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失踪5日目
07話
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「いやああああ!ああっ!ああひいぃ!」
扉や壁にぶつかりながら、半ば目を瞑って出口を目指す坂上。パニックのままトイレを出て、入り口を出た所の壁にぶつかるも、止まることも振り向くこともなくまた走り出す。
「ああ!あぐあああ!」
喉が千切れるぐらいの大声で叫びながら、何度も転げそうになって前に進む。広いグラウンドを越えて、ようやく公園の外へと出たその瞬間。また右肩に手が置かれて心臓が止まりそうになった。
「はっ!ひいいいぃ!ああっ!ああいいやあああ!あああぁ!」
その手を振り解こうと暴れるも、手を掴まれて引き寄せられる。そして今度こそしっかりと両肩を強く掴まれて。
「しっかりしろ!おい!」
「ひっ!ひ、ひぃ、え?」
目を開くとそこには、赤い派手なアロハシャツを着た、短髪で無精髭の30代ぐらいの男が立っていた。
「落ち着いたか?」
「は、はい」
「お前今、自分がなにしてたかわかるか?」
「え?えっと」
まだ気持ちもなにも整理出来ていない坂上は、目を丸くさせるだけだ。
「なに見てバグってたんか知らんが、お前今道路に飛び出そうとしてたんだぞ?」
「あっ」
確かに、よく見たらすぐそこが車道で、少し先に停まった車の横に、こちらを睨んでいる運転手が立っていた。
「俺が止めてなかったら、あの車に轢かれてたな」
「あ、ありがとうございます」
運転手にも深く頭を下げると、舌打ちをして去っていった。坂上は今更ことの重大さに気付き、冷や汗が止まらない。
「ま、精々感謝してくれ。命の恩人だ」
「はあ」
そう言われると逆に有り難さが薄まるが、言っていることは嘘ではないので反論はない。
「で?女の霊だったか?」
「は?」
「学生の方か?それともこう、20代ぐらいの?」
「な、なんですか?」
「あー、知らない?ここな、心霊スポットなんだわ。あんな顔して出て来て、なにも見てないなんて言わねえだろ?」
無精髭の男は人の悪そうな顔でニヤッと笑って話し出す。
「9年前かな?ここで自動車事故があってな。そこの電柱に車がぶつかって、運転していた20代の女が死んだ。それからだな、この公園で女の霊が出るって噂になって。それで人が寄り付かなくなって荒れてったんだ」
確かに住宅街にあるのに、人気が無いのは少しおかしい。ここまで荒れる程放置されるには、なにか理由があるのだろう。それがこの軽薄そうな男の言う通りかはわからないが。
「そんな話……」
にわかには信じがたいが、坂上は今自分が体験したことを考えると嘘だとも言えない。
「まさか自分と同じように、車の事故で殺そうとするとはな。悪霊になっちまったのかねぇ」
楽しそうにそう言った男を見て、助けられたとは言え胸が騒つく坂上。
「ありがとうございました。では」
しっかりと頭を下げてから踵を返す。なんだか大変な経験をしてしまったが、結局この公園に失踪の手掛かりは無かったのだ。暗くなってきたこともあり、いつまでもここに留まる理由は無い。
しかし歩き出した坂上の背中に、再び軽い調子の声が掛けられる。
「黄泉通信」
すぐに振り返ってしまった坂上は、それを後悔する。そして男は眉を片方クッと上げて、得意げに続きを語る。
「見たんだろ?それであの子を探しに来た。それ、この辺の高校の制服だ。あの子もそこの生徒かな?」
「なんなんですか?」
「俺も同じさ。あの写真の女の子を探してる」
「……なんで」
ある程度予想が出来ていたからか、本当は聞きたくなかったがそう問うた。そしてその答えは考える間も無く返ってくる。
「興味本位」
まるで人をおちょくったような言い方。
「あ、怒っちゃった?てことは、君は興味本位じゃないのかぁ。あの子の友達で、あの子は実際に居なくなってる。だから探してる?」
ペラペラと話す男。坂上はこれ以上ヒントを与えないように、再度背を向けて歩き出す。しかし男は同じ速度で後をついてくる。
「なんなんだろうなぁ、あの写真。なんであれには加工がされていないのか!もしかして?噂通りもう死んでるはずのあの子が写った写真、だからかな?」
仕舞いにはわざわざ回り込んで、坂上の目を見てそう言った。
「だったらこれ、心霊写真だな」
見せられたスマホの画面には、坂上が見ていたのと同じ、足立の写真が写っていた。
「なんなんですか!?」
「知ってるか?霊ってネットと相性良いんだよ。だから死んだ人間がネットを通じて連絡してくるってのは、良くある話なわけよ」
「ふざけないで!奈々恵は死んでなんかない!」
そう叫んだ瞬間、ニヤニヤ笑っていた男が無表情になって言った。
「そうか、これ奈々恵ちゃんって言うのか」
「あ……」
やってしまった。坂上がそう思って口を開けて固まっていると、男はポケットからなにかを取り出しながら言う。
「君さ、後学の為に教えといてやるけど、知らないおじさんと感情的になってお話しちゃ駄目だぞ?大人は汚いから。ほい、これ」
渡されたのは1枚の名刺。そこには三流オカルト雑誌の名前と共に、男の名前が書かれていた。
「滝田だ。なにかわかったらそこに電話してくれたら嬉しいね。そっちも情報欲しいでしょ?俺はプロだから、君より良い情報掴んじゃうかもよ」
さっきとは逆に、手を振りながら去っていく滝田の背中を、坂上はただ見ているしか出来なかった。
扉や壁にぶつかりながら、半ば目を瞑って出口を目指す坂上。パニックのままトイレを出て、入り口を出た所の壁にぶつかるも、止まることも振り向くこともなくまた走り出す。
「ああ!あぐあああ!」
喉が千切れるぐらいの大声で叫びながら、何度も転げそうになって前に進む。広いグラウンドを越えて、ようやく公園の外へと出たその瞬間。また右肩に手が置かれて心臓が止まりそうになった。
「はっ!ひいいいぃ!ああっ!ああいいやあああ!あああぁ!」
その手を振り解こうと暴れるも、手を掴まれて引き寄せられる。そして今度こそしっかりと両肩を強く掴まれて。
「しっかりしろ!おい!」
「ひっ!ひ、ひぃ、え?」
目を開くとそこには、赤い派手なアロハシャツを着た、短髪で無精髭の30代ぐらいの男が立っていた。
「落ち着いたか?」
「は、はい」
「お前今、自分がなにしてたかわかるか?」
「え?えっと」
まだ気持ちもなにも整理出来ていない坂上は、目を丸くさせるだけだ。
「なに見てバグってたんか知らんが、お前今道路に飛び出そうとしてたんだぞ?」
「あっ」
確かに、よく見たらすぐそこが車道で、少し先に停まった車の横に、こちらを睨んでいる運転手が立っていた。
「俺が止めてなかったら、あの車に轢かれてたな」
「あ、ありがとうございます」
運転手にも深く頭を下げると、舌打ちをして去っていった。坂上は今更ことの重大さに気付き、冷や汗が止まらない。
「ま、精々感謝してくれ。命の恩人だ」
「はあ」
そう言われると逆に有り難さが薄まるが、言っていることは嘘ではないので反論はない。
「で?女の霊だったか?」
「は?」
「学生の方か?それともこう、20代ぐらいの?」
「な、なんですか?」
「あー、知らない?ここな、心霊スポットなんだわ。あんな顔して出て来て、なにも見てないなんて言わねえだろ?」
無精髭の男は人の悪そうな顔でニヤッと笑って話し出す。
「9年前かな?ここで自動車事故があってな。そこの電柱に車がぶつかって、運転していた20代の女が死んだ。それからだな、この公園で女の霊が出るって噂になって。それで人が寄り付かなくなって荒れてったんだ」
確かに住宅街にあるのに、人気が無いのは少しおかしい。ここまで荒れる程放置されるには、なにか理由があるのだろう。それがこの軽薄そうな男の言う通りかはわからないが。
「そんな話……」
にわかには信じがたいが、坂上は今自分が体験したことを考えると嘘だとも言えない。
「まさか自分と同じように、車の事故で殺そうとするとはな。悪霊になっちまったのかねぇ」
楽しそうにそう言った男を見て、助けられたとは言え胸が騒つく坂上。
「ありがとうございました。では」
しっかりと頭を下げてから踵を返す。なんだか大変な経験をしてしまったが、結局この公園に失踪の手掛かりは無かったのだ。暗くなってきたこともあり、いつまでもここに留まる理由は無い。
しかし歩き出した坂上の背中に、再び軽い調子の声が掛けられる。
「黄泉通信」
すぐに振り返ってしまった坂上は、それを後悔する。そして男は眉を片方クッと上げて、得意げに続きを語る。
「見たんだろ?それであの子を探しに来た。それ、この辺の高校の制服だ。あの子もそこの生徒かな?」
「なんなんですか?」
「俺も同じさ。あの写真の女の子を探してる」
「……なんで」
ある程度予想が出来ていたからか、本当は聞きたくなかったがそう問うた。そしてその答えは考える間も無く返ってくる。
「興味本位」
まるで人をおちょくったような言い方。
「あ、怒っちゃった?てことは、君は興味本位じゃないのかぁ。あの子の友達で、あの子は実際に居なくなってる。だから探してる?」
ペラペラと話す男。坂上はこれ以上ヒントを与えないように、再度背を向けて歩き出す。しかし男は同じ速度で後をついてくる。
「なんなんだろうなぁ、あの写真。なんであれには加工がされていないのか!もしかして?噂通りもう死んでるはずのあの子が写った写真、だからかな?」
仕舞いにはわざわざ回り込んで、坂上の目を見てそう言った。
「だったらこれ、心霊写真だな」
見せられたスマホの画面には、坂上が見ていたのと同じ、足立の写真が写っていた。
「なんなんですか!?」
「知ってるか?霊ってネットと相性良いんだよ。だから死んだ人間がネットを通じて連絡してくるってのは、良くある話なわけよ」
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「あ……」
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