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番外編
春、う・ら・ら? その5
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時は数日遡り、エトルが草案を初めてジークに見せた日。
グリーク王国の王城の奥。
夫婦の寝室で、ジークフリート陛下と妃のローズマリーが仲良く寝る前の軽い晩酌をしていた。
「この輸出案、草案を作ったのってカリンとこのミルちゃんでしょう?凄いわねぇ」
「そうだな。エトルも感心していたよ。まあもちろん、細部の訂正は入ると思うが」
「それはそうね。でも、ベースがこれだけあればだいぶ違うわよ」
夫婦のコミュニケーション中でもあるのだが、つい、仕事の話になってしまうのも、まあ仕方のない所で。
なんせローズも、魔道具をもっと広めたいと思っている一人だ。輸出の草案を、と思いつつも、まずは国内のルールが先なので、なかなか手をつけられずにいた所だった。反対意見も根強いし。そこにこの、立派な草案。渡りに船だ。
「ミルちゃんいいわよね!ダリシアの時もお世話になったし……誰かさんが余計な事をするから」
「ゴホッ」
急な突っ込みに、飲んでいたワインでむせる陛下。「あらあら、白ワインで良かったわね」と、王妃様は甲斐甲斐しくナフキンで拭いて差し上げた。
「……それは、悪かったと言っているだろう」
バツの悪そうな顔で話す、ジーク。この拗ねたような顔も可愛いと、年甲斐もなく思ってしまうのは内緒。と、ローズは思っている。
それに。
「アンドレイにも、ちょっと変化があったみたいだしね?」
まだまだ小さな少しの変化。だけど確実に変わった。母親の、楽しみな勘。
「そうなのか?それは……」
「うふふー、ジークにはまだ内緒!まだまだ余計な事はしないで見守り段階よ」
「……」
「あっ、また拗ねた?」
「……別に。あ、そういえば」
本当は少し寂しいジークだったが、その拍子にエトルの事を思い出した。
「ん?」
「エトルなんだが……最近おかしい気がしてな」
「おかしい?どんな所が?」
「何て言うかな。……儚くなりそうな?というか」
「……儚く」
「うん。まあ、相変わらず仕事は早いし、優秀だし、そちらがどうという事はないのだが。たまに、ふとした時に見せる顔がな。遠くを見ているような」
「……そうなのね」
ふぅん、と顎に手を当てて、首を傾げるローズ。そんな姿も可愛い。いくつになっても可愛い。ジークは愛おしそうにローズの頬に触れる。
「……それで、最近またエトルへの縁談話も増えているだろう?諸々あって、俺たちの所まで話が来るくらいに」
「ええ、あるわね」
ローズも苦笑しながら同意する。本人も家族ものらくらしているものだから、上から声を掛けてくれと、遠回しのお願いが来るのだ。
「無理強いするつもりはないが。俺はローズといられて幸せだし、エトルもそろそろどうかと思って聞いてみたのだが」
「ダメだったのね」
「ダメというか……そうだな、ダメだったな。話を上手く躱された」
「そう。……きっと、エトルにとってはまだその時期じゃないってことでしょ」
「まあ、そうなんだろうが。気になってな」
「分かるけど、きっと今、私達に出来ることはなさそうな気がするわ。しばらくは、様子を気をつけて見てましょう?」
「そう、だな」
エトルは、あの時ギリギリで目が覚めて良かったと何度も言っていた。大事な幼馴染みと友人を失わずに済んだと。二人の治世に役に立ちたいと頑張ってくれた。
ジークとローズにとっても、大事な大事な幼馴染みだ。幸せに生きて欲しいと思っている。
思っているからこそ。
「勝手に何か始めないでよね?」
「……はい」
嫁の笑顔の圧に、ジークはこくりと頷いた。
グリーク王国の王城の奥。
夫婦の寝室で、ジークフリート陛下と妃のローズマリーが仲良く寝る前の軽い晩酌をしていた。
「この輸出案、草案を作ったのってカリンとこのミルちゃんでしょう?凄いわねぇ」
「そうだな。エトルも感心していたよ。まあもちろん、細部の訂正は入ると思うが」
「それはそうね。でも、ベースがこれだけあればだいぶ違うわよ」
夫婦のコミュニケーション中でもあるのだが、つい、仕事の話になってしまうのも、まあ仕方のない所で。
なんせローズも、魔道具をもっと広めたいと思っている一人だ。輸出の草案を、と思いつつも、まずは国内のルールが先なので、なかなか手をつけられずにいた所だった。反対意見も根強いし。そこにこの、立派な草案。渡りに船だ。
「ミルちゃんいいわよね!ダリシアの時もお世話になったし……誰かさんが余計な事をするから」
「ゴホッ」
急な突っ込みに、飲んでいたワインでむせる陛下。「あらあら、白ワインで良かったわね」と、王妃様は甲斐甲斐しくナフキンで拭いて差し上げた。
「……それは、悪かったと言っているだろう」
バツの悪そうな顔で話す、ジーク。この拗ねたような顔も可愛いと、年甲斐もなく思ってしまうのは内緒。と、ローズは思っている。
それに。
「アンドレイにも、ちょっと変化があったみたいだしね?」
まだまだ小さな少しの変化。だけど確実に変わった。母親の、楽しみな勘。
「そうなのか?それは……」
「うふふー、ジークにはまだ内緒!まだまだ余計な事はしないで見守り段階よ」
「……」
「あっ、また拗ねた?」
「……別に。あ、そういえば」
本当は少し寂しいジークだったが、その拍子にエトルの事を思い出した。
「ん?」
「エトルなんだが……最近おかしい気がしてな」
「おかしい?どんな所が?」
「何て言うかな。……儚くなりそうな?というか」
「……儚く」
「うん。まあ、相変わらず仕事は早いし、優秀だし、そちらがどうという事はないのだが。たまに、ふとした時に見せる顔がな。遠くを見ているような」
「……そうなのね」
ふぅん、と顎に手を当てて、首を傾げるローズ。そんな姿も可愛い。いくつになっても可愛い。ジークは愛おしそうにローズの頬に触れる。
「……それで、最近またエトルへの縁談話も増えているだろう?諸々あって、俺たちの所まで話が来るくらいに」
「ええ、あるわね」
ローズも苦笑しながら同意する。本人も家族ものらくらしているものだから、上から声を掛けてくれと、遠回しのお願いが来るのだ。
「無理強いするつもりはないが。俺はローズといられて幸せだし、エトルもそろそろどうかと思って聞いてみたのだが」
「ダメだったのね」
「ダメというか……そうだな、ダメだったな。話を上手く躱された」
「そう。……きっと、エトルにとってはまだその時期じゃないってことでしょ」
「まあ、そうなんだろうが。気になってな」
「分かるけど、きっと今、私達に出来ることはなさそうな気がするわ。しばらくは、様子を気をつけて見てましょう?」
「そう、だな」
エトルは、あの時ギリギリで目が覚めて良かったと何度も言っていた。大事な幼馴染みと友人を失わずに済んだと。二人の治世に役に立ちたいと頑張ってくれた。
ジークとローズにとっても、大事な大事な幼馴染みだ。幸せに生きて欲しいと思っている。
思っているからこそ。
「勝手に何か始めないでよね?」
「……はい」
嫁の笑顔の圧に、ジークはこくりと頷いた。
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