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君臨
少しだけ希望が持てたよ
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魔道具工場にある店長専用工房にやって来た俺は、店長の作った魔道具を見ながらあーだこーだ意見を言う。
「実用性はもちろんなんだけど、デザイン性って大切だよ。やっぱそういう雰囲気の時に使うなら、気持ちが盛り上がるデザインの方が絶対良い」
「んー?ワシはチャラチャラした装飾は嫌いなんだけどなー」
「なにも無駄な宝石やなんかを付けろって言ってるんじゃない。例えば色ひとつ取ってもだな、例えば肌の色にするとか」
「バイブを肌の色でー?ふむふむ。それは臨場感がありそうだねー」
「そうだ、1人用のオナホにストーリーを付けるってのもあったっけ」
「前世の世界は凄い魔道具で溢れてたんだなー。ワシも機会があれば行ってみたーい」
転生物の代名詞である前世の知識を活かせているのが、夜のおもちゃ知識だけとは情けない。
「なあ店長、話は変わるんだけどさ」
「なんだー?」
店長は魔道具を作りながら、俺は棚の魔道具を眺めながら、それぞれ別のことをしながら話をしていたが、次のひと言で向かい合う。
「俺がアルフィに魔王軍抜けろって言ったらどうする?」
一瞬で部屋の温度が下がった気がする。しばらくの沈黙の後に、店長は溜息を吐いて手を止めた。
「今更っしょー?そもそも本気で魔王軍に残るつもりなら、勇者は生捕りじゃなくて殺す方が良いからなー。勇者さえ死ねば復活した魔王様を倒せるやつなんてまず居なくなるんだしー。それを殺さねえってことは、魔王様に対抗する唯一の希望を捨てられないってことじゃねーの?」
まあ魔族達からは何度も勇者を殺せと進言され続けているから、この話は確かに今更ではある。
「勇者を生捕りにするメリット。例えばだ、この街は勇者という武力を有しているとは考えられないか?」
店長が胡乱な目で俺を見る。
「この街はいつでも勇者を解放して魔王を滅ぼせるが、それをしないから見逃してくれって。要は抑止力にならないかな」
「無理だねー。シャルルンが考えてる以上に魔王様ってのは強いよー。大陸全土を凍らせた魔王様や、空から星を落として地形を変えた魔王様なんてのも居たぐらい。そんなのが捕まえられた勇者にビビるとでもー?」
「で、でも勇者はそんな魔王を倒してきたんだろ?」
「魔王様だけじゃない。魔族全員が敵になるんだぞー?それに本来なら勇者が旅してどんどん強くなって、数え切れないほどの魔族を殺してー、ようやく辿り着けるのが魔王討伐ってやつじゃねーの?」
確かに俺に倒された程度の勇者に何の価値も無いか。
「そもそも魔王様が復活する以前にー、魔王軍抜けた瞬間全魔族が勇者殺しにこの街に乗り込んで来るってー。それこそ幹部クラスがこぞって手柄取りに来るよー?」
「それはまた、怖いな」
「な?いい加減腹括って魔王軍として生きようやー。今ならこの街の人間も、魔王軍の一員として考えてくれるかも知れんしー?なんて言ったって勇者を捕らえた人間が居る街だぜー?」
「そこだよ。魔王軍の他の魔族達はこの街の人間のことなんて思ってるんだ?」
「まあどうせ非常食程度にしか考えてないわなー」
「それに復活する魔王によっては、この街の人間すら許されないかも知れない」
「そう言われたら、なー?言い返せねーよ」
2人の会話が途切れる。俺は店長の座る椅子の隣に来客用の軽い椅子を持っていって座る。そして目線が合った俺達は、正面で向き合った。
「アルフィがどんな答えを出すか、それはまだわからない。でもひとつ約束してくれないか?」
出会った頃の店長なら、こんなこと言っても一笑に付して終わっていただろう。だが今なら、今の俺達ならこの先に進めるはずだ。俺はマスターから貰った言葉を胸に店長へ告げる。
「もしアルフィが魔王軍を抜けても、この街に残って一緒に戦ってくれないか?店長と、そして他の魔族もみんな。無理言ってるのはわかってる。お前らは魔族で、魔王の元で戦うのが当然だ。だけどもう仲間だろ?お前達も、もう俺が愛するこの街の一部なんだ。そしてなにより、アルフィを守るのにはお前達魔族の力が必要なんだ」
普段はへらへらしてる店長の表情が固い。まるで本物の石膏像のように動かない。届かないのか、まだ。
「ふっ」
店長は鼻で笑ってまた作業へと戻ってしまう。いや、まだだ。俺はこいつらを諦めないぞ。俺が更なる説得を続けようとしたその時。
「なーにを当たり前のこと言ってんのー?てか勘違いすんなよー?ワシらって魔王様の部下じゃないってのー。元々オカン様の部下で、弟子で、今はアル様の部下で、それにシャルルンのダチだろー?それがなんでこの街から出ていかなきゃなんねーの?」
「店長」
「アル様とシャルルンが魔王様や他の魔族と戦うって言うんなら、ワシも全力で戦うぜー?それは他の魔族も一緒だろー。てか他の魔族はシャルル派ばっかりじゃーん?シャルルンがひと声掛ければ誰でも着いてくるってー」
良かった。俺がこの街に来てから魔族達と過ごした日々は間違ってなかったんだ。
「俺、少しだけ希望が持てたよ」
「んー?なんのー?」
「魔王軍を抜けたら速攻で他の魔族や幹部、それに王国の人間が攻めて来て、すぐにこの街が滅ぼされるんじゃないかって毎日不安で。でも店長達が味方で居てくれたら!きっと勝てるよな!」
「いや無理だろー?現実見ろってー。普通にやったら即全滅っしょー?」
「え?」
「そこをどうにかすんのがシャルルンの仕事じゃねーの?」
「あ、そうなの?」
「元々ワシら弱いからアル様に保護して貰ったんよー?忘れてなーい?他の魔族はガチムチばっかで破茶滅茶に強いってばー。それに王国もそんな簡単に勝てるなら他のもっと強い魔族がとっくに滅ぼしてるよー」
「あは」
「あははー」
なにも解決してなかった。
「実用性はもちろんなんだけど、デザイン性って大切だよ。やっぱそういう雰囲気の時に使うなら、気持ちが盛り上がるデザインの方が絶対良い」
「んー?ワシはチャラチャラした装飾は嫌いなんだけどなー」
「なにも無駄な宝石やなんかを付けろって言ってるんじゃない。例えば色ひとつ取ってもだな、例えば肌の色にするとか」
「バイブを肌の色でー?ふむふむ。それは臨場感がありそうだねー」
「そうだ、1人用のオナホにストーリーを付けるってのもあったっけ」
「前世の世界は凄い魔道具で溢れてたんだなー。ワシも機会があれば行ってみたーい」
転生物の代名詞である前世の知識を活かせているのが、夜のおもちゃ知識だけとは情けない。
「なあ店長、話は変わるんだけどさ」
「なんだー?」
店長は魔道具を作りながら、俺は棚の魔道具を眺めながら、それぞれ別のことをしながら話をしていたが、次のひと言で向かい合う。
「俺がアルフィに魔王軍抜けろって言ったらどうする?」
一瞬で部屋の温度が下がった気がする。しばらくの沈黙の後に、店長は溜息を吐いて手を止めた。
「今更っしょー?そもそも本気で魔王軍に残るつもりなら、勇者は生捕りじゃなくて殺す方が良いからなー。勇者さえ死ねば復活した魔王様を倒せるやつなんてまず居なくなるんだしー。それを殺さねえってことは、魔王様に対抗する唯一の希望を捨てられないってことじゃねーの?」
まあ魔族達からは何度も勇者を殺せと進言され続けているから、この話は確かに今更ではある。
「勇者を生捕りにするメリット。例えばだ、この街は勇者という武力を有しているとは考えられないか?」
店長が胡乱な目で俺を見る。
「この街はいつでも勇者を解放して魔王を滅ぼせるが、それをしないから見逃してくれって。要は抑止力にならないかな」
「無理だねー。シャルルンが考えてる以上に魔王様ってのは強いよー。大陸全土を凍らせた魔王様や、空から星を落として地形を変えた魔王様なんてのも居たぐらい。そんなのが捕まえられた勇者にビビるとでもー?」
「で、でも勇者はそんな魔王を倒してきたんだろ?」
「魔王様だけじゃない。魔族全員が敵になるんだぞー?それに本来なら勇者が旅してどんどん強くなって、数え切れないほどの魔族を殺してー、ようやく辿り着けるのが魔王討伐ってやつじゃねーの?」
確かに俺に倒された程度の勇者に何の価値も無いか。
「そもそも魔王様が復活する以前にー、魔王軍抜けた瞬間全魔族が勇者殺しにこの街に乗り込んで来るってー。それこそ幹部クラスがこぞって手柄取りに来るよー?」
「それはまた、怖いな」
「な?いい加減腹括って魔王軍として生きようやー。今ならこの街の人間も、魔王軍の一員として考えてくれるかも知れんしー?なんて言ったって勇者を捕らえた人間が居る街だぜー?」
「そこだよ。魔王軍の他の魔族達はこの街の人間のことなんて思ってるんだ?」
「まあどうせ非常食程度にしか考えてないわなー」
「それに復活する魔王によっては、この街の人間すら許されないかも知れない」
「そう言われたら、なー?言い返せねーよ」
2人の会話が途切れる。俺は店長の座る椅子の隣に来客用の軽い椅子を持っていって座る。そして目線が合った俺達は、正面で向き合った。
「アルフィがどんな答えを出すか、それはまだわからない。でもひとつ約束してくれないか?」
出会った頃の店長なら、こんなこと言っても一笑に付して終わっていただろう。だが今なら、今の俺達ならこの先に進めるはずだ。俺はマスターから貰った言葉を胸に店長へ告げる。
「もしアルフィが魔王軍を抜けても、この街に残って一緒に戦ってくれないか?店長と、そして他の魔族もみんな。無理言ってるのはわかってる。お前らは魔族で、魔王の元で戦うのが当然だ。だけどもう仲間だろ?お前達も、もう俺が愛するこの街の一部なんだ。そしてなにより、アルフィを守るのにはお前達魔族の力が必要なんだ」
普段はへらへらしてる店長の表情が固い。まるで本物の石膏像のように動かない。届かないのか、まだ。
「ふっ」
店長は鼻で笑ってまた作業へと戻ってしまう。いや、まだだ。俺はこいつらを諦めないぞ。俺が更なる説得を続けようとしたその時。
「なーにを当たり前のこと言ってんのー?てか勘違いすんなよー?ワシらって魔王様の部下じゃないってのー。元々オカン様の部下で、弟子で、今はアル様の部下で、それにシャルルンのダチだろー?それがなんでこの街から出ていかなきゃなんねーの?」
「店長」
「アル様とシャルルンが魔王様や他の魔族と戦うって言うんなら、ワシも全力で戦うぜー?それは他の魔族も一緒だろー。てか他の魔族はシャルル派ばっかりじゃーん?シャルルンがひと声掛ければ誰でも着いてくるってー」
良かった。俺がこの街に来てから魔族達と過ごした日々は間違ってなかったんだ。
「俺、少しだけ希望が持てたよ」
「んー?なんのー?」
「魔王軍を抜けたら速攻で他の魔族や幹部、それに王国の人間が攻めて来て、すぐにこの街が滅ぼされるんじゃないかって毎日不安で。でも店長達が味方で居てくれたら!きっと勝てるよな!」
「いや無理だろー?現実見ろってー。普通にやったら即全滅っしょー?」
「え?」
「そこをどうにかすんのがシャルルンの仕事じゃねーの?」
「あ、そうなの?」
「元々ワシら弱いからアル様に保護して貰ったんよー?忘れてなーい?他の魔族はガチムチばっかで破茶滅茶に強いってばー。それに王国もそんな簡単に勝てるなら他のもっと強い魔族がとっくに滅ぼしてるよー」
「あは」
「あははー」
なにも解決してなかった。
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