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第三章 建国祭と学園と
35.辺境伯子息とサラマンダー
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飴屋の前で名乗り合う訳にもいかないので、広場の隅の方のベンチへ移動する。
美少年(仮)に、飴をいじられたルシーだが、構わずウキウキで買っていた。楽しそうで何より。
「突然お声がけをして、申し訳ありませんでした。殿下。止めたのですが……」
『我が仲間に声をかけるのは自由であろう?』
赤髪の少年がフィスに謝ったが、美少年(仮)はどこふく風だ。しかし、この話し方と美しさは。
「あの、あなたは精霊様ですか?」
『そうだ、よく分かったな。我はサラマンダーだ。さすがシルフの愛し子だのう』
おお、サラマンダー!ドラゴンみたいじゃなく、人形なのね!そして人外の美しさはみんなそうなのだろうな。いや、そもそも人外だけども。
「お初にお目にかかります、サラマンダー様。ファーブル王国の王太子、サーフィス=オルランドです。テンダー、気にせず構わないよ」
フィスがサラマンダーに丁寧に挨拶をして、隣の少年にも応える。少年はペコリと頭を下げ、サラマンダーは楽しそうにフィスに近づいた。
『ふふ、オルソンの力を持つ王子、久方ぶりだの。シルフも少々手を焼いたようだが』
「お恥ずかしい話で……」
『何を言う。そもそもお前が張り切りすぎてオルソンの力を最初から与えたからだろうが』
『あれ、覚えてた?』
サラマンダーがあざとく首を傾げて笑顔で誤魔化す。私たちも「えっ」となったけど、まあ、突っ込めないよね。ルシーもやれやれと溜め息を吐いて苦笑してるし。
「そ、それでサラマンダー様は、なぜテンダーと?と、その前に紹介しないといけないね。ヒンターとマークは知ってるとして」
と、三人はにこっと黙礼をする。
「テンダー、こちらはマリーア嬢とリリアンナ嬢で、サバンズ侯爵家のご令嬢だ。そして件の聖女候補と祝福の少女でもある。マリーア嬢、リリアンナ嬢、こちらはテンダー=セラータ辺境伯子息で、彼も幼い頃からわたしの友人なんだ」
「よろしくお願いいたします、お嬢様方。どうぞテンダーとお呼びください」
「ありがとうございます、テンダー様。わたくしたちのこともそれぞれ名前でお呼びください」
マリーアが応え、つつがなく貴族の挨拶を終えて、本題に入る。
「それで、テンダーはなぜサラマンダー様と?」
「あ、それは、その……」
『我からの説明で良いか?王子よ』
なぜか言いにくそうなテンダーの横から、サラマンダーが入る。フィスは「もちろんです」と頷く。
『我らが勇者たちのサポート役を探しておったのは知っているな?我が見つけたのがテンダーだ。風が早々に少女を見つけた話は聞こえていたが、こやつを見て気に入ってな。祝福を受けた者は多い方がよかろうて』
「なるほど」
『じゃが、当のテンダーは祝福を固辞してなあ』
「は?!固辞?」
フィスがバッとテンダーを振り返り、テンダー様は所在なさそうに目線を泳がせている。
「なぜだ?テンダー」
「殿下。申し訳ございません。わたしには荷が勝ちすぎるお話と思い……せめてサラマンダー様の報告をと、急ぎ参りました」
「君は素晴らしい剣技を持っているじゃないか。荷が勝ちすぎるなんてことは……」
納得できないようで、フィスは言い募る。彼が食い下がるのだから、相当強いのだろう。
『兄を気にしているらしい』
「サラマンダー!…様!」
『剣も魔法もこやつの方が優れているからの。この国は嫡子が家を継ぐのであろう?それをテンダーにという輩も多いようでなあ。我からの祝福を受けたとなれば一層拍車がかかるだろうと』
テンダーが止めようとしているのをスルーして、サラマンダーはさらりと話した。この辺はやはり精霊さんだな……全くもって忖度しない。
『確かにこやつはなかなかやりおるからの』
「そんなことはない!兄上が立派な後継者だ!人の上に立つべき資質が、俺なんかとは全く違う。なのに、あいつらは……」
「テンダー……」
「すみません、殿下……」
フィスは首を振って、項垂れるテンダーの肩にそっと手を置いた。
どこにもいるよね、好き勝手に言う人たち。貴族で後継者問題が絡むと余計だろうし、辺境伯だと強さ重視の人たちも多いのかも。でも、だ。
「テンダー様はお兄さまが大好きで、尊敬しておられるのですね!わたくしもお姉さまが大好きなのでわかります!」
「リリアンナ嬢……ありがとうございます」
「でも、そんな大好きなお兄さまは、テンダー様が祝福を受けたとして、喜ばない方なのですか?」
「!そんなことはない!!です。本当に優しいのに厳しい時は厳しくて。聡明で頭の回転も計算も早くて。穏やかだけど叱る時はしっかりと叱ってくれる。平等に人の話を聞くことができる、皆を纏めるために生まれたような人なんです。剣と魔法だけの俺とは違う」
おおう、本当に大好きなのね。なかなかの兄愛に頬が緩む。しかし!私も負けてないわよ。
「あら!わたくしのお姉さまと同じですね!わたくしのマリーアお姉さまも、美しくて聡明で、優しくて強くて、誰よりもわたくしを守ってくれる、自慢のお姉さまなんですの!」
私の姉自慢にも、テンダー様は優しく頷き聞いてくれる。いい子だ。
「……そして、一番最初にわたくしの祝福を喜んでくれた、大切な、大切な人です」
「!」
「我が家もその、口さがない方にはいろいろあれですけれど。我が家の後継はお姉さまです。わたくしはお姉さまをサポートできるよう、尽力したいと思っております」
「リリアンナ嬢……」
「テンダー様。わたくしごときが烏滸がましいですが、お兄さまはきっと、大好きな弟君が信じてくれて味方についてくれているなら、心強く、きっと何でも乗り越えて行けますわ」
「マリーア嬢……。そう、そうですよね。兄は、そんなに弱い人ではないのに。俺が、兄を信じなければ……そうだ、俺が力に傲って……いらぬ心配をしていたようなものだな……情けない」
テンダーは両拳をぎゅっと握り、悔しそうに俯いた。
美少年(仮)に、飴をいじられたルシーだが、構わずウキウキで買っていた。楽しそうで何より。
「突然お声がけをして、申し訳ありませんでした。殿下。止めたのですが……」
『我が仲間に声をかけるのは自由であろう?』
赤髪の少年がフィスに謝ったが、美少年(仮)はどこふく風だ。しかし、この話し方と美しさは。
「あの、あなたは精霊様ですか?」
『そうだ、よく分かったな。我はサラマンダーだ。さすがシルフの愛し子だのう』
おお、サラマンダー!ドラゴンみたいじゃなく、人形なのね!そして人外の美しさはみんなそうなのだろうな。いや、そもそも人外だけども。
「お初にお目にかかります、サラマンダー様。ファーブル王国の王太子、サーフィス=オルランドです。テンダー、気にせず構わないよ」
フィスがサラマンダーに丁寧に挨拶をして、隣の少年にも応える。少年はペコリと頭を下げ、サラマンダーは楽しそうにフィスに近づいた。
『ふふ、オルソンの力を持つ王子、久方ぶりだの。シルフも少々手を焼いたようだが』
「お恥ずかしい話で……」
『何を言う。そもそもお前が張り切りすぎてオルソンの力を最初から与えたからだろうが』
『あれ、覚えてた?』
サラマンダーがあざとく首を傾げて笑顔で誤魔化す。私たちも「えっ」となったけど、まあ、突っ込めないよね。ルシーもやれやれと溜め息を吐いて苦笑してるし。
「そ、それでサラマンダー様は、なぜテンダーと?と、その前に紹介しないといけないね。ヒンターとマークは知ってるとして」
と、三人はにこっと黙礼をする。
「テンダー、こちらはマリーア嬢とリリアンナ嬢で、サバンズ侯爵家のご令嬢だ。そして件の聖女候補と祝福の少女でもある。マリーア嬢、リリアンナ嬢、こちらはテンダー=セラータ辺境伯子息で、彼も幼い頃からわたしの友人なんだ」
「よろしくお願いいたします、お嬢様方。どうぞテンダーとお呼びください」
「ありがとうございます、テンダー様。わたくしたちのこともそれぞれ名前でお呼びください」
マリーアが応え、つつがなく貴族の挨拶を終えて、本題に入る。
「それで、テンダーはなぜサラマンダー様と?」
「あ、それは、その……」
『我からの説明で良いか?王子よ』
なぜか言いにくそうなテンダーの横から、サラマンダーが入る。フィスは「もちろんです」と頷く。
『我らが勇者たちのサポート役を探しておったのは知っているな?我が見つけたのがテンダーだ。風が早々に少女を見つけた話は聞こえていたが、こやつを見て気に入ってな。祝福を受けた者は多い方がよかろうて』
「なるほど」
『じゃが、当のテンダーは祝福を固辞してなあ』
「は?!固辞?」
フィスがバッとテンダーを振り返り、テンダー様は所在なさそうに目線を泳がせている。
「なぜだ?テンダー」
「殿下。申し訳ございません。わたしには荷が勝ちすぎるお話と思い……せめてサラマンダー様の報告をと、急ぎ参りました」
「君は素晴らしい剣技を持っているじゃないか。荷が勝ちすぎるなんてことは……」
納得できないようで、フィスは言い募る。彼が食い下がるのだから、相当強いのだろう。
『兄を気にしているらしい』
「サラマンダー!…様!」
『剣も魔法もこやつの方が優れているからの。この国は嫡子が家を継ぐのであろう?それをテンダーにという輩も多いようでなあ。我からの祝福を受けたとなれば一層拍車がかかるだろうと』
テンダーが止めようとしているのをスルーして、サラマンダーはさらりと話した。この辺はやはり精霊さんだな……全くもって忖度しない。
『確かにこやつはなかなかやりおるからの』
「そんなことはない!兄上が立派な後継者だ!人の上に立つべき資質が、俺なんかとは全く違う。なのに、あいつらは……」
「テンダー……」
「すみません、殿下……」
フィスは首を振って、項垂れるテンダーの肩にそっと手を置いた。
どこにもいるよね、好き勝手に言う人たち。貴族で後継者問題が絡むと余計だろうし、辺境伯だと強さ重視の人たちも多いのかも。でも、だ。
「テンダー様はお兄さまが大好きで、尊敬しておられるのですね!わたくしもお姉さまが大好きなのでわかります!」
「リリアンナ嬢……ありがとうございます」
「でも、そんな大好きなお兄さまは、テンダー様が祝福を受けたとして、喜ばない方なのですか?」
「!そんなことはない!!です。本当に優しいのに厳しい時は厳しくて。聡明で頭の回転も計算も早くて。穏やかだけど叱る時はしっかりと叱ってくれる。平等に人の話を聞くことができる、皆を纏めるために生まれたような人なんです。剣と魔法だけの俺とは違う」
おおう、本当に大好きなのね。なかなかの兄愛に頬が緩む。しかし!私も負けてないわよ。
「あら!わたくしのお姉さまと同じですね!わたくしのマリーアお姉さまも、美しくて聡明で、優しくて強くて、誰よりもわたくしを守ってくれる、自慢のお姉さまなんですの!」
私の姉自慢にも、テンダー様は優しく頷き聞いてくれる。いい子だ。
「……そして、一番最初にわたくしの祝福を喜んでくれた、大切な、大切な人です」
「!」
「我が家もその、口さがない方にはいろいろあれですけれど。我が家の後継はお姉さまです。わたくしはお姉さまをサポートできるよう、尽力したいと思っております」
「リリアンナ嬢……」
「テンダー様。わたくしごときが烏滸がましいですが、お兄さまはきっと、大好きな弟君が信じてくれて味方についてくれているなら、心強く、きっと何でも乗り越えて行けますわ」
「マリーア嬢……。そう、そうですよね。兄は、そんなに弱い人ではないのに。俺が、兄を信じなければ……そうだ、俺が力に傲って……いらぬ心配をしていたようなものだな……情けない」
テンダーは両拳をぎゅっと握り、悔しそうに俯いた。
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