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失踪7〜8日目 夜間
24話
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「ここね」
立体迷路の休憩室を出て、入口へと向かった坂上と成田。ピエロ顔のトカゲ達は、なぜか全て滝田達の方へと向かったらしく、2人は警戒しながらも真っ直ぐと目的地である救護室へと辿り着いた。
建物の扉に鍵は掛かっておらず、中に入ると学校の保健室のような作りの部屋が見える。こちらの扉も開け放たれている。
成田は中にあった埃だらけのベッドマットの上に、その部屋のカーテンを引き千切って敷き、休める場所を確保した。
「綺麗とは言えないけど、地面よりマシでしょ?」
「充分ですよ、ありがとうございます」
2人はベッドに腰掛けて身体を伸ばす。さっきから緊張したり走ったりと、神経だけじゃなく身体も悲鳴を上げていた。
「奈々恵、どこに居るんだろう」
下を向いて泣きそうになる坂上。目撃情報が嘘であったと知ってから、嫌な考えがずっと頭から離れない。大切な友人の安否が不明である上に、苦手なピエロに追い回されているのだ、心労により疲れ果てても仕方はない。
「真由美ちゃんは、奈々恵ちゃんのこと大好きなのね」
成田が優しい声で言うと、坂上は首を横に振った。
「私、奈々恵に酷いこと言ったんです。あんなに、あんなに大好きだったのに」
遂に感情が溢れ出し、坂上の目から涙が溢れ出す。成田は坂上が泣き止むまでずっと、黙って隣で頭を撫で続けた。
だからだろう。坂上はすぐに落ち着いて、ポツポツとなにかを吐き出すように、話し出すことが出来た。
「高校生になるまで、友達らしい友達って居なかったんです。中学では色々あったから」
高校生になって、足立と知り合って、2人で遊ぶようになり、どんどん掛け替えのない存在になっていった。それはどこにでもある話だが、2人だけの大切な思い出だった。
「でも冬休みになって、奈々恵から言われたんです。最近お金遣いが荒く無いかって」
普段は気を遣って、自分の意見を言えない性格の足立にとって、その言葉を言うのにどれだけ勇気が必要だったか。冷静になればそれが痛い程にわかってしまうから、坂上は余計に自分を許せない。
「それでも私はそんなことないって、気にしないでって笑って。奢ってあげるんだから良いじゃんとか、格好付けて。なにも、奈々恵の気持ちなんてなにも考えないで」
坂上の目にもう涙はない。泣いて済む問題ではないし、これは坂上が受け入れないといけない罪だ。
「私、ずっとパパ活してたんです。奈々恵にも黙って。たまにですけど、結構なお金貰っちゃって。一回やったら、こんなもんかって。欲しい物買って、お金が無くなったらまた、誘って」
成田はなにも言わない。ただ黙って坂上の話を聞いている。
「馬鹿なんですよ、私。求められてるって勘違いして。自分が自分で良いんだって、認められたみたいで。でもそれは、本当はずっと、奈々恵が、あの子が側に居てくれて、それだけで、それが全部だったのに」
止まった筈の涙がまた、一粒だけ落ちた。
それは去年の冬。2人の関係が終わった日のこと。
「お願いします!もう真由美と会うの止めてください!」
駅前から少し離れた川沿いにあるホテル街。制服のままの格好で目立つ足立が、坂上と共に歩いていたサラリーマン風の男に嘆願した。
「ちょっと奈々恵、なに言ってるの?」
突然現れた足立に苛立ちを隠せない坂上。この時の坂上はどこかで、大人に求められる自分を、足立より上の存在だと感じていた。だから簡単に、本当に簡単に、彼女を傷付けた。
「私が私の為にやってんだから良いじゃん。自分が出来ないからって邪魔しないでよ」
「私は!ただ真由美にこれ以上傷付いて欲しくなくて!」
「そういうのウザい、離して」
彼女がどんな思いで、どんな覚悟で、この場に立っていたのかも考えずに。
「その時、警察に話し掛けられて、SNSのやり取りとか見られてパパ活がバレちゃって。一緒に居ただけの奈々恵まで疑われて」
次の日、学校ではすでに噂が回っていた。そのやり取りを見ていた人間が居たのだろう。彼らはなにも知らないのに、面白がって噂する。坂上と足立がパパ活をしていたらしい、と。
「それから1年が終わるまで、私はずっと保健室登校して。2年になってやっと教室に行けたけど、奈々恵とは顔合わせないようにしてたんです」
「それは、しんどいね」
口だけの笑顔を浮かべてゆっくりと首を横に振る坂上。
「本当に辛かったのは、ずっと逃げなかった奈々恵の方です。私はずっと、自分と居たから奈々恵まで変な噂されたんだって、だからもう近付いちゃ駄目だって、そうやって言い訳ばっかして、奈々恵から逃げて。謝ることなんて考えもせずに、ずっと逃げてばっかで。それなのに奈々恵は毎日教室に行って、2年になってからもゆずさん達と仲良くなって」
前に進み続けていた友人と、ずっと逃げていただけの自分を比べ、とことんまで情けなくなった。
「真由美ちゃんは、本当に良い子ね」
「志穂さん、話聞いてました?」
少し冗談っぽく言った坂上が鼻を啜る。成田は軽く頭を撫でてから、坂上の頬に手を当てて、自分の方を向かせる。
「私ね、自分の失敗をちゃんと反省出来る人って好きよ」
見つめられながらそう言われた坂上は、熱くなった頬が気付かれないかと、ドキドキしながら目を逸らす。
「さ、少し休みましょ?交代で寝れば体力も回復出来るし」
「じゃ、じゃあ先に──」
「ふふ、んなわけないでしょ?」
坂上が言おうとした言葉を、鼻に指をちょんと置いただけで封じる成田。観念した坂上はベッドで横になる。
「ちゃんと起こして下さいね?」
「もちろん!私が頑張り過ぎて寝落ちしたら洒落になんないでしょ?」
クスクスと笑い合い、坂上はそのまま目を閉じた。こんな状況で、こんなに気持ちが昂っている中、本当に眠れるのだろうか。坂上はそんなことを考えながら、次の瞬間にはすぐに眠りに付いていた。
立体迷路の休憩室を出て、入口へと向かった坂上と成田。ピエロ顔のトカゲ達は、なぜか全て滝田達の方へと向かったらしく、2人は警戒しながらも真っ直ぐと目的地である救護室へと辿り着いた。
建物の扉に鍵は掛かっておらず、中に入ると学校の保健室のような作りの部屋が見える。こちらの扉も開け放たれている。
成田は中にあった埃だらけのベッドマットの上に、その部屋のカーテンを引き千切って敷き、休める場所を確保した。
「綺麗とは言えないけど、地面よりマシでしょ?」
「充分ですよ、ありがとうございます」
2人はベッドに腰掛けて身体を伸ばす。さっきから緊張したり走ったりと、神経だけじゃなく身体も悲鳴を上げていた。
「奈々恵、どこに居るんだろう」
下を向いて泣きそうになる坂上。目撃情報が嘘であったと知ってから、嫌な考えがずっと頭から離れない。大切な友人の安否が不明である上に、苦手なピエロに追い回されているのだ、心労により疲れ果てても仕方はない。
「真由美ちゃんは、奈々恵ちゃんのこと大好きなのね」
成田が優しい声で言うと、坂上は首を横に振った。
「私、奈々恵に酷いこと言ったんです。あんなに、あんなに大好きだったのに」
遂に感情が溢れ出し、坂上の目から涙が溢れ出す。成田は坂上が泣き止むまでずっと、黙って隣で頭を撫で続けた。
だからだろう。坂上はすぐに落ち着いて、ポツポツとなにかを吐き出すように、話し出すことが出来た。
「高校生になるまで、友達らしい友達って居なかったんです。中学では色々あったから」
高校生になって、足立と知り合って、2人で遊ぶようになり、どんどん掛け替えのない存在になっていった。それはどこにでもある話だが、2人だけの大切な思い出だった。
「でも冬休みになって、奈々恵から言われたんです。最近お金遣いが荒く無いかって」
普段は気を遣って、自分の意見を言えない性格の足立にとって、その言葉を言うのにどれだけ勇気が必要だったか。冷静になればそれが痛い程にわかってしまうから、坂上は余計に自分を許せない。
「それでも私はそんなことないって、気にしないでって笑って。奢ってあげるんだから良いじゃんとか、格好付けて。なにも、奈々恵の気持ちなんてなにも考えないで」
坂上の目にもう涙はない。泣いて済む問題ではないし、これは坂上が受け入れないといけない罪だ。
「私、ずっとパパ活してたんです。奈々恵にも黙って。たまにですけど、結構なお金貰っちゃって。一回やったら、こんなもんかって。欲しい物買って、お金が無くなったらまた、誘って」
成田はなにも言わない。ただ黙って坂上の話を聞いている。
「馬鹿なんですよ、私。求められてるって勘違いして。自分が自分で良いんだって、認められたみたいで。でもそれは、本当はずっと、奈々恵が、あの子が側に居てくれて、それだけで、それが全部だったのに」
止まった筈の涙がまた、一粒だけ落ちた。
それは去年の冬。2人の関係が終わった日のこと。
「お願いします!もう真由美と会うの止めてください!」
駅前から少し離れた川沿いにあるホテル街。制服のままの格好で目立つ足立が、坂上と共に歩いていたサラリーマン風の男に嘆願した。
「ちょっと奈々恵、なに言ってるの?」
突然現れた足立に苛立ちを隠せない坂上。この時の坂上はどこかで、大人に求められる自分を、足立より上の存在だと感じていた。だから簡単に、本当に簡単に、彼女を傷付けた。
「私が私の為にやってんだから良いじゃん。自分が出来ないからって邪魔しないでよ」
「私は!ただ真由美にこれ以上傷付いて欲しくなくて!」
「そういうのウザい、離して」
彼女がどんな思いで、どんな覚悟で、この場に立っていたのかも考えずに。
「その時、警察に話し掛けられて、SNSのやり取りとか見られてパパ活がバレちゃって。一緒に居ただけの奈々恵まで疑われて」
次の日、学校ではすでに噂が回っていた。そのやり取りを見ていた人間が居たのだろう。彼らはなにも知らないのに、面白がって噂する。坂上と足立がパパ活をしていたらしい、と。
「それから1年が終わるまで、私はずっと保健室登校して。2年になってやっと教室に行けたけど、奈々恵とは顔合わせないようにしてたんです」
「それは、しんどいね」
口だけの笑顔を浮かべてゆっくりと首を横に振る坂上。
「本当に辛かったのは、ずっと逃げなかった奈々恵の方です。私はずっと、自分と居たから奈々恵まで変な噂されたんだって、だからもう近付いちゃ駄目だって、そうやって言い訳ばっかして、奈々恵から逃げて。謝ることなんて考えもせずに、ずっと逃げてばっかで。それなのに奈々恵は毎日教室に行って、2年になってからもゆずさん達と仲良くなって」
前に進み続けていた友人と、ずっと逃げていただけの自分を比べ、とことんまで情けなくなった。
「真由美ちゃんは、本当に良い子ね」
「志穂さん、話聞いてました?」
少し冗談っぽく言った坂上が鼻を啜る。成田は軽く頭を撫でてから、坂上の頬に手を当てて、自分の方を向かせる。
「私ね、自分の失敗をちゃんと反省出来る人って好きよ」
見つめられながらそう言われた坂上は、熱くなった頬が気付かれないかと、ドキドキしながら目を逸らす。
「さ、少し休みましょ?交代で寝れば体力も回復出来るし」
「じゃ、じゃあ先に──」
「ふふ、んなわけないでしょ?」
坂上が言おうとした言葉を、鼻に指をちょんと置いただけで封じる成田。観念した坂上はベッドで横になる。
「ちゃんと起こして下さいね?」
「もちろん!私が頑張り過ぎて寝落ちしたら洒落になんないでしょ?」
クスクスと笑い合い、坂上はそのまま目を閉じた。こんな状況で、こんなに気持ちが昂っている中、本当に眠れるのだろうか。坂上はそんなことを考えながら、次の瞬間にはすぐに眠りに付いていた。
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