☆なんちゃってクエスト★

Natsu

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□始まり編

【仲間たち】

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 ロゼンとミモザは宿から出ていく。

「!」

 が、いきなりロゼンの顔つきが変わった。
 理由は簡単、外で待っていた仲間の1人がすぐそこに立っていたからだ。

「遅いよ。なにしてたの?」

 と、腕を組んで立っていたのは、大きな黒い帽子をかぶった小柄な少女。
 怒ってる。彼女は明らかに怒っている。

 これはヤバい、とロゼンは言い訳を始める。

「ち、違うんだ、ティア。これにはわけが」

「うるさい」

 言い訳タイム、終了。

「いや、ちょっと待てよ。なにしてたの? て聞いてき」

「うるさい」

 説得タイム、終了。

「分かった、事実だけをげよう。寝ぼうしたのさ、なにか文句あるか!」

 逆ギレタイム開始。

 投げやりになったロゼンを見て、少女はため息をついた。
 この少女の名前は、ティア。職業は魔法使い。
 ロゼンパーティーの1人であり、仲間の中でもっとも年齢が若い女の子。

「………」

 魔法使いのトレードマークであるつばの広い黒いとんがり帽子を指でくいっと上げながら、ティアは不機嫌ふきげんそうに目を細めた。

「な、なんだよ、やる気かこの野郎」

 威嚇いかくのため腰から剣を抜きとり、ロゼンはびくびくしながら構える。

「おしおきよ、やっておしまい」

 ティアは腰に当てて言った。
 瞬間、ティアの後ろから物凄い速さでなにかが飛び出してくる。

「ちょっ」

 気付いたロゼンはそのなにかから逃げようとしたが、

「――ぐわしっ!」

 逃げれなかった。身体に衝撃が走り、勢いよくぶっ飛ばされていく。
 そのまま後ろにあった宿屋の壁に激突。

「……う…うう……」

 さっきと同じく壁からずりずりとまた出る羽目はめになった。
 宿屋で一晩眠って回復したのに、村からでる前になんかもう瀕死ひんし状態だ。

「ゼンス、今のはやりすぎですよ」

 ふびんに思ったのか、ミモザがロゼンを蹴り跳ばした男に注意する。
 いや、お前はまったく人のこと言えないよ、とロゼンが思ったのは内緒。

 ロゼンを蹴り跳ばしたのは頭にハチマキを巻いた男。
 彼の名前はゼンス。職業は武道家。頭に巻いたハチマキが闘う男をイメージさせる。

「やりすぎって言われてもよ。こいつがやれって言うからやったんだぜ」

 ミモザの注意を聞き、ゼンスはティアの頭を軽くこついた。

「だってムカついたもん」

 ティアは悪気もなく言う。

「わかりました。でも次からは気をつけなさい。ロゼン様も一応人間ですので、やりすぎると死んでしまいますからね」

 はーい、へーい、とティアとゼンスは返事をした。

(一応……? 正真正銘しょうしんしょうめい、人間なんですけど……)

 自分の扱いが軽すぎてロゼンはなんだか納得いかないが、こんなのはもう日常茶飯事にちじょうさはんじ。慣れてしまった自分が怖いと思う今日この頃。

「おい、ロゼン。演技はやめて早くこいよ」

「いやいやいや、演技でリアルな鼻血は出せないから」

 ロゼンは鼻血を拭いてふらふらと立ち上がる。
 そんなこんなとロゼン、ミモザ、ティア、ゼンス。パーティーを組む4人が集合した。

「うっし」

 さすが勇者。異常な回復力で復活し、軽くストレッチなんかしてしまう。

「んじゃ、そろそろ旅に出発しますか!」

 ロゼンはリーダーらしく仲間たちに号令をかける。
 ……しかし返事がない。仲間たちの姿がすでになかったのだ。

「いや、なんで!?」

 ロゼンがあせって顔を振り向けると、村の入り口に背中を向けて歩く仲間たちを見つけた。

「ちょ、待って、置いてかないで!」

 置いてきぼりをくらいそうになり、ロゼンは仲間の元にダッシュした。
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