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支配

根に持ってたんですね?

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「おい、俺の所にピーナッツを入れるな。一緒に食べろ」
「良いじゃん。僕はこれだけ食べたいの」
「いや、俺のだけ割合おかしくなるだろ?おい」
 いつものバーでアルフィと小競り合いをしていると、ガラランと鈴が鳴って客が来た。なにげなくその姿を見た俺は、入ってきた客の特徴的な格好を見て呟いた。
「店長、なのか?」
 何故かバークフォードに流通しているオカン印の魔道具。カストの人間はもちろん、バークフォードの民もこぞって夜のおともに使っている。誰が商品を卸しているのかと疑問だった俺は、マスターがボスを務める裏組織、『ドールズ』に命じて探っていた。そして手に入った情報では、白いローブを目深に被った男を見つけて、合言葉を言うと怪しいアイテムが買えるというのだ。
「歩く石膏」
 俺は試しに合言葉を示す。すると男はカウンターに座る俺の隣に腰掛け、持っていた包みを広げる。
「なにが欲しい?」
「やっぱりお前が犯人か」
「なんだ、客じゃねーの?」
 俺が睨むとローブの中の瞳が赤く光る。なんだ?これ、人間の目じゃ無いぞ!?
 頭に被ったフードを無理矢理捲ると、中からローブと同じ真っ白な肌をした男が現れた。ただ肌が白いってレベルじゃない。それこそ合言葉通り、石膏のような質感。
「アルフィ!離れろ!」
 新たな魔族だ!咄嗟にアルフィを庇って立ち上がるが、なおも赤く光る目は交戦的に俺を狙っていーーー
「店長遅いよぉ」
「ごめんねー、アル様」
「約束忘れちゃったかなって思ってたよ」
「いや!流石のワシでもアル様の命令忘れたりしねーよ!あはは!」
「んー!仲良し!」
 和気藹々と話し出すアルフィと魔族。俺は複雑な顔でアルフィを見る。
「あ、シャルル様紹介するね?彼はガーゴイルの店長です」
「なに?ガーゴイルって店なの?」
「いや、店長って名前らしい」
「正しくはテンチョーね?」
「いや一緒じゃん」
「人間じゃ聞き分けらんねーから店長で良いよー」
 見た感じ美術部が使いそうな石膏像だ。それが普通に動いている。ガーゴイルってのはあれか、うごくせきぞうか?見た目超怖いのにノリが軽いな。
「で?なんでまた魔族がいるんだ?しかも街で魔道具を売り捌いてるし」
「あぁ、それやっぱ店長だったの?」
「まあワシなんか魔道具作り取ったらなんも残んねーし?それだけが生き甲斐だしー」
「そうそう、聞いてよシャルル様。彼はオカンの一番弟子で、魔道具作りも出来る良い魔族なんだ」
「なんだって?魔道具ってオカン以外にも作れるのか?」
「魔王軍幹部だったオカンの部下はほとんどが非戦闘員で、中でも魔道具作りを得意とする魔族が多かったんだって」
「ワシもその1人なんだよねー。オカン様は戦闘力重視の魔王軍の中で、生き辛い思いをしていたワシらをまとめ上げて、魔王軍に無くてはならない部隊なんて言われるぐらいに成長させてくれた恩人なんよー」
「オカンの魔道具って昔はバリバリ戦闘向けだったんだって。オカン自身もそれを使って戦うのが得意で、戦闘用魔道具をフルセットした状態なら、幹部の中でも1番強かったらしいよ」
「まあでもオカン様って、大淫婦とか云われてた魔族だし、元々戦いに興味なんかなかったんよね。昔使ってた伝説の魔道具なんか全部どっかいっちゃったしー。そんで遂には先代魔王から、闘わなくても良いよって言質取って、ワシらと一緒に今主流の夜の魔道具シリーズを作るのに没頭したってわけー」
「なるほど、オカンらしいな」
 結局こいつらを守るために、自分が幹部になったんだろうな。オカンはそういうやつだ。
「でもね、今はオカンが居ないから」
「あぁ」
 アルフィが言ってた守りたい奴らってのはこいつらか。
「本当ならワシら、他の部隊に編成されて、無理矢理戦わされる予定だったのよー。今魔王様は復活してねーけど、勇者がなんか調子乗ってあちこちで騒いでるからなー。それを止めて来いって、バリバリ武闘派の幹部に強制されてた時に、オカン様の魔力を持ったアル様の存在を知ったんだー」
「それで代表して店長が僕に幹部になってくれってお願いに来て」
「まんまと幹部になったってわけか」
「てへ」
「よく簡単に幹部になんかなれたな」
「アル様、反対してたワシらの元上司の武闘派幹部に勝ったんよー。それで満場一致ってわけー」
「なんか嫌な奴だったからぶっ飛ばした」
「良くやった」
 とりあえず撫でておこう。ご利益もあるし。
「で、結局店長達は今アルフィの部下ってわけか」
「そういうこと!でもまあ戦わなくても良いとまでは言われてねえからなー。勇者が来たらぶっ倒せって命令は継続中」
「ただ僕らが狙われてるからね。確実に勇者は来るよ」
「じゃあ一緒じゃん」
 結局彼らは勇者と戦わなくてはならない。
「なんていうの?別にワシらも絶対戦いたくないって訳じゃねーんだわ。戦うなら、信頼する魔族の元で戦いたい。それが、オカン様が認めた男なら文句ねえって話よー」
「なるほどな、そういうことなら歓迎だ」
「戦力にもなるしね」
「それで?どれぐらい居るんだ?部下ってのは」
「今は店長しか街に来てないけど、あと数日で残りが到着する予定。数は、どれぐらいだっけ?」
「1万ちょっとかな?」
「だって」
「1万?1万人?」
「魔族ってなんて数えるの?」
「1万人で良いんじゃね?」
「いや引っ掛かったのそこじゃない」
 1万の魔族が、この街に来る?
「どこに住むの?」
「意外と空き家多いし、外で住む魔族も居るらしいしなんとか出来そうだって。それを調査しに、店長が先に来てたんだ」
「時空の穴の中で暮らしたり、普段は物の中に居たりする奴らもいるしなー。まあどうにかなるなるー」
「隠れたりは?」
「もう良いんじゃないかって話してたんだぁ。面倒でしょ?王国にはいつかバレるし。それが今でも勇者が来てからでも一緒だよ」
「いや!街の人には!?」
「んー?危害は加えないってみんなに説明するから大丈夫でしょ?」
「まあそれもあって魔道具売り歩いてたのもあるしねー。あれよ、顔を売るってやつ?顔見せてねーけど!あはは!」
 大量の魔族がこの街にやって来る?魔王軍幹部であるアルフィの領地に?それはもう、完全な悪の巣窟。いや、それより一般人は大丈夫なのか?俺らはともかく流石に仲良くなんて。
「まあ問題は色々出てくるだろうけど、ここには僕だけじゃなく、超やり手の敏腕伯爵もいるから問題ないよ」
「ん?」
 アルフィを見ると、微妙に冷たい笑いでこっちを見ている。
「そうでしょ?シャルル様は夜はエッチで雑魚なのに、昼間は昔から住んでる領主の僕より、よっぽどみんなに慕われてる人気者だもんね」
「あ、根に持ってたんですね?」
「なんかしんねーけど、よろしくー」
 こうしていつの間にか、1万ちょっとの魔族が仲間になっていた。
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