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■勇者幽閉編
【13】
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クルトンは急ぐ。
地下牢に人が少ない今なら、寝ている看守に気づかれないかもしれない。
この時間内に作戦成功の是非がかかっているのだ。
(落ち着いて、セリフを忘れないようにね)
(心得ております)
通路を通り抜け、目的地である第一地下牢までやってきた。
(さて……)
心の中で深呼吸をし、牢獄の前まで歩いていく。
そして、ついに標的の姿を確認した──
「ぁあぁあぁぁあ」
牢獄の中では、灰色の髪をした男がうつぶせになって奇声を発していた。
「………?」
よくわからない状態にクルトンは混乱する。
(しまった、もしかして牢獄を間違えましたか……)
あまりにも奇天烈な光景に思わずそう思ってしまったが、
(いえ、あれが標的よ。間違いなく勇者だわ……)
そう答えてくれたビクリアもどことなく自信のない様子だった。
「ぁあぁあ……あっ」
勇者がこちらに気づいたのか、うめき声を止めて顔を向けてきた。
「いつもの看守さんじゃなくて守備隊がいる……つまり俺は死刑ですか?」
なにがつまりなのか意味不明な質問に、クルトンは困惑に負けないよう一度大きく咳払いをした。
「勇者ロゼン……であっているな?」
名を呼ぶと、勇者ロゼンは立ち上がる。
「最後の晩餐は豪華な食事を希望します。愛をください」
「……え? いや、待て、さっきからなにを言っているんだ? い、いいか、まずはこちらの話を聞くんだ」
想定していた会話とかけ離れすぎて、クルトンはかなりてんぱっていた。
「おほんっ、いいか、今回は守備隊本部の指令で私は来た。本部いわく、これにキミの光力をたっぷり注ぎ込んでほしいとのことだ」
クルトンがビー玉サイズの小さな水晶玉を差し出すと、ロゼンはそれを受けとって手のひらの上でコロコロ転がす。
「大きさのわりに重いんだな。で、俺の光力をこれに入れてなんの意味が?」
「今のキミに詳しくは話せないが、事件の調査の上で重要な要素になるんだ」
「だから犯人は俺じゃないからそんなの意味ないって……」
「キミが犯人でないと確定させる要素になりえる可能性もあるんだぞ」
「マジで!? よし……どうすればいいの?」
「水晶玉を強く握りしめ、業を使うようなイメージで光力を集中させてくれ」
クルトンが言うと、ロゼンは言われた通り水晶玉を握りしめそこに光力を集中させる。
すると、光力を吸収した水晶玉が輝き始めた。
「おお、どんな魔導具なんだこれ……犯人扱いされてる俺には言えないか。はい、どうぞ」
ロゼンが輝く水晶玉を渡してくる。
「いや待て、まだだ。たっぷりと言っただろう?」
「え? ああ、了解」
受け取り拒否されたため、ロゼンはもう一度同じ手順で水晶に光力を吸収させる。
「……なあ、守備隊さん」
「なんだ?」
クルトンが聞き返すと、守備隊の制服胸ポケットほうにロゼンが目を向けてきた。
「そのポケットから不思議な力を感じるんだけど、なにが入ってるんだ?」
不味いバレたか、とクルトン、そして小人になって胸ポケットで息をひそめていたビクリアは心臓が高鳴る。
しかし、ちょっとした興味本位といった感じだったため、クルトンは咳払いをして、
「そ、それは、き、機密事項で話せん。そんなことより、ちゃんと光力を吸収させているのか? 気を散らせている場合じゃないぞ」
「大丈夫だって」
水晶玉を握るロゼンの手がいっそうと光りだした。
「もっとだ」
「はいはい」
「もっともっとだ」
「は、はいはい」
「もっともっともっとだ」
「ええ、まだやるの!?」
水晶玉はどんどん輝きを増していくが、それに比例してロゼンの光力もどんどん減っていく。
そして──
「みゃ……みゃだ…やるん……でひゅか……」
光力を使いすぎてロゼンは干からびたミイラみたいになってしまった。
薄暗い地下牢に太陽ができたかのように蘭々と光輝く水晶玉を、クルトンは受けとった。
「ふむ、これなら十分でしょう。ご協力感謝致しますよ」
「ひゃい……よろひく……ほねがい…ひまひゅ……」
ミイラはその場に崩れ落ちて横たわった。
クルトンは水晶玉をすぐに袋に入れて隠すと、第一地下牢から出ようとするが、
「……まずいですね」
通路のほうから足音が聞こえてくる。
それも1人や2人ではなさそうだ。
「気づかれたみたいですね。どうします?」
通路は一本道。ここは地下牢、逃げ場はない。
「穏やかに逃げるのはもう無理ね強引に行くわ。地下牢という場所を計算して一応作ってもらったけど正直使いたくなかった……よし、さあやって」
指示に従い、クルトンは縦笛を取り出して手にとると、思いっきり息を吹き込んで音を鳴らした。
その響かせた音の中に、ビクリアが精神魔法の効果を注ぎこむ。
その結果、いったいどこにいたんだと驚くほどの数のネズミが集まり、通路に向かって雪崩のように走っていった。
通路から聞こえてくる人の悲鳴。
突然現れたネズミの集団が無差別に人間に襲いかかっていた。
「……私たちは襲わないよう命令しておいたわ……あとはお願い………」
「……ネズミに紛れて逃げるはめになるとは、二度と経験したくありませんな」
ビクリアの寝息を合図に、クルトンは通路に向かって走っていった。
地下牢に人が少ない今なら、寝ている看守に気づかれないかもしれない。
この時間内に作戦成功の是非がかかっているのだ。
(落ち着いて、セリフを忘れないようにね)
(心得ております)
通路を通り抜け、目的地である第一地下牢までやってきた。
(さて……)
心の中で深呼吸をし、牢獄の前まで歩いていく。
そして、ついに標的の姿を確認した──
「ぁあぁあぁぁあ」
牢獄の中では、灰色の髪をした男がうつぶせになって奇声を発していた。
「………?」
よくわからない状態にクルトンは混乱する。
(しまった、もしかして牢獄を間違えましたか……)
あまりにも奇天烈な光景に思わずそう思ってしまったが、
(いえ、あれが標的よ。間違いなく勇者だわ……)
そう答えてくれたビクリアもどことなく自信のない様子だった。
「ぁあぁあ……あっ」
勇者がこちらに気づいたのか、うめき声を止めて顔を向けてきた。
「いつもの看守さんじゃなくて守備隊がいる……つまり俺は死刑ですか?」
なにがつまりなのか意味不明な質問に、クルトンは困惑に負けないよう一度大きく咳払いをした。
「勇者ロゼン……であっているな?」
名を呼ぶと、勇者ロゼンは立ち上がる。
「最後の晩餐は豪華な食事を希望します。愛をください」
「……え? いや、待て、さっきからなにを言っているんだ? い、いいか、まずはこちらの話を聞くんだ」
想定していた会話とかけ離れすぎて、クルトンはかなりてんぱっていた。
「おほんっ、いいか、今回は守備隊本部の指令で私は来た。本部いわく、これにキミの光力をたっぷり注ぎ込んでほしいとのことだ」
クルトンがビー玉サイズの小さな水晶玉を差し出すと、ロゼンはそれを受けとって手のひらの上でコロコロ転がす。
「大きさのわりに重いんだな。で、俺の光力をこれに入れてなんの意味が?」
「今のキミに詳しくは話せないが、事件の調査の上で重要な要素になるんだ」
「だから犯人は俺じゃないからそんなの意味ないって……」
「キミが犯人でないと確定させる要素になりえる可能性もあるんだぞ」
「マジで!? よし……どうすればいいの?」
「水晶玉を強く握りしめ、業を使うようなイメージで光力を集中させてくれ」
クルトンが言うと、ロゼンは言われた通り水晶玉を握りしめそこに光力を集中させる。
すると、光力を吸収した水晶玉が輝き始めた。
「おお、どんな魔導具なんだこれ……犯人扱いされてる俺には言えないか。はい、どうぞ」
ロゼンが輝く水晶玉を渡してくる。
「いや待て、まだだ。たっぷりと言っただろう?」
「え? ああ、了解」
受け取り拒否されたため、ロゼンはもう一度同じ手順で水晶に光力を吸収させる。
「……なあ、守備隊さん」
「なんだ?」
クルトンが聞き返すと、守備隊の制服胸ポケットほうにロゼンが目を向けてきた。
「そのポケットから不思議な力を感じるんだけど、なにが入ってるんだ?」
不味いバレたか、とクルトン、そして小人になって胸ポケットで息をひそめていたビクリアは心臓が高鳴る。
しかし、ちょっとした興味本位といった感じだったため、クルトンは咳払いをして、
「そ、それは、き、機密事項で話せん。そんなことより、ちゃんと光力を吸収させているのか? 気を散らせている場合じゃないぞ」
「大丈夫だって」
水晶玉を握るロゼンの手がいっそうと光りだした。
「もっとだ」
「はいはい」
「もっともっとだ」
「は、はいはい」
「もっともっともっとだ」
「ええ、まだやるの!?」
水晶玉はどんどん輝きを増していくが、それに比例してロゼンの光力もどんどん減っていく。
そして──
「みゃ……みゃだ…やるん……でひゅか……」
光力を使いすぎてロゼンは干からびたミイラみたいになってしまった。
薄暗い地下牢に太陽ができたかのように蘭々と光輝く水晶玉を、クルトンは受けとった。
「ふむ、これなら十分でしょう。ご協力感謝致しますよ」
「ひゃい……よろひく……ほねがい…ひまひゅ……」
ミイラはその場に崩れ落ちて横たわった。
クルトンは水晶玉をすぐに袋に入れて隠すと、第一地下牢から出ようとするが、
「……まずいですね」
通路のほうから足音が聞こえてくる。
それも1人や2人ではなさそうだ。
「気づかれたみたいですね。どうします?」
通路は一本道。ここは地下牢、逃げ場はない。
「穏やかに逃げるのはもう無理ね強引に行くわ。地下牢という場所を計算して一応作ってもらったけど正直使いたくなかった……よし、さあやって」
指示に従い、クルトンは縦笛を取り出して手にとると、思いっきり息を吹き込んで音を鳴らした。
その響かせた音の中に、ビクリアが精神魔法の効果を注ぎこむ。
その結果、いったいどこにいたんだと驚くほどの数のネズミが集まり、通路に向かって雪崩のように走っていった。
通路から聞こえてくる人の悲鳴。
突然現れたネズミの集団が無差別に人間に襲いかかっていた。
「……私たちは襲わないよう命令しておいたわ……あとはお願い………」
「……ネズミに紛れて逃げるはめになるとは、二度と経験したくありませんな」
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