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失踪7日目
13話
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駅前で昼食を食べた後、坂上はなんとなく嫌な予感がして歩き出す。向かう先は昨日も来た例の廃墟。そしてその場所に到着した際、嫌な予感が的中したことを知る。
「やっぱり」
昨日見たあの恐ろしい空気を漂わせた廃墟に、大勢の人間が押し掛けていた。野次馬の中に入っていくと、報道陣や警察が見えてくる。廃墟の門にはテレビでよく見る立ち入り禁止を示す黄色いテープが貼ってあった。
確認した後、そこを離れて来た道を戻る。今朝報道していた殺人事件の現場は、あの廃墟だったのだ。となれば昨日坂上達があそこを去ってから、しばらくして誰かが忍び込んであそこで犯行に及んだことになる。
少しタイミングがズレていたら、犯人と鉢合わせしてしまっていたかも知れない。そう思うとゾッとすると同時に、これが足立の失踪となんの関係も無いことを祈る。
「ちょっと良いかな?」
「え?」
急に話し掛けられて驚いて振り向くと、40代ぐらいのスーツの男が立っていた。鋭い目が坂上の身体を値踏みするように捉えている。
周囲を見ればさっきまでの人通りは無い。目の前の男を再度見るが、やはり知り合いでもない。そして先程の和田達の話が過ぎる。
──スーツで、40代。もしかして奈々恵と一緒に居たっていう。
逃げようとしている身体をなんとか留める。もし本当にこの男がそうならば、ここで情報を聞き出さないと後がない。
「なん、ですか?」
「こういう者なんだが」
「え?」
坂上は男が取り出した物を見て固まる。
「警察?」
力が抜けた坂上ははぁっと息を吐き、恨めしい顔で男を睨む。
「びっくりするじゃ無いですか。先に言って下さい」
「おや、不審者と思われたかな?」
「そりゃ、あんな事件があったんですし」
本当は足立の失踪の方に関わっている男と勘違いしたのだが、あの事件ももしかしたら無関係では無いかも知れないので嘘ではない。
「君は警戒していないと思っていたよ」
「は?なんで?」
「だって事件なら一昨日も起こってるじゃないか」
確かに、市内の公園で昨日と同様の殺人事件が、一昨日にも起こっていたのは知っていた。だが昨日はそれよりも足立の家に行くことで頭がいっぱいで、坂上はニュースを気にする余裕などなかったのだ。
「それなのに君は昨日、あんな怪しい廃屋に入って行った。警戒してる人間のやることとは思えない」
「っ!」
警戒していなかったわけではなく、忘れていただけなのだが、そんな理由は通用しそうにない。あと和田達が言う目撃者の情報とやらは、警察にまでいっているようだ。
「なんで昨日あそこに入ったのか、教えて貰っても良いかな?」
ヒョロっと背の高い男は、それ程ガタイが良いわけでは無いが、射抜くような鋭さの眼孔で坂上を睨んでいる。後ろめたいこともある坂上は、そのまま固まって冷や汗が止まらない。
廃墟とはいえ誰かの所有地である。勝手に入れば不法侵入。そんなことぐらい高校生の坂上なら言われないでもわかっている。
「え、えっと」
「安心しなさい。別に君を不法侵入でどうこうしようとは思っていない」
「え?」
男は近くにあった自販機で缶コーヒーとオレンジジュースを買い、なぜかコーヒーの方を坂上に渡す。
「え?」
再びの坂上の驚きに、男は気まずそうにオレンジジュースを飲みながら笑う。
「俺は苦いのは苦手だ」
「あり、がとうございます」
坂上は貰ったコーヒーを開けて飲む。ひんやりと冷たい喉越しが、火照った身体をじんわりと冷ましていく。
「刑事さんですか?」
「まあそんな感じだ。浜中で良い」
浜中と名乗った男は、手で顔を扇ぎながら壁に背を付けて話出す。
「そんで?なんであそこに入った?」
「え、あの」
「言ったろ?別にガキがちょっと私有地入った程度でガタガタ言わねえよ。それともなんかヤバいことやってたのか?」
「ち!違います!私はただ」
「ただ?」
「友達を、探してて」
「友達?」
「足立奈々恵っていう子が、行方不明なんです」
浜中はなにか考えながら手帳に名前をメモっている。
「それで?なんでそれがあの家と繋がる」
「この写真が、ネットにアップされてて」
「ほお」
浜中はその後黄泉通信についてや、写真が他のSNSに多く転載されていることを聞いて、しばらく考えてから坂上へと告げた。
「なあ、この子を探すのは俺に任せてくれないか?」
「え、それって」
「今まで警察が友達を探してくれないと思ってたから、自分で頑張ってたんだろ?」
そう言われてしまうと、頷くしかない坂上。それを見て倍以上は頷いた浜中が言った。
「じゃあ安心してくれ。俺と俺の仲間がちゃんとこの子探してやる。だから嬢ちゃんは家で大人しくしてろ。さっきも言ったが、連続殺人犯が近くに居るかも知れないんだ」
まだなにか言いたげな坂上を見て、浜中は小さい声だがはっきりと「大丈夫だ」と再度言い放ち、坂上の背中を叩く。
「ほら!明るい内にさっさと帰る!な?後はプロに任せなさい」
なにか進展があれば、捜査に支障が無い範囲でなら教えてやると言われて、電話番号を交換した坂上。それは暗になにかわかったら知らせろという意味でもあると、坂上は正しく理解した。
足立の捜索に乗り気で無かった警察が、ちゃんと捜索をしてくれると約束してくれたのは嬉しいのだが、なぜか釈然としない坂上。気持ちが晴れないまま、また駅前へと戻って行った。
「やっぱり」
昨日見たあの恐ろしい空気を漂わせた廃墟に、大勢の人間が押し掛けていた。野次馬の中に入っていくと、報道陣や警察が見えてくる。廃墟の門にはテレビでよく見る立ち入り禁止を示す黄色いテープが貼ってあった。
確認した後、そこを離れて来た道を戻る。今朝報道していた殺人事件の現場は、あの廃墟だったのだ。となれば昨日坂上達があそこを去ってから、しばらくして誰かが忍び込んであそこで犯行に及んだことになる。
少しタイミングがズレていたら、犯人と鉢合わせしてしまっていたかも知れない。そう思うとゾッとすると同時に、これが足立の失踪となんの関係も無いことを祈る。
「ちょっと良いかな?」
「え?」
急に話し掛けられて驚いて振り向くと、40代ぐらいのスーツの男が立っていた。鋭い目が坂上の身体を値踏みするように捉えている。
周囲を見ればさっきまでの人通りは無い。目の前の男を再度見るが、やはり知り合いでもない。そして先程の和田達の話が過ぎる。
──スーツで、40代。もしかして奈々恵と一緒に居たっていう。
逃げようとしている身体をなんとか留める。もし本当にこの男がそうならば、ここで情報を聞き出さないと後がない。
「なん、ですか?」
「こういう者なんだが」
「え?」
坂上は男が取り出した物を見て固まる。
「警察?」
力が抜けた坂上ははぁっと息を吐き、恨めしい顔で男を睨む。
「びっくりするじゃ無いですか。先に言って下さい」
「おや、不審者と思われたかな?」
「そりゃ、あんな事件があったんですし」
本当は足立の失踪の方に関わっている男と勘違いしたのだが、あの事件ももしかしたら無関係では無いかも知れないので嘘ではない。
「君は警戒していないと思っていたよ」
「は?なんで?」
「だって事件なら一昨日も起こってるじゃないか」
確かに、市内の公園で昨日と同様の殺人事件が、一昨日にも起こっていたのは知っていた。だが昨日はそれよりも足立の家に行くことで頭がいっぱいで、坂上はニュースを気にする余裕などなかったのだ。
「それなのに君は昨日、あんな怪しい廃屋に入って行った。警戒してる人間のやることとは思えない」
「っ!」
警戒していなかったわけではなく、忘れていただけなのだが、そんな理由は通用しそうにない。あと和田達が言う目撃者の情報とやらは、警察にまでいっているようだ。
「なんで昨日あそこに入ったのか、教えて貰っても良いかな?」
ヒョロっと背の高い男は、それ程ガタイが良いわけでは無いが、射抜くような鋭さの眼孔で坂上を睨んでいる。後ろめたいこともある坂上は、そのまま固まって冷や汗が止まらない。
廃墟とはいえ誰かの所有地である。勝手に入れば不法侵入。そんなことぐらい高校生の坂上なら言われないでもわかっている。
「え、えっと」
「安心しなさい。別に君を不法侵入でどうこうしようとは思っていない」
「え?」
男は近くにあった自販機で缶コーヒーとオレンジジュースを買い、なぜかコーヒーの方を坂上に渡す。
「え?」
再びの坂上の驚きに、男は気まずそうにオレンジジュースを飲みながら笑う。
「俺は苦いのは苦手だ」
「あり、がとうございます」
坂上は貰ったコーヒーを開けて飲む。ひんやりと冷たい喉越しが、火照った身体をじんわりと冷ましていく。
「刑事さんですか?」
「まあそんな感じだ。浜中で良い」
浜中と名乗った男は、手で顔を扇ぎながら壁に背を付けて話出す。
「そんで?なんであそこに入った?」
「え、あの」
「言ったろ?別にガキがちょっと私有地入った程度でガタガタ言わねえよ。それともなんかヤバいことやってたのか?」
「ち!違います!私はただ」
「ただ?」
「友達を、探してて」
「友達?」
「足立奈々恵っていう子が、行方不明なんです」
浜中はなにか考えながら手帳に名前をメモっている。
「それで?なんでそれがあの家と繋がる」
「この写真が、ネットにアップされてて」
「ほお」
浜中はその後黄泉通信についてや、写真が他のSNSに多く転載されていることを聞いて、しばらく考えてから坂上へと告げた。
「なあ、この子を探すのは俺に任せてくれないか?」
「え、それって」
「今まで警察が友達を探してくれないと思ってたから、自分で頑張ってたんだろ?」
そう言われてしまうと、頷くしかない坂上。それを見て倍以上は頷いた浜中が言った。
「じゃあ安心してくれ。俺と俺の仲間がちゃんとこの子探してやる。だから嬢ちゃんは家で大人しくしてろ。さっきも言ったが、連続殺人犯が近くに居るかも知れないんだ」
まだなにか言いたげな坂上を見て、浜中は小さい声だがはっきりと「大丈夫だ」と再度言い放ち、坂上の背中を叩く。
「ほら!明るい内にさっさと帰る!な?後はプロに任せなさい」
なにか進展があれば、捜査に支障が無い範囲でなら教えてやると言われて、電話番号を交換した坂上。それは暗になにかわかったら知らせろという意味でもあると、坂上は正しく理解した。
足立の捜索に乗り気で無かった警察が、ちゃんと捜索をしてくれると約束してくれたのは嬉しいのだが、なぜか釈然としない坂上。気持ちが晴れないまま、また駅前へと戻って行った。
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