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君臨

甘めのやつで!

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 いつものバーでいつものメンバー。常連だけの賑やかな夜。
「いやだから肘は顎に付かないんだよ」
「付くって。僕身体柔らかいし」
「人間の構造上無理だってば」
「じゃあ見ててよ?んっ!」
「な?無理だろ?」
「んん!ぐうう!」
「お!おい!アルフィ!無理するな!今はまだその時では無いんだ!」
「付くよおおお!」
「アル様頑張れー!」
「くうう!」
「ちなみにワシは付くよー」
「ええ!?」
「付いてる!」
「いやそいつ魔族だし身体石膏像だから!」
「なんだ石膏差別かー?」
「マスターきゅうり!マヨネーズと味噌のやつ!」
「ダニエル毎日きゅうり食ってないか?」
「ビールに合うんだわあ」
「ほら!シャルル様!付いた!僕も付いた!」
「はいはいってうえええ!?付いてるううう!?」
「アル様ちょっと腕折れてねー?」
「なにやってんだ!?おいいい!」
「兄弟もきゅうり食う?」
「今じゃねえよ!」
「きゅうりはいつ食っても美味いぞ?」
「付いたもん。顎に、く、うぅ」
「痛いんだろ!?治療しろ!自分で出来るのか!?」
「そう言えばダカストロ様、お隣の方から肉まんを貰いまして。良ければみなさまでどうぞ」
「それも今じゃ無いってば!」
「肉まんは、食べるぅ」
「アルフィが食べるって言ってるから温めて!俺のも!」
「狡いぞ!俺もだ!」
「ワシも食べるー」
 グダグダとなんの生産性もない会話を繰り広げるこの時間が、明日を生きる活力になっているのは確かだ。普段はこの国の命運とか、魔族とか王国とか、色んなヘビーなことを考えなければならない。だからこそ1日の最後はここで、なにも考えずに酒を呑み笑いたい。本当に、本当にどうでも良い話しかしていなくても。
「そーそー、魔王軍にいるウチのスパイから情報来たんだけどー、幹部3人が協力して大部隊編成してるってさー」
「それで言やあ、王国にいる昔の仲間から、勇者奪還のために王国の正規兵が馬鹿ほどの数で進軍し始めたから気を付けろって連絡があったぞ」
「え?」
「痛い。ぐす」
「昔の仲間って外に居るんだろー?どうやって連絡取るのー?セキュリティー破られてるじゃーん」
「ある程度街に近付けば会話出来る魔道具があってな」
「あんた貴重な魔道具どんだけ隠してるわけー?」
「店長達には聞こえが悪いだろうが、俺は魔族ハンターだったからな」
 酒が入った頭でしばらく考えてみたが、やっぱり今の会話はスルーして良い会話じゃなくないか?
「あの、ダニエル?」
「悪いな兄弟。兄弟が気に入りそうな変な魔道具は全部売っ払っててな!がはは!手元には実用性のある魔道具しかねえのよ!」
「ちがっ」
「ちょっと今度全部見せてみろよー」
「嫌だよ。どうせ返せって言うだろ?」
「そりゃそうっしょー?元々ワシら魔族の物なんだしー?」
「聞けって!ダニエル!王国が正規」
「手治った!」
「治ったの!?早くない!?」
「ダニエル様きゅうりです。どうぞ」
「来た来た!あ!ビールもおかわり!」
「っておい!あ!アルフィ!聞け!魔王軍と王国が!」
「肉まんまだー?」
「蒸し直ししてますんでもう少しお待ちを」
「あ、シャルルンが呑んでるのなにー?ワシもそれがいー」
「おい!なんか知らんが敵が攻めて来てるらしいぞ!お前ら!」
「ぷはあっ!やっぱビールにゃきゅうりだ!」
「だーかーらー!魔王軍の軍勢と王国の軍勢が同時にこの国狙ってるって!」
「肉まん出来ました」
「いえええい!」
「辛子はー!?ワシ辛子付ける派なんよー!」
「オカンもやってた!それ!僕も試してみようかな?」
「ビールおかわり!」
「もおお!とりあえず俺も辛子ちょうだい!」
 たまに重要な情報もあったりするが、結局それでも明日には聞いてたか聞いてなかったか微妙になるのが、この時間の恐ろしいところである。
「お前らき」
「バークフォードにかんぱーい!」
「かんぱーい!」
「いえー!」
「聞けええ!あ!肉まんうまああ!」
 こうして予想通り魔王軍と王国両者から挟み撃ちの形で狙われた俺達。王子に送った手紙は届いているのか。魔王軍幹部のひとりとの密約は果たされるのか。その他にも細かい対抗策は山ほど用意したが、それがどう活きるかはやってみないとわからない。だから今俺に出来ることはただひとつ。
「マスター熱燗!甘めのやつで!」
「少々お待ちを」
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