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■勇者幽閉編
【22】
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民家の屋根をつたい、虹色の光が弧を描きながら駆け巡っていた。
「くそったれ……!」
ゼロは荒い呼吸を整える余裕もなく悪態をつく。
「なんだ、威勢のいいことを言っていたわりにはもう力が残っていないのか」
追ってきた守備隊長が繰り出してきた一撃をなんとかはじくが、ゼロは力が抜けたように屋根から転げ落ちていった。
それを見た隊員たちが同じく降りていくのを確認したあと、守備隊長は国の被害状況を確認するため周りを見渡す。
ゼロが無茶苦茶に業を放つため心配していたが、屋根や壁などがえぐれている民家の姿が見える程度で原型をなくすほどに破壊されている民家は見当たらない。国の護衛にまわった隊員たちが被害が最小限になるよううまく立ち回ってくれたおかげだろう。
「ならば、あとは」
屋根から降りた守備隊長は、隊員に囲まれる中よろよろと立ち上がるゼロを睨みつける。
「手当たり次第に業を放ってくれたな。お前と違ってこちらは住民に被害がでないよう立ち回らないといけないから無駄に労力を使ったぞ。どうしてお前が勇者の光を持っているのか、なぜ勇者ロゼンにそっくりなのか、牢獄にぶちこんだあとはゆっくり聞きだしてやるから覚悟しろよ」
守備隊長が言うと、今にも消えそうな虹色の光のなかゼロは持っている剣の刀身を地面に叩きつけた。
「……くそが! 見下してんじゃねえぞ雑魚のくせして! てめえらは俺を気持ち良くさせるために、さっさと這いつくばってくたばるもんだろバカが!」
子供が駄々をこねるように喚き散らすゼロに、守備隊長と隊員たちは思わず顔を見合わせた。
「ふむ……思い通りにいかないと感情をおさえず激高する。キミから色々聞きだすのは骨が折れそうで、お互い長い付き合いになりそうだな」
捕らえろ、と続けられた守備隊長の言葉に、隊員たちがゼロを押さえつけようとしたが、
「───!?」
この場にいる全員が、その異変に気がついた。
光力を使える人間なら嫌でもわかるほどの高出力のエネルギーの出現、そしてそれが現在進行でまだ高まりを続けていることに。
「ビクリアの野郎、合図もせず……」
そのつぶやきを聞くと守備隊長は即座に動き、ゼロの首根っこを掴んだ。
「お前の仲間がなにかしているのか!? 答えろ!」
「……ははは……いいじゃねえか、その顔。そうだ、そういう顔が俺は見たかったんだよ」
「場合によってはお前の最後は今かもしれんぞ?」
首を掴む力が強くなる。
「ぐっ……あれを発動させたってことは、どうせ全員死ぬ。ビクリアの考えが間違ってなければな」
「なにが起きる?」
「……わ、わかった教える。だから離せ……」
首から手が離される。
「……見ろ」
ゼロは自身の首を片手でおさえながら、もう片手でその方向を指さす。
守備隊長を含めたものたちがそちらに目を向けると、黒い石のようなものが空に昇るように浮かび上がっていき、今現在、国を包むように張られた巨大な結界に引っかかるような形で上昇を止めるのを目撃する。
黒い石。あれがエネルギーの発信源なのは一目瞭然。
全員死ぬ。これを真に受けて消去法で考えるなら、あの石の効果は──
「『魔法剣・天地夢酔』」
周りが黒い石に集中した瞬間を狙い、ゼロは業名を唱える。
すると、周りの重力が逆転したかのごとく、隊長含めた守備隊がその場に頭から倒れこんでしまう。
「し、しまった!」
守備隊長は起き上がるが、もうゼロの姿はそこにはなかった。
「くそったれ……!」
ゼロは荒い呼吸を整える余裕もなく悪態をつく。
「なんだ、威勢のいいことを言っていたわりにはもう力が残っていないのか」
追ってきた守備隊長が繰り出してきた一撃をなんとかはじくが、ゼロは力が抜けたように屋根から転げ落ちていった。
それを見た隊員たちが同じく降りていくのを確認したあと、守備隊長は国の被害状況を確認するため周りを見渡す。
ゼロが無茶苦茶に業を放つため心配していたが、屋根や壁などがえぐれている民家の姿が見える程度で原型をなくすほどに破壊されている民家は見当たらない。国の護衛にまわった隊員たちが被害が最小限になるよううまく立ち回ってくれたおかげだろう。
「ならば、あとは」
屋根から降りた守備隊長は、隊員に囲まれる中よろよろと立ち上がるゼロを睨みつける。
「手当たり次第に業を放ってくれたな。お前と違ってこちらは住民に被害がでないよう立ち回らないといけないから無駄に労力を使ったぞ。どうしてお前が勇者の光を持っているのか、なぜ勇者ロゼンにそっくりなのか、牢獄にぶちこんだあとはゆっくり聞きだしてやるから覚悟しろよ」
守備隊長が言うと、今にも消えそうな虹色の光のなかゼロは持っている剣の刀身を地面に叩きつけた。
「……くそが! 見下してんじゃねえぞ雑魚のくせして! てめえらは俺を気持ち良くさせるために、さっさと這いつくばってくたばるもんだろバカが!」
子供が駄々をこねるように喚き散らすゼロに、守備隊長と隊員たちは思わず顔を見合わせた。
「ふむ……思い通りにいかないと感情をおさえず激高する。キミから色々聞きだすのは骨が折れそうで、お互い長い付き合いになりそうだな」
捕らえろ、と続けられた守備隊長の言葉に、隊員たちがゼロを押さえつけようとしたが、
「───!?」
この場にいる全員が、その異変に気がついた。
光力を使える人間なら嫌でもわかるほどの高出力のエネルギーの出現、そしてそれが現在進行でまだ高まりを続けていることに。
「ビクリアの野郎、合図もせず……」
そのつぶやきを聞くと守備隊長は即座に動き、ゼロの首根っこを掴んだ。
「お前の仲間がなにかしているのか!? 答えろ!」
「……ははは……いいじゃねえか、その顔。そうだ、そういう顔が俺は見たかったんだよ」
「場合によってはお前の最後は今かもしれんぞ?」
首を掴む力が強くなる。
「ぐっ……あれを発動させたってことは、どうせ全員死ぬ。ビクリアの考えが間違ってなければな」
「なにが起きる?」
「……わ、わかった教える。だから離せ……」
首から手が離される。
「……見ろ」
ゼロは自身の首を片手でおさえながら、もう片手でその方向を指さす。
守備隊長を含めたものたちがそちらに目を向けると、黒い石のようなものが空に昇るように浮かび上がっていき、今現在、国を包むように張られた巨大な結界に引っかかるような形で上昇を止めるのを目撃する。
黒い石。あれがエネルギーの発信源なのは一目瞭然。
全員死ぬ。これを真に受けて消去法で考えるなら、あの石の効果は──
「『魔法剣・天地夢酔』」
周りが黒い石に集中した瞬間を狙い、ゼロは業名を唱える。
すると、周りの重力が逆転したかのごとく、隊長含めた守備隊がその場に頭から倒れこんでしまう。
「し、しまった!」
守備隊長は起き上がるが、もうゼロの姿はそこにはなかった。
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