☆なんちゃってクエスト★

Natsu

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■勇者幽閉編

【12】

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 クルトンは螺旋状らせんじょうの階段を降りながら、ビクリアに語りかける。

(精神魔法を使用した反動は大丈夫ですかな?)

 他者の心を操る魔法。
 あまりに強力であるが、それゆえ使用者にも当然しっぺ返しがある。

(そのために3日間充分な時間休んだから。あと2回ぐらいは使えると思う)

(3日も休んであと2回……燃費の悪い力ですな)

(こればかりは仕方ないわ。それと何度も言ったけど状態異常や精神異常などの耐性が高い勇者には通じないから、一番使いたい局面だけど私の力は使用できないし、この精神会話も気づかれるといけないから勇者の前では助力ができないのも忘れないで)

(了解しました……そう思うと緊張してきましたよ。敵である我々からすると勇者とは恐ろしいものですね)

(そうね……)

 ここで会話が止まる。
 螺旋階段が終わり通路を歩いていたのだが、進行方向が3つに分かれている分岐点ぶんきてんにたどり着いてしまった。

(第一地下牢は右よ)

 クルトンは指示に従った通路を選んで進んでいく。
 今のところ誰とも出会っていない。
 この時間がもっとも警備する人間が少なくなるのはトカゲを操って確認済みだ。

「──なんだお前?」

 が、勇者の元まで何事もなくたどり着けるほど都合良くはいかず、地下牢の看守と思われる服装をしている男と鉢合はちあわせしてしまう。

「俺は守備隊のものだ」

「見ればわかる。で、こんなところで迷子はないだろう。なにしてんだ?」

「ここの囚人に用があって来た。門番には話を通して中に入れてもらった」

「面会が来るなんて連絡もらってないんだが? 悪いが、あれ?と思ったら問題が発生しているのを疑えが基本だ。確認するからそこ動くな」

 看守は魔本を取りだし、どこかに連絡するためかページを開いた。

(ダメね。出し惜しみしても仕方ない。クルトン)

「おい、ちょっと待ってくれよ。俺はここの囚人に話があって来たと伝えてあるはずだろう。まさか忘れたのか?」

 クルトンの言葉にビクリアは精神魔法をのせ、相手の心にそうであったと信じ込ませようとする。

 だが──

「……これ精神異常か? 残念、俺はこのたぐいには強いぞ」

 そう言って看守は腰から警棒を抜きとった。
 精神魔法の失敗を悟り、クルトンは瞬時に動きだす。

 一撃。音を出さないよう注意深く、それでいて鋭い手刀は看守の首の後ろをとらえ、その意識を遠ざけることに成功した。

「あ、危なかった……」

 ビクリアは思わず声を漏らす。
 まさか反撃されるレベルで耐えてしまう相手が勇者以外でもいたとは。
 正直、このミスはまだ経験浅く、精神魔法の万能感に酔っていた愚かさがあったのはいなめないだろう。

(……まったく効いてないわけではなく動揺は誘えました。この彼は私より強かったのでしょうが、自分が攻撃しようとしている相手が本当に敵なのか迷った感じがありました。この大きなハンデがなければまずかったです……こうなった以上はゆっくりできませんね)

 クルトンは静かに看守を寝かせると、続く通路を足早に進んでいった。
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