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■勇者幽閉編
【21】
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──無色の光。それは魔法使い特有の光力である“法気”の光。
その光の性質は、想像した現象を呪文によって世界に具現化させる力を持つ。
ビクリアは無色の見えない光を輝かせた。
光力を感じとれない人間からしたら、ただローブがはためいているだけに見えるだろう。
「『怒りに満ちた風は猛々しく去っていく』」
呪文を唱えると、周りの人間が尻餅をつくほど突風が生み出される。
急な出来事に驚いた民衆は逃げ出していくが、ティアは魔力の流れからその程度の魔法だとわかっていたため、その光景を見つめていた。
「……まあ、話しがしたいってのは嘘ではないみたいね」
周りの人間が遠ざかったのを確認してから、ティアはそう呟く。
「そう言ってるでしょ。だから『あなたと契約している存在を呼び出してくれない?』」
その言葉を聞いた瞬間、ティアは心に触れられたような奇妙な感じになる。
もし、この感覚すら掴めなければ、きっと今頃疑うこともなく言葉通りの行動をとっていただろう。
「……驚いた、これ精神魔法ね。なんて面倒な力を持っているわけ」
しかし、驚きこそすれど特になにかが変わることもない様子のティアを見て、ビクリアは充血した目で笑みを浮かべる。
「やっぱり効かないのね。耐性で耐えたわけでもなく、魔法で防いだわけでもない。そうなると、これもあなたが飼っている悪魔の力のおかげなの?」
「……あのさ、飼ってるってその言い方本当に嫌いなんだけど」
思わずティアは感情をあらわにするが、小さな深呼吸と共に落ち着きを取り戻し、
「いいわ、話をしましょう。まずはあなたのその目、それって狂強人状態よね? なんで理性を保っているわけ?」
「そうでもないよ。軽い興奮状態になっているし、話しあいをするって意思を保っておかないと、思わず暴れてしまうかも。眠気覚ましにはちょうどいいけど」
「そうじゃなくて理性を失う変わりに身体能力を向上させるのが狂強人の状態異常でしょうが。どうなるもこうなるも、あなたが自分の意志で抗えるものではないんじゃない?」
「私たちは生まれたばかりの不安定な存在だから、状態異常によるマイナス効果が薄いのよ。勇者の力を手に入れるために、透明化、傀儡、小人と言った状態異常も利用してきたけど、次に会うときは私たちも存在が安定していると思うから、もう軽々しくは使えないだろうね」
「……簡単に言うけど、小人とか透明化って利用しようと思って使えるような状態異常じゃないでしょ。ホント無茶苦茶言ってるわ。それに生まれたばかりってのはあなたはモンスターみたいな存在ってこと?」
「さあね、ふふ、どうなんだろう」
ビクリアが面白そうに笑うのを見て、ティアはあきれたような顔になる。
「なにか笑える要素あった?」
「ふふ、いえ、ごめんなさい。こういう魔法使いらしい会話って初めてだから、思いのほか愉しくてね。私の我がままに付き合ってくれてどうもありがとう」
そう言うと、ビクリアは黒い石のようなものをローブの裏から取り出した。
「またびっくりアイテムかしら?」
「ええ、私も戦いで遊ぼうかと思ったけど、今のお話で十分愉しめたから今回はパスするわ。でも、気になることだけは知っておかないとね」
「気になること?」
ティアが聞き返すとと同時に、ビクリアはナイフを取り出し、黒い石を握る右の手首を切り裂いた。
「──は!?」
吹き出す血を見てティアは驚くが、さらに驚いたのは吹き出す血が地面に落ちず、吸い寄せられるように黒い石に吸収されていくのを見たから。
血を犠牲に発動する魔導具。
こういうのは基本的にたちが悪い効果しかないのは知っている。
「どうする? 血は爆発力に影響するだけで起爆剤は私の死だから、私を殺すとドカンと行くけど、今殺せばまだ爆発の規模は小さいかもよ?」
自分が死ぬことで爆発する。
軽々しく言い放つビクリアに、さすがにティアも動揺した。
「待って……本当に死ぬ気なの? それとも……」
はったりなの? と続けようとしたが、血を飲むたびに黒い石から感じる魔力にも似た波動が大きくなり、彼女の言葉が出鱈目でないことを教えてくれる。
「殺すかどうかで迷う。あなたみたいな善人の悪いところ。これを発動した時点で私はどうせ出血死するし、長引かせればそっちが不利になるだけ」
それはその通りだろう。
ビクリアの顔が青白くなっているところから、黒い石が血を吸収する速さは想像以上。
どうやって捕まえるかを考えていたが、このやり方は想定外。自身の死を交渉材料に求めて訴えてきているのだ。
殺すのか、殺さず爆発するのを待つのか。
(あー、最悪……。爆発の規模は……感じられる魔力の波動からすると……)
最悪低く見積もっても、この区画は吹き飛ぶかもレベルかもしれない。
しかし、魔導具は例えばレベル1が作るのとレベル100が作るのとでは、同じに見えて効果が全然違う場合もある。
「ねえ教えてよ、黒幕が誰なのかを!」
ティアは叫んだ。
ビクリアは真っ青な顔に笑みを浮かべる。
「私の主人は“魔王”。最高で最悪な存在だよ」
その言葉を最後にビクリアは倒れた。
黒い石はゆっくりと上空に向かって浮き上がっていった。
その光の性質は、想像した現象を呪文によって世界に具現化させる力を持つ。
ビクリアは無色の見えない光を輝かせた。
光力を感じとれない人間からしたら、ただローブがはためいているだけに見えるだろう。
「『怒りに満ちた風は猛々しく去っていく』」
呪文を唱えると、周りの人間が尻餅をつくほど突風が生み出される。
急な出来事に驚いた民衆は逃げ出していくが、ティアは魔力の流れからその程度の魔法だとわかっていたため、その光景を見つめていた。
「……まあ、話しがしたいってのは嘘ではないみたいね」
周りの人間が遠ざかったのを確認してから、ティアはそう呟く。
「そう言ってるでしょ。だから『あなたと契約している存在を呼び出してくれない?』」
その言葉を聞いた瞬間、ティアは心に触れられたような奇妙な感じになる。
もし、この感覚すら掴めなければ、きっと今頃疑うこともなく言葉通りの行動をとっていただろう。
「……驚いた、これ精神魔法ね。なんて面倒な力を持っているわけ」
しかし、驚きこそすれど特になにかが変わることもない様子のティアを見て、ビクリアは充血した目で笑みを浮かべる。
「やっぱり効かないのね。耐性で耐えたわけでもなく、魔法で防いだわけでもない。そうなると、これもあなたが飼っている悪魔の力のおかげなの?」
「……あのさ、飼ってるってその言い方本当に嫌いなんだけど」
思わずティアは感情をあらわにするが、小さな深呼吸と共に落ち着きを取り戻し、
「いいわ、話をしましょう。まずはあなたのその目、それって狂強人状態よね? なんで理性を保っているわけ?」
「そうでもないよ。軽い興奮状態になっているし、話しあいをするって意思を保っておかないと、思わず暴れてしまうかも。眠気覚ましにはちょうどいいけど」
「そうじゃなくて理性を失う変わりに身体能力を向上させるのが狂強人の状態異常でしょうが。どうなるもこうなるも、あなたが自分の意志で抗えるものではないんじゃない?」
「私たちは生まれたばかりの不安定な存在だから、状態異常によるマイナス効果が薄いのよ。勇者の力を手に入れるために、透明化、傀儡、小人と言った状態異常も利用してきたけど、次に会うときは私たちも存在が安定していると思うから、もう軽々しくは使えないだろうね」
「……簡単に言うけど、小人とか透明化って利用しようと思って使えるような状態異常じゃないでしょ。ホント無茶苦茶言ってるわ。それに生まれたばかりってのはあなたはモンスターみたいな存在ってこと?」
「さあね、ふふ、どうなんだろう」
ビクリアが面白そうに笑うのを見て、ティアはあきれたような顔になる。
「なにか笑える要素あった?」
「ふふ、いえ、ごめんなさい。こういう魔法使いらしい会話って初めてだから、思いのほか愉しくてね。私の我がままに付き合ってくれてどうもありがとう」
そう言うと、ビクリアは黒い石のようなものをローブの裏から取り出した。
「またびっくりアイテムかしら?」
「ええ、私も戦いで遊ぼうかと思ったけど、今のお話で十分愉しめたから今回はパスするわ。でも、気になることだけは知っておかないとね」
「気になること?」
ティアが聞き返すとと同時に、ビクリアはナイフを取り出し、黒い石を握る右の手首を切り裂いた。
「──は!?」
吹き出す血を見てティアは驚くが、さらに驚いたのは吹き出す血が地面に落ちず、吸い寄せられるように黒い石に吸収されていくのを見たから。
血を犠牲に発動する魔導具。
こういうのは基本的にたちが悪い効果しかないのは知っている。
「どうする? 血は爆発力に影響するだけで起爆剤は私の死だから、私を殺すとドカンと行くけど、今殺せばまだ爆発の規模は小さいかもよ?」
自分が死ぬことで爆発する。
軽々しく言い放つビクリアに、さすがにティアも動揺した。
「待って……本当に死ぬ気なの? それとも……」
はったりなの? と続けようとしたが、血を飲むたびに黒い石から感じる魔力にも似た波動が大きくなり、彼女の言葉が出鱈目でないことを教えてくれる。
「殺すかどうかで迷う。あなたみたいな善人の悪いところ。これを発動した時点で私はどうせ出血死するし、長引かせればそっちが不利になるだけ」
それはその通りだろう。
ビクリアの顔が青白くなっているところから、黒い石が血を吸収する速さは想像以上。
どうやって捕まえるかを考えていたが、このやり方は想定外。自身の死を交渉材料に求めて訴えてきているのだ。
殺すのか、殺さず爆発するのを待つのか。
(あー、最悪……。爆発の規模は……感じられる魔力の波動からすると……)
最悪低く見積もっても、この区画は吹き飛ぶかもレベルかもしれない。
しかし、魔導具は例えばレベル1が作るのとレベル100が作るのとでは、同じに見えて効果が全然違う場合もある。
「ねえ教えてよ、黒幕が誰なのかを!」
ティアは叫んだ。
ビクリアは真っ青な顔に笑みを浮かべる。
「私の主人は“魔王”。最高で最悪な存在だよ」
その言葉を最後にビクリアは倒れた。
黒い石はゆっくりと上空に向かって浮き上がっていった。
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