえてくるように、蛇の喉が膨らんでいくのが誰の目にも見えただろう。
そして──その直後、蛇の身体がまるで風船のように膨らんだ。
爆音。
衝撃破。
蛇の目玉がはじけ飛び、膨らんだ身体の端々から閃光が飛びだしていく。
地上にいた人間たちは、とてつもない威力が引き起こした爆発の余波である閃光が、いくつも飛んでくる光景に絶望的な表情になるものがほとんどだったが──
『………』
タナトスは自身が放つ黒い光をより一層輝かせ、辺り一面に襲いかかる閃光に自身から生えた蛇を伸ばしてぶつけていく。
結果、閃光は蛇との衝突により地上にいる人間たちにあたることなく、爆音と衝撃をまき散らしながら破裂していった。
その光景はまるで打ち上げ花火のようにも見え、絶望を忘れたようにみなの視線が集中した。
『………』
今を狙ったように動いたのは、タナトスの左腕だった。
一匹の蛇を生みだすと、主人に命じられた蛇は目標に向かって民家の壁すら伝いもの凄い速さで走っていく。
『………』
タナトスは終わったように左腕をおろすと、頭上に伸びる蛇となった右腕を自身に戻し始めた。そして帰って来た自身のボロボロの右腕を黙って見つめる。
「タナトス」
主人であるティアに呼ばれ、タナトスは振り向いた。
「もし怒ってるなら、私の命で勘弁してほしいんだけど……」
自身が呼び出した悪魔にそう告げたティアに、周りの人間は表情を変えた。
「待て、どういうことだ。なぜ呼び出した主人が、契約したものにそんな願いを……」
「すみません、時間がありません」
守備隊長の言葉にそう返し、ミモザは悪魔に向かって走りだした。
「おい、ざけんな。好き勝手するならお前をぶっ殺……」
「やめてよ! 彼が出ているときに私とあなたが動いたら契約違反でしょ!」
怒り任せにゼンスが立ち上がろうとするのを、手を繋いでいるティアが必死に引っ張った。
爆弾は消え去ったのに、それを超える存在が残っている恐るべき恐怖。
──悪魔。モンスターを超えた上位種族。あの爆弾をあっさり対処するのを見れば、この悪魔がいかに人間離れしている力を持つのかは一目瞭然。
『……馬鹿共が。こんな程度で私を呼び出しおって』
人間を超えた存在、悪魔“タナトス”が口を開く。
『くだらんことに私を呼ぶな。本物の勇者とお前たちが力を合わせれば、どうにもやりようはあったはず……』
言葉言い終えることもなく、巨大な門の前で寝ていた蛇が起き上がり、タナトスを覆い隠すように絡みついた。
偽りの眠りから覚めた法の番人はタナトスを瞬く間に門の中に押し戻していくと、牢獄の扉を固く閉ざした。
「……ふう」
そばにまで走って来たミモザは足を止め、消えていく巨大な門を見届ける。
しかし、そのとたんティアとゼンスが力を抜かれたようにその場に倒れこんだ。
その存在の異質さ、感じられるエネルギーの大きさ、そして詠唱呪文のなかにはいっていた言葉のひとつが、こいつがどういう存在なのかの答えとなっていた。
「悪魔……」
守備隊長がつぶやきを聞き、その種族の恐ろしさをここにいる誰も思い浮かべる。
人間種族にとっての天敵。10年に一度の厄災とまで言われる厄介な種族。
『………』
みなが見ている中、黒い光を輝かせる悪魔“タナトス”に絡みついた蛇は顔を持ちあげ、舌を出し入れしながら周囲を見渡した。
「タナトス」
名を呼んできた契約者のほうに、タナトスは顔を向けた。
「ごめん……あの黒い石をなんとかしてほしいんだけど……」
契約者であるティアが指さすほうに合わせタナトスが頭上を見上げると、目標に向けて無言で右腕をかざした。
そこからの出来事はあっという間だった、という言葉がしっくりくるのだろう。
頭上にかざした右腕が蛇に変化するやいなや、その長い身体を一気に伸ばし瞬く間に黒い石に向かって伸びていった。
速い。その速度を目で追えたのはここにいる人間ではほんの一握りであろう。
しかし黒い石はその一握りに当てはまることはなく、かろうじて間に合ったのは目の前にまで迫った蛇が巨大化すると共に獲物を丸のみするため口を大きく開けたとき、それをなんとかするために赤い鞭を自身から生やすまでだった。
蛇が口を閉じた時まるで、パクッ、と人間が可愛らしく口を閉じたときに鳴りそうな音が聞こえてきそうだった。
それほどあっけなくこの国に終わりを告げようしていた黒い石は姿を消し、ゴクリ、と飲み込む音が鳴るのも聞こえてくるように、蛇の喉が膨らんでいくのが誰の目にも見えただろう。
そして──その直後、蛇の身体がまるで風船のように膨らんだ。
爆音。
衝撃破。
蛇の目玉がはじけ飛び、膨らんだ身体の端々から閃光が飛びだしていく。
地上にいた人間たちは、とてつもない威力が引き起こした爆発の余波である閃光が、いくつも飛んでくる光景に絶望的な表情になるものがほとんどだったが──
『………』
タナトスは自身が放つ黒い光をより一層輝かせ、辺り一面に襲いかかる閃光に自身から生えた蛇を伸ばしてぶつけていく。
結果、閃光は蛇との衝突により地上にいる人間たちにあたることなく、爆音と衝撃をまき散らしながら破裂していった。
その光景はまるで打ち上げ花火のようにも見え、絶望を忘れたようにみなの視線が集中した。
『………』
今を狙ったように動いたのは、タナトスの左腕だった。
一匹の蛇を生みだすと、主人に命じられた蛇は目標に向かって民家の壁すら伝いもの凄い速さで走っていく。
『………』
タナトスは終わったように左腕をおろすと、頭上に伸びる蛇となった右腕を自身に戻し始めた。そして帰って来た自身のボロボロの右腕を黙って見つめる。
「タナトス」
主人であるティアに呼ばれ、タナトスは振り向いた。
「もし怒ってるなら、私の命で勘弁してほしいんだけど……」
自身が呼び出した悪魔にそう告げたティアに、周りの人間は表情を変えた。
「待て、どういうことだ。なぜ呼び出した主人が、契約したものにそんな願いを……」
「すみません、時間がありません」
守備隊長の言葉にそう返し、ミモザは悪魔に向かって走りだした。
「おい、ざけんな。好き勝手するならお前をぶっ殺……」
「やめてよ! 彼が出ているときに私とあなたが動いたら契約違反でしょ!」
怒り任せにゼンスが立ち上がろうとするのを、手を繋いでいるティアが必死に引っ張った。
爆弾は消え去ったのに、それを超える存在が残っている恐るべき恐怖。
──悪魔。モンスターを超えた上位種族。あの爆弾をあっさり対処するのを見れば、この悪魔がいかに人間離れしている力を持つのかは一目瞭然。
『……馬鹿共が。こんな程度で私を呼び出しおって』
人間を超えた存在、悪魔“タナトス”が口を開く。
『くだらんことに私を呼ぶな。本物の勇者とお前たちが力を合わせれば、どうにもやりようはあったはず……』
言葉言い終えることもなく、巨大な門の前で寝ていた蛇が起き上がり、タナトスを覆い隠すように絡みついた。
偽りの眠りから覚めた法の番人はタナトスを瞬く間に門の中に押し戻していくと、牢獄の扉を固く閉ざした。
「……ふう」
そばにまで走って来たミモザは足を止め、消えていく巨大な門を見届ける。
しかし、そのとたんティアとゼンスが力を抜かれたようにその場に倒れこんだ。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
魔道具作ってたら断罪回避できてたわw
かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます!
って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑)
フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。
いい子ちゃんなんて嫌いだわ
F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが
聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。
おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。
どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。
それが優しさだと思ったの?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
俺の娘、チョロインじゃん!
ちゃんこ
ファンタジー
俺、そこそこイケてる男爵(32) 可愛い俺の娘はヒロイン……あれ?
乙女ゲーム? 悪役令嬢? ざまぁ? 何、この情報……?
男爵令嬢が王太子と婚約なんて、あり得なくね?
アホな俺の娘が高位貴族令息たちと仲良しこよしなんて、あり得なくね?
ざまぁされること必至じゃね?
でも、学園入学は来年だ。まだ間に合う。そうだ、隣国に移住しよう……問題ないな、うん!
「おのれぇぇ! 公爵令嬢たる我が娘を断罪するとは! 許さぬぞーっ!」
余裕ぶっこいてたら、おヒゲが素敵な公爵(41)が突進してきた!
え? え? 公爵もゲーム情報キャッチしたの? ぎゃぁぁぁ!
【ヒロインの父親】vs.【悪役令嬢の父親】の戦いが始まる?
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
学園長からのお話です
ラララキヲ
ファンタジー
学園長の声が学園に響く。
『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』
昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。
学園長の話はまだまだ続く……
◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない)
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる