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23.二人の聖女
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『二人の聖女』は、この国の建国神話だ。まだ空も大地も落ち着かない頃、女神は民の祈りに答えてこの地に二人の聖女を遣わされた。二人の聖女の御力で空は耀きを取り戻し、大地は静かに安らいだ。人々は聖女を遣わせてくれた女神様に感謝し、毎日祈りを捧げるようになった。この国の女神信仰の所以だ。
「皆知ってるお伽噺…ですよね」
「そうだな、が、一概にお伽噺とも言えんでな。王家の古い文献にはもっと詳細が書かれているのだ」
王家の文献…それ、私も聞いていいやつ?
「エマは聖女であるし、聞いてくれて構わないさ。当事者だろう、寧ろ」
私の疑問が顔に出ていたらしい。陛下は優しい笑みを湛えながらそうおっしゃってくれた。
「…その文献によると、その当時は小さな国々が乱立し、争いが絶えず、人心がとても荒れていたらしい。その人々の感情に突き動かされるように山は怒りの火を噴き上げ、川は暴れ、太陽の光が大地に届かず…という状況が、数ヶ月続いたようだ。人々は悔い改めひとつになり、女神に乞い、祈り……暫くして女神は祈りと後悔を受け入れ、『太陽の聖女』と『月の聖女』を遣わせて下さった」
「太陽と、月……」
「そうだよ、エマ。君が持ったローズのイメージだ。更に文献にはね、こうある。月の聖女は山と川と大地を安らかに鎮め、太陽の聖女は空に光を取り戻し、山と大地に緑を育てたと。そして癒しの力で人々を助け、国の安寧に努めてくれたそうだ」
「今までも…ローズのように、月の聖女の資質を持った者はいなかったのでしょうか…」
ジークが溢す。
「…そうだな、いたかも知れないし、いなかったかも知れない。魔力判定の結果は全て教会から王家に必ず上げられて来るが、ここ二代は闇魔法の申告はない。長い時間の経過で、月の聖女の力…闇魔法が曲解されていったのだろう、もし闇魔法の資質を持っていたとしても、闇魔法持ちを公言する者はほとんどいなかったようだし……それを伸ばす者もいなかった。いつからそうなってしまったのかはもう、今となっては判りかねるが、王家の失態とも言えるだろう。我々も、曇った目で闇魔法を見ていたのだから」
「そうですよね…」
太陽の……光の方が人々にとっては分かりやすい力だ。
きっと、悲しい何かがあって、月の光は失われてしまったのだろう。そう思うと切ない。
「元々、聖女も、そう易々と生まれてくる訳じゃないしな。エマが30年振りくらいかな?」
「はい、そう聞きました」
「今代は二人の聖女が揃った!目出度いではないか!ローズが月の力を使いこなせるようになり次第、公表しよう。そうすれば、他の能力者も手を上げるかも知れない。…今までの罪滅ぼしではないが、闇魔法もきちんと研究せんとな」
「ありがとう、エマのお陰よ」
「そんなこと……」
「無くはないでしょ、長い間、誰も気づかなかったんだからさ」
今まで黙っていた、ラインハルト様が口を挟む。
「さすが、今までの中でも最高聖女と言われるだけあるよね、父上」
「そうだな。我らもある意味で救われた。ありがとう、エマ」
「勿体ないお言葉です」
「あー、でもこうなると、俺との婚約は無し~?」
あ、まだ言うの?
「ハルト、いい加減になさい。さすがに目に余ります。人にはいつも誠実にと言っているでしょう!」
さすがの王妃様も、ラインハルト様を諌める。
「わあ、母上にも怒られた…」
「全くお前は…そうだな、ローズに続きエマまでもが王家に連なってくれるなら、それはそれは喜ばしいことだが、王命を出すことはないな。ハルトが望むなら、自力で頑張るのだな」
「……分かった、頑張る」
……えっっっ?!?!
「が、頑張るの?ですか?」
思わず確認してしまった。この人、読めないわ……。
でも、悪い人ではない気がする。何となくだけど。
だからって、婚約はしませんけど。
「ぷぷっ、やっぱりエマ嬢、いいね!うん、頑張るよー!よろしくね?」
うっ、王妃様似の綺麗なご尊顔で、覗き込まれるように見られるとさすがにドキドキする。顔が近くて、思わず少し後退ってしまう。
「ハルト!」
「ハイハイ、すみませんでした、兄上。もう話は終わりだよね?部屋に戻りまーす!」
「待て、お前は少し、」
「じゃあね、ローズ義姉さん、エマ嬢ー!また学園で!父上母上おやすみなさいませ!」
腕を取ろうとしたジークをすり抜け、ラインハルト様はしれっと出て行った。
「全く、あいつは…すまない、エマ」
「い、いえ」
まだちょっとドキドキしてますが。あの至近距離、エマでは初です。
「では、我々もそろそろ…」
と、陛下が言いかけた所で、ドアがバターン!と開く。
「そうそう、ローズ義姉さんに言い忘れた!エマ嬢が俺と結婚したら、姉妹になれるよ?!どう?協力しない?」
ラインハルト様……。
「ラインハルト様!全くあなた様は…!」
「ごめんて、サム。戻る戻る!義姉さんも考えといてー!」
「考えるって……ローズ?」
なにやらブツブツしてますが……ちょっと?
「姉妹……エマと姉妹……いいわね……!」
ちょっとローズ!確かに嬉しいけど、ちょっと待ってー!
「こら、ローズ、簡単に乗せられるな。エマが困ってるぞ」
ジークがローズの頭を軽くこつんと叩く。
「はっ、ごめんなさい、余りに嬉しい甘言に、つい」
「ローズの気持ちも分かるわー、私も、ローズもエマも可愛くて仕方ないもの!!二人にお揃いのドレスを着せたい!!」
え、王妃様まで参戦しないでいただきたいですが……。
ありがたいことですが。
「お揃いのドレスは、改めて聖女二人をお披露目の時にでもやったらいいじゃないですか。何もハルトの妃にしなくとも」
「あらっ、それはいいわね!でも、何よ、ジークはエマが家族になるのは反対なの?」
「そんなことはないです。あいつが不安なだけです」
「情けないけど、そこよね……」
「もうよさないか、三人とも。エマがらしくなくオロオロしておるぞ」
「「「あ」」」
「我らも戻ろうか」
陛下の鶴の一声で、ようやく解散になった。
晩餐は美味しかったけど…疲れたあ。
「皆知ってるお伽噺…ですよね」
「そうだな、が、一概にお伽噺とも言えんでな。王家の古い文献にはもっと詳細が書かれているのだ」
王家の文献…それ、私も聞いていいやつ?
「エマは聖女であるし、聞いてくれて構わないさ。当事者だろう、寧ろ」
私の疑問が顔に出ていたらしい。陛下は優しい笑みを湛えながらそうおっしゃってくれた。
「…その文献によると、その当時は小さな国々が乱立し、争いが絶えず、人心がとても荒れていたらしい。その人々の感情に突き動かされるように山は怒りの火を噴き上げ、川は暴れ、太陽の光が大地に届かず…という状況が、数ヶ月続いたようだ。人々は悔い改めひとつになり、女神に乞い、祈り……暫くして女神は祈りと後悔を受け入れ、『太陽の聖女』と『月の聖女』を遣わせて下さった」
「太陽と、月……」
「そうだよ、エマ。君が持ったローズのイメージだ。更に文献にはね、こうある。月の聖女は山と川と大地を安らかに鎮め、太陽の聖女は空に光を取り戻し、山と大地に緑を育てたと。そして癒しの力で人々を助け、国の安寧に努めてくれたそうだ」
「今までも…ローズのように、月の聖女の資質を持った者はいなかったのでしょうか…」
ジークが溢す。
「…そうだな、いたかも知れないし、いなかったかも知れない。魔力判定の結果は全て教会から王家に必ず上げられて来るが、ここ二代は闇魔法の申告はない。長い時間の経過で、月の聖女の力…闇魔法が曲解されていったのだろう、もし闇魔法の資質を持っていたとしても、闇魔法持ちを公言する者はほとんどいなかったようだし……それを伸ばす者もいなかった。いつからそうなってしまったのかはもう、今となっては判りかねるが、王家の失態とも言えるだろう。我々も、曇った目で闇魔法を見ていたのだから」
「そうですよね…」
太陽の……光の方が人々にとっては分かりやすい力だ。
きっと、悲しい何かがあって、月の光は失われてしまったのだろう。そう思うと切ない。
「元々、聖女も、そう易々と生まれてくる訳じゃないしな。エマが30年振りくらいかな?」
「はい、そう聞きました」
「今代は二人の聖女が揃った!目出度いではないか!ローズが月の力を使いこなせるようになり次第、公表しよう。そうすれば、他の能力者も手を上げるかも知れない。…今までの罪滅ぼしではないが、闇魔法もきちんと研究せんとな」
「ありがとう、エマのお陰よ」
「そんなこと……」
「無くはないでしょ、長い間、誰も気づかなかったんだからさ」
今まで黙っていた、ラインハルト様が口を挟む。
「さすが、今までの中でも最高聖女と言われるだけあるよね、父上」
「そうだな。我らもある意味で救われた。ありがとう、エマ」
「勿体ないお言葉です」
「あー、でもこうなると、俺との婚約は無し~?」
あ、まだ言うの?
「ハルト、いい加減になさい。さすがに目に余ります。人にはいつも誠実にと言っているでしょう!」
さすがの王妃様も、ラインハルト様を諌める。
「わあ、母上にも怒られた…」
「全くお前は…そうだな、ローズに続きエマまでもが王家に連なってくれるなら、それはそれは喜ばしいことだが、王命を出すことはないな。ハルトが望むなら、自力で頑張るのだな」
「……分かった、頑張る」
……えっっっ?!?!
「が、頑張るの?ですか?」
思わず確認してしまった。この人、読めないわ……。
でも、悪い人ではない気がする。何となくだけど。
だからって、婚約はしませんけど。
「ぷぷっ、やっぱりエマ嬢、いいね!うん、頑張るよー!よろしくね?」
うっ、王妃様似の綺麗なご尊顔で、覗き込まれるように見られるとさすがにドキドキする。顔が近くて、思わず少し後退ってしまう。
「ハルト!」
「ハイハイ、すみませんでした、兄上。もう話は終わりだよね?部屋に戻りまーす!」
「待て、お前は少し、」
「じゃあね、ローズ義姉さん、エマ嬢ー!また学園で!父上母上おやすみなさいませ!」
腕を取ろうとしたジークをすり抜け、ラインハルト様はしれっと出て行った。
「全く、あいつは…すまない、エマ」
「い、いえ」
まだちょっとドキドキしてますが。あの至近距離、エマでは初です。
「では、我々もそろそろ…」
と、陛下が言いかけた所で、ドアがバターン!と開く。
「そうそう、ローズ義姉さんに言い忘れた!エマ嬢が俺と結婚したら、姉妹になれるよ?!どう?協力しない?」
ラインハルト様……。
「ラインハルト様!全くあなた様は…!」
「ごめんて、サム。戻る戻る!義姉さんも考えといてー!」
「考えるって……ローズ?」
なにやらブツブツしてますが……ちょっと?
「姉妹……エマと姉妹……いいわね……!」
ちょっとローズ!確かに嬉しいけど、ちょっと待ってー!
「こら、ローズ、簡単に乗せられるな。エマが困ってるぞ」
ジークがローズの頭を軽くこつんと叩く。
「はっ、ごめんなさい、余りに嬉しい甘言に、つい」
「ローズの気持ちも分かるわー、私も、ローズもエマも可愛くて仕方ないもの!!二人にお揃いのドレスを着せたい!!」
え、王妃様まで参戦しないでいただきたいですが……。
ありがたいことですが。
「お揃いのドレスは、改めて聖女二人をお披露目の時にでもやったらいいじゃないですか。何もハルトの妃にしなくとも」
「あらっ、それはいいわね!でも、何よ、ジークはエマが家族になるのは反対なの?」
「そんなことはないです。あいつが不安なだけです」
「情けないけど、そこよね……」
「もうよさないか、三人とも。エマがらしくなくオロオロしておるぞ」
「「「あ」」」
「我らも戻ろうか」
陛下の鶴の一声で、ようやく解散になった。
晩餐は美味しかったけど…疲れたあ。
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