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52.小さくて大きな悩み
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私達は、きゃっきゃと寮に向かって歩いている。
愛と平和って、こういうことよね…ちょっと違うかしら。でも幸せだ。
私は大仕事を終えて、ほっとした心地でいた。
「ねぇ、エマ聞いてもいい?」
ソフィアが声を掛けてくる。
「うん?何を?」
いい会社名でも思いついたかしら?
「ラインハルト殿下には、何と言われてお付き合いが始まったの?」
キャー!聞いちゃった!って、ソフィアさん…。
「えっと、あの、」
油断していたので、しどろもどろな私。平和な時間はあっという間に崩れ去る…。
「ソフィア、こんな所で聞くのはどうかと思うわ」
せ、セレナ!さすがよ!言ってやって!
「えーっ、だってお茶会で聞きそびれたのだもの……セレナは気にならないの?もう下校時間だし、誰も残ってないわよう!」
ソフィア……そんな天真爛漫っぽい所も好きですけど。
「…………気にならなくはないわ」
うん、セレナの素直な所も好きですよ。
「ふふっ、なるわよねぇ?皆もそうだと思うわ!」
皆さまにこやかに微笑まれる。これ、肯定のやつですね。逃げ道がないわ……。うう。
「お、お付き合いなんてしてないわ。そもそも、そう言われてもいないし」
仕方なく私は口を開く。
「「「「「「えっ?」」」」」」
全員が、鳩が豆鉄砲を食ったような顔になる。
「婚約者にしたい、とは言われた…の。何だか面白いし、か、かわいいし、って。で、でもそれって、聖女だし、国の宝だし、だからかなとも思うのよね」
言ってて悲しくなってきた。そしてきっと纏まりがない。けど何だか止まらない。
「いろいろとね、手を尽くしてくれて感謝もしてるの。すごい人だし、婚約者に、って……光栄なことだと思う。けどやっぱり、ローズとジークには憧れちゃうのよね」
エヘヘ、と、笑って誤魔化すようになってしまう。
「……解るわ」
セレナ。
「エマ、それって、ライハルト殿下からは、はっきりとした気持ちの言葉は貰っていないってことなのね?」
レイチェルの言葉に、頷く。
「わ、あ~、あれだけしておいて、そうかあ」
シャロン。あれだけ、とは?確かにいろいろ助けてもらった…けど。
「威嚇も凄いじゃない。なのに、ねぇ?」
リーゼ。威嚇?初日にあの四人に、ってこと?
「ちょっと、腹立たしさも感じるわね。非常事態の横抱きにしたって、あんなに悋気を……」
ソフィア。
「そうよね……確かな言葉は欲しいわよね?だって、どんなことをしてくれたとしても、きちんと言われなければどうとでも取れるもの。嫌な言い方をすれば、向こうだって逃げられるのよ」
カリン。……そうなのだ。自分も何も伝えてないくせに、臆病になっているのはそこなのだ。情けないけれど。
「でも、あんな殿下を見たのは初めてだもの。私には、エマのことを大好きにしか見えないけれど」
「せっ、セレナはそう思ってくれる?!」
……はっ、思わず食い付いてしまった。皆の視線も集まる。またやってしまった感があるけれど。
「……エマは、そうであって欲しいのね?」
とてもとても優しい顔で、セレナが言う。
セレナの言葉に、顔が赤くなっているのが分かる。
「………………うん。そうなの…」
最後の方は、蚊の鳴くような声だ。
「「「「「「……………………」」」」」」
一瞬の沈黙後。
キャー!!と言うより、ギャー!!に近い悲鳴が廊下中に響き渡る。
「み、皆さん!さすがにはしたないわよ!」
セレナが窘める。
「そ、そうだけど、セレナ、もうエマが可愛すぎるわ!」
「そうよね、ソフィア!もう、隠してしまいたいほどよ!」
「シャロン、分かるわ~!」
「うふふ、そうだと思ってた!」
「ね!レイチェル!」
皆で大盛り上がりだ。学園の人にでも見られたら、きっと皆さんヤバいです。
「気持ちは解るけど。……エマは、ちょっと不安なのよね?」
セレナの言葉に、こくんと頷く。
「さっきカリンも言っていたけど、確かな言葉がないとねぇ」
レイチェル。
「そこよね!殿下、意外とアレねぇ。誰がどう見ても……ではあるけれど」
「本当。ちょっと残念」
ソフィアとカリン。わやわやと、殿下批判が始まってしまう。
「あ、あのね!でもね!殿下、すっごく優しいの!いろいろ考えてくれていてね、皆と仲良くなれたのも……!」
居たたまれなくなって、ちょっと反論してしまう。そして、皆の生温かい視線に気付く。
「あう…だから、その」
もーうー!!せっかく、頑張って気持ちを落ち着けて、1日過ごしていたのにー!
顔が熱い。熱すぎる。
「そうよね、ごめんなさい、エマ」
セレナが代表のように、微笑みながら言う。
「そうね」「うんうん」と、皆もお姉ちゃんのような微笑みだ。
優しい空間だ。恥ずかしいけれど。
その後もあれこれ聞かれながら、私達はようやく寮にたどり着いたのであった。
◇◇◇
寮の自室にようやく帰宅。はーっ、と大きなため息をつく。
「ああ、楽しかったし、充実した時間だったけど、最後疲れた……」
けれど、皆に嘘をつきたくもなかったし。物凄く恥ずかしかったけど。
「恥ずか…しい」
そ、そういえば。
きゃー!きゃー!あ、明日もライハルト殿下はお迎えに来てくれちゃうかしら?く、くれるわよね?
あの生温かい視線の中を、耐えられる自信がない!絶対にまた挙動不審になる!
「ど、どうしようかなあ」
私の小さくて大きな悩みを余所に、夜は更けていった。
愛と平和って、こういうことよね…ちょっと違うかしら。でも幸せだ。
私は大仕事を終えて、ほっとした心地でいた。
「ねぇ、エマ聞いてもいい?」
ソフィアが声を掛けてくる。
「うん?何を?」
いい会社名でも思いついたかしら?
「ラインハルト殿下には、何と言われてお付き合いが始まったの?」
キャー!聞いちゃった!って、ソフィアさん…。
「えっと、あの、」
油断していたので、しどろもどろな私。平和な時間はあっという間に崩れ去る…。
「ソフィア、こんな所で聞くのはどうかと思うわ」
せ、セレナ!さすがよ!言ってやって!
「えーっ、だってお茶会で聞きそびれたのだもの……セレナは気にならないの?もう下校時間だし、誰も残ってないわよう!」
ソフィア……そんな天真爛漫っぽい所も好きですけど。
「…………気にならなくはないわ」
うん、セレナの素直な所も好きですよ。
「ふふっ、なるわよねぇ?皆もそうだと思うわ!」
皆さまにこやかに微笑まれる。これ、肯定のやつですね。逃げ道がないわ……。うう。
「お、お付き合いなんてしてないわ。そもそも、そう言われてもいないし」
仕方なく私は口を開く。
「「「「「「えっ?」」」」」」
全員が、鳩が豆鉄砲を食ったような顔になる。
「婚約者にしたい、とは言われた…の。何だか面白いし、か、かわいいし、って。で、でもそれって、聖女だし、国の宝だし、だからかなとも思うのよね」
言ってて悲しくなってきた。そしてきっと纏まりがない。けど何だか止まらない。
「いろいろとね、手を尽くしてくれて感謝もしてるの。すごい人だし、婚約者に、って……光栄なことだと思う。けどやっぱり、ローズとジークには憧れちゃうのよね」
エヘヘ、と、笑って誤魔化すようになってしまう。
「……解るわ」
セレナ。
「エマ、それって、ライハルト殿下からは、はっきりとした気持ちの言葉は貰っていないってことなのね?」
レイチェルの言葉に、頷く。
「わ、あ~、あれだけしておいて、そうかあ」
シャロン。あれだけ、とは?確かにいろいろ助けてもらった…けど。
「威嚇も凄いじゃない。なのに、ねぇ?」
リーゼ。威嚇?初日にあの四人に、ってこと?
「ちょっと、腹立たしさも感じるわね。非常事態の横抱きにしたって、あんなに悋気を……」
ソフィア。
「そうよね……確かな言葉は欲しいわよね?だって、どんなことをしてくれたとしても、きちんと言われなければどうとでも取れるもの。嫌な言い方をすれば、向こうだって逃げられるのよ」
カリン。……そうなのだ。自分も何も伝えてないくせに、臆病になっているのはそこなのだ。情けないけれど。
「でも、あんな殿下を見たのは初めてだもの。私には、エマのことを大好きにしか見えないけれど」
「せっ、セレナはそう思ってくれる?!」
……はっ、思わず食い付いてしまった。皆の視線も集まる。またやってしまった感があるけれど。
「……エマは、そうであって欲しいのね?」
とてもとても優しい顔で、セレナが言う。
セレナの言葉に、顔が赤くなっているのが分かる。
「………………うん。そうなの…」
最後の方は、蚊の鳴くような声だ。
「「「「「「……………………」」」」」」
一瞬の沈黙後。
キャー!!と言うより、ギャー!!に近い悲鳴が廊下中に響き渡る。
「み、皆さん!さすがにはしたないわよ!」
セレナが窘める。
「そ、そうだけど、セレナ、もうエマが可愛すぎるわ!」
「そうよね、ソフィア!もう、隠してしまいたいほどよ!」
「シャロン、分かるわ~!」
「うふふ、そうだと思ってた!」
「ね!レイチェル!」
皆で大盛り上がりだ。学園の人にでも見られたら、きっと皆さんヤバいです。
「気持ちは解るけど。……エマは、ちょっと不安なのよね?」
セレナの言葉に、こくんと頷く。
「さっきカリンも言っていたけど、確かな言葉がないとねぇ」
レイチェル。
「そこよね!殿下、意外とアレねぇ。誰がどう見ても……ではあるけれど」
「本当。ちょっと残念」
ソフィアとカリン。わやわやと、殿下批判が始まってしまう。
「あ、あのね!でもね!殿下、すっごく優しいの!いろいろ考えてくれていてね、皆と仲良くなれたのも……!」
居たたまれなくなって、ちょっと反論してしまう。そして、皆の生温かい視線に気付く。
「あう…だから、その」
もーうー!!せっかく、頑張って気持ちを落ち着けて、1日過ごしていたのにー!
顔が熱い。熱すぎる。
「そうよね、ごめんなさい、エマ」
セレナが代表のように、微笑みながら言う。
「そうね」「うんうん」と、皆もお姉ちゃんのような微笑みだ。
優しい空間だ。恥ずかしいけれど。
その後もあれこれ聞かれながら、私達はようやく寮にたどり着いたのであった。
◇◇◇
寮の自室にようやく帰宅。はーっ、と大きなため息をつく。
「ああ、楽しかったし、充実した時間だったけど、最後疲れた……」
けれど、皆に嘘をつきたくもなかったし。物凄く恥ずかしかったけど。
「恥ずか…しい」
そ、そういえば。
きゃー!きゃー!あ、明日もライハルト殿下はお迎えに来てくれちゃうかしら?く、くれるわよね?
あの生温かい視線の中を、耐えられる自信がない!絶対にまた挙動不審になる!
「ど、どうしようかなあ」
私の小さくて大きな悩みを余所に、夜は更けていった。
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