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32.読めない人
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晩餐が始まる。今日も穏やかに進むが、どこか浮わついたような、少し高揚感のあるような、そんな雰囲気だ。
「…そんな訳で、二人のお披露目はひと月半後に決まったよ。年甲斐もなく、楽しみで浮かれてしまうな」
陛下が相好を崩しながら話される。
王妃様はまた涙ぐみ、ナフキンでそっと目尻を拭う。
「「承知致しました」」
ローズと私が答える。二人で視線を合わせて、ふふふっ、と笑う。何だか幸せな空間だ。
そんな私達を見て、王妃様は目を細める。が、次の瞬間、おもむろにキリッとして、
「ひと月半後ですと、時間が少ないわ。早めに二人の採寸をして、揃いのドレスを作らなくては!!」
と、気合いの入ったお言葉をいただいた。
「母上、本気だったのですね」
「当たり前でしょう!ジーク!」
「ははは、衣装はシンシアに任せるよ。二人を可愛くしてあげておくれ」
そうそう、王妃様はシンシア=グリーク様です。
「お任せ下さい、陛下!」
王妃様、楽しそうだ。気合いが入りすぎていてドキドキするけれど、きっと逆らわない方がいいやつだろう。
「二人の聖女かあ、疑っていた訳ではないけれど、真実となると重みが違うよねぇ」
ラインハルト様がしみじみと言う。
「そうだな」
陛下が答える。
「は~、ますます婚約者になるの難しそうだなあ」
「お前はまだ言うのか」
「えっ、ほんとにひどい、兄上。昨日、頑張るって言ったじゃん、俺」
「……お前の本気は判りづらい」
「えー」
いや、本当に本気なのでしょうか?!からかわれているとも思わないけれど。読めない人よね。
「……まあ、エマ次第だな」
ちょっとジークさん、急に折れないで。あとローズ、楽しそうにし過ぎ!!
「いやはや、これから益々楽しみだな!」
陛下、纏めないでください……。
昨日よりは落ち着いた晩餐だったけど、疲労感はあまり変わらないまま、それは終了した。
今日もお泊まり予定は変わらないけれど、明日は学園があるので、パジャマパーティーは無しだ。
「エマ嬢、部屋まで送るよ」
「ラインハルト殿下、あの」動揺してしまう。
「エマ、送らせてあげてくれ。こやつも城内でおかしなことはせん」
「ちょっと父上。それはフォローですか?」
ラインハルト殿下が少し口を尖らせる。
ははは、と陛下が笑う。
うん、少し肩の力が抜けた。壁ばかり作っても仕方ない。ラインハルト様とも向き合ってみよう。
「はい。ではお願いします、殿下」
私は微笑んで言った。
一瞬の間。
「ラインハルト殿下?」
「……っ、いや、うん、行こうか」
「はい、お願いします。皆様、お先に失礼致します」
カーテシーをして、食堂を出る。
「固まっていたわね……」
「いたな……」
「あの笑顔の凶器に気づいてないのは困るわよね……」
「困るな……」
「ははは、エマの長所だろうがな!」
「そうですが、私も心配ですわ、陛下。ハルトが頑張ってくれたらいいですけど……」
畏れ多くも王家の方々にそんな心配をしていただいているとは、私はつゆとも思わずにいた。
◇◇◇◇◇
ラインハルト様と私は、部屋の前に着いた。
歩いている時のエスコートも丁寧で、学園でのお話を聞くのも楽しかった。頭の良い方だとも思う。なぜ、あんなに自由な方と評判が……あ、自由は自由か。でも、とても紳士だ。
「送っていただいて、ありがとうございました。殿下」
私はカーテシーをする。
「ああ、うん。どういたしまして」
「「………………」」あら?
何故に立ち去らない?!
少し離れて付いてきてくれた、サムとリサがちょっと困ってそうですよ?
「あの、殿……」
「エマ嬢、ひとつ聞いてもいい?」
先を越されてしまった。いいですけど。
「はい。何でしょう」
「嫌味じゃなく聞いて欲しいんだけど……例の、学園で纏わり付いている四人、どう思っているの?」
「どう、とは……?」
思わず剣呑な目で見てしまう。
「だから違う!…ごめん、大きい声で、その、本当に……」
しゅーーーんと萎れてしまう、ラインハルト様。
イケメンのしょげた顔って、罪よね。
「……ただのクラスメートで、それ以上でも以下でもありません」
バッとラインハルト様が顔を上げる。
「本当に?」
「改めて確認されますと…本音を言えば、クラスメート以下にはなり得ますね。婚約者様がいらっしゃるのに、信じられないです」
ここだけの話でお願いします、と頭を下げる。
そして沈黙。
「?殿……」
「ふっ、あはははは!やっぱりエマ嬢、最高!」
また遮られてしまった。そして褒められているのか?
「ありがとうございます?」
「だから何で疑問符付くのさ!あはは、褒めてるのに!」
ジークの言う通り、ラインハルト様の本気は判りづらい気がする。
「ごめん、笑いすぎた」
まだ目に涙浮かんでますけどね。
「いいですけど……」
「……でも良かった、本音を聞けて。これで心置きなく動ける」
「動く?なに、を……」
私の問い掛けをまた遮るように、ラインハルト様は私の髪のひと房をさらっと持ち上げ、そしてキスをした。
「~~~~~!!」
私はハカハカしてしまい、声が出ない。
なに、何してるの、この人!
たぶん私、真っ赤だ。うう、恥ずかしい……
「エマ嬢可愛い。……良かった、もっと安心した」
な、何を?何が?!
「引き留めてごめんね。おやすみ。また明日ね」
「……お、やすみ、なさい、ませ……」
片言で返事をするのが精一杯だ。
で、殿下が判らないです!
「…そんな訳で、二人のお披露目はひと月半後に決まったよ。年甲斐もなく、楽しみで浮かれてしまうな」
陛下が相好を崩しながら話される。
王妃様はまた涙ぐみ、ナフキンでそっと目尻を拭う。
「「承知致しました」」
ローズと私が答える。二人で視線を合わせて、ふふふっ、と笑う。何だか幸せな空間だ。
そんな私達を見て、王妃様は目を細める。が、次の瞬間、おもむろにキリッとして、
「ひと月半後ですと、時間が少ないわ。早めに二人の採寸をして、揃いのドレスを作らなくては!!」
と、気合いの入ったお言葉をいただいた。
「母上、本気だったのですね」
「当たり前でしょう!ジーク!」
「ははは、衣装はシンシアに任せるよ。二人を可愛くしてあげておくれ」
そうそう、王妃様はシンシア=グリーク様です。
「お任せ下さい、陛下!」
王妃様、楽しそうだ。気合いが入りすぎていてドキドキするけれど、きっと逆らわない方がいいやつだろう。
「二人の聖女かあ、疑っていた訳ではないけれど、真実となると重みが違うよねぇ」
ラインハルト様がしみじみと言う。
「そうだな」
陛下が答える。
「は~、ますます婚約者になるの難しそうだなあ」
「お前はまだ言うのか」
「えっ、ほんとにひどい、兄上。昨日、頑張るって言ったじゃん、俺」
「……お前の本気は判りづらい」
「えー」
いや、本当に本気なのでしょうか?!からかわれているとも思わないけれど。読めない人よね。
「……まあ、エマ次第だな」
ちょっとジークさん、急に折れないで。あとローズ、楽しそうにし過ぎ!!
「いやはや、これから益々楽しみだな!」
陛下、纏めないでください……。
昨日よりは落ち着いた晩餐だったけど、疲労感はあまり変わらないまま、それは終了した。
今日もお泊まり予定は変わらないけれど、明日は学園があるので、パジャマパーティーは無しだ。
「エマ嬢、部屋まで送るよ」
「ラインハルト殿下、あの」動揺してしまう。
「エマ、送らせてあげてくれ。こやつも城内でおかしなことはせん」
「ちょっと父上。それはフォローですか?」
ラインハルト殿下が少し口を尖らせる。
ははは、と陛下が笑う。
うん、少し肩の力が抜けた。壁ばかり作っても仕方ない。ラインハルト様とも向き合ってみよう。
「はい。ではお願いします、殿下」
私は微笑んで言った。
一瞬の間。
「ラインハルト殿下?」
「……っ、いや、うん、行こうか」
「はい、お願いします。皆様、お先に失礼致します」
カーテシーをして、食堂を出る。
「固まっていたわね……」
「いたな……」
「あの笑顔の凶器に気づいてないのは困るわよね……」
「困るな……」
「ははは、エマの長所だろうがな!」
「そうですが、私も心配ですわ、陛下。ハルトが頑張ってくれたらいいですけど……」
畏れ多くも王家の方々にそんな心配をしていただいているとは、私はつゆとも思わずにいた。
◇◇◇◇◇
ラインハルト様と私は、部屋の前に着いた。
歩いている時のエスコートも丁寧で、学園でのお話を聞くのも楽しかった。頭の良い方だとも思う。なぜ、あんなに自由な方と評判が……あ、自由は自由か。でも、とても紳士だ。
「送っていただいて、ありがとうございました。殿下」
私はカーテシーをする。
「ああ、うん。どういたしまして」
「「………………」」あら?
何故に立ち去らない?!
少し離れて付いてきてくれた、サムとリサがちょっと困ってそうですよ?
「あの、殿……」
「エマ嬢、ひとつ聞いてもいい?」
先を越されてしまった。いいですけど。
「はい。何でしょう」
「嫌味じゃなく聞いて欲しいんだけど……例の、学園で纏わり付いている四人、どう思っているの?」
「どう、とは……?」
思わず剣呑な目で見てしまう。
「だから違う!…ごめん、大きい声で、その、本当に……」
しゅーーーんと萎れてしまう、ラインハルト様。
イケメンのしょげた顔って、罪よね。
「……ただのクラスメートで、それ以上でも以下でもありません」
バッとラインハルト様が顔を上げる。
「本当に?」
「改めて確認されますと…本音を言えば、クラスメート以下にはなり得ますね。婚約者様がいらっしゃるのに、信じられないです」
ここだけの話でお願いします、と頭を下げる。
そして沈黙。
「?殿……」
「ふっ、あはははは!やっぱりエマ嬢、最高!」
また遮られてしまった。そして褒められているのか?
「ありがとうございます?」
「だから何で疑問符付くのさ!あはは、褒めてるのに!」
ジークの言う通り、ラインハルト様の本気は判りづらい気がする。
「ごめん、笑いすぎた」
まだ目に涙浮かんでますけどね。
「いいですけど……」
「……でも良かった、本音を聞けて。これで心置きなく動ける」
「動く?なに、を……」
私の問い掛けをまた遮るように、ラインハルト様は私の髪のひと房をさらっと持ち上げ、そしてキスをした。
「~~~~~!!」
私はハカハカしてしまい、声が出ない。
なに、何してるの、この人!
たぶん私、真っ赤だ。うう、恥ずかしい……
「エマ嬢可愛い。……良かった、もっと安心した」
な、何を?何が?!
「引き留めてごめんね。おやすみ。また明日ね」
「……お、やすみ、なさい、ませ……」
片言で返事をするのが精一杯だ。
で、殿下が判らないです!
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