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君臨
申し訳ございませんでした
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大勢の大人が集まる大きい部屋。みな割り振られた席に座って、黙々となにかの作業を続けている。独特の緊張感と倦怠感。たまに漏れる溜息。
長いような短いような、そもそも時間の概念が捻じ曲がった空間を通って、僕の精神は見たことのない世界に行き着き、どこか見慣れた光景を見ている。使っている道具も、着ている服も、建物の内装もなにもかも見慣れないが、彼らが必死に仕事中なんだろうなということは伝わってくるのだ。異世界であっても仕事中はこんな感じなんだな。
さて、まだ若いシャルル様の元へ飛んでエナジーを回収するはずだったが、気合を入れ過ぎてどうやら前世のシャルル様の元へ来てしまったらしい。となるとここは異世界か。昔のシャルル様じゃなくて前世のシャルル様だけど、魂が同じなんだしエナジーも使えるはずだ。ミスったけど致命的ではない。シャルル様さえ見付かればまだまだ挽回出来るはずだ。ここに飛んできたということは、この部屋の中には居るのだろうし。
精神だけの存在だから、誰にも見えないしなにも触れない僕は、部屋の中をキョロキョロしながら歩き回る。みな机の上に映像が映る魔道具を置いて、手元にある大量のスイッチを巧みに使ってなにかしている。うん、忙しそうだがなにやってるかは全くわからん。
「それで?企画書書いた?」
お、偉い人っぽいの発見。シャルル様なんだし偉いだろう。席に呼び付けた部下っぽいのと話しているようだ。
「いえ、それは」
「なに、まだ出来ない?なんか考えはあるの?形なってなくて良いからさ、なんとなくの内容だけでも聞かせてよ」
良かった、何故か言葉はわかる。なんでかはわからんが。ふむふむ。年上っぽい部下に対しても臆しない態度。まあまあシャルル様っぽさはあるが、なんか違うなぁ。聞かれた部下がなにも答えないでいると、上司が嘆息して言った。
「入社何年目だっけ?俺らの仕事ってさ、ただ人の企画に乗っかってなんとなく手伝うだけじゃ駄目でしょ?自分で企画して、チームリーダー経験して、それでどんどん成長していくんじゃないの?」
声を荒げてはいないが、明らかに相手を馬鹿にしている態度。これはシャルル様度低めだ。
「チームリーダーなんて3年目の子らでもやってるよ?わかってる?あんたの同期の人達はみんな課長クラスで、中には時期部長も居るわけじゃん。なにしてんの?マジで」
上司の男はもう苛々を隠そうともしない。声は相変わらず控えているが、周りに座る人達には聞こえているだろう。みんなの前で罵倒されるその人を見て、僕はハッとした。
「そりゃ毎日人の仕事手伝うだけだと楽だし責任も無いだろうけどさ。やる気ないやつ見てるとこっちまでモチベーション下がるんだよね。昇進とか興味無いのか知んないけど、無気力に仕事するのは違うだろ」
部下の彼はそれでもなにも喋らない。ただ黙って申し訳なさそうな顔で話を聞いている。そんな彼が、なにかを言いたいのに言えないで、悲しそうに下を向く彼が、シャルル様だ。
なんで?シャルル様だったらなんでも出来るし、すぐに凄いアイデアだって思い付くでしょ?放って置いたら勝手に暗躍して、変な組織作ったり色んな人助けたり。シャルル様ってそんな人でしょ?なのになんで?
「もう良いよ、あんたなに言っても変わんねえし。企画書ももう書かなくて良いから、勝手にだらだら仕事してろよ」
言いたい放題言われて、悔しくないの!?いつものシャルル様なら悪そうな顔で笑いながら、逆転の一手を狙ってるはずじゃないか!
「申し訳ございませんでした」
ただ頭を深々と下げて席へ戻る。そんな後ろ姿を見ながら僕は呆然とする。そうか、ここは過去の世界。まだシャルル様が僕らの世界に来る前の世界。彼はここで、こんなにも辛い思いをしていたのか。
長いような短いような、そもそも時間の概念が捻じ曲がった空間を通って、僕の精神は見たことのない世界に行き着き、どこか見慣れた光景を見ている。使っている道具も、着ている服も、建物の内装もなにもかも見慣れないが、彼らが必死に仕事中なんだろうなということは伝わってくるのだ。異世界であっても仕事中はこんな感じなんだな。
さて、まだ若いシャルル様の元へ飛んでエナジーを回収するはずだったが、気合を入れ過ぎてどうやら前世のシャルル様の元へ来てしまったらしい。となるとここは異世界か。昔のシャルル様じゃなくて前世のシャルル様だけど、魂が同じなんだしエナジーも使えるはずだ。ミスったけど致命的ではない。シャルル様さえ見付かればまだまだ挽回出来るはずだ。ここに飛んできたということは、この部屋の中には居るのだろうし。
精神だけの存在だから、誰にも見えないしなにも触れない僕は、部屋の中をキョロキョロしながら歩き回る。みな机の上に映像が映る魔道具を置いて、手元にある大量のスイッチを巧みに使ってなにかしている。うん、忙しそうだがなにやってるかは全くわからん。
「それで?企画書書いた?」
お、偉い人っぽいの発見。シャルル様なんだし偉いだろう。席に呼び付けた部下っぽいのと話しているようだ。
「いえ、それは」
「なに、まだ出来ない?なんか考えはあるの?形なってなくて良いからさ、なんとなくの内容だけでも聞かせてよ」
良かった、何故か言葉はわかる。なんでかはわからんが。ふむふむ。年上っぽい部下に対しても臆しない態度。まあまあシャルル様っぽさはあるが、なんか違うなぁ。聞かれた部下がなにも答えないでいると、上司が嘆息して言った。
「入社何年目だっけ?俺らの仕事ってさ、ただ人の企画に乗っかってなんとなく手伝うだけじゃ駄目でしょ?自分で企画して、チームリーダー経験して、それでどんどん成長していくんじゃないの?」
声を荒げてはいないが、明らかに相手を馬鹿にしている態度。これはシャルル様度低めだ。
「チームリーダーなんて3年目の子らでもやってるよ?わかってる?あんたの同期の人達はみんな課長クラスで、中には時期部長も居るわけじゃん。なにしてんの?マジで」
上司の男はもう苛々を隠そうともしない。声は相変わらず控えているが、周りに座る人達には聞こえているだろう。みんなの前で罵倒されるその人を見て、僕はハッとした。
「そりゃ毎日人の仕事手伝うだけだと楽だし責任も無いだろうけどさ。やる気ないやつ見てるとこっちまでモチベーション下がるんだよね。昇進とか興味無いのか知んないけど、無気力に仕事するのは違うだろ」
部下の彼はそれでもなにも喋らない。ただ黙って申し訳なさそうな顔で話を聞いている。そんな彼が、なにかを言いたいのに言えないで、悲しそうに下を向く彼が、シャルル様だ。
なんで?シャルル様だったらなんでも出来るし、すぐに凄いアイデアだって思い付くでしょ?放って置いたら勝手に暗躍して、変な組織作ったり色んな人助けたり。シャルル様ってそんな人でしょ?なのになんで?
「もう良いよ、あんたなに言っても変わんねえし。企画書ももう書かなくて良いから、勝手にだらだら仕事してろよ」
言いたい放題言われて、悔しくないの!?いつものシャルル様なら悪そうな顔で笑いながら、逆転の一手を狙ってるはずじゃないか!
「申し訳ございませんでした」
ただ頭を深々と下げて席へ戻る。そんな後ろ姿を見ながら僕は呆然とする。そうか、ここは過去の世界。まだシャルル様が僕らの世界に来る前の世界。彼はここで、こんなにも辛い思いをしていたのか。
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