上 下
40 / 66
第三章 建国祭と学園と

36.新しい仲間

しおりを挟む
『おお、ようやく我の愛し子になる決心がついたか?テンダーよ』
「……いやでも、兄上は立派だからいいとして。俺が調子に乗りすぎたりするのでは……?」

意外と優柔不断……もとい、慎重派らしい。サラマンダーもやれやれと天を仰いでいる。けれど。

「サラマンダー様は、テンダー様のこういう所もお気に入りなのですね」
『まあなあ。力をただ振り回すだけの奴は困るからのう。自分を疑う素質とでも言おうか、まあ、疑い過ぎても困るのだが……己を諫められる者、がやはり好ましい。おい、シルフ、リリアンナは聡い娘だな』
『そうだろう?』
『ふっ、だからこその明らかな男性性か。なるほどな』

何がなるほどなのか。サラマンダーはニヤッとした納得顔で、私の頭をポンポンする。

『奔放なシルフの珍しい執着だ。楽しそうであるが、ふむ、いろいろ頑張れよ、リリアンナ』

そして周りを見ながら楽しそうに言われた。何だか話が恥ずかしい方に向かっている気がする。

「いっ、今は!テンダー様の祝福ですよね?テンダー様はやっぱりお嫌なのですか?」

強引に話を戻す。

「嫌では、ないが。その、どうしてもだな」

えええー。まだそこ?確かに慎重なのは美徳なのだろうけれど。ちょっともったりとした時間が流れてしまう。

「確かに、お兄さまがご当主向きなのですね、何となく分かりました」

マリーアの囁き声に、うんうんと頷く。そして本人はまだ悩んでいる。いい子には違いないが、周りに付く人によってはちょっと心配だ。

『そこはそうじゃな』
「剣技は迷いがないけどね」
「本当に。自分達も鍛練を欠かせませんが、質が違うのが分かるほどです」
『そうじゃろ?そこも気に入っている』

フィスとヒンターが苦笑でフォローし、マークも頷いている。サラマンダーも心なしかドヤ顔だ。

「テンダー。君は今でも充分な強さがあるが。わたしとしても、サラマンダー様に守護をされた君が、有事に共にいてくれるならとても心強い」 
「殿下」

フィスが王太子然として、テンダーを真っ直ぐに見て力強く語りかける。この辺は、さすが王子で勇者候補だ。

「それに、もし調子に乗られるようなら、みんなで叱ってさしあげます!ねっ、お姉さま!」
「任せてちょうだい」
「はは、そうか、それはありがたいですね」
「わたくしも乗ってしまったら、叱ってくださいませ。皆さま、よろしくお願いいたしますわ」
「そうよね、お互いによね、リリー」
「うる……厳しいヒンターもマークもいる。そんなに乗るようなことはない気もするぞ?」
「もちろん必要な進言はしますが……フィス?」

「ぷっ、ははははは!そう、そうですよね。みんなで……うん、ありがとうございます」

私たちのやり取りに一通り笑った後、テンダーはすっきりとした表情でサラマンダーを見て、きっぱりと言った。

「サラマンダー様。祝福を、ご加護をお願いいたします」

サラマンダーは優しく頷いて微笑んだ。そして美少年(仮)の姿から、ルビーを溶かしたような赤いキラキラした美しい髪の、端麗な姿に戻る。精霊さんのこの姿は、本当に神々しくて見惚れてしまう。

サラマンダーは、すっとテンダーの額に手を当て、目を閉じる。すると、ぱあっと一瞬、テンダーの体が輝いた。

『終いじゃ。テンダー、我が愛し子。これからの加護を約束しよう』
「ありがとう、ございます。正しい道を進むことを誓います」

テンダーの言葉に、嬉しそうに微笑むサラマンダー。ルシーも加護を与えるのは親和性がとても大事って言っていたから、我が子に近い感覚なのかな。

「……って、あれ?終わりですか?額にキスは?」
『うん?しても良いが、必ずしも必要ではないぞ?』

なんですと?じゃあ、ルシーのあれこれは?

「へぇぇぇ、そうなんですね、なるほど。……ルシーア?」
『あ~、その、愛情表現だ……怒ったか?』

うっ、美麗少年の上目遣いは反則だ!

「おこ、っていうか、その」
『ああ、そういう……。リリアンナ、精霊は愛情表現が豊かなのでな、許してやってくれ』
「ダメですよ!サラマンダー様の進言(?)でも、それはダメです!」
『ははは、オルソンの王子も頑張るしかないのぅ』
「……ああ、もう!精霊様って!そういう問題では!」

だんだんと精霊相手に雑な態度になっているフィスを、かなり面白がっているサラマンダー。

『まあまあ。ともかく、我の愛し子も頼むぞ、皆』

そうだった。今はそちらだ。

「う、ん。はい。コホン。テンダー、決心してくれてありがとう。これからもよろしく頼む」
「はい、こちらこそお願いいたします」

テンダーは何事もなかったかのように礼をとった。大人だ。

『よし、用は済んだな?祭りの続きを回ろうぞ!』
『飴といい、はしゃぎすぎではないか?シルフよ』
『なかなか楽しいぞ。お主もどうだ?』

一番大人なはずのルシーアが一番はしゃいでいるが。ま、せっかくのお祭りだしね!

「テンダー様もいかがですか?」
「お邪魔でなければ、是非」
「もちろんだ、行こう!」

そうして街に戻って、あちこち回って、お揃いのものを買ったりして、みんなで一日中楽しく過ごした。最後の方はテンダーも敬称なしで、普通に話せるようになっていた。

まさかのサラマンダーにも会えたし!やっぱり仲間が増えるのは嬉しいな!
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:11,404pt お気に入り:9,155

奥様はエリート文官

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:119,281pt お気に入り:3,669

冷遇された王妃は自由を望む

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:837pt お気に入り:273

君じゃない?!~繰り返し断罪される私はもう貴族位を捨てるから~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:2,023pt お気に入り:1,786

【完結】そろそろ浮気夫に見切りをつけさせていただきます

恋愛 / 完結 24h.ポイント:93,077pt お気に入り:3,329

これはドラマ「チェリまほ」の感想投稿文の履歴なのです

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:377pt お気に入り:15

転生したら捨てられたが、拾われて楽しく生きています。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7,682pt お気に入り:25,119

糸遣いの少女ヘレナは幸いを手繰る

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:738pt お気に入り:406

転生鍛冶師は異世界で幸せを掴みます! 〜物作りチートで楽々異世界生活〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:5,354pt お気に入り:2,136

処理中です...