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暴虐

言わんこっちゃねええええ!

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「懸命に捜索していますが、未だ勇者は見付かりません」
 司令室の所定の位置に座って報告を聞きながらも、必死に欠伸を噛み殺す。隣のアルフィはやや頭がカクカクと動いている。
「ありがとう。引き続きよろしく」
「はっ!」
 魔族が去って行くと、俺はアルフィの頭をちょんちょんと叩く。
「はっ!勇者!?」
「まだ見付かってないってさ。アルフィちょっと寝てくるか?」
「いや、この寝不足感が勝利への道だと信じてるから」
「その変なジンクスいる?」
 2人で楽しそうにやいやい言っているが、今はもう夕方だ。おととい見失ってからもうまる2日経とうとしている。
「なんか嫌な感じだね」
「遊び半分で飛ばした罰か」
「いや、まさか見失うほど遠く飛ぶとは思わなかったし」
「あの床の巨大魔道具発注した魔族たち、変なスイッチ入って頑張り過ぎてたからな」
ーーーバキッ!
「え!?」
「なんだ!?」
 突如モニターが音を立てて壊れる。しかも次々と。
「おい!なんだこれ!?」
 アルフィが急いで応援を呼ぼうとしたが、今度は放送用の魔道具が爆発した。
「はあ!?なんなの!?」
 まるで誰かが暴れているような、そんな。
「アルフィ!戦闘準備!」
 俺がすぐに机の裏にあったスイッチを押すと、天井のスプリンクラーから赤い色の塗料が降ってきた。アルフィと俺が塗料で赤く塗られていく中、何も無かったはずの空間にも赤く塗られた人型が現れてくる。
「対策済みか」
「こっちも使える魔法だからな」
 姿を見せた勇者に対して俺は距離を取りながら応える。まさか透明化して直接司令室に奇襲するとは。性格の悪さは相変わらずのようだ。
「服ごと透明になる魔法だが、ふむ。掛け直しても消えぬか」
「ただのペンキじゃないからな。それ用に作った特別製だ」
 透明化は本当に強力な魔法だ。対策してないと一方的にやられる。こちらも出来るなら敵も出来ると仮定するのは当然だ。防火用のスプリンクラーに繋がる溜め水を、アンチ透明化液に変えておいて良かった。
 しかし咄嗟のことでアルフィにも塗料が掛かってしまった。これ以降勇者だけでなく、アルフィも透明化は使えない。
「勝手に入って来ないでくれる?てかいつのまに透明化なんて」
 そうだ。こんな便利な魔法、使えるなら先の戦いで使っていた筈だ。アルフィと同じ魔法なら、触っていれば仲間諸共姿を消せたはずだ。
「お前たちが見せてくれただろ?あの城の中で」
 あの城?まさかウチの魔族が透明化したのを言ってるのか?
「おい、お前まさか」
「あれ見てもう使えるようになったってわけ?」
「飛ばされてすぐに特訓したからな。1日掛かったよ」
 なんて奴だ、そりゃ見付からないわけだ。むしろ唯一の街への侵入口である壊れたままの外壁部分は、魔族たちがしっかり監視していたから油断してしまったようだ。
「待ってやってるのだが、なかなか来ないな。仲間の魔族が押し寄せて来るんじゃないのか?」
「安心してよ。こんな狭い部屋で大勢では戦えない」
 通信機器だと知ってか知らずか、自分で設備壊しておいて良く言う。誰かがたまたま訪室しない限りは、この部屋で暴れても気付かれないだろう。それほどこの城塞はそれぞれの部屋が強固だ。特にこの部屋は防音性も高くなっている。
「そうか、では存分に仕返しさせて貰うとしよう」
「シャルル様!下がってて!」
「はい!」
 しっかり返事をして部屋の奥で待機する。
「そうか、お前も魔族になったんだってな?」
 アルフィのエロ可愛いインキュバス姿を値踏みする勇者。見た目だけでも充分エロいからあんまり見るな。
「それも魔王軍幹部とは。あそこも大したことはないようだ」
「それはどうかな?」
 アルフィの放ったレーザーのような光が、勇者の手から出た電気でできたバリアのようなもので防がれる。
「なるほど、やはりこの程度」
 相変わらずの人を馬鹿にした物言いだ。今度は勇者が攻撃に出ようとし、腰にある剣に手をやったが、やや低い天井を見て首を振る。ここでは存分に振り回せないからだろう。
「魔族にはお似合いだが、この豚小屋は俺には少々小さ過ぎるな」
 ここはアルフィが常駐する部屋だからな。こういう万が一の時のために、魔法主体で戦うアルフィが戦いやすいように、わざと天井低くしてんだよバーカ!って言ったらこっちに攻撃されそうだから黙っとこう。
 そんな最中もしっかり詠唱していたアルフィが、今度は数え切れないほどのレーザーを放つ。アルフィの身体中から発せられた光の束たちは、それぞれ不規則な動きで曲がりくねって勇者を翻弄しながら進む。
「なに!?くっ!」
 勇者は咄嗟に回避したみたいだが、それでもかなりの数のレーザーを被弾したと思われる。
「ははっ!見た目だけではなく、ちゃんと魔法の腕も上がっているじゃないか」
 しかし直接被弾したのに、勇者の防具に阻まれてあまりダメージは与えられていないようだ。相変わらず金ピカの趣味の悪い防具だが、性能は間違いないらしい。
「そろそろ俺の成長も見てもらおうか」
 そう言って手のひらに溜めた電撃を球体にし、ボールでも投げるようにアルフィへと解き放つ。回避しようとしていたアルフィだが、狭い部屋で至近距離から放たれる勇者の魔法を避け切れず被弾した。
「ぐううっ!」
「アルフィ!?」
「おいおいなんだ?この程度で膝を付くのか?」
「アルフィ大丈夫か!?」
 床に倒れるアルフィを抱えて意識を確認する。
「くっ!う、うぅ」
「どうした!?」
「ね、眠い」
「言わんこっちゃねええええ!」
「どうした?もう立たないなら次はお前が相手になるか?」
「いや、まだだ!シャルル様は下がってて!」
 アルフィが眠い目を擦りながら立ち上がる。そこからは魔法の撃ち合いだった。どちらの攻撃も撃てば決まる。ノーガードでの殺し合い。前衛のいない魔道士どうしだが、かなり短縮された詠唱によってお互い隙は無い。それでも相手が剣だと部が悪かっただろう。徹底的にアルフィを守るような設計にしていて助かった。
「はあはあ!なんなのお前!?本当に鬱陶しいなあ!」
 防いでいるのか、寸前で避けているのか、俺にはわからないのだが、確実にアルフィの攻撃が効かなくなってきている。こいつまさか。
「これだけ撃ち合えば見切れるさ」
 腐っても勇者。その成長スピードは伊達じゃ無い。そしてアルフィの方は勇者の魔法をモロに喰らっていく。
「ううっ!かはあっ!こんのおお!」
 元々戦闘が苦手なアルフィ。魔力が強くなって、精度も上がり色んな魔法を使えるようにはなったが、それが強さの全てではないのだ。
「終わりだ!」
「ああああ!」
 まるで本物の雷が飛んできたような特大の魔法が、狭い屋内で無理矢理に放たれる。避ける場所も無いアルフィは、俺を庇うように仁王立ちしてそれを全て身体で受け止めた。
「呆気ないな」
「アルフィ!アルフィ!?」
「ごめ、シャル、さま」
 床に倒れていくアルフィに縋り付く。意識はあるがとても立ち上がれそうにない。
「さあ、いよいよお前の出番だな?ダカストロ」
「くっ」
 俺はアルフィをそっと寝かせて、ただ前に立つ。せめてこれ以上の攻撃が愛する人へ届かないように。こうして俺はやる気満々で笑う勇者と対峙する。ヤバい、ヤバいぞ。策がない!
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