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君臨

お前ら空気読めよ!

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 街の復興が続く毎日。遂に勇者の意識が戻った。しかし牢で厳重に拘束された勇者が俺たちになにかを語ることは無かった。全くの無視。取り付く島も無いとはこのことだ。
「まあ暴れないだけマシか」
「なんか静か過ぎて怖いけどね」
 久しぶりにバーでゆっくりタイム。ここのところ忙しかったのでついつい酒が進む。
「封印系の魔道具でガチガチに縛ったからなー。もしかしたら精神に異常が出ちゃったかもー?」
 無責任な言い方で適当に喋る店長。さっきから食いもしないくせにピーナッツの殻を割って遊んでいる。
「それ大丈夫なのか?」
「大丈夫っしょー。勇者がどうなろうと知ったこっちゃねえしー」
「店長それ自分で食べなよ?」
「アル様お納め下さーい」
「もう!こんなに食べないよぉ」
 大量に剥かれたピーナッツが、アルフィを経て俺の元へやって来る。俺が2、3摘んで食べていると、横から違う手が伸びて来る。
「まああいつのこと心配しても仕方ないだろ。それよりこの街の今後について考えないとな」
 当たり前のように仲間面して座っているダニエルがピーナッツを減らすと、何故か対抗したアルフィが横から僕も食べると手を伸ばす。
「この尖った部分の下辺りをですね、親指でこう」
「ほお!」
 どんどん無くなるピーナッツだが、マスターが店長に綺麗な殻の割り方講座を始めたので、恐らくまだまだ量産されるだろう。2人が競うように食べる毎に奥から追加がやって来る。
「今までは勇者を倒すので必死だったけど、実際どうするかね。もし魔王が復活したらアルフィも人間と戦わないといけないのか?」
「うーん。こんなでも魔王軍の幹部だしね。そうなったら困るなぁ」
「なあ店長。やっぱり魔王は人類を滅ぼそうとかするのか?」
 勇者があれだし、逆に魔王が友好的な可能性だってあるはずだ。
「んー?魔王様の復活って言ってもその時々に産まれる個々の魔族だしなー。その方次第じゃねー?」
「え!?復活なのに別人なのか!?」
「魔王っていう座に君臨する魔族が現れることを、復活するーって言ってるんよー。でももし復活したらそれが魔王だってのはどんな魔族でも一発でわかるしー。ワシも昔先代やその前の魔王が産まれた時に感じたからなー」
「王政が復活するって意味だったのか」
「歴代の魔王はどんな感じだったんだ?」
 ダニエルがピーナッツに飽きて、指先に塩を付けて舐めながらビールをがぶ飲みして言った。
「全員人類滅ぼしてー、この世を支配しようとしてー、歴代の勇者に負けて死んだー」
「やっぱそうなのか」
 先の戦いで死闘を繰り広げた店長とダニエルだが、意外と馬が合うようだ。そういう意味ではマスターとの禍根も無い。いやマスターが操ってたって知らないだけか。
「そもそも女神が勇者を見出して、その後に倒すべき魔王が復活するって伝説だから、やっぱ悪いのはあの勇者だね」
 謎理論を提唱したアルフィは、ピーナッツでお腹いっぱいになってしまったらしく、お腹を摩っている。俺も撫でるの手伝おう。
「魔王が復活したら選択を迫られるのは確かか」
「シャルル様もうちょっと上」
「うん」
 ちゃんとアルフィのお腹を撫で撫でしながら、ずっと考えていたことを実行しようと覚悟を決めた。言うなら今しか無いよな。
「みんな、ちょっと聞いて欲しいんだ」
 そして俺は自分が異世界で産まれて一度死に、この世界で転生したことを話した。また前の世界でこの世界のことを物語で読んだということも。アルフィもマスターも店長もダニエルも、黙って最後まで聞いてくれた。
「つまり、この世界は物語の中なのかもって」
 俺が逆の立場で聞いたら少なからずショックを受けるだろう。自分が物語のキャラクターだなんて。俺の言葉を疑わずに真剣に聞いてくれている彼らなら尚更だ。
「ふむ。それはそうとは限らないのでは?」
 マスターが首を傾げる。それを受けてダニエルも。
「兄弟以外にも異世界を移動した奴が居たんじゃないのか?」
「時間軸が違うだろ?これから先の未来を予言してることになる」
「予言の魔法ぐらいあるじゃないか」
「んっ!?あ、あぁ、そうか」
 店長は綺麗に割れた殻を自慢気に見せながら言う。
「時間を逆行する大魔法なんてのもあるよねー伝説でしか聞いたこと無いけどー」
「この世界の未来を知る人間が書いた物語って可能性もあるのか」
「この世界が物語の世界っていう可能性よりも高そうだよね」
 アルフィが笑う。お腹を摩っていた俺の手を握りながら。
「それで僕らが傷付くかもって思って黙ってたの?」
「う、うん」
「未来のシナリオを知ってたのに?」
「あぁ」
「シナリオ通り進めば、自分が勇者に殺されるって知ってたのに、なんでもっとちゃんと止めなかったの?確かに変に嫌がってたり、止めろって言われたけど、シャルル様がちゃんと説明してくれたらちゃんと止めたよ?」
「だってそれは、アルフィが居なくなるってことだろ?そんなことになるぐらいなら死んだ方がマシだ」
 いつの間にかお互いに握り合っていた手を自分の胸に当てる。
「勝ったんだね。その物語のシナリオに」
「ああ」
 俺が死ぬシナリオは勇者を撃退して変わった。初めてシナリオから外れられたのだ。だからこそ俺はみんなにこの話をしようと思えた。ここから先は俺も知らない物語になるから。
 見詰め合う俺たち。熱い夜とは違う穏やかで暖かな感情。そうか、俺これでもうアルフィになんの隠し事も無くなった。俺がアルフィに愛の言葉を囁こうとしたその時。
「なあ兄弟!その物語の中で俺はどんな活躍してたんだ!?」
「その話の中で魔王出てきたんだよねー?どんなだったー?てかここから先もシャルルンと関係無いところは物語通りなんじゃないのー?」
「ダカストロ様、幼少期より変に優秀だったのは2度目の人生だったからなんですね。様々な謎がこれで全て解決した気分です。何故幼児がお漏らしした程度で、ああも絶望を感じていたのか不思議でなりませんでしたよ」
「お前ら空気読めよ!」
 とりあえずなんだかんだといつも通り楽しく呑んで、色々とある問題をなんとなく頭に残しながらアルフィと共に帰路へ着く。俺が転生したなんてとんでもない話を、いくら魔法があるこの世界だからってああも簡単に受け入れてくれる仲間が出来た。そんな何物にも変えられない宝物を手に入れた幸せを、愛しい人と繋ぐ手で感じながら。
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