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■勇者幽閉編
【23】
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限界まで血を吸いきったのか、浮かび上がりながらエネルギーの上昇と共に体積まで膨張させていく黒い石。
刺激を与えぬよう細心の注意を払い、ティアは魔法を発動させて黒い石が浮遊していくのを阻止しようとするが、
「えっ!?」
邪魔をするなと言わんばかりに、吸いとった血の一部を鞭のように操り、ティアに向かって攻撃を仕かけてきた。
「たあ!」
威勢のいい掛け声と共にかろうじてその一撃を回避し、地面に滑りこむように倒れこんだ。
「い、痛っ……まさか防衛本能まであるとは…こんな魔導具が存在するなんて……」
いや、魔王の名前が出た時点で、もう人間がありえないと思うレベルの魔導具、呪導具が出てきてもおかしくないと考えるべきか。
ただの魔導具であれば封印に近い状態に持っていくことも可能かもしれないが、動いて妨害までしてくるとなると一気に難易度が跳ね上がる。
そうこうと考えているうちに、浮かび上がった黒い石はこの国を包む結界に引っかかるような形で動きを止めた。
そしてここなら邪魔が入らないと言わんばかりに、風船を膨らませるようにゆっくりと身体を膨張させていく。
爆発手前の段階にはいった、とティアは理解した。
こうなったら使用者であるビクリアを叩き起こし、この魔導具を停止させる方法を無理矢理にでも吐かせようかとも考えるが、
「……ええ…」
黒い石にばかり集中していて気がつかなかったが、そこにいるはずのビクリアの姿がなくなっており、まるで溶けたとでも言いたいようにあるはずもない水たまりだけが残されていた。
「──おい、ティア!」
名を呼ばれため振り向くと、戦いを終えたゼンスとミモザがそばまで走ってくるのが見えた。
「ちょうどよかった、守って!」
2人の姿を見たティアはそう叫び、国の上に浮かぶ黒い石に手をかざすと、
「『孤高の砲弾は睨んだ的に喰らいつく』」
呪文詠唱をし、法力をたっぷり注ぎ込んだ魔法弾を発射させた。
「は? おい──」
どう意味だと聞き返すより、浮かんでいる黒い石が自身を守るように魔法弾に向かって真っ赤な鞭をぶつけてくるのが早かった。
さらに、自身の邪魔をしたものを許さないように、そのまま鞭をティアに向かって大きく伸ばして襲いかかってくる。
「そういうことかよ!」
ゼンスとミモザは青と紫の光を輝かせ、その一撃をはじき返した。
「そっか、やっぱり自分を守るのを優先する……ロゼンがいればなんとかなりそうだけど……いない今は……悪魔……そういうことなのね……」
この状況を打開する方法を考えているためぶつぶつ言っているティアのそばに立つと、ゼンスとミモザは顔を見合わす。
「で?」
「おそらく、あの黒いなにかは爆発系のたぐいです。膨らむのはエネルギーを爆発力に変換した時に起きやすい現象だと読んだとことがあります。問題は…」
ミモザはそこで言葉を止め、高出力のエネルギーを感知して走って来た守備隊に顔を向ける。
「……謝罪はあとにさせてくれ。今はあれを止める方法をともに考えてくれないか」
そばまで来た守備隊長の表情を見て、ミモザは小さくうなずいた。
「これ以上国の被害を出したくない気持ちは共有していると信じたい、ですね?」
「……その通りだ」
守備隊長とミモザの会話を聞きながらも、ゼンスは黒い石から目を離さなかった。
「よし、守備隊の魔法使いの人たち、あれに魔法弾を撃ちまくって! あとの皆はその人たちを護衛をして!」
考えをまとめたのか、ティアが突然そう叫ぶ。
どういうことだ──などとこの緊急事態に聞き返すこともなく、守備隊長は即座に合図をだし、魔法部隊が一斉に魔法弾を黒い石に向かって放った。
刺激を与えぬよう細心の注意を払い、ティアは魔法を発動させて黒い石が浮遊していくのを阻止しようとするが、
「えっ!?」
邪魔をするなと言わんばかりに、吸いとった血の一部を鞭のように操り、ティアに向かって攻撃を仕かけてきた。
「たあ!」
威勢のいい掛け声と共にかろうじてその一撃を回避し、地面に滑りこむように倒れこんだ。
「い、痛っ……まさか防衛本能まであるとは…こんな魔導具が存在するなんて……」
いや、魔王の名前が出た時点で、もう人間がありえないと思うレベルの魔導具、呪導具が出てきてもおかしくないと考えるべきか。
ただの魔導具であれば封印に近い状態に持っていくことも可能かもしれないが、動いて妨害までしてくるとなると一気に難易度が跳ね上がる。
そうこうと考えているうちに、浮かび上がった黒い石はこの国を包む結界に引っかかるような形で動きを止めた。
そしてここなら邪魔が入らないと言わんばかりに、風船を膨らませるようにゆっくりと身体を膨張させていく。
爆発手前の段階にはいった、とティアは理解した。
こうなったら使用者であるビクリアを叩き起こし、この魔導具を停止させる方法を無理矢理にでも吐かせようかとも考えるが、
「……ええ…」
黒い石にばかり集中していて気がつかなかったが、そこにいるはずのビクリアの姿がなくなっており、まるで溶けたとでも言いたいようにあるはずもない水たまりだけが残されていた。
「──おい、ティア!」
名を呼ばれため振り向くと、戦いを終えたゼンスとミモザがそばまで走ってくるのが見えた。
「ちょうどよかった、守って!」
2人の姿を見たティアはそう叫び、国の上に浮かぶ黒い石に手をかざすと、
「『孤高の砲弾は睨んだ的に喰らいつく』」
呪文詠唱をし、法力をたっぷり注ぎ込んだ魔法弾を発射させた。
「は? おい──」
どう意味だと聞き返すより、浮かんでいる黒い石が自身を守るように魔法弾に向かって真っ赤な鞭をぶつけてくるのが早かった。
さらに、自身の邪魔をしたものを許さないように、そのまま鞭をティアに向かって大きく伸ばして襲いかかってくる。
「そういうことかよ!」
ゼンスとミモザは青と紫の光を輝かせ、その一撃をはじき返した。
「そっか、やっぱり自分を守るのを優先する……ロゼンがいればなんとかなりそうだけど……いない今は……悪魔……そういうことなのね……」
この状況を打開する方法を考えているためぶつぶつ言っているティアのそばに立つと、ゼンスとミモザは顔を見合わす。
「で?」
「おそらく、あの黒いなにかは爆発系のたぐいです。膨らむのはエネルギーを爆発力に変換した時に起きやすい現象だと読んだとことがあります。問題は…」
ミモザはそこで言葉を止め、高出力のエネルギーを感知して走って来た守備隊に顔を向ける。
「……謝罪はあとにさせてくれ。今はあれを止める方法をともに考えてくれないか」
そばまで来た守備隊長の表情を見て、ミモザは小さくうなずいた。
「これ以上国の被害を出したくない気持ちは共有していると信じたい、ですね?」
「……その通りだ」
守備隊長とミモザの会話を聞きながらも、ゼンスは黒い石から目を離さなかった。
「よし、守備隊の魔法使いの人たち、あれに魔法弾を撃ちまくって! あとの皆はその人たちを護衛をして!」
考えをまとめたのか、ティアが突然そう叫ぶ。
どういうことだ──などとこの緊急事態に聞き返すこともなく、守備隊長は即座に合図をだし、魔法部隊が一斉に魔法弾を黒い石に向かって放った。
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