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第三章 建国祭と学園と

33.建国祭当日です

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建国祭当日になりました!

今日から三日間、国中の街が彩られる。王都も言わずもがな。この間は、飲食店や騎士団の人たち以外はお休みだ。

殿下は、朝も早よから迎えに来てくれた。家族総出でお出迎えし、お父様とお母様から挨拶をする。お父様はどうしても仏頂面だけど、だんだんと少しずつ諦めている様子でございます。殿下もめっちゃ気を遣って挨拶をしている。そして、こちらに視線を移して、とってもいい顔をしてくれる。

「おはよう、リリアンナ嬢。いつものドレスも似合っているけど、町娘の格好も似合うね。可愛い」

すわっ、今日も安定の王子スマイルと、さらりと可愛い、ありがとうございます。だいぶ慣れたけど、まだ眩しいわ。

「ありがとうございます。殿下もお似合いです」

とは言っても、やはりお育ちの良さは隠しきれていないけれど。お育ちなー、なかなか隠せないよなー。

「マリーア嬢も似合っているね。今日も姉妹でお揃いなんだ。いいね」
「ありがとうございます、殿下」

マリーアとのお揃いシリーズはもはや鉄板だ。周りにも姉妹仲の良さを見せられるし、何よりマリーアが喜んでくれてるしで、痛々しくなるまでは続けると思われる。まだまだ可愛いもんねっ。

ヒンター様とマークス様にもご挨拶。もちろん二人も褒めてくれる。こちらも、今日もさすがである。

『皆揃ったのか。では参ろうぞ』
「シルフ様!今日も自由すぎる。街では団体行動ですからね?」
『はいはい、わかっておるわ。それよりリリアンナ、今日の格好も可憐だな』
「ふえっ?!あ、ありがとうございます」

き、急に褒めないで!動揺してしまう。
町の少年のようなシルフ様も……

「いや、キラキラしすぎじゃない……?」
『ほれ、参ろうぞ、リリアンナ。皆も』

思わず遠い目をした私を余所に、ぐいぐいと押し出すシルフ様。あれ、これ結構楽しみなんだな?

「で、では、侯爵、夫人、行ってくる。お嬢様方は必ずこちらへ送り届ける」
「よろしくお願いいたします、殿下」

シルフ様のせいで若干ぐだぐだだが、殿下が挨拶をしてまとめてくれた。やれやれ。


門の外には、紋章のないシンプルな馬車が停まっていた。お忍びだもんね。

中はもちろん広々だ。護衛の二人と、子どもが六人乗った位じゃ全く狭さは感じない。ちなみに、馬車の御者をしてくれている人も護衛だそうだ。

『ほう、馬車に乗るなど久しぶりだが、なかなか快適だな。これも魔道具か?』

シルフ様が思った以上にウキウキしている。何だか可愛いのだけれど。

「そうです!凄いですよね?わたくしお気に入りなのです」
『確かに凄いな。少ない魔力で、なるほど……』
「あっ、やっぱりダメなんですか?」
『いや、そうではなくな。道具が発展することが悪ということではない。そちらが優先されて、他への感謝を忘れるのがいけないのだ。何事も、人だけでは成り立たぬはずだろう?それを忘れると、大きなしっぺ返しを受けることになるからな』
「そう、そうですね。……分かります、なんとなく、ですけれど」

前世は正しくそうだったよな。温暖化とか、その後は大丈夫だったのかなあ。って、私がこちらへ来たのが向こうからの何年後って話だが。……頭が混乱しそうだから考えるのは止めよう。
こっちの魔王復活も、してしまったら大事おおごとだし。

『リリアンナは聡いな。それも、ずいぶん変わって来たであろう?人の王もなかなか良い判断をしてくれたと思うぞ。……それで、だが』
「はい」
『呼び方はどうするのだ?』
「……はい?」
『呼び方。街中でもわたしをシルフと呼ぶのか?』

つん、と人差し指で私の額をつつき、ニヤッとするシルフ様。馬車内の雰囲気がふっと和らぐ。
そうだ、今日はせっかくのお祭りだ。楽しまなくちゃ!

「そうですね!あっ、みなさんはわたくしをリリーと呼んで下さいませ!」
「リリー……?」

殿下が一人言のように、そして噛み締めるように呟く。

「はい!何ですか?殿下」
「っ、いや、試しにだな、その。わたしもフィスで構わない」
「……フィス様?」
「……!街で様はおかしいだろう?フィスでいいよ」
「フィス」
「!うん、そうして。……これからも、そう呼んで。もちろん、マリーア嬢も」

殿下あらため、フィスが目を細めて嬉しそうに微笑む。

「承知致しました。わたくしのこともマリーで結構です」
「僕はマークで」
「マリー、固いぞ。せっかくだから、友人として話そう。俺はヒンターのままでいい」
「うん。これをきっかけにして、二人とも気軽に話してくれたら嬉しいな。どう?」
「でん……フィスが言うなら。ねっ?マリー姉さま!」
「ええ、そうね。うん、せっかく街に行くのだし。久しぶりで、楽しみ!」

そうだ、マリーアからすると、久しぶりの街歩きだ。私が思う以上に楽しみにしていたのかもしれない。あっ、それに。

「もしかしてマリー姉さまは、街に詳しくいらっしゃる……?」
「もちろん!任せて頂戴。安くて美味しい屋台も、可愛いい小物のお店も案内できるわ!」
「やったー!さすが姉さま!ねぇ、まずどこから行く?」
「り、リリー!俺も結構詳しいぞ!いろいろ案内させてくれ」

マリーアのどや顔に、負けずにフィスも入ってくる。二人も詳しい人がいるのは心強い。祭り巡りは順路大事だよね!

「フィスもよく街に行くの?じゃあ……」
「あの、リリー?ちょっといい?」
「はい?」

フィスに詳細を聞こうとしたら、マークが遠慮がちに肩をつんつんしてきた。珍しい。

「マーク?何か……」

と、聞きながら、マークの視線を追うと、ふて腐れたシルフ様と、困り顔のヒンターがいた。

「あ」

しまった。言い出しっぺのシルフ様を完全に放置してしまった。ごめんと思いながらも、結構な長生きであろうはずなのに、子どもっぽくてつい笑ってしまった。

『……リリーがまた失礼なことを考えていそうだ』
「ないよ!ごめんなさい、シルフ様。あ、シルフ様にも普通に話していい?」
『……それは構わん』
「ありがとう!せっかくシルフ様から話してくれたのに、ごめんね。シルフ様は何て呼べばいい?」
『わたしに人のような名はない。リリーがつけてくれたら許す』
「えっ!四大精霊様に名付けって、緊張するんだけど!」
『リリーに付けてほしい』
「うっ、じゃ、じゃあ、ちょっと待ってね……?」

うわーん、美少年に上目遣いされるとクラっとするー!
えっと、シルフ様でしょ?やはり風か?風……あっ。

「ルシーアなんてどう?ルシーアで、ルシー!この間、古語を習ってね、風っていう意味なんだって」
『ルシーア、ルシー……うん、いい響きだ』
「気に入ってくれた?」
『ああ』
「良かった!」
『ありがとう、リリー』

そう言って、シル……ルシーアがまた私の頬に軽くチュッとした。

「なっ、もう、ルシー!」

頬を押さえて、慌てて距離を取る。
この距離感の近さは精霊だからなのか?ルシーアだからなのか?ルシーだし、綺麗だし、嫌じゃないけど、こう、居たたまれない。

「だから!ルシー!リリーに気安く触れるな!!」

フィスが私とルシーアの間に立ち塞がって叫び、

『すまんすまん、リリーがかわいくて。愛し子だしな』

ルシーアはしれっと楽しそうに流す。

「そっ、それは分かるけど……じゃなくて!ダメなものはダメだ!マリーもそう思うだろう?」

フィスが最終手段のように、マリーアに向かって同意を求めた。

「そうね。二人とも忘れているかもしれないけれど、リリーはまだまだわたしのリリーよ?その辺はしっかりと覚えておいてね?」

にっこりとしたマリーアの圧に、二人は「はい……」と返事をして大人しくなった。うん、マリーア最強。私、愛されてるわ。

ヒンターとマークは既に疲れたような顔をしているけれど、祭りはこれからだからね!
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