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第四章 そして学園
63.魔法と妖精さん
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「……わたくしが、あの時……何もできなかったのは認めますわ。初めて見る魔獣はあまりにも大きくて、怖くて。授かった力に応えられず悔しくて、あの日からたくさん魔法の練習をしたのです」
ともかく、話をしてみよう。そう思ってデュオルの目を真っ直ぐに見て話した。
「……何もできなかったことには変わりないじゃないか」
「グリッタくん。それはいけない。君はあの場にいなかったのだろう?初めて魔獣と対峙して、怯えぬ人などそうはいない。彼女はまだ10歳の時で、しかも魔獣は変異種だった。どれだけの恐怖だったか。結果魔獣を抑えたのが殿下や聖女様だったとしても、リリアンナさんとそしてドゥルキスさんも、やれるだけのフォローはしてくれていたんだよ。それだってなかなかできることではない」
デュオルの悔し紛れのような拙い反論に、先生がいつもののんびり口調ではなく、しっかりと叱って、諭してくれる。その優しさに私まで泣きそうになる。ちゃんとした先生がいてくれるのってありがたい。
当時もちろん家族たちは優しく声をかけてくれたけど、家族は家族な訳で。あの場にいなかった第三者の温かい言葉には、あの時の私も少し救われる心地だ。
「……だって。だったら何で、姉上だけが叱られたんだ?父上たちも、酷くて……!おれ、と、姉上はいつも兄たちと比べられて……二人で頑張って……父上は姉上に無茶ばかり……才能あふれる世代に生まれたのに、お前たちは凡庸だと……」
デュオルが泣きそうな顔で、先生に訴える。エレナの件での対応を見ていて、親が微妙かもと私が思ったのは気のせいではなかったらしい。
彼にはエレナのやらかしも伏せてあるのだろう。そうなると同じ被害者なのに、なぜ、と考えるのは仕方のない部分もあるかあ。ううむ、グリッタ家……。
「そもそも!魔力量なんて与えられたものだろ!運だろ!!努力なんかじゃ、ないじゃないか!!!」
『それは少し違うのぅ、少年よ』
デュオルの、いや、誰もが一度は思うであろう、才能論とでも言おうか。何となく反論しづらいその言葉に、ふわっと入ってきた美しい声。
「るっ、シルフ様!どうして?」
『愛し子の顔を見にな。……それと、例のブレスレットと同じ気配を感じると、妖精たちから知らせがあってな』
ルシールはいつもの優しげな微笑みで現れて、後半部分は私の耳元でこっそりと囁いてきた。
「え、まさか、また……?」
「さっ、サバンズさん!その、方は、本当にっ……?!」
「あっ」
私がルシーに慌てて聞き返そうとするよりも勢いよく、アイル先生が叫ぶように聞いてきた。
それはそうだったわ。
クラスメイトも呆然としているし。
『我が愛し子が世話になっている。風の精霊のシルフだ。ふむ、お主は教師か。なかなか綺麗な魔力をしておる』
「きょ、恐縮です!」
ルシーの美麗な微笑みに倒れそうになりながらも、アイル先生は90度に腰をガバッと折った。
『そんなに畏まらずとも良いぞ』と、さすがのルシーも引き気味に先生に声をかけて、『さて』と、デュオルの方を見た。
『お主、魔力量がどうのと言っておったが。リリーとて最初からそう恵まれておった訳ではないぞ』
「え……」
いきなり精霊様に声をかけられたことと、内容に、デュオルは目線を彷徨わせる。
『リリーを見ていて気に入った我が必要と思い、後天的に与えたのだ』
「で、でも、それだって……!」
『お主はこの国の建国神話は知っておるか?』
「は、はい」
ルシーの言葉に、デュオルだけではなく、クラスメイト皆も耳を傾けていて頷く様子が見える。
建国神話……確か妖精さんたちが人間に魔力を分けてくれて、って。
「あっ!もしかして、妖精さんって人間に魔力を分けられたりするの?」
『そうだ。さすがリリーだな』
でもそれは。
「妖精さんたち、危険じゃない?悪い人間に捕まったりとか……」
『妖精は身を隠せるからの。問題はない。だから見える人間が減った、と言えば分かりやすいかの?』
全体が、ああ……という雰囲気になる。
『まあ、それは理由の一部でしかないが、それでも関わる。少年、精霊や妖精は魂を愛した人間のみに祝福を与えるのだ。我らは純粋な魂を求める。あとは相性とでも言おうか。人間同士でもあるだろう?』
ルシールの言葉を、皆がそれぞれ噛み締めているのが分かる。
「あ、あの!精霊様、よろしいでしょうか?」
パーパティちゃんが、緊張しながらもビシッと手を上げて、ルシールに声をかけてきた。
『良いぞ。ふむ、お主も明るい魔力でいいな』
「あっ、ありがとうございます!あの、それはつまりわたくし達も努力や研鑽を積めば、妖精さんたちと仲良くできると言うことでしょうか」
『そういうことだ。そもそもこの国は我らと共存している数少ない国のひとつだ。妖精は用心深いからの、目に見える力だけではない研鑽が必要だが、昔のように人と関わりを願う者も多い。我も皆に期待しよう』
パーパティちゃんやクラスメイトの顔がパッと華やぐ。うんうん、嬉しいよねぇ。妖精さん見たいよね!
「……でも、教えてくれてたら良かったのに」
『はは、すまんすまん。まだ少し人間の様子を見ていたのでな。リリーたちのお陰で妖精たちも以前のように過ごしやすくなったのを認めたから、な』
コソッとルシールに愚痴ると、言い聞かせるような優しい笑顔で頭をぽんぽんされた。うっ、顔が良すぎる。眩しすぎる。
「それでルシー、例の気配って……」
と、そこまで言った所で、二人でその気配に気づく。何となくモヤモヤした、嫌な感じ。
「妖精……研鑽……ちから、じゃなく……?」
それは呆然と下を向いて呟く、デュオルを覆おうとしていた。
ともかく、話をしてみよう。そう思ってデュオルの目を真っ直ぐに見て話した。
「……何もできなかったことには変わりないじゃないか」
「グリッタくん。それはいけない。君はあの場にいなかったのだろう?初めて魔獣と対峙して、怯えぬ人などそうはいない。彼女はまだ10歳の時で、しかも魔獣は変異種だった。どれだけの恐怖だったか。結果魔獣を抑えたのが殿下や聖女様だったとしても、リリアンナさんとそしてドゥルキスさんも、やれるだけのフォローはしてくれていたんだよ。それだってなかなかできることではない」
デュオルの悔し紛れのような拙い反論に、先生がいつもののんびり口調ではなく、しっかりと叱って、諭してくれる。その優しさに私まで泣きそうになる。ちゃんとした先生がいてくれるのってありがたい。
当時もちろん家族たちは優しく声をかけてくれたけど、家族は家族な訳で。あの場にいなかった第三者の温かい言葉には、あの時の私も少し救われる心地だ。
「……だって。だったら何で、姉上だけが叱られたんだ?父上たちも、酷くて……!おれ、と、姉上はいつも兄たちと比べられて……二人で頑張って……父上は姉上に無茶ばかり……才能あふれる世代に生まれたのに、お前たちは凡庸だと……」
デュオルが泣きそうな顔で、先生に訴える。エレナの件での対応を見ていて、親が微妙かもと私が思ったのは気のせいではなかったらしい。
彼にはエレナのやらかしも伏せてあるのだろう。そうなると同じ被害者なのに、なぜ、と考えるのは仕方のない部分もあるかあ。ううむ、グリッタ家……。
「そもそも!魔力量なんて与えられたものだろ!運だろ!!努力なんかじゃ、ないじゃないか!!!」
『それは少し違うのぅ、少年よ』
デュオルの、いや、誰もが一度は思うであろう、才能論とでも言おうか。何となく反論しづらいその言葉に、ふわっと入ってきた美しい声。
「るっ、シルフ様!どうして?」
『愛し子の顔を見にな。……それと、例のブレスレットと同じ気配を感じると、妖精たちから知らせがあってな』
ルシールはいつもの優しげな微笑みで現れて、後半部分は私の耳元でこっそりと囁いてきた。
「え、まさか、また……?」
「さっ、サバンズさん!その、方は、本当にっ……?!」
「あっ」
私がルシーに慌てて聞き返そうとするよりも勢いよく、アイル先生が叫ぶように聞いてきた。
それはそうだったわ。
クラスメイトも呆然としているし。
『我が愛し子が世話になっている。風の精霊のシルフだ。ふむ、お主は教師か。なかなか綺麗な魔力をしておる』
「きょ、恐縮です!」
ルシーの美麗な微笑みに倒れそうになりながらも、アイル先生は90度に腰をガバッと折った。
『そんなに畏まらずとも良いぞ』と、さすがのルシーも引き気味に先生に声をかけて、『さて』と、デュオルの方を見た。
『お主、魔力量がどうのと言っておったが。リリーとて最初からそう恵まれておった訳ではないぞ』
「え……」
いきなり精霊様に声をかけられたことと、内容に、デュオルは目線を彷徨わせる。
『リリーを見ていて気に入った我が必要と思い、後天的に与えたのだ』
「で、でも、それだって……!」
『お主はこの国の建国神話は知っておるか?』
「は、はい」
ルシーの言葉に、デュオルだけではなく、クラスメイト皆も耳を傾けていて頷く様子が見える。
建国神話……確か妖精さんたちが人間に魔力を分けてくれて、って。
「あっ!もしかして、妖精さんって人間に魔力を分けられたりするの?」
『そうだ。さすがリリーだな』
でもそれは。
「妖精さんたち、危険じゃない?悪い人間に捕まったりとか……」
『妖精は身を隠せるからの。問題はない。だから見える人間が減った、と言えば分かりやすいかの?』
全体が、ああ……という雰囲気になる。
『まあ、それは理由の一部でしかないが、それでも関わる。少年、精霊や妖精は魂を愛した人間のみに祝福を与えるのだ。我らは純粋な魂を求める。あとは相性とでも言おうか。人間同士でもあるだろう?』
ルシールの言葉を、皆がそれぞれ噛み締めているのが分かる。
「あ、あの!精霊様、よろしいでしょうか?」
パーパティちゃんが、緊張しながらもビシッと手を上げて、ルシールに声をかけてきた。
『良いぞ。ふむ、お主も明るい魔力でいいな』
「あっ、ありがとうございます!あの、それはつまりわたくし達も努力や研鑽を積めば、妖精さんたちと仲良くできると言うことでしょうか」
『そういうことだ。そもそもこの国は我らと共存している数少ない国のひとつだ。妖精は用心深いからの、目に見える力だけではない研鑽が必要だが、昔のように人と関わりを願う者も多い。我も皆に期待しよう』
パーパティちゃんやクラスメイトの顔がパッと華やぐ。うんうん、嬉しいよねぇ。妖精さん見たいよね!
「……でも、教えてくれてたら良かったのに」
『はは、すまんすまん。まだ少し人間の様子を見ていたのでな。リリーたちのお陰で妖精たちも以前のように過ごしやすくなったのを認めたから、な』
コソッとルシールに愚痴ると、言い聞かせるような優しい笑顔で頭をぽんぽんされた。うっ、顔が良すぎる。眩しすぎる。
「それでルシー、例の気配って……」
と、そこまで言った所で、二人でその気配に気づく。何となくモヤモヤした、嫌な感じ。
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それは呆然と下を向いて呟く、デュオルを覆おうとしていた。
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