上 下
71 / 80
第四章 そして学園

61.ご挨拶

しおりを挟む
マリーアとヒンターの甘酸っぱい話からの翌日。

登校時、ちょうど校門前でヒンターと時間が重なり、私たちを馬車からエスコートしてくれた。
私はかなり顔がニヤけていたらしく、ヒンターに「いいことでもあったのか?」と怪訝な顔で聞かれる。

「うふふ。そりゃあ、もう、ねぇ?」
「り、リリー!」
「いいじゃない!姉さま!これからもよろしくね?ヒンターお兄様?」

さっそくイジれるタイミングが来たわ~!ここはウキウキで言っちゃうよ!

「---っ!」

ヒンターはバッと顔を赤くして後退り、マリーアを見る。そしてマリーアが口を開く……前に、

「リリー?ヒンターをお兄様って?どういうこと?」
「ひゃっ?!ふぃ、フィス?!おは、おはよう!」
「おはよう。ねぇ、どういうこと?」

ぐいっとサーフィスが登場してきた。いつの間に!そして笑顔が若干怖い。たたた確か、まだ内緒なんだよね?

「い、いやあ~、昨日も学園案内してもらって頼りになったし、今もエスコートしてもらったし、お兄ちゃんみたいだな、って……」

何だか浅い言い訳だなと自分でも思いながら、あわあわ話す。フィスは軽く口を尖らせて納得していないご様子だわ。ちょっとかわい……じゃなく、他に言い訳を……

「ふぅ~ん?……俺のことそう呼んだことないくせに……」

ん?

「……フィス。お前はリリーの兄を目指している訳じゃないだろ?」
「そうだけど!何だか悔しい!」

ヒンターが冷静さを取り戻し、目を細めてサーフィスの肩をポンと叩いた。そして私に何か言えとの圧力をかけてくる。ぐぬぬ、難題を……!しかし、サーフィスが二人の事に考えが及ばなかったのはよしとはいえ、元はと言えば私の軽口が原因、捻り出さねば……!

「ええっと?フィスの事もお兄ちゃんみたいに頼りにしてるよ……?」

結局私はどう応えるのが正解か判らず、ふわっと言葉を返した。何だかんだ、頼りにしているのは事実だし。これで合ってるといいのだけれど、自信ないわ。

「うん。頼りにしてくれるのは嬉しい。けどやっぱり……」

「マリーア様!リリアンナ様!おはようございます!」

にひゃりと緩んだ顔をしながら、サーフィスがまた難癖?をつけそうな時、元気な声が入ってきた。ちょっと助かったけど。

「ソーニャ様。おはようこざいます」
「おはよう」

マリーアと共に挨拶を返す。
この子はいつもこう、タイミングがいいと言うか、何と言うかの時に現れるなあ。たまたま、なのだろうけれど。
今朝も小動物のように、てててと寄ってくる。うん、あざとかわいい。

「!ヒンター様と、で、殿下?!気づかず、も、申し訳ありません、ご無礼を!」

ちょうど昇降口の壁の陰になっていた二人が見えなかったようで、慌てて頭を下げる。この辺のきちんとフィスを殿下と扱う辺りは、変な心配しなくていいのかなあ。

「構わないよ。君は1年生かな?」

サーフィスがキラキラ王太子モードで優しく返す。この辺はさすがだ。ソーニャは「ま、眩しい……」と、やや現実から飛びそうになっている。フォロー、フォローだ。

「フィス様。わたくしのクラスメイトのソーニャ=シュマール様ですわ」
「シュマール男爵家の?そうか、君が。優秀と聞いている。これからも頑張ってね、期待しているよ」
「勿体ないお言葉です!」

ソーニャは両手を胸の前で振りそうになるのを慌てて抑えて、淑女の礼をとる。うん、及第点だ。

「学園だし、そこまで畏まらなくていいよ」
「あ、ありがとうございます!あの、お二人は毎朝ご一緒なのですか?素敵ですね!」
「お二人?」
「殿下と、聖女マリーア様です!」

「ああ……」サーフィスは呟きながら、私たちに目線を配り、ソーニャに対して笑顔を向ける。

「それはないかな。もちろん、今日みたいにたまたま会えば教室までは共に行くけどね。敢えて、はないかな。ねぇ?マリー?」
「そうですね。フィス様とは教室でも会えますので、できるだけリリーとの時間を取りたいですもの」
「ふふ。マリーの1番はリリーだものな」
「もちろんですわ」

今朝もマリーアの愛が重い。思わずちらりとヒンターを見てしまう。ヒンターは私の視線に気づいて、パチンと笑顔で軽くウインクした。こういうことがサラッとできて似合ってしまうのが凄いわ。そして二人は余計な心配なんていらないくらいの関係性なんだね。このシスコンぶりを余裕を持って見てくれる人はなかなかいないだろう、貴重だ。ほっとするやら、羨ましいやらだね!

「リリアンナ様が……1番……」

そんな中でのソーニャの呟きは、私たちの耳には届かなかった。

「ソーニャ様?そろそろ教室に向かいましょう?」
「あ、はい!あの、すみません、マリーア様。リリアンナ様との時間を……」
「やだ、そこは気にしないで。リリーのお友だちと一緒も嬉しいもの」
「マリーア様……!」

憧れのマリーアの笑顔に、感動した面持ちなるソーニャ。うきうきと共に教室へと向かう。

その様子を、デュオルが少し困り顔で見ていたことなど、気づかずに。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

アホ王子が王宮の中心で婚約破棄を叫ぶ! ~もう取り消しできませんよ?断罪させて頂きます!!

アキヨシ
ファンタジー
貴族学院の卒業パーティが開かれた王宮の大広間に、今、第二王子の大声が響いた。 「マリアージェ・レネ=リズボーン! 性悪なおまえとの婚約をこの場で破棄する!」 王子の傍らには小動物系の可愛らしい男爵令嬢が纏わりついていた。……なんてテンプレ。 背後に控える愚か者どもと合わせて『四馬鹿次男ズwithビッチ』が、意気揚々と筆頭公爵家令嬢たるわたしを断罪するという。 受け立ってやろうじゃない。すべては予定調和の茶番劇。断罪返しだ! そしてこの舞台裏では、王位簒奪を企てた派閥の粛清の嵐が吹き荒れていた! すべての真相を知ったと思ったら……えっ、お兄様、なんでそんなに近いかな!? ※設定はゆるいです。暖かい目でお読みください。 ※主人公の心の声は罵詈雑言、口が悪いです。気分を害した方は申し訳ありませんがブラウザバックで。 ※小説家になろう・カクヨム様にも投稿しています。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

【完結】貴方たちはお呼びではありませんわ。攻略いたしません!

宇水涼麻
ファンタジー
アンナリセルはあわてんぼうで死にそうになった。その時、前世を思い出した。 前世でプレーしたゲームに酷似した世界であると感じたアンナリセルは自分自身と推しキャラを守るため、攻略対象者と距離を置くことを願う。 そんな彼女の願いは叶うのか? 毎日朝方更新予定です。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

処理中です...