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第三章 建国祭と学園と

42.精霊の愛し子

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『リリー、なぜノームと共にいる?』
「わっ、ルシー!?びっくりした!!」

魔道具の視察はまた後日にゆっくり時間を取ると店長にお願いし、四人で広場の噴水公園に向かって歩いていたところで、目の前に急にルシーが現れて驚く私。
突然の登場には慣れて来たけれど、さすがに想定外だった。

『……愛し子が他の精霊と接触すると、僕たちは分かるんだよ』

イルス様が、いろいろと完全に諦めたような顔で説明してくれた。しかしそんな諦め顔って。そんなに私たちに知られたくなかったのかな?精霊様たちはみんな仲間と勝手に認識していたのでちょっと寂しいような。

「そうなのですね」
『そうなんだ』
『リリー、それで、何故だ?』

ルシーの方を振り返る。

「たまたま会ったの!これからお話するの!」

何だか浮気を咎められているような口振りに、少しイラッとしてしまう。悪いことなんてしてないのに。

『シルフ。すまんが本当にたまたまだ。……リリアンナ、その感覚も当たらずとも遠からずなんだよ。僕たちは一人の人間しか愛し子にしないからね。親のような、子のような……人間の愛とかと同じかは分からないけれど、特別なんだよ』
「……ふえ?」

これは、イルス様も読心術?答えてくれた内容も少し恥ずかしくて、思わず変な声も出た。

『僕にとっては緊急事態だったから、ごめん。人間は嫌なんだよね、もうしないから』
「精霊様はみなさん使えるのですか?」
『うん』

ほお!そうなると、サラは初めから気遣ってくれたんだね!炎気質だと真っ直ぐなのかしら。ただのイメージだけど。

『……何が言いたい』
「やだなあ、なんでもないよ~」

また私の表情を見て、ルシーが突っかかって来たがスルーだ。

それより本題よね、本題。
何より、イデアーレ様が魔道具店からこっち、ずっと無言で、困惑しているのが分かる。最初の反応でも思ったけど、本当に知らなかったんだろうな。そりゃあ驚くよなあ。

そんなこんなで公園に到着し、東屋のベンチにみんなで座る。
少しの間、何とも言えない沈黙が場を支配する。

それでも、黙っていてもしかたないわよね、と、マリーアと目線を合わせると、マリーアは頷いて話を始めてくれた。

「あの、イデアーレ様、申し訳ございませんが……遠回りにお聞きしても仕方がないので……イデアーレ様は、彼がノーム様と知らなかったのですね?」
「え、ええ……。わたくしこそ申し訳ございません、動揺してしまって。イルは、イルスは、小さい頃からただのイルスと思っていましたから」
『僕は最初からただのイルスだよ、イデア』
「イル……」

イルス様の言葉に、少し泣きそうな、複雑な顔をするイデアーレ様。確かに「はい、そうですか」という話ではないもんな。間違いなく精霊さんな訳だし。

『……でも、精霊って黙っていたのはごめん』

イルス様は、ガバッと音が聞こえそうなほどの勢いで、イデアーレ様に頭を下げた。イデアーレ様は目線を下に落としたまま、スカートをぎゅっと握っている。

「…………なぜ、教えてくれなかったの?わたしが頼りなかったから?人として、足りないものがありすぎるから?」
『それは違う!!!』

イルス様が、怒鳴るように否定する。あまりの声の大きさと少しの含まれた怒気に、イデアーレ様はビクッと顔を上げた。

『っ、ごめん、大声を出して。でもイデア、自分を否定しないでよ。イデアはとても無垢な魂を持っているのに。才能も、知能も桁外れなのに、純真無垢な僕の愛し子』
「いと、し、ご?」

イデアーレ様が呆然と呟く。現実を受け止めきれていないようだ。やっぱり精霊さんて、いろいろ急じゃない?仕方ないかもだけど。
いやそれよりも。

「……僭越ながら、イルス様。イデアーレ様を愛し子になさったのはいつで……」
『初めて会った、イデアが5歳の時』
「えっ、あの時?!確かに光を浴びたような……でも、えっ?」

イデアーレ様は若干パニックになり、マリーアは聞いた返答に驚きながらも話を続ける。

「これはわたくし共の勝手なお願いではありますが、愛し子は我らの王に報告を」
『……古くからの盟約だ。分かってるよ』
『そもそも本来は、本人に分かるようにするからのぅ。わたしたちにも隠していたな?』

バツの悪い顔をしつつも、さらっと突っ込んだルシールを軽く睨むイルス様。

『……そこも、すまない』

この場の全員の、何故?という意識が伝わったのだろう。イルス様は、はあ、と軽く呼吸をして、重い口を開いた。

『……イデアを、戦いに行かせたくなかったんだ』

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