私は仕事がしたいのです!

渡 幸美

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45.よしよし

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「エマ嬢、具合はどう?」

何事も無かったかのように、笑顔で聞いてくるラインハルト様。

「サーラ先生のヒールのお陰で、だいぶ楽です」

「寝不足、朝食抜きでの大魔法ぶっぱなしでガス欠しただけさね。心配なさんな」

うう……、その通りだけど、もう少しオブラートに包んで欲しいです……サーラ先生…。


「やっぱり本調子じゃなかったんだね」

「すみません……」

「謝らなくてもいいけどさ、…何でそんな寝不足に?キツい課題でもあったの?」

「あ、いえ……」

「違うの?」

ラインハルト様は、ローズを見る。ローズは苦笑しながら頷く。

「じゃあ……、あ!またあいつら何か言ってきた?!」

「ないです、ないです!…そんな、殿下に気にしていただくような理由ではないので、」

「だって、気になるじゃん!さっきだって、何触られそうになってるのさ?エマ嬢はほんとに鈍い!警戒心がなさすぎ!」

人の言葉を遮って、勝手な事を言う。

「さっきって、頭を撫でられただけですけど」

お疲れさん的なやつじゃないかな?スレン先生だし。

「~~~!だから、そういうとこが、ああもう、この鈍感!」

ちょっと?!そりゃ、ローズやジークにも自覚がどうこう言われてるけど、そんな言い方なくない?それに、そもそもは。

「なっ、何で殿下にそんなことを言われなきゃいけないんです?そもそも、誰のせいで寝られなかったと……!」

腹が立って、つい、叫ぶように言ってしまいながら、気付く。……私、今、何て言った?


「誰のせい、って……えっ?エマ嬢?」

ラインハルト様が少し呆然としたように聞いてくる。いやー!無理ー!!

「だっ、ちがっ、誰のせいでもないです!ただ、寝られなかったんです!サーラ先生に午前中は寝てなさいと言われているので、もう寝ます!ラインハルト様、お見舞いありがとうございました、授業も始まりますのでお戻りください!」

私は一気に言い切って、頭から布団を被る。

もうっ、この頭に血が上ると口を滑らせる性格、何とかしたい。泣けてくる。

「でも、エマ……」

「確かに授業が始まるね。お戻り、ラインハルト。女性にしつこいのも良くないよ」

サーラ先生が口添えしてくれる。ありがとうございます。

「……分かりました。じゃあ、エマ嬢、お大事にね」

「……ありがとうございます」

褒められることではないけれど、私は布団に顔を入れたまま返事をする。どうせ、また赤面中だ。

パタンと、ラインハルト様が退室した音がする。

私はホッと、安堵の息を漏らしてしまう。


「エマ、休むなら私も戻るわね?」

「ま、待ってローズ。あの、また眠れそうにないから……頭よしよししていて欲しい……ローズによしよしされると落ち着くの……」

布団からちょっとだけ顔を出して、ローズにお願いする。子どもみたいで恥ずかしいけれど。

ローズは一瞬驚いた顔をしたけど、すぐに満面の笑顔になった。

「ふふ。エマに甘えられるなんて、嬉しいわ。サーラ先生、よろしいですか?」

「全く、手の焼ける子だよ。寝ないと回復しないしね、寝るまで頼むよ、ローズマリー。授業の先生には遅れると伝えておく」

「ありがとうございます」

「…ありがとう…サーラ先生…」


「はいよ」と、サーラ先生は部屋を出て行く。

そして私は嬉し恥ずかしの甘甘モードでローズによしよししてもらい、ふかーく、ぐっすりと眠ることができた。


◇◇◇


ぐっすりと眠った私は、スッキリと目覚める。

「よく寝たー!」

やっぱり、ローズのよしよしは最強。

あんまり頼むとジークに怒られそうだけど。なんてことを考えていると、お腹がグーと鳴る。

「お、お腹も空いてきた…今、何時?」

時計を見ようと、ベッドを降りたところで保健室のドアがトントンとノックされる。

「エマ。起きてるかしら?」

「レイチェル!さっき起きたの!」

「ちょうど良かった。開けるわね」

そう言って、いつもの三人が入ってきた。

「エマ、もういいの?」

カリンが心配そうに聞いてくれる。

「心配ありがとう。全く問題ないわ」

ふん、と両腕を曲げて力こぶを作る…ような仕草をする。

「良かった、よく眠れたのね?」

「うん、ローズ、ありがとう!」

「ちょうど昼休みよ。食欲は?」

「ありがと、レイチェル。ばっちりあるわ!」

私たちはサーラ先生にご挨拶して、食堂に向かった。


いつものように四人でキャッキャとランチをしていると、リック様が声を掛けてきた。

「エマ様。食事中に申し訳ないが。…少しお時間を頂けるだろうか。そのままで、構わないので」

「リック様。……はい、大丈夫です」

「ローズマリー様や皆様にも先に謝罪しましたが……ご迷惑をおかけしました。申し訳ありませんでした。そして治癒まで…ありがとうございます」

「いえ、ご無事で良かったです」

「それで、あの……今回、このような事を起こしてしまいましたが、謹慎が解けた後にはまた、魔法剣士を目指したく思っています。昔からの目標で……いろいろと、皆様を不安にさせてしまうかもしれませんが、しっかり反省をし、自分を見つめ直しますので!お許しいただけたら、と」

リック様は真剣な顔で、私達四人を見る。

「…リック様、そのようなこと、私達の許しなど必要ないと思いますわ。ねぇ?皆様」

頷く私達。

そして、ローズの言葉に顔色を青くするリック様。

「…勘違いなさらないで?先ほど、エマ様が仰っていたのよ。失敗すれば、気付けることがたくさんある。ご本人が頑張れるのなら、続けて欲しいと。…私もそう思いますわ」

「エマ様が…ローズマリー様も……」

「何かと外野も賑やかかもしれませんが。負けずにご自分を律して頑張って下さい。陰ながら応援致します」

私も答える。

「……!!ありがとうございます!いつかお二人の護衛に付けるよう、努力致します!」


「ありがとう、期待しております」

「楽しみにしていますね」

リック様はなぜか顔を赤くして、最敬礼をして去っていった。

「良かったねぇ、ローズ」

「そうね」


そんな私達を見て、

「「聖女様たちの親衛隊員が誕生したわね」」

と、レイチェルとカリンがぼやいていたそうな。
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