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第二章 夢と魔法の国
挿入話 マリーア=サバンズ 2―②
しおりを挟む「マリー!リリー!楽しくご友人だけを作ってくるのだよ~!!」と、叫びながら馬車を見送るお父様を尻目に、私たちは王宮へ向かった。ふふ、リリーったら呆れ顔をしているわ。お父様、ちょっと鬱陶しいとか思っていそう。
今日のドレスもリリーとお揃いだ。リリーがブルーベースで私がグリーンベースの、ベルラインのドレス。お互いの色を取りかえっこしませんか?と、私の天使からの発案だ。ノースリーブでスカートにレースが何重にも重ねられていて、ふわふわで可愛い。リリーなんてもう、妖精にしか見えない。
これは、絶対に色々な虫たちが飛んでくる。私が見定めないと!
なんて、私が気合いを入れている横で、リリーに「マリー姉さまは大船に乗ったつもりでいてね!」と、ピカピカの笑顔で言われたら、すっかり顔が緩んでしまった。
今回のお茶会は、王宮でのガーデンパーティーだった。
初めて足を踏み入れたその庭園は本当に圧巻で、そこは本当に来て良かったと思えた。
「ヒンター=アクシーズです。どうか、気軽にヒンターと。皆さんのこともファーストネームで呼ばせていただいても構いませんか?」
この、胡散臭い男に会うまでは。
(……この人、魔法?で変装?しているわよね?どういうこと?周りの人は……気づいていない?)
ここで一人では騒げない。少し様子見ね。ここは王宮なんだから、本当に怪しければ追い出されるわよね?
「本日はわたしのお茶会に参加してくれてありがとう」
って、お前もかーい!
アクシーズ公爵令息は、殿下の従兄弟で側近確定者だろう。同い年で顔も似ているし、お互いに理解も進んでいるのだろうから、入れ替わりにうってつけだ。
そりゃあね。王族にいろいろあるのは元庶民の私にも、想像に難くない。私たちを見定めるために必要なこと、かもしれない。
それでも、こんな騙すようなやり方はどうなのよ。そんなものを使わなくても、人を見定められるようにするのが王様なんじゃないのか。
「わたくし、魔物討伐騎士団の魔術師を目指しますわ!」
私の天使まで突拍子のないことを言い出して慌てたけれど、この子の芯はいつだって真っ直ぐだ。
「侯爵家の長女は、お姉さまですよ?」
と、当然のように続けて。うっかり公衆の面前で泣くところだったわ。
そしてこの天使は、本当に何かをやらかしそうな気がする。いえ、いいのよ?リリーがやることは、大抵が誰かのためになることなのだから。ただ、一人で突っ走るのが心配で。---本当に早く聖魔法を習得しよう。
きちんと貴族の役目を理解していて、それを果たす責任感も強いのに、なぜか自由に輝く子。だから、分かる。
「…………オレが気に入ったし」
幸いなことに、リリーに聞こえなかった、ヒンター様の……いえ、殿下の呟きが示す、その微熱が何なのか。
でも、少なくとも今の段階で、リリーは王太子妃に興味を示していない。もちろん殿下にもだ。
易々と、王命なんぞを使われたら、たまったもんじゃないわ。この、エセ王子。
「あの子を……わたくしの大事な大事な妹を望むのであるならば、正面からでお願いします」
「でないと絶対、認めませんから。不敬だろうと、何だろうと」
不信感を隠さずに釘を刺し、リリーにも便乗して国外逃亡だって仄めかす。言いながら気づいたけど、お父様に話そうものなら本気で動き出されると思う。それほどの愛情を、しっかり感じている。
そして、我が侯爵家の重要性も、再認識できた。簡単には、譲らない。
膠着した状態を、イデアーレ様たちに気遣わせてしまったのは申し訳なかったけれど……。
「マリーア嬢、少しいいか」
「何でしょうか?ヒンター様」
明らか不敬だが、私は視線を他のご令嬢と楽しそうに会話しているリリーに向けている。殿下もそちらへと顔を向けた。
「いつ、気づいた?」
「最初からですわ」
「それは……何か魔力を使って?」
「いいえ。自分でも不思議ですが……。これも、聖魔法の特徴なのでしょうか?だとしたら、僥倖でしたわ」
「……すまない、騙すような真似を」
「王族の方が、軽々しく頭を下げてはいけないのでしょう?謝られるなら、最初からやるべきではなかったのではないですか?そちらの事情もおありなのでしょうし、手っ取り早かったのでしょうけれど、失礼ですよね?子どもたちの、初めてのお茶会で」
「手っ取り早いとかでは……いや、でも、すまん」
「わたくし、世界で一番リリアンナが大切ですの。彼女を騙したり傷つけるような方は、絶対に許しません。軽い気持ちの方もです」
そこで初めて、私は殿下に顔を向け、殿下も私に視線を合わせてきた。
「承知した。わたしも、リリアンナ嬢ときちんと向き合いたいと思う。……機会を、貰えるだろうか?」
「それを決めるのはわたくしではございません。彼女に危害を加えない限り……彼女が拒絶しない限り、邪魔も協力も致しません」
「潔いな。……ありがとう」
「卑怯者にはなりたくないので。では、ご機嫌よう」
私は持てる最高の笑顔で言い放ち、お義母様から満点をいただいたカーテシ-をして、その場を去った。
少し離れて見守っていたマークス様が慌てて殿下に駆け寄り、ひたすら声をかけているのが見える。
今回は、この辺で許して差し上げますわ。
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