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エピローグ

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「母さん、今度の刺繍はこれでお願いしたいんだけど……」

公爵邸から徒歩で10分位の所にある、可愛らしい手芸店のドアを開けながら入っていく。

「あら、エマ。いらっしゃい。下を見ながらだと危ないわよ。リサさん、お世話になってます」

「はあい」

「こちらこそ、お世話になっております」

そう、ここは私の母の手芸店。兼、自宅。ハルトが準備してくれた所だ。公爵邸の警備の人達が順番に警備にも付いてくれている。今日は刺繍の依頼でリサと来たのだ。


「刺繍は……ユーリちゃんのお誕生日用のドレスに?」

「そうなの。あと3ヶ月だから……間に合う?」

「可愛い孫の為だもの!!ちょっと優先しちゃうわ」

ウインクしながら、図案を受け取る母。まだまだ可愛らしいわ、この人……。元々、母の刺繍は評判が良かったが王都では更に評価が上がり、私の聖女効果も相まってかなりの人気店になっているのだ。母の担当は刺繍だけで、ドレスの縫製は外注になるけれど。


「ユーリちゃん、もう7歳よね?」

「そうよ。何だかますますハルト似。ハルト猫可愛がり」

「仕方ないわね」

二人でクスクス笑う。リサは嬉しそうに見ている。

ユーリ……ユーリシアは、恥ずかしながら、ハルトと私の娘だ。下に4歳の男の子、アーサーもいたりする。アーサーの方が私似だ。

……結婚から10年、とっても幸せです。


そして母にあれこれ注文して、更に世間話をして、私達は店を後にした。


◇◇◇


「お義母様もお変わりなかった?」

夜、公爵邸の夫婦の寝室にて。

仕事もだいぶ人に任せる事ができるようになり、夜は二人で軽くお酒を嗜みながら今日一日の報告会、なんて時間が習慣化するくらい、時間に余裕ができている。

幸せだ。

「うん、変わらず元気よ!ユーリとアーサーに会いたがっていたわ」

「そうだね。ちょっと会えていないね。あ!今度の視察の時は俺たち二人で家を空けるよね?お義母さんに公爵邸こっち来てもらえないかな?」

「あ、そうね!聞いてみる!二人も喜ぶだろうし」

「うん。あ、でもお仕事忙しいかな?こっちにいろいろ運んでもらっても大丈夫だし……」

ハルトは相変わらず優しい。

穏やかな日々が過ぎて行く。


◇◇◇


「はい、お二人とも、お父上とお母上にいってらっしゃいですよ」

「いってらっしゃい……」

「……しゃい……」

リサに促されて、しぶしぶ見送る子ども達。ぎゅーっと抱きしめる。

「すぐに帰って来るからね!」

どうしても年に何度かは領地内のに視察に行かなくてはならない。毎回、後ろ髪を引かれる。

ハルトも二人をぎゅっとする。

「ユーリ、アーサー、ばあばと遊んでいたら、5日間なんてすぐよ?仲良く待ってようね?」

「はい!」「あい!」

大好きなばあばに言われて、ちょっと元気になったようだ。助かります。

「「いってきます」よろしくね、母さん」

「任せておいて!」

頼もしいです。



「今回は、公爵領の南にある教会だったか」

「そうね。少し久しぶりだわ。子ども達も大きくなったでしょうね」

馬車に揺られながら二人で話す。

公爵家の馬車に気付き、遠くからも手を振ってくれる人もいる。みんな笑顔だ。

「領民の皆も生き生きと仕事をしてくれて……笑顔でいてくれて……自画自賛のようだけれど、素敵な領地よね?公爵様?」

私はとびきりの笑顔で話す。

「そうだね。優秀な奥様のお陰だと思うよ?ありがとう」

「ふふっ、どういたしまして?なんて、旦那様が自由にさせてくれるからよ。……私からも、ありがとう」

「エマは、幸せ?」

「もちろん!世界一の幸せ者よ」

「それは困った。一番は俺のはずなんだが」

二人で顔を見合わせて笑って、軽くキスをする。

バカップル歴もトータル17年、慣れましたよ!!


領地内なので、2、3時間程で教会に着いた。

「ようこそ、シェール公爵様、聖女様。お待ちしておりました」

シスター長のイル様が出迎えてくれる。

「シスターイル。堅苦しい挨拶は無しで良い。いつものように」

ハルトが柔らかく話す。

「ありがとうございます、では、そのように……ハルト様、エマ様」

シスターは軽く会釈をして、朗らかに笑う。


「それで、変わりはないか?」

「お陰さまで……」

私達は歩いて近況を聞きながら教会に入る。

いつ来てもきちんと清掃の行き届いた、清廉な教会だ。

中では何人かの領民がお祈りに来ていた。

「あら、ケイトが来てるわ。ちょうど良かった。エマ様、町で先月生まれた子どもがおりますの。祝福をして下さいますか?」

シスターが、一人の女性に気づいて聞いてくる。

「まあ!もちろんよ!」

ベイビー、大好物です!ふにふに、最高!!


シスターはそのケイトさんに声をかけて、こちらへと案内してきた。

「こっ、公爵様、聖女様!お会いできて光栄です!」

ケイトさんは顔を真っ赤にしながら挨拶をしてくれた。

腕には生まれて間もない赤ちゃんがおくるみに包まれて、すやすやしている。うーん、癒し!

「私達も会えて嬉しいわ、ケイトさん。……祝福を贈らせてもらうわね?」

「はっ、はい!お願いします!」

私は赤ちゃんを腕に預かる。

すると、不思議な光景が流れてきた。


これは……もしかして、この子は。


『……、お疲れ様。子ども達は俺がしっかり育てるから。安心してお休み』

………………。

『大学合格おめでとう!』『パパ、今日のご飯は…が作ったのよ!』『すごいな!』『サッカー辞めようと……』

『そうか……人生はいろいろでいいぞ!』『彼氏できた』『彼女できた』『結婚します……』『うん、うん……』

『孫って信じられないくらいに可愛い。話にはきいていたけど』『あんまり甘やかさないでよ!』『ははは、難しいな。ママにも見せたかったな……』『そうね、きっと、どこかで』………………。


『…………パパ、男手ひとつで私達を育ててくれてありがとう。ゆっくり休んでね』


私の頬に、涙が伝わる。ああ、そうか。やっぱり約束を守ってくれたのね。貴方も子ども達も、幸せで良かった。ありがとう。……ありがとう。

……これは、女神様のイタズラかしら?ご褒美かしら?


「せ、聖女様?」

私が急に泣き出したので、ケイトさんが慌てる。いけない、いけない。

「ごめんなさい、うちの子の赤ちゃん時代を思い出してしまって」

涙を拭いながら笑顔で話すと、ケイトさんはほっとした顔をする。

「……この子のお名前は?」

「ユイトって言います」

「うん、素敵なお名前ね。……ユイトは、きっと優しくて真っ直ぐな子だと思うわ。貴方の人生に、祝福を。幸せになってね」

祝福の言葉を紡ぎ、額にキスを落とす。

すると、寝ていたユイトがパチッと目を開けて、ニコッと微笑む。そしてまた寝入る。

「あら、ユイトったら」

ケイトさんが楽しそうに笑う。赤ちゃんにはよくあることだけれど。……了解!ってことだったら、嬉しいな。


ケイトさんはお礼を言って帰って行き、その後は教会にいる領民の話を聞いたり、孤児院を慰問したりして過ごす。


こうして私達は無事に1日目の視察を終えた。そして今は、この町にある視察用の屋敷に帰る為に馬車に乗っている所だ。

「ねえ、エマ」

「うん?」

「ユイトって言ったっけ?あの子……何?てゆーか、誰?」

「えっ?!えっ、と……」

……相変わらず、この人の勘とゆーか、何とゆーかが、鋭くて怖いです。いっつも前触れがないから、顔を作れなくて困る。

「エーマー?」

にじり寄って来られる。馬車内なので、逃げ道も無し。

「あ、あう……」

今日も白旗だ。


「……なるほどねぇ。前世の旦那様ねぇ。……それは、女神様の優しさなの?」

ハルトがちょっと憮然とする。

「たぶん…?私、自分がいなくなった後、家族が幸せだったか気にしていたのよ。だから」

「……良かった?」

「うん。幸せだったみたい。安心した。……今生も、幸せになってほしい。できれば、長く添え遂げられる人と。まあ、それだけが幸せという訳じゃないけれど……」

私はハルトを見上げて続ける。

「私にとっての、ハルトみたいな人に会えるといいなと願ったの!私は今、すっっっごく幸せだから!!」

「……っ、もう、エマは……ありがとう」

頬にキスをされる。くすぐったい。


「ユイトがかっこよくなって現れても、エマはあげないしね」

「無いわよ……そしてきっと、ユイトは記憶がないと思うわ」

「何で」

「だって、私達はちょっと女神様の特例だし」

「ああ、そうか。でも、あげない!」

「……ありがとう、ハルト」

ここでさすがに30オーバーの歳の差はキツイだろうとか(歳の差婚とかの否定はしないけれど)、ユイトにも新しい人生と選ぶ権利があるとか、無粋なことは言わないでおく。


(ますます、仕事もがんばらなくっちゃ!皆に幸せになって欲しいもの)


ヤキモチ焼きの旦那様には聞こえないように、心の中でガッツポーズをする。


これからもグリーク王国の聖女として、全部を楽しんで頑張って参ります!



END




─────────────────────────


ここまでお付き合いをしてくれた皆さん、ありがとうございました!少しでも楽しんでいただけたでしょうか……。


ここで、エマ視点は終了です。


番外編的に、シリーズ的に?ラインハルト達の視点や、その後も書いております。ふと思い出したら、ご興味がありましたら、また覗いていただけたら嬉しいです。
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