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破壊
壊れたらまた作る!
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「シャルル様、起きて?今日は大切な日でしょ?」
「いや、大切な日の前日に手加減しなかったやつの台詞か?」
「だって、こんなに気持ち良いことがこの世にあるんだって思いが、シャルル様を強くするから」
「そうだったの!?」
寝起きのベッドでイチャイチャしながら、少ししてようやく立ち上がる。臨時のアジトだが家財道具は揃っていて、簡単な朝ご飯も作れる。目玉焼きを焼きながら、ソースもケチャップもなんなら目玉焼き専用醤油すらあるこの世界に感謝する。
「出来たぞ」
「わーい、いただきまーす」
「そう言えば装備の確認だが」
今回はなにがあるかわからないので、オカン印の魔道具一式をオカンから借りている。ただ中には使われることは何度もあっても、自分で使ったことのない物も多くある。
「これは、俺にはやっぱり無理かな?」
手に取った中毒虫は、アルフィの物のように動きはしない。死んだようにとまっている。
「そうだね。中毒虫は魔力操作が難しいから、魔力を発動するだけなら出来るっていうレベルのシャルル様には難しいかも」
まあ魔力が必要な魔道具を発動出来るだけでも進歩だ。日々練習してたから、バイブを動かす程度のことなら出来る。
「じゃあこれも使えるか?」
「禁止札?」
確かこれを人に貼って、禁止することをイメージしながら魔力を込めると、その人がその事柄を実行出来なくなるという仕組みだったはずだ。
「まあイメージが上手くいくかは微妙だし、戦闘中の相手に貼ってから、もう一度それに触って魔力を込めるってのは実際かなり難易度が高いよ?格下相手でも難しい。それに相手の意思が強かったり、理性がぶっ飛んでたりしたら効果がかなり薄くなるはず」
「敵には使えないか。でも」
俺は禁止札をアルフィの服を捲って、おへその辺りに貼り付けて、魔力を込める。
「なにを禁止したの?」
「アルフィが俺を嫌いになるの禁止」
「もう!可愛いなあ!意味無いじゃん!」
もう一回始まりそうだったのをなんとか堪えて、マスターやオカンとの合流地点へと向かう。さあ、邪魔者はさっさと倒して、今日もイチャコラしますか。
「ところでなんでこれおへそに貼ったの?」
「おへそ見たかったから」
「シャルル様ってビビりのくせに緊張しないよね」
アルフィに褒められた、ふふ。
「逃げずにやってきたね」
街の真ん中に立っているフィデロは、挑戦的に俺達を眺めると、その胸の中からガロアを召喚する。
「カカッ!わざわざ死にに来るとは酔狂な」
アルフィの腹も据わり、俺もマスターと妖精の手でシンクロ中、オカンもやる気充分。俺もいざという時のための道具を揃えてるし。
「勝つぞ」
「もちろん」
「任せて下さい」
「ほな行こかああ!」
オカンが詠唱し大型の魔法をぶっ放す。街中では建物を気遣って戦えないと思われていたが、その辺も俺はもう織り込み済みだ。壊れたらまた作る!建物を倒壊させながら、大きな爆炎がフィデロとガロアを包み込む。俺なら一瞬で消し炭になっているだろうが。
「無駄だ」
やっぱり笑いながら煙から出てきた2人。しかし俺の身体はもう接近していて、ガロアの骸骨の顔に豪華な剣で斬りつける。傷付くイメージすら湧かない魔族の身体が、しかし意外にも溶けるようにその頭蓋を損傷させた。
「ぐうう!?」
「まずいですね。あれは勇者さんの剣じゃないですか」
あいつが置いていったから有効活用してやろうと持ってきたが、意外と効果があったようだ。さすが腐っても勇者。持ってる物だけは一流だったようだ。
怯んだガロアの代わりにまた煙の中へと後退するフィデロだったが、そこに今度はアルフィの特大魔法が落ちて来る。巨大な炎球。建物どころか広場全体を包み込みそうな大きさ。あれでは逃げ場は無い。
「良かった、ちゃんと威力抑えられた」
「あれでえええ!?」
「いや、言ってるでしょ?ミスったら街ごと消えるって」
「マジか」
「だから、落ち着いて撃てた今と違って、乱戦になると僕は大型魔法は撃てないよ」
「了解」
炎球が着地して轟々と燃える街。先手必勝、初めから考えていたコンボが見事決まったが相手は。
「いやあ、相変わらず凄い魔力ですね」
「なっ!?」
「オカン!?」
急に後ろから現れたフィデロが、オカンの肩を掴む。そして、腹から生えているガロアが笑った。
「近いな、幹部とは、こんなにも近いか」
骨格だけの両手が腹から這いずり出て、オカンに至近距離から大量の尖った石を繰り出す。
「ぐっ!?がががっ!かはっ!?」
この前と違って障壁では守り切れていない!?
「おい!オカン!離れろ!」
オカンが転移で消えて、空いたスペースに俺が飛び込んで斬る。俺の剣は警戒してくれているようで、しっかりと下がってくれた。
「なんや、色々小細工多いなぁ。くっ」
血だらけのオカン。不意打ちであれだけの攻撃を受ければ、いくら魔族でもただでは済むまい。
「今の石だけ色が違う」
「他より色が濃いな、たぶん鉱石かなんかか。硬さの調節も出来るってわけか」
「単純に硬さだけじゃ無いんだが、まあ良い」
2人の姿がまた消える。
「おい!下だ!穴が空いてるぞ!」
「潜ったの!?」
「土系の魔法使うとるからな。さっき回り込んだのもそれやろ」
全員で地面を警戒するが、何処から出てくるかなどわかりようもない。
「グハッ!」
「マスター!?」
地面から出てきたフィデロ達がマスターを強襲する。一瞬で致命傷に近い攻撃を受けて倒れるマスター。
「オカン!マスターを場外に出せるか!?」
「任せえ!」
一見戦闘に参加しているように見えないマスターを率先して倒しに来た。俺の動きを止めるために?
「知ってるな」
「うん。なんでか知んないけど、妖精の手のことバレてる」
普通ならマスターが俺を操作してるとは思わないだろう。それを俺が厄介な剣を持っているからといって、真っ先にマスターを狙ったとなると。
「次はどっちが良いですかぁ?」
急にポシェットやカバンに入れた魔道具達が重く感じる。さっきまで自分を優位に立たせてくれる魔法のアイテムだと思っていたが、その秘密が漏れているとなると、効果は半減してしまう。
「やっぱりそっちの勘違い貧乏伯爵ですか?あはは」
オカンはまだ帰って来ない。マスターの応急処置をしてくれているのだろう。ここは俺達2人でどうにかするしかない。
「素敵な街ですね?ここ、カストは」
ニコニコしながら話し始めた。明らかなチャンスなのに、遊んでいる。
「良い土壌とは言えなかったこの土地で、あんな立派な農作物を作り出し、しかもそれを料理に活かして街おこしまでして」
ーーードゴンッ!ガガッ!
遠くに見えていた郊外の畑が、ガロアの魔法によって巨大な岩が大量に降ってきて潰れる。
「画期的なアイデアや前衛的なやり方で街をまとめ上げ、他の貴族達とも友好的に、誠実に対応して一目置かれるようになった」
下から突き上げた大きな石の槍で、ガラガラと崩れていくのは俺がいつも仕事をしている街役場だ。今は亡き両親が建てた実家でもある。
「そのおかげでこの街には、旅行者や冒険者、それに釣られた商人達が次々と足を運び、毎日賑やかにお祭り騒ぎ!」
広場が、街が、倒壊していく。
「調子に乗り過ぎですよ?たかが弱小領地の伯爵風情が」
「このために、ここに呼んだのか?」
「ええ、数日間何処をどう壊せば楽しいか考えながら街を歩いていました。それに、口車に乗って人払いに協力してくれた馬鹿領主のお陰で、穴掘り作業も順調に出来ましたし、魔道具の調査も捗りました」
瞬間移動のように消えるあれは、事前に地下で道を作っていたのか。しかも魔道具の調査まで。無駄にダラダラしているように見せて、今日この日の為にしっかり準備してやがった。
「そうだ、あなたが死んだらこれ全部あなたが召喚した魔族がやったことにしましょう。今までのこの街の発展も、裏で魔族の力を使っていたから出来たんだと、そう報告します。愚かな伯爵は魔族をコントロール出来ずに暴走し、アルフォンソを殺して街を破壊。居合わせた私と勇者さんがなんとか討伐!良いストーリーじゃありません?」
「誰が信じるんだ?その話」
「たまたま街の人間も居ないことですし、死んだ人間は喋れませんしねぇ」
「ほんと性格悪いな」
「そんなこと言われたら傷付いちゃいますね。さあ、そろそろあの魔族を呼ばないと危ないんじゃないですか?次は、どっちかの番ですよ?」
フィデロはそう言いながら、もう出番は無いと言うように、ガロアを腹の中へと戻していく。
「お前はああああ!」
アルフィから膨大な魔力が噴出する。まずい、これは!
「やってみれば良いじゃないですか。そんな不安定な魔力でなにが出来ます?この街に止めでも刺すつもりですか?あはは」
「くっ!」
アルフィの魔力が収まっていく。悔しいがフィデロの言う通りだ。アルフィは無闇に魔法を撃てない。そして俺は、元々まともには戦えない。
「くそっ!」
いつもそうだ、俺は肝心な時に誰も助けられない。あの時も、今も。
「アルフォンソが悪いんですよ?私だけの特権だったのに、自分まで魔族を召喚なんてするから」
「は?」
オカンが帰って来るまで待つつもりか?まだ無駄なお喋りをするフィデロ。俺達にとっては好都合だが、ここまで周到なヤツのことだ、なにか裏がありそうで怖い。
「アルフォンソが魔族を召喚なんてしなければ、私はあなたを生かしていました。だって、あなたがいた方が私は優越感に浸れるんだから」
なにを言っているんだ?こいつ。
「私はガロアのおかげで膨大な魔力を持ちました。数々の魔法を使いこなし、魔法の天才と言われた我が弟など足元にも及ばないほどに、より高位の魔道士になったのです」
いつかアルフィが言っていた。自分より魔法が上手い兄こそが、勇者が本当に旅に誘いたかった人間なんだと。
「勇者さんも思い直したでしょう?お前なんかより、私が良いって!ずっと誰も私なんて見てくれて無かったのに!魔法はアルフォンソ!勉強はミシェル!私は!?ただ、早く産まれたってだけ!」
なにを言っている?こいつ、そんなことのために?
「ミシェルが居なくなって、私が子爵になり、勇者さんの誘いを忙しいからと断った時、胸のつかえがやっと取れたんです。だってそうでしょ?私は羨む側の人間じゃない!」
ただでさえ病弱に見えるフィデロの顔色がどんどん青白くなっていく。身体は震え、目から血の涙を流し。
「あなたは私と比べられるために生きてるんですよ!アルフォンソ!私が!私と比べて!より劣るあなたを見て笑うために!なのに!なんで!?あなたまで真似して魔族を召喚したんですか!?」
アルフィは唖然としてなにも言えない。兄のそんな思いなど、考えたことも無かったのだろう。
「なにを犠牲にしたんですか?あなたごときが。なにも差し出すものなど無いくせに!なにを!?そんな!欠陥付きの身体で!魔力を封じられた身体のくせに!」
「え?ちょ、ちょっと、待って?」
「なんですか?アルフォンソ。聞きたいことでもありますかぁ?ん?」
「魔力を、封じられた?」
魔力が不安定なアルフィ。それは生まれ付きじゃ、なかった?
「お前は強い魔力と精緻なコントロールで、5歳にしてどんな魔法も使いこなす天才だったじゃないですか!兄の自慢の弟ですよ?」
「だ、だって!成長して魔力が増えて!それで不安定になって!」
「魔法が上手くなるおまじない、覚えてますぅ?」
「あ、うそ、だ」
「あの日、ガロアに頼んで、アルフォンソの魔力を掻き乱して貰ったんです。私がやったのはそれだけ。後は真っ直ぐ回っていたコマが、一度バランスを崩せば2度と戻らないように、あなたの魔力も、しっかりと、じっくりと、長い長い時間を掛けて、自分の力で歪んでいったんですよ?」
「なんで、そんな?」
「言ったでしょ?お馬鹿さんなアルフォンソ。あなたはね?私の自尊心を満たす為だけに生きているんですよ」
ドサッと、その場で崩れ落ちるアルフィ。俺はその前に立ち、慣れない構えで剣を握る。
「なかなか来ませんね?あの魔族」
ふらふらしながら笑うフィデロ。なんだ、嫌な予感がする。
「まだ勘違いしてませんか?自分が優秀だって。弱小領地の勘違い貧乏伯爵と、たかだが貴族の三男のくせに分不相応に全てを欲した馬鹿なガキ。あなた達に成せることなどなにもありませんよ?あの魔族が来ればまだ勝機はある?油断している隙にどうにか?だからおふたり共お馬鹿さんなんですよ」
「がはっ!」
空中から時空の穴を通って出てきたオカンが、ドサッと地面に落ちる。血だらけで、自慢のパンチパーマも崩れていた。
「オカン!?」
「追い詰めたが逃げられた。が、やはり此処か」
2度と聴きたくなかった嫌な声が聞こえてくる。
「2対4は狡いじゃないですか。だから助っ人を呼んだんですよ」
「2度目は無いぞ!シャルル・ダカストロおおお!」
完全装備の勇者の怒号が広場に響く。しかもその横には、2本の足で歩く骸骨が居た。
「カッカッカ!誰もあの腹から出れねえなんて言ってないよなぁ?」
何度も無駄に攻撃したのも、街で留まったのも、今無駄に時間を稼いでいたのも、全部作戦。格下の俺達を相手に、一切の油断なく、窮鼠猫を噛むような真似もさせず、最後まで完全に勝利するための布石。
「勇者パーティー全員集合です!うふふ」
アルフィと似た可愛い顔が、酷く、醜く歪んだ笑みを浮かべた。
「いや、大切な日の前日に手加減しなかったやつの台詞か?」
「だって、こんなに気持ち良いことがこの世にあるんだって思いが、シャルル様を強くするから」
「そうだったの!?」
寝起きのベッドでイチャイチャしながら、少ししてようやく立ち上がる。臨時のアジトだが家財道具は揃っていて、簡単な朝ご飯も作れる。目玉焼きを焼きながら、ソースもケチャップもなんなら目玉焼き専用醤油すらあるこの世界に感謝する。
「出来たぞ」
「わーい、いただきまーす」
「そう言えば装備の確認だが」
今回はなにがあるかわからないので、オカン印の魔道具一式をオカンから借りている。ただ中には使われることは何度もあっても、自分で使ったことのない物も多くある。
「これは、俺にはやっぱり無理かな?」
手に取った中毒虫は、アルフィの物のように動きはしない。死んだようにとまっている。
「そうだね。中毒虫は魔力操作が難しいから、魔力を発動するだけなら出来るっていうレベルのシャルル様には難しいかも」
まあ魔力が必要な魔道具を発動出来るだけでも進歩だ。日々練習してたから、バイブを動かす程度のことなら出来る。
「じゃあこれも使えるか?」
「禁止札?」
確かこれを人に貼って、禁止することをイメージしながら魔力を込めると、その人がその事柄を実行出来なくなるという仕組みだったはずだ。
「まあイメージが上手くいくかは微妙だし、戦闘中の相手に貼ってから、もう一度それに触って魔力を込めるってのは実際かなり難易度が高いよ?格下相手でも難しい。それに相手の意思が強かったり、理性がぶっ飛んでたりしたら効果がかなり薄くなるはず」
「敵には使えないか。でも」
俺は禁止札をアルフィの服を捲って、おへその辺りに貼り付けて、魔力を込める。
「なにを禁止したの?」
「アルフィが俺を嫌いになるの禁止」
「もう!可愛いなあ!意味無いじゃん!」
もう一回始まりそうだったのをなんとか堪えて、マスターやオカンとの合流地点へと向かう。さあ、邪魔者はさっさと倒して、今日もイチャコラしますか。
「ところでなんでこれおへそに貼ったの?」
「おへそ見たかったから」
「シャルル様ってビビりのくせに緊張しないよね」
アルフィに褒められた、ふふ。
「逃げずにやってきたね」
街の真ん中に立っているフィデロは、挑戦的に俺達を眺めると、その胸の中からガロアを召喚する。
「カカッ!わざわざ死にに来るとは酔狂な」
アルフィの腹も据わり、俺もマスターと妖精の手でシンクロ中、オカンもやる気充分。俺もいざという時のための道具を揃えてるし。
「勝つぞ」
「もちろん」
「任せて下さい」
「ほな行こかああ!」
オカンが詠唱し大型の魔法をぶっ放す。街中では建物を気遣って戦えないと思われていたが、その辺も俺はもう織り込み済みだ。壊れたらまた作る!建物を倒壊させながら、大きな爆炎がフィデロとガロアを包み込む。俺なら一瞬で消し炭になっているだろうが。
「無駄だ」
やっぱり笑いながら煙から出てきた2人。しかし俺の身体はもう接近していて、ガロアの骸骨の顔に豪華な剣で斬りつける。傷付くイメージすら湧かない魔族の身体が、しかし意外にも溶けるようにその頭蓋を損傷させた。
「ぐうう!?」
「まずいですね。あれは勇者さんの剣じゃないですか」
あいつが置いていったから有効活用してやろうと持ってきたが、意外と効果があったようだ。さすが腐っても勇者。持ってる物だけは一流だったようだ。
怯んだガロアの代わりにまた煙の中へと後退するフィデロだったが、そこに今度はアルフィの特大魔法が落ちて来る。巨大な炎球。建物どころか広場全体を包み込みそうな大きさ。あれでは逃げ場は無い。
「良かった、ちゃんと威力抑えられた」
「あれでえええ!?」
「いや、言ってるでしょ?ミスったら街ごと消えるって」
「マジか」
「だから、落ち着いて撃てた今と違って、乱戦になると僕は大型魔法は撃てないよ」
「了解」
炎球が着地して轟々と燃える街。先手必勝、初めから考えていたコンボが見事決まったが相手は。
「いやあ、相変わらず凄い魔力ですね」
「なっ!?」
「オカン!?」
急に後ろから現れたフィデロが、オカンの肩を掴む。そして、腹から生えているガロアが笑った。
「近いな、幹部とは、こんなにも近いか」
骨格だけの両手が腹から這いずり出て、オカンに至近距離から大量の尖った石を繰り出す。
「ぐっ!?がががっ!かはっ!?」
この前と違って障壁では守り切れていない!?
「おい!オカン!離れろ!」
オカンが転移で消えて、空いたスペースに俺が飛び込んで斬る。俺の剣は警戒してくれているようで、しっかりと下がってくれた。
「なんや、色々小細工多いなぁ。くっ」
血だらけのオカン。不意打ちであれだけの攻撃を受ければ、いくら魔族でもただでは済むまい。
「今の石だけ色が違う」
「他より色が濃いな、たぶん鉱石かなんかか。硬さの調節も出来るってわけか」
「単純に硬さだけじゃ無いんだが、まあ良い」
2人の姿がまた消える。
「おい!下だ!穴が空いてるぞ!」
「潜ったの!?」
「土系の魔法使うとるからな。さっき回り込んだのもそれやろ」
全員で地面を警戒するが、何処から出てくるかなどわかりようもない。
「グハッ!」
「マスター!?」
地面から出てきたフィデロ達がマスターを強襲する。一瞬で致命傷に近い攻撃を受けて倒れるマスター。
「オカン!マスターを場外に出せるか!?」
「任せえ!」
一見戦闘に参加しているように見えないマスターを率先して倒しに来た。俺の動きを止めるために?
「知ってるな」
「うん。なんでか知んないけど、妖精の手のことバレてる」
普通ならマスターが俺を操作してるとは思わないだろう。それを俺が厄介な剣を持っているからといって、真っ先にマスターを狙ったとなると。
「次はどっちが良いですかぁ?」
急にポシェットやカバンに入れた魔道具達が重く感じる。さっきまで自分を優位に立たせてくれる魔法のアイテムだと思っていたが、その秘密が漏れているとなると、効果は半減してしまう。
「やっぱりそっちの勘違い貧乏伯爵ですか?あはは」
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「素敵な街ですね?ここ、カストは」
ニコニコしながら話し始めた。明らかなチャンスなのに、遊んでいる。
「良い土壌とは言えなかったこの土地で、あんな立派な農作物を作り出し、しかもそれを料理に活かして街おこしまでして」
ーーードゴンッ!ガガッ!
遠くに見えていた郊外の畑が、ガロアの魔法によって巨大な岩が大量に降ってきて潰れる。
「画期的なアイデアや前衛的なやり方で街をまとめ上げ、他の貴族達とも友好的に、誠実に対応して一目置かれるようになった」
下から突き上げた大きな石の槍で、ガラガラと崩れていくのは俺がいつも仕事をしている街役場だ。今は亡き両親が建てた実家でもある。
「そのおかげでこの街には、旅行者や冒険者、それに釣られた商人達が次々と足を運び、毎日賑やかにお祭り騒ぎ!」
広場が、街が、倒壊していく。
「調子に乗り過ぎですよ?たかが弱小領地の伯爵風情が」
「このために、ここに呼んだのか?」
「ええ、数日間何処をどう壊せば楽しいか考えながら街を歩いていました。それに、口車に乗って人払いに協力してくれた馬鹿領主のお陰で、穴掘り作業も順調に出来ましたし、魔道具の調査も捗りました」
瞬間移動のように消えるあれは、事前に地下で道を作っていたのか。しかも魔道具の調査まで。無駄にダラダラしているように見せて、今日この日の為にしっかり準備してやがった。
「そうだ、あなたが死んだらこれ全部あなたが召喚した魔族がやったことにしましょう。今までのこの街の発展も、裏で魔族の力を使っていたから出来たんだと、そう報告します。愚かな伯爵は魔族をコントロール出来ずに暴走し、アルフォンソを殺して街を破壊。居合わせた私と勇者さんがなんとか討伐!良いストーリーじゃありません?」
「誰が信じるんだ?その話」
「たまたま街の人間も居ないことですし、死んだ人間は喋れませんしねぇ」
「ほんと性格悪いな」
「そんなこと言われたら傷付いちゃいますね。さあ、そろそろあの魔族を呼ばないと危ないんじゃないですか?次は、どっちかの番ですよ?」
フィデロはそう言いながら、もう出番は無いと言うように、ガロアを腹の中へと戻していく。
「お前はああああ!」
アルフィから膨大な魔力が噴出する。まずい、これは!
「やってみれば良いじゃないですか。そんな不安定な魔力でなにが出来ます?この街に止めでも刺すつもりですか?あはは」
「くっ!」
アルフィの魔力が収まっていく。悔しいがフィデロの言う通りだ。アルフィは無闇に魔法を撃てない。そして俺は、元々まともには戦えない。
「くそっ!」
いつもそうだ、俺は肝心な時に誰も助けられない。あの時も、今も。
「アルフォンソが悪いんですよ?私だけの特権だったのに、自分まで魔族を召喚なんてするから」
「は?」
オカンが帰って来るまで待つつもりか?まだ無駄なお喋りをするフィデロ。俺達にとっては好都合だが、ここまで周到なヤツのことだ、なにか裏がありそうで怖い。
「アルフォンソが魔族を召喚なんてしなければ、私はあなたを生かしていました。だって、あなたがいた方が私は優越感に浸れるんだから」
なにを言っているんだ?こいつ。
「私はガロアのおかげで膨大な魔力を持ちました。数々の魔法を使いこなし、魔法の天才と言われた我が弟など足元にも及ばないほどに、より高位の魔道士になったのです」
いつかアルフィが言っていた。自分より魔法が上手い兄こそが、勇者が本当に旅に誘いたかった人間なんだと。
「勇者さんも思い直したでしょう?お前なんかより、私が良いって!ずっと誰も私なんて見てくれて無かったのに!魔法はアルフォンソ!勉強はミシェル!私は!?ただ、早く産まれたってだけ!」
なにを言っている?こいつ、そんなことのために?
「ミシェルが居なくなって、私が子爵になり、勇者さんの誘いを忙しいからと断った時、胸のつかえがやっと取れたんです。だってそうでしょ?私は羨む側の人間じゃない!」
ただでさえ病弱に見えるフィデロの顔色がどんどん青白くなっていく。身体は震え、目から血の涙を流し。
「あなたは私と比べられるために生きてるんですよ!アルフォンソ!私が!私と比べて!より劣るあなたを見て笑うために!なのに!なんで!?あなたまで真似して魔族を召喚したんですか!?」
アルフィは唖然としてなにも言えない。兄のそんな思いなど、考えたことも無かったのだろう。
「なにを犠牲にしたんですか?あなたごときが。なにも差し出すものなど無いくせに!なにを!?そんな!欠陥付きの身体で!魔力を封じられた身体のくせに!」
「え?ちょ、ちょっと、待って?」
「なんですか?アルフォンソ。聞きたいことでもありますかぁ?ん?」
「魔力を、封じられた?」
魔力が不安定なアルフィ。それは生まれ付きじゃ、なかった?
「お前は強い魔力と精緻なコントロールで、5歳にしてどんな魔法も使いこなす天才だったじゃないですか!兄の自慢の弟ですよ?」
「だ、だって!成長して魔力が増えて!それで不安定になって!」
「魔法が上手くなるおまじない、覚えてますぅ?」
「あ、うそ、だ」
「あの日、ガロアに頼んで、アルフォンソの魔力を掻き乱して貰ったんです。私がやったのはそれだけ。後は真っ直ぐ回っていたコマが、一度バランスを崩せば2度と戻らないように、あなたの魔力も、しっかりと、じっくりと、長い長い時間を掛けて、自分の力で歪んでいったんですよ?」
「なんで、そんな?」
「言ったでしょ?お馬鹿さんなアルフォンソ。あなたはね?私の自尊心を満たす為だけに生きているんですよ」
ドサッと、その場で崩れ落ちるアルフィ。俺はその前に立ち、慣れない構えで剣を握る。
「なかなか来ませんね?あの魔族」
ふらふらしながら笑うフィデロ。なんだ、嫌な予感がする。
「まだ勘違いしてませんか?自分が優秀だって。弱小領地の勘違い貧乏伯爵と、たかだが貴族の三男のくせに分不相応に全てを欲した馬鹿なガキ。あなた達に成せることなどなにもありませんよ?あの魔族が来ればまだ勝機はある?油断している隙にどうにか?だからおふたり共お馬鹿さんなんですよ」
「がはっ!」
空中から時空の穴を通って出てきたオカンが、ドサッと地面に落ちる。血だらけで、自慢のパンチパーマも崩れていた。
「オカン!?」
「追い詰めたが逃げられた。が、やはり此処か」
2度と聴きたくなかった嫌な声が聞こえてくる。
「2対4は狡いじゃないですか。だから助っ人を呼んだんですよ」
「2度目は無いぞ!シャルル・ダカストロおおお!」
完全装備の勇者の怒号が広場に響く。しかもその横には、2本の足で歩く骸骨が居た。
「カッカッカ!誰もあの腹から出れねえなんて言ってないよなぁ?」
何度も無駄に攻撃したのも、街で留まったのも、今無駄に時間を稼いでいたのも、全部作戦。格下の俺達を相手に、一切の油断なく、窮鼠猫を噛むような真似もさせず、最後まで完全に勝利するための布石。
「勇者パーティー全員集合です!うふふ」
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