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第三章 建国祭と学園と

53.まさかの出現

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私たちがサンドイッチを食べ終わる頃、マリーアとテンダーも休憩に入り、五人で学園祭の続きを回る。

さっき行った魔道具研究会も楽しかったし、魔力を使った射的とか、魔法で時間ごとに道が変わる迷路とか、この学園ならではのものも多くてとても面白い。ファンタジーだ。ちなみに、今のところ私たちのチームが一番短時間で迷路を攻略して、金色バッジをもらってつけている。これが抜かれると自然と銀に変わる魔法がかかっているらしい。「おお」と感動したが、イデアに聞くと基本的な構造でできるらしい。基本なのか。それもすごいな。

「ふふん、金バッジ~」
「ふふっ、リリー、そんなに嬉しい?」
「うん!みんなで頑張った記念だし」

前世でもあまり表彰とかをされたことのない私は、こういうのに弱い。ちっさなことでもめちゃめちゃ嬉しい。エヘヘと笑えば、マリーアとフィスに抱きしめられた。フィスはすぐにマリーアに引き剥がされていたけれど。
いじけたフィスと肩を組んで笑うテンダーと、照れながら私にハグしてくるイデアと、優しい仲間と贅沢な時間を過ごせて幸せだなとしみじみする。

「あ、ねえ、フィス。ヒンターやマークとは一緒できないの?」
「いや、そろそろ……」

『リリー、リリー!!』
『みんなも、みんなもよ~!』

幸せを噛みしめながら、次は植物園を見に行こうと校庭に出ると、珍しく焦ったように学園の妖精さんたちが目の前に現れた。

「こんにちは、妖精さん。どうしたの?そんなに慌てて」
『こんにちは~、じゃないのよ、たいへんたいへんよ!』
『ほらほらあのこ!とってもこわいの』
「え?あの子って……もしかして、グリッタ様?」
『そうそう、その子!気持ち悪いの~!』
『きゃ~!こっちに来る~!あれね、あれね、魔物をよぶの!』
「「「「「は?!」」」」」

かわいい妖精さんをニコニコ眺めていた私たちは、一斉に妖精さんが指さす後ろを振り返る。

そこには、虚ろな顔をしたグリッタ様がいた。ふらふらとした足取りで、でも確実にこちらに向かって歩いている。その後ろからは、心配そうにグローリア様が追いかけて来ていた。「エレナ!どうなさったの?!」と声をかけているが、グリッタ様の反応はない。

「マリー姉さま。黒いモヤモヤは見えないよね?」
「ええ。でも何かしら。気持ち悪い作為的なものは感じるわ」
「話ができる状態だといいが、難しそうだな」
「妖精さんたちは逃げて。もし魔獣が出たりしたら大変だもの」
『リリー、でもでも』
「みんなが食べられたりしたら嫌だわ。そしてお願い。今、ルシーたちは遠くにいるのよね?呼んでもらえるかな?」
『わ、わかったの!気をつけてね!』

妖精さんたちがパッと姿を消し、ほっとする。

「サーフィス様。あの、グリッタ様が付けられているブレスレット、あれはきっと魔道具です。すみません、とても古い物のようで、初めてお会いした時は確信が持てなくて」
「いや、助かる。どのような物と見る?」
「恐らくは能力増幅系のものかと。……古い物だと、心配です。本人の精神を侵すものもありますので」
「それは……何とか抑えたいな」

イデアはさすがの眼力だ。そうか、魔道具だったのか。だから黒い気配とは少し違うのか。
でもきっと、根っこは繋がっているんだろうなという嫌な予感もある。

「万が一、魔獣が現れたなら、俺に任せてくれ。通常の魔獣なら、辺境で何度も討伐している」

テンダー!頼もしい!けど、通常じゃない魔獣もいるんだね……?大丈夫かな……?

「エレナ!お待ちなさいと言ってるのよ!」

私たちの目の前にたどり着いたグリッタ様はピタリと足を止め、その肩をグローリア様がぐいっと引く。するとグリッタ様は感情のこもっていない目でグローリア様を見やり、その手をパァンと払う。

「うるさい。お前は役立たずだ。聖女でも何者でもなく。殿下の傍にも立てないならば、お前なんか、必要ない。また、また……わた、しが文句、を言われ……でき、そこないと……」

グローリア様は目を見開いて固まってしまった。長年の付き合いであるだろう彼女にそう言われるなんて、それはショックだろう。

「グリッタ嬢。落ち着くんだ。このままだと君も危ない」
「でんか。でんか。ああ、またそのような下賎の者たちと。なぜです?な、ぜ、そのよう、な、お顔をその者た、ち、に……」
「グリッタ嬢?」

と、フィスがグリッタ様に手を伸ばそうとした瞬間、ヒリッとした空気が肌に触れ、グリッタ様の頭上に陽炎のようなものが現れた。

そしてそれはゆらゆらと広がり。

じわじわと、真ん中の空間が黒く開き、聞き慣れない咆哮が響いてくる。

グワアァァァァァ!!!との叫びに、足がすくむ。
現れたのは魔獣だ。全身を赤黒い毛に覆われ、眼光は赤く鋭い。熊のような造形だけど、なにこれ、何メートルくらいあるの?3メートルくらい?ともかく、ツキノワグマどころの騒ぎではない。牙も怖い、長く鋭くギラギラしている。これ、初期に出てきていいやつじゃないぞ!てか、小説にこんなんなくなかった?え?私がいじっちゃったから?私のせい?

「レッドベアーの変異種か!くそ!」

テンダーが吐き捨てる。

わああん、やっぱり普通じゃないやつじゃん!

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