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支配

あのエロ可愛い小悪魔は俺のだからな

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 王国の中でも王都に次ぐ大都市であるバークフォード。アルフィの一家バークフォード家が持つ領地の中でも最大の街であり、彼の故郷でもある。その大都市に住む人々の多くが、今日この日各々の近隣の広場に集まっていた。
 出店が出ているわけでもなく、ピエロのひとりも見当たらない。しかし皆一様に外へ出て、その空を見上げている。そこには翼を持つ魔族が2人悠々と並んで浮かび、ひとつの大きく透明な板を持ち上げている。今この街のどこの広場でも、同じような光景が広がっているのだ。
 自分達がいつも生活している街の空に厳つい顔をした魔族が飛んでいるのに、何故か民は落ち着いている。混乱が起こらないように、事前に領主が魔族だという噂を流しておいたのは正解だったようだ。みなこんな日が来ることを何処かで予感出来ていた。
「映す前に合図してね?え?だからなんか、どうぞ!的なやつを。なに?映ってる?え?今?え!」
 しばらくして透明な板に映ったのは、愛しのアルフィの横顔だった。焦ったアルフィが後ろへ下がり、コホンと咳払いをして佇まいを直す。
「聞け、バークフォードの民よ。私はアルフォンソ・ディ・バークフォード。この土地を統治する侯爵である」
 ばっと手を広げて肩に掛けたマントがはためく。バーで3時間ぐらい、みんなでああだこうだ言いながら何回も練習した甲斐がある、見事なはためき具合だ。初っ端のミスのせいで無理して格好付けた感満載だが、それが逆にアルフィの良さを引き立てている、はずだ。
「今日はこの街の未来について、私について、大切な話があり、このような時間を設けた」
 店長が持ってきたモニターとカメラは順調に動作しているようだ。彼らが作った魔道具らしいが、あの大きさでこの画質なら、昭和の技術力なんて完全に超えている。コードレスなことを踏まえると、平成も危ういぐらいだ。
「簡潔に言おう。私はもう、人間ではなくなった」
 そう言うとアルフィの身体がピンクのモヤに包まれる。しばらくして現れたのは羽や尻尾、そして角が生えたインキュバスの姿。衣装も同時に黒いレオタードの上から、更に深みのある黒のベストと短パンを身に付けた姿に変わる。早着替えの練習も毎晩2人でイチャイチャしながらやったから完璧だ。ちなみにあれレオタードだけだったら超エロい。今それを思い出して少し興奮し掛けているぐらいには。
「このように私はもう魔族だ。この事実を知れば、王国は私を侯爵とは認めず、私の敵となるだろう。だが、私はこの地から離れる気はない。ここは私の街だ!そして、この街の民も、私の愛する家族であることに違いはない!」
 あぁアルフィ可愛いなぁ。凛々しい顔もまた良い。
「残念ながら他の領地は手放すが、この街は、バークフォードは!これより私、魔王軍幹部であるアルフォンソ・ディ・バークフォードが支配する!」
 おぉ?思ってたよりなんか歓迎ムードだな。民の何人かが口笛吹いたり雄叫び上げたりしてるぞ?おいお前ら、あのエロ可愛い小悪魔は俺のだからな。
「これから先、去る者は追わない。王国から離反することを良しとしない者は即刻立ち去るが良い。しかし聞いて欲しい。私の、この街で生まれ育ったひとりの男の言葉を」
 民の熱気がどんどん上がっていく。期待しているのだ。誰もがこれからアルフィが口にする言葉を、待っている。
「私は、僕は、昔から思ってた!勇者は正義なのか!?あいつのわがままで怪我をした人がいる!あいつの横暴を止めようとして投獄された人がいる!勝手に家に入られて!大切な物を奪われ、壊されて!それでも文句も言えずに!尊厳すら踏み躙られてきた!」
 思っていた以上だ。人々が涙し、震えている。ずっと彼らが言えなかった思いを、アルフィが涙を浮かべながら、拳を震わせて叫ぶ度に、同じように。
「いつか世界の命運を担う者!?だから王国も!侯爵家も!盲目的にあいつを守り!僕達の思いなんて無視してきた!それが本当に正しいのかなんて考えもせずに!苦しんでいる人達の顔なんて見ようともせずに!」
 実際俺も困らされてるわけだが、勇者の嫌われ方が半端じゃない。てかあいつマジでカストでやってたようなこと、自分の街でも平気でやってたのか?
「僕はカストの街で勇者と、そして兄、フィデロに命を狙われた!」
 その言葉で広場が静まり返る。熱した鉄が冷やされて強度を増すように、その思いが更に強く増幅していく。
「理由は僕が気に食わないから!そんな理由で!あいつらは僕を殺そうとしたんだ!そんな僕を助けてくれたのは、魔族の友人と、そして僕の大切な人、シャルル・ダカストロ様だった!」
「ダカストロ様あああ!」
「おおおおお!」
 今までで1番の盛り上がりは嬉しいが、本筋じゃないから黙って聞け。
「残念ながら魔族の友人はその戦いで倒れ、僕はその力を受け継いで魔族になった。そして考えた。これから自分はどうするべきか」
 もうここまで来れば民の思いはひとつだ。アルフィ、みんなが君の言葉を待っている。
「勇者は正義か!?魔族は悪か!?人を襲う魔族は確かにいる!しかし魔道具を作り、人々の生活を豊かにしてくれる魔族もいる!自分達の敵は!自分達の味方は!自分達で決めようよ!僕は自分が信じた人と共に戦いたい!僕にとってそれは、シャルル様とカストのみんなや!僕の部下になってくれた魔族達で!そして、この街で僕と共に暮らした!共に生きた民なんだ!みんな!お願いだ!僕と共に!勇者と戦ってくれ!」
 広場が、この大都市が揺れる。地響きにも似た歓声は空へ、そして想いは繋がった。この演説を以て、大都市バークフォードは魔族の支配下に堕ちたと、正式に王国が通達することとなる。
 なお都市から脱出出来た者はあまりにも少なく、5万近い人口のほぼ全てが、魔族の支配する街に取り残されることになった。この報告を受けて王国の民は深く恐怖することとなる。
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