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番外編
閑話 あの日からの護衛騎士
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俺はリック=カートン。グリーク王国伯爵家の次男坊だ。今は魔法騎士としてそして近衛隊員として、畏れ多くもローズマリー王太子妃殿下の護衛を拝命している。
妃殿下と、そしてシェール公爵夫人になられたエマ様、『二人の聖女』と呼ばれるお二人とは、学園時代の同級生で、クラスメートだった。
皆にとってもそうであっただろうが、誰より、きっと自分が……俺が一番の幸運な奴であったろうと思う。
……誓って、邪な意味ではなく。殿下お二人に喧嘩を売りたいわけでは全く!なく。
純粋に恩人で、憧れてやまないお二人なのだ。敬愛し、尊敬し、崇拝している信者のようなものだ。
お二人共に、隣にはふさわしい方がいらっしゃる。国の発展も目覚ましい。俺はそんなお二人を支える土台の一部になれただけでも幸運だ。
あの頃の俺は、勉強も剣術もそして魔法も。人より少しばかり良くできたもので、いわゆる調子に乗っていた。
伯爵家の次男など、他の家に婿入り出来なければ貴族ではなくなる。だが、騎士になれば、騎士爵が与えられる。自分はおあつらえ向きに魔力も強い。苦手で面倒な婿入り先を探すよりマシだ、と、そんな軽い気持ちで目指していたのだ。
そして、その様な心構えでしかなかったあの日。
お二人がいなければ、自分の命を失うような……いや、他人の命さえ奪いかねなかった大事故をやらかした。反省という言葉では済まないほどの事だ。
それをお二人に救って戴いた。
身体を…そして何よりも心を。
失敗を赦し、学びに変えてくれたお二人に、俺は永遠の忠誠を誓っている。
その日から自分の意識も大きく変わった。あの出来事を忘れる事は生涯ないだろう。
あれから、もうすぐ20年。
明日はジークフリート王太子殿下が、新王として即位される日だ。ローズマリー様も王妃殿下になられる。感慨深く、昔を少し思い出してしまった。今も護衛勤務中だ。気を引き締めなくては。
明日も明日とて、俺はローズマリー様の剣であり、盾なのだから。
そしてもちろん、シェール公爵夫人になられたエマ様の為にだって、いつでも盾になろう。
「リック!また手合わせして、手合わせ!」
「アンドレイ殿下。明日のご準備は終わられたのですか?」
アンドレイ様は15歳。ローズマリー様のご長男だ。今は明日のご衣装などの最終確認をされていたはず。
「アンドレイ。リックは仕事中よ。仕事中はダメだと何度も話したでしょう?小さい子どもではないのだから!」
「はーい」
「はい、は……」
「短く!はい!」
「全くもう……」
ローズマリー様が、仕方ないわね、という風にため息をつきながらアンドレイ様と話す。こんな、素に近い表情を見られるのも護衛騎士の特権だ。
「母上。でもこちらは終わりましたし。そろそろ父上のお迎えに行かれては?きっと寂しがっておいでですよ」
「……サージュ」
冷静なご次男のサージュ様(12歳)にそう言われ、更に苦笑されるローズマリー様。彼はお父上をよく理解されていると思う。
「でも、そうね。あらかた確認は済みましたし。殿下のご様子も見て参ります。リック、付いてきてもらえるかしら?」
「はい!」
勿論です!!
「……リックに護衛として付いてもらってからも、もう10年経つのね。ありがとう。これからも宜しくお願いするわね」
暇……もとい、お時間が余ったであろう、ジークフリート殿下が新宰相室にいらっしゃると聞き、そこへ向かう道すがら、癒しの美しい笑顔でそんなことを言って下さる。ヤバイ、泣きそうだ。
「勿体ないお言葉です。これからも精一杯務めます!」
「ええ。頼りにしているわ」
本当に、優艶だよなあ……。と、思わず見とれかけて、気を引き締める。いかん、いかん。
そして、明日から新たに宰相となられるトーマス様の部屋に着くと、不思議なことにそのドアから少し距離を置いた辺りに、夫人のセレナ様がいた。
「あら、セレナもお迎え?中に入らないの?」
ローズマリー様がそう言いながら近づくと。
「ローズはな、こんな時はこうでな、」
「いや、セレナなんか、もっとこうだぞ」
と、二人の愛妻家の競い合う、結構な大きさの声が響いてきた。
「な、何をしているの?!あの人たち!」
「わ、私も今来たのだけれど……恥ずかしくて…」
いつもの淑女然とした表情が崩れ、顔を赤くするお二人。お付きの侍女たちも微笑ましく見ている。しかし、可愛い……いや、これも特権だが、あまり見ていると、中のお二人からの後が怖いので。そろそろ。
「ノック致しますね」
「「……お願いするわ」」
お二人を迎えた、殿下と宰相の顔といったら……。
ずっと護衛でいたいので、守秘義務を発動させますが。
愛は偉大と言うことで。
これからもグリーク王国の安寧の為に、尽力する次第だ。
─────────────────────────
ちらりと子ども達が出てくる新連載を始めてみました。少女漫画のように……なるはず……。
のんびり更新になりそうですが、よろしければ。
「やっぱりヒロインになりたい」です。
お願いします。
妃殿下と、そしてシェール公爵夫人になられたエマ様、『二人の聖女』と呼ばれるお二人とは、学園時代の同級生で、クラスメートだった。
皆にとってもそうであっただろうが、誰より、きっと自分が……俺が一番の幸運な奴であったろうと思う。
……誓って、邪な意味ではなく。殿下お二人に喧嘩を売りたいわけでは全く!なく。
純粋に恩人で、憧れてやまないお二人なのだ。敬愛し、尊敬し、崇拝している信者のようなものだ。
お二人共に、隣にはふさわしい方がいらっしゃる。国の発展も目覚ましい。俺はそんなお二人を支える土台の一部になれただけでも幸運だ。
あの頃の俺は、勉強も剣術もそして魔法も。人より少しばかり良くできたもので、いわゆる調子に乗っていた。
伯爵家の次男など、他の家に婿入り出来なければ貴族ではなくなる。だが、騎士になれば、騎士爵が与えられる。自分はおあつらえ向きに魔力も強い。苦手で面倒な婿入り先を探すよりマシだ、と、そんな軽い気持ちで目指していたのだ。
そして、その様な心構えでしかなかったあの日。
お二人がいなければ、自分の命を失うような……いや、他人の命さえ奪いかねなかった大事故をやらかした。反省という言葉では済まないほどの事だ。
それをお二人に救って戴いた。
身体を…そして何よりも心を。
失敗を赦し、学びに変えてくれたお二人に、俺は永遠の忠誠を誓っている。
その日から自分の意識も大きく変わった。あの出来事を忘れる事は生涯ないだろう。
あれから、もうすぐ20年。
明日はジークフリート王太子殿下が、新王として即位される日だ。ローズマリー様も王妃殿下になられる。感慨深く、昔を少し思い出してしまった。今も護衛勤務中だ。気を引き締めなくては。
明日も明日とて、俺はローズマリー様の剣であり、盾なのだから。
そしてもちろん、シェール公爵夫人になられたエマ様の為にだって、いつでも盾になろう。
「リック!また手合わせして、手合わせ!」
「アンドレイ殿下。明日のご準備は終わられたのですか?」
アンドレイ様は15歳。ローズマリー様のご長男だ。今は明日のご衣装などの最終確認をされていたはず。
「アンドレイ。リックは仕事中よ。仕事中はダメだと何度も話したでしょう?小さい子どもではないのだから!」
「はーい」
「はい、は……」
「短く!はい!」
「全くもう……」
ローズマリー様が、仕方ないわね、という風にため息をつきながらアンドレイ様と話す。こんな、素に近い表情を見られるのも護衛騎士の特権だ。
「母上。でもこちらは終わりましたし。そろそろ父上のお迎えに行かれては?きっと寂しがっておいでですよ」
「……サージュ」
冷静なご次男のサージュ様(12歳)にそう言われ、更に苦笑されるローズマリー様。彼はお父上をよく理解されていると思う。
「でも、そうね。あらかた確認は済みましたし。殿下のご様子も見て参ります。リック、付いてきてもらえるかしら?」
「はい!」
勿論です!!
「……リックに護衛として付いてもらってからも、もう10年経つのね。ありがとう。これからも宜しくお願いするわね」
暇……もとい、お時間が余ったであろう、ジークフリート殿下が新宰相室にいらっしゃると聞き、そこへ向かう道すがら、癒しの美しい笑顔でそんなことを言って下さる。ヤバイ、泣きそうだ。
「勿体ないお言葉です。これからも精一杯務めます!」
「ええ。頼りにしているわ」
本当に、優艶だよなあ……。と、思わず見とれかけて、気を引き締める。いかん、いかん。
そして、明日から新たに宰相となられるトーマス様の部屋に着くと、不思議なことにそのドアから少し距離を置いた辺りに、夫人のセレナ様がいた。
「あら、セレナもお迎え?中に入らないの?」
ローズマリー様がそう言いながら近づくと。
「ローズはな、こんな時はこうでな、」
「いや、セレナなんか、もっとこうだぞ」
と、二人の愛妻家の競い合う、結構な大きさの声が響いてきた。
「な、何をしているの?!あの人たち!」
「わ、私も今来たのだけれど……恥ずかしくて…」
いつもの淑女然とした表情が崩れ、顔を赤くするお二人。お付きの侍女たちも微笑ましく見ている。しかし、可愛い……いや、これも特権だが、あまり見ていると、中のお二人からの後が怖いので。そろそろ。
「ノック致しますね」
「「……お願いするわ」」
お二人を迎えた、殿下と宰相の顔といったら……。
ずっと護衛でいたいので、守秘義務を発動させますが。
愛は偉大と言うことで。
これからもグリーク王国の安寧の為に、尽力する次第だ。
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ちらりと子ども達が出てくる新連載を始めてみました。少女漫画のように……なるはず……。
のんびり更新になりそうですが、よろしければ。
「やっぱりヒロインになりたい」です。
お願いします。
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