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失踪7〜8日目 夜間
27話
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「ああもう!最悪!なんなのよ!」
「つべこべ言わず進め!捕まるぞ!」
足を負傷した滝田を肩で支えて進む加藤。どれだけ急いでも速度は普通に歩くよりは早い程度。
周囲には半透明の人間達。池が揺れ始めた瞬間に動き出したが、気付けば園内はこの半透明の人間で溢れていた。それと同時に館内放送で剣闘士の入場がエンドレスで流れ始めた。
「でもみんなこっちなんか見てないわよ!?」
「いつ豹変するかわからんだろ?」
「そうだけど、じゃあどこ行けば良いのよ」
加藤の言う通り、半透明な人間が2人に興味を示すことはない。顔が暗くなっていて見えないし、声も聞こえないが、思い思いに遊園地を楽しんでいるだけに見える。
「幽霊っていうよりは、この遊園地の記憶ってところか?」
「どういう意味?」
「わからんけど、まだこの遊園地が営業していた頃の映像みたいなもんじゃないか?」
「じゃあ気にせずその辺で休む?」
「いやいや、考えてみろよ──」
滝田が加藤を説得しようとしたその時、館内放送で流れていた曲がパタっと途切れた。
「え?」
その瞬間、周囲に居た半透明の人間達が一斉に2人に注目する。
「な?こうなると怖いだろ?」
「良いからこっち!」
近くにあったアトラクションに逃げ込む2人。中に入るのと同時に閉めた扉に、外からドンドンとなにかがぶつかっている。
「開けられる!?」
「いや、知能は低いみたいだな」
ただぶつかるだけで、取手を引いて扉を開く考えはないようだ。外開きなので、このままなら簡単には開けられそうにない。
「念の為にこの辺の物でバリケード作る。あんたは奥で休んで」
「すまねえ、わりと限界だ」
滝田は壁に背を付けて倒れるように座り込む。止血してはいるが、血が流れ過ぎたようで、顔を青くしながら呼吸を荒くしている。
「音も止んだし、もう入って来ないみたい」
「建物の中も安心は出来ねえけどな」
「まあね」
加藤は滝田から少し離れた所に腰を掛ける。窓がなく中は真っ暗なので、お互いのライトだけが頼りだ。加藤は滝田の身体をライトで照らし、痛々しい姿を見る。
「大丈夫なの?」
「正直立って歩くのはもう勘弁して欲しいが、そうも言ってらんねえからな」
「そう……」
「別にお前のせいじゃないからな」
「なにが?」
「この怪我」
「当たり前でしょ」
「あ、そうですか」
気にしていたくせにと、滝田は思いながらも口にはしない。その代わりに話を変えた。
「ここってどこだ?急いでたしなにも見てなかった」
「北極世界」
「あれか、-30℃の世界とかいう。3番目の写真の場所だな」
「そうね」
「ってことは、ここで別れたのか?奈々恵ちゃんとは」
「──違う」
「そうか」
ここまで来ても、最後に別れた場所すら言おうとしない加藤。だが滝田はもう、正直そんなことはどうでも良かった。
「さっき、池の前で言い掛けたこと」
「ああ」
「私にも罪があるのかって話」
滝田はここでそれを言うべきか考えて、しかしそれでも話し始める。罪を探せと言われているのだ、黙っているのが正解かわからない。
「殺人ピエロって呼ばれてる男には、恋人が居てな。実は事件の少し前に事故で死んでるんだ」
「事故」
「彼女の死が殺人ピエロを作ったのは確かだが、その女性の死に関わった人間ってのが、居るんだ」
「それって?」
「あの公園」
この2人の会話で『あの公園』といえば、1枚目の写真の公園しかない。加藤はなにか嫌な予感がして暗闇の中の滝田を見る。
「ゆずちゃんはあの公園、昔行ったことあるか?」
「私は……」
なにかの記憶を呼び覚まされたのか、加藤の様子がややおかしい。
「あそこが心霊スポットってわかってて行ったんだろ?奈々恵ちゃん達と。じゃあなにがあった場所かは知ってるな?」
「交通事故で人が死んだって」
「それが殺人ピエロの彼女だ」
「それで?」
「死んだ原因は──」
「ボール?」
加藤は滝田より先にそのキーワードを出した。滝田は調査して知っていたが、あえてネットには書かなかった情報だ。
「なんか、思い出したか?」
「私、家があの近所で、昔よくあの公園でひとりで遊んでママを待ってた。買い物に行ってる間とか、短い時間だったけど、ひとりだから暇で」
遊具も少なく、今程ではないが昔もあまり人気がなかった公園。まだ幼い少女がひとりで遊ぶには物足りないのも無理はない。
「でも、ある日パパに凄い怒られたことがあって、ママも泣いてて、次の日から行っちゃ駄目って言われて」
加藤の中で曖昧だった記憶のピースが嵌っていく。そして急に寒気で震え出したように、ガタガタと身体を震わせながら、口に手を当てて嗚咽を漏らしだした。
「っ!うっ!ひぐっ!わ、私なの?私が?」
ボロボロと涙を流しながら、加藤は滝田に問う。しかし滝田はなにも答えない。
「道路にボールを投げちゃ駄目って、凄く怒られた。それしか覚えてなかったけど、あれが?私が、ボールを投げたから?人が死んだの?」
こうなるんじゃないかと思っていたから、滝田はこの話を語るのを躊躇っていた。本当にここに居る人間になんらかの罪があるのなら、ボールを投げた人間が居てもおかしくない。年齢だけで言うなら先に死んだ3人組の誰かかも知れないが、もし坂上か加藤のどちらかであるなら、加藤なのだろうと滝田は確信していた。
なぜなら滝田は2人の家を知っていたのだ。坂上は公園の帰りに、加藤は廃墟の帰りに家まで尾行していたからだ。もちろん足立を探す材料のひとつとして知っておきたかっただけだが、こんな形で役に立つとは滝田も思って見みなかった。
ともかく2人が引越したわけでもないのなら、家があの公園の近くにある加藤が怪しいのは自明だ。
「だとしても事故だ。罪とは言ったが、俺はあれが誰かのせいだなんて思わない」
「でも!私のせいで人が死んだんでしょ!?」
「ただの自動車事故だ。どの資料にもそう載ってる」
「でも実際に殺人ピエロは私を恨んでる!きっと死んだその人も!その人の家族も!」
「あのなあ──」
滝田がなにか言い掛けた時、ふと違和感に気付いた。
「つべこべ言わず進め!捕まるぞ!」
足を負傷した滝田を肩で支えて進む加藤。どれだけ急いでも速度は普通に歩くよりは早い程度。
周囲には半透明の人間達。池が揺れ始めた瞬間に動き出したが、気付けば園内はこの半透明の人間で溢れていた。それと同時に館内放送で剣闘士の入場がエンドレスで流れ始めた。
「でもみんなこっちなんか見てないわよ!?」
「いつ豹変するかわからんだろ?」
「そうだけど、じゃあどこ行けば良いのよ」
加藤の言う通り、半透明な人間が2人に興味を示すことはない。顔が暗くなっていて見えないし、声も聞こえないが、思い思いに遊園地を楽しんでいるだけに見える。
「幽霊っていうよりは、この遊園地の記憶ってところか?」
「どういう意味?」
「わからんけど、まだこの遊園地が営業していた頃の映像みたいなもんじゃないか?」
「じゃあ気にせずその辺で休む?」
「いやいや、考えてみろよ──」
滝田が加藤を説得しようとしたその時、館内放送で流れていた曲がパタっと途切れた。
「え?」
その瞬間、周囲に居た半透明の人間達が一斉に2人に注目する。
「な?こうなると怖いだろ?」
「良いからこっち!」
近くにあったアトラクションに逃げ込む2人。中に入るのと同時に閉めた扉に、外からドンドンとなにかがぶつかっている。
「開けられる!?」
「いや、知能は低いみたいだな」
ただぶつかるだけで、取手を引いて扉を開く考えはないようだ。外開きなので、このままなら簡単には開けられそうにない。
「念の為にこの辺の物でバリケード作る。あんたは奥で休んで」
「すまねえ、わりと限界だ」
滝田は壁に背を付けて倒れるように座り込む。止血してはいるが、血が流れ過ぎたようで、顔を青くしながら呼吸を荒くしている。
「音も止んだし、もう入って来ないみたい」
「建物の中も安心は出来ねえけどな」
「まあね」
加藤は滝田から少し離れた所に腰を掛ける。窓がなく中は真っ暗なので、お互いのライトだけが頼りだ。加藤は滝田の身体をライトで照らし、痛々しい姿を見る。
「大丈夫なの?」
「正直立って歩くのはもう勘弁して欲しいが、そうも言ってらんねえからな」
「そう……」
「別にお前のせいじゃないからな」
「なにが?」
「この怪我」
「当たり前でしょ」
「あ、そうですか」
気にしていたくせにと、滝田は思いながらも口にはしない。その代わりに話を変えた。
「ここってどこだ?急いでたしなにも見てなかった」
「北極世界」
「あれか、-30℃の世界とかいう。3番目の写真の場所だな」
「そうね」
「ってことは、ここで別れたのか?奈々恵ちゃんとは」
「──違う」
「そうか」
ここまで来ても、最後に別れた場所すら言おうとしない加藤。だが滝田はもう、正直そんなことはどうでも良かった。
「さっき、池の前で言い掛けたこと」
「ああ」
「私にも罪があるのかって話」
滝田はここでそれを言うべきか考えて、しかしそれでも話し始める。罪を探せと言われているのだ、黙っているのが正解かわからない。
「殺人ピエロって呼ばれてる男には、恋人が居てな。実は事件の少し前に事故で死んでるんだ」
「事故」
「彼女の死が殺人ピエロを作ったのは確かだが、その女性の死に関わった人間ってのが、居るんだ」
「それって?」
「あの公園」
この2人の会話で『あの公園』といえば、1枚目の写真の公園しかない。加藤はなにか嫌な予感がして暗闇の中の滝田を見る。
「ゆずちゃんはあの公園、昔行ったことあるか?」
「私は……」
なにかの記憶を呼び覚まされたのか、加藤の様子がややおかしい。
「あそこが心霊スポットってわかってて行ったんだろ?奈々恵ちゃん達と。じゃあなにがあった場所かは知ってるな?」
「交通事故で人が死んだって」
「それが殺人ピエロの彼女だ」
「それで?」
「死んだ原因は──」
「ボール?」
加藤は滝田より先にそのキーワードを出した。滝田は調査して知っていたが、あえてネットには書かなかった情報だ。
「なんか、思い出したか?」
「私、家があの近所で、昔よくあの公園でひとりで遊んでママを待ってた。買い物に行ってる間とか、短い時間だったけど、ひとりだから暇で」
遊具も少なく、今程ではないが昔もあまり人気がなかった公園。まだ幼い少女がひとりで遊ぶには物足りないのも無理はない。
「でも、ある日パパに凄い怒られたことがあって、ママも泣いてて、次の日から行っちゃ駄目って言われて」
加藤の中で曖昧だった記憶のピースが嵌っていく。そして急に寒気で震え出したように、ガタガタと身体を震わせながら、口に手を当てて嗚咽を漏らしだした。
「っ!うっ!ひぐっ!わ、私なの?私が?」
ボロボロと涙を流しながら、加藤は滝田に問う。しかし滝田はなにも答えない。
「道路にボールを投げちゃ駄目って、凄く怒られた。それしか覚えてなかったけど、あれが?私が、ボールを投げたから?人が死んだの?」
こうなるんじゃないかと思っていたから、滝田はこの話を語るのを躊躇っていた。本当にここに居る人間になんらかの罪があるのなら、ボールを投げた人間が居てもおかしくない。年齢だけで言うなら先に死んだ3人組の誰かかも知れないが、もし坂上か加藤のどちらかであるなら、加藤なのだろうと滝田は確信していた。
なぜなら滝田は2人の家を知っていたのだ。坂上は公園の帰りに、加藤は廃墟の帰りに家まで尾行していたからだ。もちろん足立を探す材料のひとつとして知っておきたかっただけだが、こんな形で役に立つとは滝田も思って見みなかった。
ともかく2人が引越したわけでもないのなら、家があの公園の近くにある加藤が怪しいのは自明だ。
「だとしても事故だ。罪とは言ったが、俺はあれが誰かのせいだなんて思わない」
「でも!私のせいで人が死んだんでしょ!?」
「ただの自動車事故だ。どの資料にもそう載ってる」
「でも実際に殺人ピエロは私を恨んでる!きっと死んだその人も!その人の家族も!」
「あのなあ──」
滝田がなにか言い掛けた時、ふと違和感に気付いた。
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