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第二章 夢と魔法の国

28.親の心子知らず

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「それでシルフ様。わたくしの魔力量も?」
『うむ。ふさわしい者に与えたのだよ。私の力は風だからね。情報を得るのは容易い』

シルフ様の読心術はもうスルーするして、必要な話を聞くことにした。

なんでも、女神様と精霊さんたちはこの数十年、人間との距離が離れていくと同時に、魔王の封印に歪みを感じるようになったそうだ。

そもそも、魔法は精霊さんたちの好意で人間にあげたもの。人がそれを忘れて傍若無人になるのなら、自分たちはさほど困らない。ただ、妖精は魔物に弱い。建国時に魔王が台頭した時には、たくさんの妖精が犠牲になった。魔物は妖精を食べて魔力を増幅させるのだ。魔王の封印が解けるのは困る。

それに、この国には少なからず見える者、信心深い者、初代と約束した守る者たちがいる。距離は開いてしまったけれど、国民は争いを好まずに、平和で緑豊かだ。何とかしなければ、と、なったらしい。

そしてそれぞれの血統、血筋から、勇者と聖女の候補は見つけた。ただ、今回はそれだけでは心許ない。万が一のためにあと数人、いや例え一人でも、強力な能力者が欲しいと言うことで。

『力は、ただ力だ。使う者で大きく変わる。誰でも良いわけではないだろう?性格不適合者に大きな力は与えられないからね。それがある日、侯爵邸の花たちから面白い話を聞いたと妖精たちが言い出してな』
「面白い話、ですか?」

わあ、妖精さんはお花ともお話できるのね!と、聞きたいところだけど、今はガマンだ。

『そう。ちょっとワガママなお嬢様が、義姉ができたらすっかりなりを潜めて、やたらと楽しそうだと。ただただ綺麗な箱庭のようだった家が、すっかり清く輝いていると。覗いてみると、光の愛し子が姉で驚いたが、なるほどその姉が力を尽くしたのかと思ったのだが……』

シルフ様は、優しい微笑みで私を見つめる。改めて美形に見つめられると、ドキドキしちゃうわ。てか、精霊さんて性別あるのかな?どちらにしても綺麗だけど。

『不思議な魂を持つ、妹の働きかけだったと知り、しばらくそなたを見ていた。……そなたは純粋で清らかだ』

自分の顔が、耳まで熱を持ったのが分かった。
これは、これは、すごく恥ずかしい!!

そりゃあね、みんなで仲良くはモットーだけど、お嬢様生活をかけての下心も否めなくてですね。魂が不思議なのだって、きっと異世界転生だからだと思います!
シルフ様が仰るほど、純粋でも清らかでもないので!!

「わた、わたくし、そんなに清くないですっ」
『ふふ、そうさな。お嬢様生活は手放したくない、だったか?』
「そう!そうですよ!人生目標です!!」
『……それでもそなたは、他人を踏みつけてまではそれを望むまい?』
「う、それは、そうですけれど。そんなの当たり前じゃないですか、人として」
『当たり前か、そうさな。ふふ、やはりリリアンナで良かった。魔法が好きで妖精が好きで、明るい道を作って行く。そなたで良かったと思うぞ』
「そうですか……?そりゃあ、国がどうこうなったらお嬢様どころじゃないし、お姉さまと殿下がやらなければいけないなら、もちろん協力しますけど」
『それで良い。リリス、こちらへ』
『はーい!』

呼ばれてリリスがひゅっと飛んできて、シルフ様の肩に乗る。

『リリスの祝福は、最終試験のようなものだ。花の妖精の祝福は、わたしの加護にほぼ等しい。妖精たちがわたしの加護を受けてもいいと判断した者、妖精との親和性が高い者にのみ成される。皆、まだ魔法は成長途中であろうが、リリアンナ、そなたは今でもきっと風魔法は使いこなせるはずだ』
『そうなの、そうそう!リリー大好きなの!お花を見ていて、ずっとにこにこなの!』
「ありがとう、リリス。私も大好きよ!」

リリスが『わーい!』と飛んできて、頬をすりすりされる。い、癒し……!
シルフ様も、妖精さんが喜んでいるのが嬉しいのか、慈しむような微笑みでこちらを見ている。やっぱり美形の慈愛の笑みはキラキラし過ぎて心臓に悪い。


「横から失礼致します、シルフ様。ひとつ、よろしいでしょうか?」

そんなほっこりタイムになり、お話もそろそろお開きかな?と思った頃。

お父様が私の隣に来て、シルフ様に難しい顔で聞いてきた。お母様も、一歩下がった所に控えている。シルフ様は、静かな顔で頷いた。

「ありがとうございます。先ほどまでのお話、にわかには信じられぬ、いや信じたくないという気持ちがございましたが、精霊様を目の前にして、それは愚かというものでしょう。
国の一大事です、、喜んでこの身を捧げたく存じますが……そのお役目、我が娘たちでなくてはなりませんか?殿下も王太子です。……その身は重い」
「侯爵」

陛下がお父様の肩にそっと手を置く。

「差し出がましく申し訳ございません、陛下。しかし……」

陛下は無言で首を振り、お母様と王妃殿下も沈痛な面持ちで下を向く。……そうだ、魔力量があって例え強力な魔道士や聖女に、剣術を極めて勇者になったとしても。

魔王と対峙するのは命懸けだ。

ファンタジーで浮かれていたけれど、小説の世界にそっくりな世界だけれど。

ここは現実だ。

親が子どもをそんな戦いに行かせたいと思う訳がなかった。

『……すまぬが、侯爵。そなたたちでは無理なのだ』

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