55 / 145
■勇者幽閉編
【12】
しおりを挟む
クルトンは螺旋状の階段を降りながら、ビクリアに語りかける。
(精神魔法を使用した反動は大丈夫ですかな?)
他者の心を操る魔法。
あまりに強力であるが、それゆえ使用者にも当然しっぺ返しがある。
(そのために3日間充分な時間休んだから。あと2回ぐらいは使えると思う)
(3日も休んであと2回……燃費の悪い力ですな)
(こればかりは仕方ないわ。それと何度も言ったけど状態異常や精神異常などの耐性が高い勇者には通じないから、一番使いたい局面だけど私の力は使用できないし、この精神会話も気づかれるといけないから勇者の前では助力ができないのも忘れないで)
(了解しました……そう思うと緊張してきましたよ。敵である我々からすると勇者とは恐ろしいものですね)
(そうね……)
ここで会話が止まる。
螺旋階段が終わり通路を歩いていたのだが、進行方向が3つに分かれている分岐点にたどり着いてしまった。
(第一地下牢は右よ)
クルトンは指示に従った通路を選んで進んでいく。
今のところ誰とも出会っていない。
この時間がもっとも警備する人間が少なくなるのはトカゲを操って確認済みだ。
「──なんだお前?」
が、勇者の元まで何事もなくたどり着けるほど都合良くはいかず、地下牢の看守と思われる服装をしている男と鉢合わせしてしまう。
「俺は守備隊のものだ」
「見ればわかる。で、こんなところで迷子はないだろう。なにしてんだ?」
「ここの囚人に用があって来た。門番には話を通して中に入れてもらった」
「面会が来るなんて連絡もらってないんだが? 悪いが、あれ?と思ったら問題が発生しているのを疑えが基本だ。確認するからそこ動くな」
看守は魔本を取りだし、どこかに連絡するためかページを開いた。
(ダメね。出し惜しみしても仕方ない。クルトン)
「おい、ちょっと待ってくれよ。俺はここの囚人に話があって来たと伝えてあるはずだろう。まさか忘れたのか?」
クルトンの言葉にビクリアは精神魔法をのせ、相手の心にそうであったと信じ込ませようとする。
だが──
「……これ精神異常か? 残念、俺はこの類には強いぞ」
そう言って看守は腰から警棒を抜きとった。
精神魔法の失敗を悟り、クルトンは瞬時に動きだす。
一撃。音を出さないよう注意深く、それでいて鋭い手刀は看守の首の後ろをとらえ、その意識を遠ざけることに成功した。
「あ、危なかった……」
ビクリアは思わず声を漏らす。
まさか反撃されるレベルで耐えてしまう相手が勇者以外でもいたとは。
正直、このミスはまだ経験浅く、精神魔法の万能感に酔っていた愚かさがあったのは否めないだろう。
(……まったく効いてないわけではなく動揺は誘えました。この彼は私より強かったのでしょうが、自分が攻撃しようとしている相手が本当に敵なのか迷った感じがありました。この大きなハンデがなければまずかったです……こうなった以上はゆっくりできませんね)
クルトンは静かに看守を寝かせると、続く通路を足早に進んでいった。
(精神魔法を使用した反動は大丈夫ですかな?)
他者の心を操る魔法。
あまりに強力であるが、それゆえ使用者にも当然しっぺ返しがある。
(そのために3日間充分な時間休んだから。あと2回ぐらいは使えると思う)
(3日も休んであと2回……燃費の悪い力ですな)
(こればかりは仕方ないわ。それと何度も言ったけど状態異常や精神異常などの耐性が高い勇者には通じないから、一番使いたい局面だけど私の力は使用できないし、この精神会話も気づかれるといけないから勇者の前では助力ができないのも忘れないで)
(了解しました……そう思うと緊張してきましたよ。敵である我々からすると勇者とは恐ろしいものですね)
(そうね……)
ここで会話が止まる。
螺旋階段が終わり通路を歩いていたのだが、進行方向が3つに分かれている分岐点にたどり着いてしまった。
(第一地下牢は右よ)
クルトンは指示に従った通路を選んで進んでいく。
今のところ誰とも出会っていない。
この時間がもっとも警備する人間が少なくなるのはトカゲを操って確認済みだ。
「──なんだお前?」
が、勇者の元まで何事もなくたどり着けるほど都合良くはいかず、地下牢の看守と思われる服装をしている男と鉢合わせしてしまう。
「俺は守備隊のものだ」
「見ればわかる。で、こんなところで迷子はないだろう。なにしてんだ?」
「ここの囚人に用があって来た。門番には話を通して中に入れてもらった」
「面会が来るなんて連絡もらってないんだが? 悪いが、あれ?と思ったら問題が発生しているのを疑えが基本だ。確認するからそこ動くな」
看守は魔本を取りだし、どこかに連絡するためかページを開いた。
(ダメね。出し惜しみしても仕方ない。クルトン)
「おい、ちょっと待ってくれよ。俺はここの囚人に話があって来たと伝えてあるはずだろう。まさか忘れたのか?」
クルトンの言葉にビクリアは精神魔法をのせ、相手の心にそうであったと信じ込ませようとする。
だが──
「……これ精神異常か? 残念、俺はこの類には強いぞ」
そう言って看守は腰から警棒を抜きとった。
精神魔法の失敗を悟り、クルトンは瞬時に動きだす。
一撃。音を出さないよう注意深く、それでいて鋭い手刀は看守の首の後ろをとらえ、その意識を遠ざけることに成功した。
「あ、危なかった……」
ビクリアは思わず声を漏らす。
まさか反撃されるレベルで耐えてしまう相手が勇者以外でもいたとは。
正直、このミスはまだ経験浅く、精神魔法の万能感に酔っていた愚かさがあったのは否めないだろう。
(……まったく効いてないわけではなく動揺は誘えました。この彼は私より強かったのでしょうが、自分が攻撃しようとしている相手が本当に敵なのか迷った感じがありました。この大きなハンデがなければまずかったです……こうなった以上はゆっくりできませんね)
クルトンは静かに看守を寝かせると、続く通路を足早に進んでいった。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
いい子ちゃんなんて嫌いだわ
F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが
聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。
おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。
どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。
それが優しさだと思ったの?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
仰っている意味が分かりません
水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
俺の娘、チョロインじゃん!
ちゃんこ
ファンタジー
俺、そこそこイケてる男爵(32) 可愛い俺の娘はヒロイン……あれ?
乙女ゲーム? 悪役令嬢? ざまぁ? 何、この情報……?
男爵令嬢が王太子と婚約なんて、あり得なくね?
アホな俺の娘が高位貴族令息たちと仲良しこよしなんて、あり得なくね?
ざまぁされること必至じゃね?
でも、学園入学は来年だ。まだ間に合う。そうだ、隣国に移住しよう……問題ないな、うん!
「おのれぇぇ! 公爵令嬢たる我が娘を断罪するとは! 許さぬぞーっ!」
余裕ぶっこいてたら、おヒゲが素敵な公爵(41)が突進してきた!
え? え? 公爵もゲーム情報キャッチしたの? ぎゃぁぁぁ!
【ヒロインの父親】vs.【悪役令嬢の父親】の戦いが始まる?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
学園長からのお話です
ラララキヲ
ファンタジー
学園長の声が学園に響く。
『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』
昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。
学園長の話はまだまだ続く……
◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない)
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる