上 下
88 / 92
番外編

春、う・ら・ら? その11

しおりを挟む
あの、エトルとの飲み会から1週間。


「ミルさん、積み荷の確認お願いします」

「はーい」


ミルは、魔道具輸出第一弾の準備に追われていた。

魔道具と言っても、まずは水の魔石から。優先順位をつけて人々の生活に直接関わる物から始める。いくつかの国に納品予定だが、ミルはもちろんデザルト国へ行く。


出発は更に2週間後。それまでかなり忙しくなる。


「会わずに済むし、ちょうどいいか。フラれたし」


ミルは積み荷を確認しながら、一人言る。


そう、あのミルの勢いづいたような微妙な告白?は、エトルにさらっと流されたのだ。





「私じゃ、って。何を言ってるの」

「言葉通りです。私とお付き合いしませんか?気も紛れると思います!」

「気も紛れるって……気持ちはありがたいけれど、まだ若いミル嬢がそんな滅多なことを言うもんじゃないよ」

「ちが、でも、」

「でもじゃない。同情とか心配でとかで付き合うなんてなしだ。お互い辛くなるよ?そもそも、俺も寂しい訳じゃないし……ああでも、36歳独身は、ミル嬢みたいに若者からだと侘しく映るかあ……」

「!違います!私は、本当に」

「……ミル嬢は優しいね。きっとこんなおっさんの昔話を聞いて、寄り添ってくれたんだろう。でも、それだけで充分だよ。君はまだ、これからだ」

「エトル、さま」

「ありがとう。君の優しさは、本当に嬉しいよ。ありがたく受け取る。ね?」





エトルの有無を言わせぬ優しい笑顔に押しきられて、告白はなかったことにされた。

まあ、大人だ。とっても大人な対応だ。昔のなんて、夢だったんじゃないのってくらい、大人だ。

自分でも分かってる。いろいろと、あれはなかった。

でもだって、ミルだって告白に慣れている訳じゃない。気が紛れるとか、照れ隠しでもおかしいと思うけど、出ちゃったんだもん、口から!だってだって、エトル様が泣きそうな顔をしてるから!仕事中は対等にしてくれていても、他で子ども扱いをされているのがわかるから!つい、逃げるような言葉を選んでしまった。

「自覚と同時に勢いっで、ってゆーのもダメよね……」

でもあのまま、放って置きたくなかった。もういいんじゃないですか、って言ってあげたかった。けれど。

「結局は、私のエゴかな……お二人に敵わないの分かるし、悔しいけど…………私じゃ、無理、だよねぇそりゃあさ……」

ライバルと言うのも烏滸がましい。あの『ルピナスシリーズ』の立役者で、国中の憧れの女性たち。

……エトル様は今日も、昔を思い出してあんな顔をしているのかな。

「……止め止め!忙しいんだから、仕事!準備よ、ミル!」

そうだ、頑張って通した法案だ。やっと故国の役に立てる。少しでも、彼らの生活に光を当てられるように頑張らなくては。私情で失敗なんて出来ない。

ミルは頭を振りながら気持ちを切り替えて、輸出の準備を再開した。







「エトル。これ、魔道具輸出第一便のリスト。向かう国と商会といろいろ載ってるから、お前も一応確認しておいてくれ」

こちらは王城の魔法省長官室。ノックもそこそこに、宰相のトーマスが入ってきた。

「…………」

「エトル?」

トーマスが入って来ても、エトルは窓の外をぼんやりと見ていて、返事がない。トーマスはもう一度声をかける。

「おい、エトル!!」

「うわ、びっくりした!何だ、トーマスか。ノックくらいしてくれ」

「したし、何回も呼んだが」

「あ、そうだったか?すまん、考え事をしてて」

「珍しいな?エトルがそんな考え事って。久しぶりに魔法論文でも書くのか?」

「いや、まあ、そんなところ?」


本当は、論文よりも難しい……と言うか、答えを出せない事を考えていたのだけれど。いや、違う。答えは出てる。出したのだ。間違ってはいないはずだ。


17歳も年下の、自分の娘でもおかしくないほどの女の子。真っ直ぐで、エトルには眩しすぎて。同情だろうからと、自分に言い聞かせて。


「……エトル?」

「は、すまん、何の話だったか」

「……魔道具輸出の第一便のリストだ。念のため、お前も確認して欲しいのだが……大丈夫か?疲れているんじゃないか?ちゃんと寝てるか?」

「トーマス、母上みたいだぞ。大丈夫だ」

「そうか?最近また仕事増えてると聞いたが?セレナも心配してたぞ」

「本当に大丈夫だって。セレナにもそう伝えといて。このリスト預かるよ。確認しておくわ」

「……了解した、頼む。くれぐれも、無理するなよ」

「はいよー」


エトルは書類に目を通しながら、ヒラヒラと手を振る。トーマスはそんなエトルの様子に諦めて、部屋を出ていった。エトルはそれを目の端で見届けてから、椅子に深く腰をかけて大きく息を吐く。


実は最近、あんまり眠れていない。


つい、結論を出したはずのことを考えてしまうのだ。自分でも、何をやっているんだと思う。


「ああ、そういえば、似てる、か?あの二人と。てかまあ、エマの周りはばっかだよな」


思い出すと、少し笑えた。今思い出しても、なんて自分なんかより格好いいことか。


だから、惹かれるのだろう。あの真っ直ぐな眩しさに。……自分とは、正反対の、彼女たちに。


「~~~!成長してねぇなあ、俺!」


ため息と共に一人言る。


どうやらエトルは今日も眠れなさそうだ。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

破滅ルートを全力で回避したら、攻略対象に溺愛されました

平山和人
恋愛
転生したと気付いた時から、乙女ゲームの世界で破滅ルートを回避するために、攻略対象者との接点を全力で避けていた。 王太子の求婚を全力で辞退し、宰相の息子の売り込みを全力で拒否し、騎士団長の威圧を全力で受け流し、攻略対象に顔さえ見せず、隣国に留学した。 ヒロインと王太子が婚約したと聞いた私はすぐさま帰国し、隠居生活を送ろうと心に決めていた。 しかし、そんな私に転生者だったヒロインが接触してくる。逆ハールートを送るためには私が悪役令嬢である必要があるらしい。 ヒロインはあの手この手で私を陥れようとしてくるが、私はそのたびに回避し続ける。私は無事平穏な生活を送れるのだろうか?

【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!

春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前! さて、どうやって切り抜けようか? (全6話で完結) ※一般的なざまぁではありません ※他サイト様にも掲載中

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】 公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください

むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。 「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」 それって私のことだよね?! そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。 でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。 長編です。 よろしくお願いします。 カクヨムにも投稿しています。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

処理中です...