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監禁

もういいや、負けにいこう

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「うん、良いね。凄く美味しい」
「ノンアルコールですが」
「そっちはお酒?」
「あぁ、一口呑むか?」
「僕お酒は苦手なんだよね」
 勝負も3日目。最終日だが、今日は夕食後にバーに来ている。元執事の爺が新しく出した店が今日オープンだったのだ。贔屓にすると約束していたからにはと、初日から花を持って来店した。
「雰囲気も良いし気に入っちゃった!」
「俺もだよ。爺、いやマスターにこんな才能まであったとはな」
 黙って会釈するマスター。これは仕事にも使えそうだ。
 この世界では成人とされているアルフィはもう酒を呑んでも問題ないが、あまり好きではないらしい。そんなアルフィのためにマスターがノンアルコールでカクテルを作ってくれている。
「落ち着いててお洒落な内装だな。マスターが発注したのか?」
「いえいえ、知り合いのデザイナーに頼みまして」
 明るくなり過ぎない数の吊りランプが天井から伸びていて、濃い木の色を残した壁や机が照らされている。マスターの後ろにある大きな棚には、色んな種類の酒の瓶が間接照明で映し出され、色とりどりなそれらもインテリアとして作用していた。
「メニューは無いの?」
「ええ。なんでも言ってくれれば作りますよ」
 マスターがシェイカーを振る心地良い音と共に聞こえる音楽は魔道具の音楽プレイヤーか。魔道具とは物好きな魔族が作った魔力で動く道具のことで、市場に出る数はかなり少なく高価ではあるが、中には前世の世界の技術を超えるような道具も存在する。聞いたことあるだけであんまり見たことないけど。
「じゃあチェバプチチある?」
「なんだその料理は」
「ちょうど良い羊肉が手に入ってまして」
「あるの!?」
「やった!」
 この世界に転生した当初は、定番である前世の料理知識を活かして一発当てる流れを考えたが、知れば知るほどに前世にある料理はこっちにもあるという現象を知りすぐに諦めた。
「マスター俺は軽いおつまみを」
「それではこれを」
 そう言って出てきたのはやめられない止まらないやつだ。形も味も完全にあれである。このように前世というか日本で食べられるものはなんでもある。むしろ日本で食べられないものは珍しいのだが。
「しっかり濃い味!食べてる!って感じがするね!」
 さっき晩飯食べたのに、またむしゃむしゃと羊肉らしいなにかを食べるアルフィ。なんでそんな聞いたこともない料理がすぐに出来るんだ。
「ダカストロ様も食べますか?」
「流石に30過ぎてその食欲は無い」
「まだ食べ盛りでしょうに」
 アルフィが食べられると思ってこちらをチラ見してから急いで口に入れる。取らないから安心して食え。
「本当になんでもあるのか?」
「いえいえ、なんでもとはとてもとても。冗談ですよ。あるものしかありません」
「食べるラー油」
「常備しております」
「このわた」
「常備しております」
「八つ橋」
「は、先日友人に頂いた物で良ければこちらに」
「じゃあもう毎日来るよ」
 なんでも出てきた。これなにも考えずに呑み食いしてたら凄い金額になりそうで怖いな。
「それより今日お酒呑んで大丈夫なの?」
「うっ!いや、まあ」
「もしかしてもう諦めてる?」
「いや、あの、今日はめでたい日だからな」
「ふふ、僕はどっちでも良いんだけどねぇ?」
 そう言ってニヤニヤ笑うアルフィ。この顔は悪いことを考えている顔だ。
「じゃあ帰ったら、今日は手足拘束して、動けなくして、無理矢理全部搾り取ってあげる、ね?」
 俺の手をギュッと握り、可愛い声でそう言ってくる。急いでマスターを見るが、しっかり聞いてません顔を決めている。あぁ、なんて出来た店なんだ。
「泣いても叫んでも止めてあげないよ?何回も出して何回も負けちゃうの。負けるの気持ち良いって、駄目な癖が染み付いちゃうぐらい、何回も、何回も」
 さっきまで俺の手を握っていた手は、今度は俺のモノを優しく撫でている。
「もっと負けさせて下さいって泣いてお願いしてね?そしたら、もっと虐めてあげるから」
 俺はカクテルをグッと飲み干して爽やかに言った。
「マスター、お会計だ」
 よし、もういいや、負けにいこう。
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