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■勇者幽閉編
【25】
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守備隊の魔法部隊が魔法弾を黒い石に撃つたびに、赤い鞭の反撃が嵐のように襲いかかってくる。
「ゼンス!」
猛攻をしのぐなか、名を呼ばれたため魔法使いたちを守っていたゼンスはティアのそばに跳んできた。
「なんか良い案でも思いついたか?」
「ついた、というか、もうこれしか方法はないわ」
ティアの決意したような表情を見て、ゼンスは片眉をあげた。
「……おい、もしかして」
「これしかもうないんだってば! 本当に!」
もう互いに言わんとしていることはわかっている。
必要なのはあとは同意のみだが、わかっているからこそ、そう簡単には話が終わらない。
「いや待てよ。たしか、あいつを呼ぶ場合はパーティー全員が賛成したときだけってルールを決めて…」
「そんなこと言ってる場合じゃないからお願いしてるんだってば! あれはもう私たちが時間内になんとかできる代物じゃないの!」
「なんだそりゃ。だったら俺が殴ってぶっ飛ばしてやろうか」
ゼンスは、浮かんでいる黒い石を見上げた。距離はあるが全力で跳べば届かないことはない。
「そんなんで終わるんだったら、とっくの昔にお願いしてるわよ……わかるでしょ?」
跳ぶために光力を輝かせたゼンスを見て、ティアは小さな声でつぶやいた。
「……はあー、わかった」
諦めたようにわざとらしいため息をついたあと、ゼンスはその場に座り込んだ。
「ありがと」
ティアもそのそばに座った。
「……いや、なにをやっとるんだ、あいつらは……」
守備隊長は襲いかかる赤い鞭の猛攻を防ぎながら、別の空間にいるみたく甘いひと時を過ごしているような冒険者の2人を見て鬼面夜叉みたいな顔になった。
「いえ……まあ、あれは必要なことなのでご勘弁ください」
同じもの見ていたミモザは、鬼面夜叉になっている守備隊長にそう伝える。
「あれを見過ごせと? この国の危機の真っ最中なんだぞ?」
「だからです、時間稼ぎだけは続けてください」
ミモザの言葉に、どういうことだと聞き返そうとした守備隊長だが、赤い鞭の攻撃がそばに来ていたためできなかった。
「ほら」
ティアがそう言って手のひらを差し出すと、ゼンスはしぶしぶといったようにその手を握り返した。
「さっさとしろよ……2人揃って座って手を繋いでるなんて、なんか恥ずかしいだろ」
「なんで?」
「い、いいから早くしろよ!」
ゼンスが手を離しそうになるため、ティアは目をつむって呪文を唱え始める。
「『右手に持つは主人の証。左手に持つは罪人の証』」
始まった呪文詠唱。
同時に、光力をもつものならすぐに場の空気が変化したことに気がつくだろう。
「『暗闇の牢獄に封印されるのは破壊の蛇。その門を閉ざすのは掟を遵守する法の番人』」
詠唱を続けるティアの目の前に、巨大な蛇が巻き付いた門が突如として姿を現した。
その門から放たれる異質ともいえる力の波動は、この場においてレベルの低い守備隊員が見ただけで一瞬呼吸を忘れるほどの異次元の存在感だった。
「『穢れを練りこまれた餌により番人は逃れられない眠りにいざなわれる。門の鍵となる存在の封印は暗闇に閉ざされた蛇の化身を外界に解き放つ』」
その呪文に従うよう巨大な蛇はまるでそこに餌があるかのように虚無に食らいつき、意識をなくしたかのように顔をだらりと傾け、門に巻き付いていた身体が力なく地面に落ちていく。
「……なにかを召喚しようとしているのか」
守備隊長がつぶやく。この一連の流れを見ていれば、おおかた契約した存在を呼び出そうとしているのは予想がつくだろう。
しかし、問題は感じられるこの力の波動だ。いまだかつてこれほどの力の感じとったことがあるだろうか。
これでは、まるで───
「『閉ざされていた存在が光の下に立つことを許可された。束縛から解放され一時の自由を与えられる。その名は──悪魔“タナトス”』」
ティアがそう言い終えた瞬間、巨大な門が開き、そこからなにかが歩いてくる。
『………』
黒い光を輝かせながら、蛇が巻きつく漆黒のローブに身を包んだ男が姿を現した。
「ゼンス!」
猛攻をしのぐなか、名を呼ばれたため魔法使いたちを守っていたゼンスはティアのそばに跳んできた。
「なんか良い案でも思いついたか?」
「ついた、というか、もうこれしか方法はないわ」
ティアの決意したような表情を見て、ゼンスは片眉をあげた。
「……おい、もしかして」
「これしかもうないんだってば! 本当に!」
もう互いに言わんとしていることはわかっている。
必要なのはあとは同意のみだが、わかっているからこそ、そう簡単には話が終わらない。
「いや待てよ。たしか、あいつを呼ぶ場合はパーティー全員が賛成したときだけってルールを決めて…」
「そんなこと言ってる場合じゃないからお願いしてるんだってば! あれはもう私たちが時間内になんとかできる代物じゃないの!」
「なんだそりゃ。だったら俺が殴ってぶっ飛ばしてやろうか」
ゼンスは、浮かんでいる黒い石を見上げた。距離はあるが全力で跳べば届かないことはない。
「そんなんで終わるんだったら、とっくの昔にお願いしてるわよ……わかるでしょ?」
跳ぶために光力を輝かせたゼンスを見て、ティアは小さな声でつぶやいた。
「……はあー、わかった」
諦めたようにわざとらしいため息をついたあと、ゼンスはその場に座り込んだ。
「ありがと」
ティアもそのそばに座った。
「……いや、なにをやっとるんだ、あいつらは……」
守備隊長は襲いかかる赤い鞭の猛攻を防ぎながら、別の空間にいるみたく甘いひと時を過ごしているような冒険者の2人を見て鬼面夜叉みたいな顔になった。
「いえ……まあ、あれは必要なことなのでご勘弁ください」
同じもの見ていたミモザは、鬼面夜叉になっている守備隊長にそう伝える。
「あれを見過ごせと? この国の危機の真っ最中なんだぞ?」
「だからです、時間稼ぎだけは続けてください」
ミモザの言葉に、どういうことだと聞き返そうとした守備隊長だが、赤い鞭の攻撃がそばに来ていたためできなかった。
「ほら」
ティアがそう言って手のひらを差し出すと、ゼンスはしぶしぶといったようにその手を握り返した。
「さっさとしろよ……2人揃って座って手を繋いでるなんて、なんか恥ずかしいだろ」
「なんで?」
「い、いいから早くしろよ!」
ゼンスが手を離しそうになるため、ティアは目をつむって呪文を唱え始める。
「『右手に持つは主人の証。左手に持つは罪人の証』」
始まった呪文詠唱。
同時に、光力をもつものならすぐに場の空気が変化したことに気がつくだろう。
「『暗闇の牢獄に封印されるのは破壊の蛇。その門を閉ざすのは掟を遵守する法の番人』」
詠唱を続けるティアの目の前に、巨大な蛇が巻き付いた門が突如として姿を現した。
その門から放たれる異質ともいえる力の波動は、この場においてレベルの低い守備隊員が見ただけで一瞬呼吸を忘れるほどの異次元の存在感だった。
「『穢れを練りこまれた餌により番人は逃れられない眠りにいざなわれる。門の鍵となる存在の封印は暗闇に閉ざされた蛇の化身を外界に解き放つ』」
その呪文に従うよう巨大な蛇はまるでそこに餌があるかのように虚無に食らいつき、意識をなくしたかのように顔をだらりと傾け、門に巻き付いていた身体が力なく地面に落ちていく。
「……なにかを召喚しようとしているのか」
守備隊長がつぶやく。この一連の流れを見ていれば、おおかた契約した存在を呼び出そうとしているのは予想がつくだろう。
しかし、問題は感じられるこの力の波動だ。いまだかつてこれほどの力の感じとったことがあるだろうか。
これでは、まるで───
「『閉ざされていた存在が光の下に立つことを許可された。束縛から解放され一時の自由を与えられる。その名は──悪魔“タナトス”』」
ティアがそう言い終えた瞬間、巨大な門が開き、そこからなにかが歩いてくる。
『………』
黒い光を輝かせながら、蛇が巻きつく漆黒のローブに身を包んだ男が姿を現した。
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