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第二章 夢と魔法の国

26.ファーブル王国と隣人

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まさかの四大精霊様の出現に、全員が一瞬固まったのが分かった。そりゃそうよね、妖精さんだけでも大騒ぎなのに、トップ(たぶん)精霊とか。

『そうか、さすがに不躾だったの。読心は控えよう』

当のシルフ様はクスクス笑って楽しそうだけれど。
ひとまず読心術を止めていただけるのはありがたいと思いつつ、最初から気づいていただきたかったとも思わずにはいられない。

「あ、ありがとうございます……?」
『ほほ。リリアンナは素直な子どもだのう』

素直に言葉に乗った不穏感も、読心術がなくとも察せられたようで、シルフ様は更に楽しそうだ。

『そうよ、そうよ、シルフ様。リリーは私のお気に入り!』

リリスがふわりと飛んできて、シルフ様の周りをくるくるする。

『そうであったな。リリスだったか。よき名を貰えたな。リリアンナは確かに、祝福を受けるにふさわしい子どもだ』
『やったー、やったー、えらい?えらい?』
『ああ、偉いぞ』
『わーい!わーい!褒められた~!』

にこにこと飛び回るリリスを優しい眼差しで見ていたシルフ様だったが、『さて』と空気を変えてきた。

『……そこにいるのは、人の王だな?』

「はっ、ファーブル王国国王、シュバイツと申します。ご挨拶が遅れまして、申し訳ございません」

シルフ様の問いに、陛下が丁寧に答える。

それはそうだろう、この国にとっての精霊は隣人であり恩人だ。なぜ見える人間が減ってきたのかは分からないけれど、建国時には共に協力して魔王と魔物を追いやるために、精霊から魔法という恩恵を授かった、というのが歴史で習う話だ。
魔物によって荒廃した国を平定すべく立ち上がった開祖のオルソンに、精霊王が自らの血を分け与え、妖精たちが民を祝福し、女神フローラが後のオルソンの妻になる聖女アリスを遣わせて混乱の時代は終息したと。

『いやなに、わたしも急に訪れた、すまぬの。久方ぶりに妖精の祝福を受けたという子どもと、光の愛し子を見たかったのだ。女神フローラ様と、我らが王、オぺロン様のご意志でな』

そうだ、そうだ、精霊王はオペロンでその奥さんがティターニアだったな?精霊さんのお話も好きだったな~。今、目の前にいるなんて、なんて幸せなのかしら。
いずれ会えたりするのかな。さすがに難しいのかな。
そしてやっぱり神様が上位なのか。当たり前か。

「女神さまと精霊王の……ご意向……」

陛下の重い呟きに、我に返る。
ダメだわ、ファンタジー要素が強い話になると、ついトリップしてしまう。気をつけよう。難しそうだけど。きっと浮かれちゃうけれど。

『左様。そなたは、ここ百年前後か?我ら妖精たちを見る者が減ったことを、更には魔力量も減って来たことも、であるな。どう見ていた?……そうだな、他の者たちも、どうだ?』

その問いに、全員が押し黙ってしまう。きっと誰もが、時代の流れであろうとか、そういうものなのだろうとかと思っていて、深く考えていなかった。

「……申し訳ございません、時代の流れかと……深く考察することはなかったように思います」

重い沈黙を破り、陛下が皆を代表するように応える。

『ふむ、そうさな、そうだろう。見えないとはいえ、魔力量が減ったとはいえ、魔法は変わらずに使えるしな?』
「それは……いえ、確かにそれもありましょう」

確かに、言い方は悪いが精霊やら妖精やらが見えないからといって、生活に困ることはないのだ。今は魔道具も発達していて、少ない魔力でもどうとでもなる。けど、それが関係したりはしてないよね。

『それがそうでもないのだよ、リリアンナ』
「えっ!」

てか、また読心したな!シルフ様!思わずジト目で見てしまう。

『ほほ。許せ。皆の思いを知りたくてな。そう、時代の流れ……人間に流れる精霊の血が薄くなったのも要因のひとつであるのも確かだろうが、魔道具の普及もまた影響しておる』
「そうなのですか?!魔道具が自然に悪い影響があったりするのですか?」

な、なぜだろう、魔道具は前世でいうところの家電や機械に比べてだいぶエコだと思うのだけれど。

『そうではなくな。どうも人間は文明が進んで来ると、隣人への信心を、畏れを忘れてしまうものらしい。そもそも主らも霊的な存在であるというのに……』

それは……そうかもしれない。物に囲まれるのが当然で、便利が普通で。それはこのファンタジーなこの国でも、そうなってしまうのか。魔法が普通なんだもんなあ、それもそうかあ。

『つまるところ、それが失くなるということは魔法が使えなくなるということであるな。ひいては、封印してある魔王の結界も消えてしまう』

ひゅっ、と全員が息を飲む。

ま、魔王って封印されてたんだっけ?!
ーーー原作ではそんなに詳しい話は語られてなかったよね?……いや、いた、気も、する。ああ、当時の私はお花畑の住人で(だって子どもだったから!)、重いところは飛ばして読んでいたのは思い出した。マリーアと殿下のラブラブシーンなら、バッチリ思い出せるのに。今となってはいらないくらいの記憶だわ……。

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