58 / 81
第三章 建国祭と学園と
49.懸念の確定
しおりを挟む
グローリア様に紹介されたグリッタ様は、優雅に私たちに礼を取る。
その表情はにこやかだ。水色の髪色と紺色の瞳は全体的に色素が薄くて、何なら儚げにさえ見える。
(あんな嫌味を言う人には見えないけど。貴族コワイ)
笑顔でのマウント取りは今生でも苦手なんだよなあ。でもマリーアの為なら頑張るぞ!
「ご挨拶ありがとうございます。リリアンナ=サバンズでございます」
「イデアーレ=ドゥルキスでございます」
とりあえずは無難に挨拶だ。
こちらから喧嘩を売るのもアレだし。
妖精さん情報だから間違い……ということはないとは思うけど、たまたまということもなくはない、かもだし。
「才女と名高いお二人にお会いできて光栄ですわ。先だってはご挨拶も出来ずに申し訳ございませんでした。つい、未来の国母であるグローリア様と話し込んでしまって」
ん?
「まあ、エレナ!まだ決まった事ではないわ」
「ほぼ決定でございましょう。お小さい頃からのお付き合いといい、お血筋といい、殿下をお支えするための覚悟といい、グローリア様を差し置いて他にはいらっしゃらないですわ」
「もう、エレナったら、わたくしなんて」と、言いながらグローリア様は満更でもない顔だ。
イデアと私は思わず顔を見合わせた。
……うん、別にいいけど。いいはず、だけど。フィスの隣を強く望んでいる訳ではない私が、偉そうにいろいろ思うべきではないのだろうけれど。
「まあ、グリッタ様。グローリア様は確かに素敵な方ですし、それぞれのお考えは結構ですけれど、まだ殿下のご婚約者は未定とのこと。このような公の場で決まったように話されるのは」
「だって、お二人はもうご辞退されたのでしょう?」
グリッタ様が心底当然と言った笑顔で被せてくる。この笑顔は、何だか怖い。アルカイックスマイルと言われたらそうなのかもしれないけれど、それとは違って怪しい宗教に嵌まっている人のような、何と言うか。
(まさか、グリッタ様も操られ……?)
とは思っても、彼女の周りに黒いモヤモヤはないし、仲良しのグローリア様がいつもの調子なのだから、これが通常運転てことだよね?
「それでも、ですわ」
とりあえず、勝手だとは思うけど、フィスの婚約者どうこうは釘を刺させてもらう。フィスの立場上仕方がないのかもしれないけれど、彼の意向を完全に置いてきぼりはダメだと思うのだ。いやほんと、おまいうとか言われそうなんだけどさ!
「まあ、まさかあの偽者を、ですとか考えていらっしゃるのかしら?」
「……偽者?」
「最近まで市井にいた、自称聖女の貴女の義理のお姉様ですわ」
「……マリーアお姉様のことをおっしゃっているのであるならば、訂正して下さい。お姉様は精霊様にも陛下にも認められた、歴とした聖女です」
「それにしては、ねぇ?聖魔法も歴代聖女には遠く及ばないのではなくて?」
「ーーー!!」
一瞬カッとなったけど、イデアがきゅっと手を握ってくれて、我に返る。そうだ、落ち着け、私。後ろに控えている侍女二人も、心配そうに状況を見つめている。と言うか、スザンヌに至っては笑顔なのに目が据わっているけれど。
そして改めて周りを見れば、遠巻きに生徒たちや野次馬たちが集まっていることに気付く。この面子で揃っているのだ、仕方ない。ざわざわと、聖女?ああ、愛し子の?とか婚約がとかいろいろ聞こえて来る。
「お姉様は間違いなく聖女ですわ。わたくしたちは聖魔法の素養すらないのですし」
「わたくしを馬鹿にしているの?」
「わたくしたちと申しました」
「っ、」
へーん、事実だもんね!この野次馬さんたちの中にだっていないだろう。確かになとか、聖女がどうしたとか、周りのざわめきは益々増える。
「だ……!」
「もうおよしなさい、エレナ」
「でも、グローリア様」
「わたくしを思っての言葉はありがたいですわ。でもそれ以上は……陛下への不敬にもなりかねませんわ。曲がりなりにも、マリーア様はサバンズ家のご後継ですし」
「曲がりなりにもって」
「?ご後継なのよね?」
「……そうですけれど」
地か、地なんだな、グローリア様。お貴族思考はちょいちょい出ちゃうんだな。悪気なく。苦笑しかできないわー。
「人も増えましたし、移動しましょう。サーフィス様との約束に遅れてしまいますわ」
「そうでした!殿下がお待ちかねですよね」
「まあ、ふふっ、どうかしら」
「きっとそうですよ」
「では、リリアンナ様、イデアーレ様。失礼致しますわ」と、グローリア様たちは何事も無かったかのように会釈して去って行った。野次馬さんたちも、散り散りになっていく。
「もう、何なのよ……」
出鼻を挫かれて、一気に疲れてしまった。せっかくのお祭りなのに。
「ごめんね、リリー。わたし役立たずで」
イデアまでしょげてしまった。いやいや、引きこもりご令嬢が逃げずにいてくれただけで有難いです!
「そんなことはないわ。イデアが手を握ってくれて、落ち着いたもの。ありがとう」
「リリー」
「これで暗くなっても勿体ないよね!予定通りに行きましょ!」
「ええ!」
イデアと手を繋ぎ直して、改めて手芸部の展示教室を目指す。嫌なことに引き摺られて、楽しめないのは悔しいもんね!切り替えてやる!
……しっかし、懸念が確定しちゃったなあ。次に会ったらもうちょっと言えるように鍛えようっと!
その表情はにこやかだ。水色の髪色と紺色の瞳は全体的に色素が薄くて、何なら儚げにさえ見える。
(あんな嫌味を言う人には見えないけど。貴族コワイ)
笑顔でのマウント取りは今生でも苦手なんだよなあ。でもマリーアの為なら頑張るぞ!
「ご挨拶ありがとうございます。リリアンナ=サバンズでございます」
「イデアーレ=ドゥルキスでございます」
とりあえずは無難に挨拶だ。
こちらから喧嘩を売るのもアレだし。
妖精さん情報だから間違い……ということはないとは思うけど、たまたまということもなくはない、かもだし。
「才女と名高いお二人にお会いできて光栄ですわ。先だってはご挨拶も出来ずに申し訳ございませんでした。つい、未来の国母であるグローリア様と話し込んでしまって」
ん?
「まあ、エレナ!まだ決まった事ではないわ」
「ほぼ決定でございましょう。お小さい頃からのお付き合いといい、お血筋といい、殿下をお支えするための覚悟といい、グローリア様を差し置いて他にはいらっしゃらないですわ」
「もう、エレナったら、わたくしなんて」と、言いながらグローリア様は満更でもない顔だ。
イデアと私は思わず顔を見合わせた。
……うん、別にいいけど。いいはず、だけど。フィスの隣を強く望んでいる訳ではない私が、偉そうにいろいろ思うべきではないのだろうけれど。
「まあ、グリッタ様。グローリア様は確かに素敵な方ですし、それぞれのお考えは結構ですけれど、まだ殿下のご婚約者は未定とのこと。このような公の場で決まったように話されるのは」
「だって、お二人はもうご辞退されたのでしょう?」
グリッタ様が心底当然と言った笑顔で被せてくる。この笑顔は、何だか怖い。アルカイックスマイルと言われたらそうなのかもしれないけれど、それとは違って怪しい宗教に嵌まっている人のような、何と言うか。
(まさか、グリッタ様も操られ……?)
とは思っても、彼女の周りに黒いモヤモヤはないし、仲良しのグローリア様がいつもの調子なのだから、これが通常運転てことだよね?
「それでも、ですわ」
とりあえず、勝手だとは思うけど、フィスの婚約者どうこうは釘を刺させてもらう。フィスの立場上仕方がないのかもしれないけれど、彼の意向を完全に置いてきぼりはダメだと思うのだ。いやほんと、おまいうとか言われそうなんだけどさ!
「まあ、まさかあの偽者を、ですとか考えていらっしゃるのかしら?」
「……偽者?」
「最近まで市井にいた、自称聖女の貴女の義理のお姉様ですわ」
「……マリーアお姉様のことをおっしゃっているのであるならば、訂正して下さい。お姉様は精霊様にも陛下にも認められた、歴とした聖女です」
「それにしては、ねぇ?聖魔法も歴代聖女には遠く及ばないのではなくて?」
「ーーー!!」
一瞬カッとなったけど、イデアがきゅっと手を握ってくれて、我に返る。そうだ、落ち着け、私。後ろに控えている侍女二人も、心配そうに状況を見つめている。と言うか、スザンヌに至っては笑顔なのに目が据わっているけれど。
そして改めて周りを見れば、遠巻きに生徒たちや野次馬たちが集まっていることに気付く。この面子で揃っているのだ、仕方ない。ざわざわと、聖女?ああ、愛し子の?とか婚約がとかいろいろ聞こえて来る。
「お姉様は間違いなく聖女ですわ。わたくしたちは聖魔法の素養すらないのですし」
「わたくしを馬鹿にしているの?」
「わたくしたちと申しました」
「っ、」
へーん、事実だもんね!この野次馬さんたちの中にだっていないだろう。確かになとか、聖女がどうしたとか、周りのざわめきは益々増える。
「だ……!」
「もうおよしなさい、エレナ」
「でも、グローリア様」
「わたくしを思っての言葉はありがたいですわ。でもそれ以上は……陛下への不敬にもなりかねませんわ。曲がりなりにも、マリーア様はサバンズ家のご後継ですし」
「曲がりなりにもって」
「?ご後継なのよね?」
「……そうですけれど」
地か、地なんだな、グローリア様。お貴族思考はちょいちょい出ちゃうんだな。悪気なく。苦笑しかできないわー。
「人も増えましたし、移動しましょう。サーフィス様との約束に遅れてしまいますわ」
「そうでした!殿下がお待ちかねですよね」
「まあ、ふふっ、どうかしら」
「きっとそうですよ」
「では、リリアンナ様、イデアーレ様。失礼致しますわ」と、グローリア様たちは何事も無かったかのように会釈して去って行った。野次馬さんたちも、散り散りになっていく。
「もう、何なのよ……」
出鼻を挫かれて、一気に疲れてしまった。せっかくのお祭りなのに。
「ごめんね、リリー。わたし役立たずで」
イデアまでしょげてしまった。いやいや、引きこもりご令嬢が逃げずにいてくれただけで有難いです!
「そんなことはないわ。イデアが手を握ってくれて、落ち着いたもの。ありがとう」
「リリー」
「これで暗くなっても勿体ないよね!予定通りに行きましょ!」
「ええ!」
イデアと手を繋ぎ直して、改めて手芸部の展示教室を目指す。嫌なことに引き摺られて、楽しめないのは悔しいもんね!切り替えてやる!
……しっかし、懸念が確定しちゃったなあ。次に会ったらもうちょっと言えるように鍛えようっと!
2
お気に入りに追加
85
あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。

過程をすっ飛ばすことにしました
こうやさい
ファンタジー
ある日、前世の乙女ゲームの中に悪役令嬢として転生したことに気づいたけど、ここどう考えても生活しづらい。
どうせざまぁされて追放されるわけだし、過程すっ飛ばしてもよくね?
そのいろいろが重要なんだろうと思いつつそれもすっ飛ばしました(爆)。
深く考えないでください。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした
珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。
色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。
バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。
※全4話。

ドアマット扱いを黙って受け入れろ?絶対嫌ですけど。
よもぎ
ファンタジー
モニカは思い出した。わたし、ネットで読んだドアマットヒロインが登場する作品のヒロインになってる。このままいくと壮絶な経験することになる…?絶対嫌だ。というわけで、回避するためにも行動することにしたのである。


【完結】結婚前から愛人を囲う男の種などいりません!
つくも茄子
ファンタジー
伯爵令嬢のフアナは、結婚式の一ヶ月前に婚約者の恋人から「私達愛し合っているから婚約を破棄しろ」と怒鳴り込まれた。この赤毛の女性は誰?え?婚約者のジョアンの恋人?初耳です。ジョアンとは従兄妹同士の幼馴染。ジョアンの父親である侯爵はフアナの伯父でもあった。怒り心頭の伯父。されどフアナは夫に愛人がいても一向に構わない。というよりも、結婚一ヶ月前に破棄など常識に考えて無理である。無事に結婚は済ませたものの、夫は新妻を蔑ろにする。何か勘違いしているようですが、伯爵家の世継ぎは私から生まれた子供がなるんですよ?父親?別に書類上の夫である必要はありません。そんな、フアナに最高の「種」がやってきた。
他サイトにも公開中。

今更「結婚しよう」と言われましても…10年以上会っていない人の顔は覚えていません。
ゆずこしょう
恋愛
「5年で帰ってくるから待っていて欲しい。」
書き置きだけを残していなくなった婚約者のニコラウス・イグナ。
今までも何度かいなくなることがあり、今回もその延長だと思っていたが、
5年経っても帰ってくることはなかった。
そして、10年後…
「結婚しよう!」と帰ってきたニコラウスに…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる