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第三章 建国祭と学園と

51.王子様の計画

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手芸部で芸術品を堪能した私たちは、フィスのクラスの出店へと向かう。ドーナツ屋さんをやるらしく、ちゃんと作るんだって!揚げたてとか、嬉しいやつよね!
ちなみに、ヒンターとマークスがフィスと同じクラスで、テンダーはマリーアと同じクラスだ。

マリーアとテンダーも手芸部の案内係が交代になり、途中まで一緒に移動している。この後二人は、クラスの係をこなさないとなのだ。この忙しさも学園祭の醍醐味だよね!

「フィスのドーナツを買ってきたら、二人のクラスの喫茶店行くねっ」
「待ってるわね」
「王子様のドーナツとなると人気がすごそうだけど……買えるのでしょうか?」
「フィスのクラスの連中は、一人5個までなら取り置きできるらしいぞ。取っておくって言ってた」

イデアの言葉に確かに!と、一瞬焦ったが、テンダーからの情報にほっとする。

「そうだよね、うっかりしてたけど、フィスは王子だった。良かった、気が利く人で」
「リリー、そこはうっかりするところなの……?わたしはお茶会以来で、少し緊張しているのに」
「大丈夫よ、イデア。フィスだから」
「マリー、さすがに少し気にしてやってくれ」

なんていつもの会話を楽しみながら、マリーアたちのクラスの前で二人と「またね!」と別れ、いざ、ドーナツ屋さんだ。

イデアが予想した通り、ドーナツ屋さんはなかなかの盛況っぷり。そりゃそうだよねー、王子様が作ったドーナツなんて、なかなかお目にかかれないもの。遠目に見ても、楽しそうに作っているのが分かる。フィスにしても、学生のうちだけだろうしなあ。

揚げ油の香ばしい香りに砂糖の甘い香りの誘惑と、さらに王子様の相乗効果で結構な行列になっているけれど、そこは私たちもきちんと並ぶ。テンダーの話だと取り置きしてくれているみたいだけど、横から入って悪目立ちもしなくないし。待ち時間も、友達とおしゃべりをしていればあっという間だし。

30分程で、あと2、3人くらいの所までになった。学生さんがやるものだから、シンプルなドーナツだけだけど、その素朴さが美味しそうだ。

「もうちょっとだね!イデア」
「ね!」

二人でウキウキ見ていると、調理中のフィスが振り返り、ふと目が合う。

(あ、目が合っ……)

たと思ったら、とても優しい微笑みを向けられた。これは大丈夫なやつ?いや、周りのお姉様方の『~~~!!だ、誰に?!』的な声なき悲鳴が響き渡る。だよね、そうなるよね。周りの空気が一斉にそわそわし出すよね。

フィスは気づいているのかいないのか、一緒に調理していたクラスメートに声をかけ、二言三言話した後に揚げたてのドーナツを紙袋に包んで、ちょうど私たちの順番になったと同時に会計へとやって来た。

「いらっしゃい、リリー。イデアーレ嬢も、ようこそ」

フィスの急な接客に、周りの視線が一気に集まる。わあ、さっきの比じゃないわあ。フィスが私たちの名前を呼んだから、「ああ、くだんの」という声も聞こえてくる。

私はとりあえずぺこりと笑顔で頭を下げ、イデアーレは「ご無沙汰をしております」と、丁寧に挨拶をした。

「ちょうど、わたしはこれから休憩なんだ。聖女殿の妹君たちを案内しよう。今後、共に戦うかも知れぬ仲だしね」

フィスが有無を言わせぬ王族スマイルで、宣言するように宣った。ここで王族ムーヴを使うのか。

「そうですね、コミュニケーションを取られておくことは大事かと」
「マリーア嬢たちもお誘いしてはいかがでしょう?こちらはわたし達にお任せください」

すかさずヒンターとマークスのアシストが入り、更にクラスメートの皆さんはあらかじめ聞かされていたのか、にこやか頷き対応で、私たちとフィスが共に行動することが自然と決まっていく。周りの人たちは、きっと妹の面倒を見るお兄さん対応だと受け取っているのだろう。なかなかの策士よのう。実際、その通りな訳だし?
「きゃあ、ヒンター様とマークス様よ」という声も聞こえてくるので、ドーナツのブランドも落とさずに済みそうだ。

フィスは並んでくれているお客様に笑顔で「ありがとう」を言い、クラスメートたちに「よろしくね」と伝え、「じゃあ行こうか、二人とも」と、流れるように手を出され、私は自然と手を繋ぐ格好になる。

私が慌てて「イデアも!」と空いている左手をイデアと繋ぐと、「まあ、本当に可愛らしい兄妹のようね」と、温かく見守るような声が聞こえて来る。

「……フィスの作戦勝ちだね」
「忙しくてしばらく会えなかったからね。この機会は逃したくなかった。……それに、まずは兄から、に違いはないのだし?」
「う……!」

喧騒から少し離れた所で、フィスに小声で伝えると、少し意地悪な笑顔で返された。ぐぬぬ、ちょっとかわいいとか思ってしまった。

「あ、あの、リリー、これは一体……」
「あっ。えっと、その」

巻き込まれた感が否めないイデアが、遠慮がちに聞いてくる。だよね、気になるよね。分かるんだけど、恥ずかしくてモゴモゴしてしまう。

「イデアーレ嬢は知らないの?」
「だ、だって、どう話せば。フィスのことでもあるし」
「じゃあ、俺から話してもいい?」

「うっ」とは思ったものの、イデアーレには今後ともお付き合いを頂く訳であるし、「ふぃ、フィスがいいなら……」と頷いた。

話を聞いたイデアーレは、まあ!と、両手を口に当てて驚きながらもソワソワしている。「どちらを応援すれば……?」と、何か呟いたのは私には聞こえなかったけど。ニヨニヨ感が居たたまれない。

「ともかく!姉さまのクラスに行きますよっ。限られた時間なんだからっ」

恥ずかしさを振り払うように、私は二人の手を引っ張るようにして歩き出す。



「……グローリア様、あの方々はよろしいのですか?」
「妹御のご面倒でしょう?皆さんに仰っていたじゃいの。わたくしとヒンター兄様のようなものよ」
「しかし……」
「あの方々は、王太子妃としては落伍者よ。でもこの国に有用な方々でもあるのだから。サーフィス様によく仕えていただくようで、結構だわ」
「……そう、でございますね……」

遠目にグローリア様とグリッタ様がいたことなんかも、そして、グリッタ様のブレスレットが赤黒く怪しく光っていたことにも……気づかずに。

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