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■手に汗握る博打編
【8】
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ポーカーキングとの死闘を繰り広げ、勝利を収めたミモザ。
読みあい、探り合い、騙しあい、どれもが一流の技術で行われたこの一戦はきっと長い間語り継がれていくことであろう。
「──くけけけっ。まあまあの試合だったね。余興としては悪くなかったよ」
周りを囲む群衆が一斉に顔を向ける。
みなの視線を受けながら、男が一人ぎこちない歩き方で群衆の中から出てきた。
「変な歩き方しているが酔っ払いか? お水が欲しいならカウンターはあっちだぞ」
ポーカーキングが言うと、ふらふら歩く男の肩をそばにいる人間が掴んだ。
「ほら酔っ払い、こっちこいよ」
酔っ払いだと判断し群衆は連れて行こうとするが、男が突然一枚のコインを指ではじき宙に浮かせる。
そのままくるくると回転しながら床に落ちると、すぐにコインは足で踏んづけられて見えなくなってしまった。
「いったいなにをやっているん」
「そこのお前、ひとつ遊びをしよう。裏か表か。落ちたコインは今どっちを上に向けているか答えてみてくれ」
男が指を差し、ポーカーキングを指名してきた。
「……じゃあ表だ」
ポーカーキングが答える。
「よし、結果は」
男は足をどかし、コインの向きを確認した。
「──残念、裏が上を向いている。お前の負けだな」
男が言うと、「だから何だ」とまで口に出したポーカーキングがテーブルに向かって倒れこんだ。
「なっ」
ちょっとしたいざこざかと見ていたミモザは、倒れこんだポーカーキングをとっさに支える。
「ぐー……」
状態を確認しようと思ったら寝息が聞こえてきた。
どうやら眠っているようだ。しかし会話の最中に突然眠るなんて不自然である。
「……あなたはいったい?」
ミモザが警戒しながら尋ねると、男はふらふら歩きながら近づいてきた。
「くけけけっ……げっ!」
男は足がもつれて倒れこんだ。
『ダー! モウイイ アルキ ニクイ! ヘンゲ カイジョ!』
ぼわん、と煙をあげて男の姿が見えなくなり──次に見せたのは人型のブリキの人形みたいな姿だった。
『クケケケッ。コレデ スッキリ シタ!』
「モンスター……」
突然現れたモンスターに群衆はパニックになりかけるが、
「──お待ちください」
ポーカーテーブルのディーラーの言葉で場が静まった。
「騒ぎはまずいです。たとえモンスターを倒す行為だとしても、カジノ運営に支障をきたす行動、暴力行為などは厳禁です」
ディーラーの言葉に、ミモザは困惑する。
「で、ですが目の前にモンスターがいるのになにもしないわけにはいかないのでは?」
「もちろんです。ですが、ここは莫大なお金が動いている施設です。わずかな時間止まるだけでももの凄い被害がでます。なんとかこっそりと解決してください」
そんな無茶苦茶なこと言われても。
確かに場所が場所であるし、万が一ここでバトルして死傷者が出るのは避けたいところであるが。
変化を解いて本当の姿を見せたということは、この場を乗り切れる自信の表れともとれる。
バトルをせずに、被害を出さずに、このモンスターを捕らえる方法は──
『オイ ナニヲ ウダウダ ヤッテイル』
モンスターがポーカーテーブルの席についた。
『ボク ハ "トイ" サマダゾ。タイクツ ナンテ サセルナ。サア ボクヲ タノシマセロ』
魔本危険度10位のモンスター"トイ"が現れた。
読みあい、探り合い、騙しあい、どれもが一流の技術で行われたこの一戦はきっと長い間語り継がれていくことであろう。
「──くけけけっ。まあまあの試合だったね。余興としては悪くなかったよ」
周りを囲む群衆が一斉に顔を向ける。
みなの視線を受けながら、男が一人ぎこちない歩き方で群衆の中から出てきた。
「変な歩き方しているが酔っ払いか? お水が欲しいならカウンターはあっちだぞ」
ポーカーキングが言うと、ふらふら歩く男の肩をそばにいる人間が掴んだ。
「ほら酔っ払い、こっちこいよ」
酔っ払いだと判断し群衆は連れて行こうとするが、男が突然一枚のコインを指ではじき宙に浮かせる。
そのままくるくると回転しながら床に落ちると、すぐにコインは足で踏んづけられて見えなくなってしまった。
「いったいなにをやっているん」
「そこのお前、ひとつ遊びをしよう。裏か表か。落ちたコインは今どっちを上に向けているか答えてみてくれ」
男が指を差し、ポーカーキングを指名してきた。
「……じゃあ表だ」
ポーカーキングが答える。
「よし、結果は」
男は足をどかし、コインの向きを確認した。
「──残念、裏が上を向いている。お前の負けだな」
男が言うと、「だから何だ」とまで口に出したポーカーキングがテーブルに向かって倒れこんだ。
「なっ」
ちょっとしたいざこざかと見ていたミモザは、倒れこんだポーカーキングをとっさに支える。
「ぐー……」
状態を確認しようと思ったら寝息が聞こえてきた。
どうやら眠っているようだ。しかし会話の最中に突然眠るなんて不自然である。
「……あなたはいったい?」
ミモザが警戒しながら尋ねると、男はふらふら歩きながら近づいてきた。
「くけけけっ……げっ!」
男は足がもつれて倒れこんだ。
『ダー! モウイイ アルキ ニクイ! ヘンゲ カイジョ!』
ぼわん、と煙をあげて男の姿が見えなくなり──次に見せたのは人型のブリキの人形みたいな姿だった。
『クケケケッ。コレデ スッキリ シタ!』
「モンスター……」
突然現れたモンスターに群衆はパニックになりかけるが、
「──お待ちください」
ポーカーテーブルのディーラーの言葉で場が静まった。
「騒ぎはまずいです。たとえモンスターを倒す行為だとしても、カジノ運営に支障をきたす行動、暴力行為などは厳禁です」
ディーラーの言葉に、ミモザは困惑する。
「で、ですが目の前にモンスターがいるのになにもしないわけにはいかないのでは?」
「もちろんです。ですが、ここは莫大なお金が動いている施設です。わずかな時間止まるだけでももの凄い被害がでます。なんとかこっそりと解決してください」
そんな無茶苦茶なこと言われても。
確かに場所が場所であるし、万が一ここでバトルして死傷者が出るのは避けたいところであるが。
変化を解いて本当の姿を見せたということは、この場を乗り切れる自信の表れともとれる。
バトルをせずに、被害を出さずに、このモンスターを捕らえる方法は──
『オイ ナニヲ ウダウダ ヤッテイル』
モンスターがポーカーテーブルの席についた。
『ボク ハ "トイ" サマダゾ。タイクツ ナンテ サセルナ。サア ボクヲ タノシマセロ』
魔本危険度10位のモンスター"トイ"が現れた。
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