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第二章 夢と魔法の国
挿入話 マリーア=サバンズ 1
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早く、早く力をつけないと。
ーーーなぜ?
この家に居たくないから。……私の母さんの責任もあるかもしれないけれど、この悪意だらけの空間は辛すぎる。
何より、魔力量のあるあの子に引き摺られるように、大きな悪意が近づいて来ているのが分かる。
ーーーあの子?
私の義理の妹よ。せっかく恵まれた環境と力があるのに。全てを私を恨むことに使ってしまっている。可哀想なあの子。私はやはりここへ来るべきではなかったの。
でも、どうすることもできなかった。
ーーー逃げられないの?
無理ね。……きっと、お互いに生きている限り……。でも、私には聖魔法がある。だから早く力をつけて、障気を払って、あの人も……助けなければ。
ーーーあの人?
……そう、私の愛する大切な…………わたしの………………
「ん、んんっ」
部屋に朝日が差し込み、目が覚める。
ぐっ、と伸びをする。何だろう、何だか変な夢を見ていたような……。うーん。思い出せないのだから大したことはないのだろう。
マリーア=サバンズとなって、もう四ヶ月だ。この広すぎる煌びやかな部屋にも、ようやく慣れてきた。
その、四ヶ月と少し前に母が急な事故で亡くなって、パニックになった私は魔力を暴走気味に解放してしまい、いろいろあって侯爵家に引き取られたのだ。
始めは、生活に関しては安心したのが正直な所だけど……不安の方が何倍もあった。魔力の関係で逃げ道は無かったけれど。
だって普通に庶民から貴族って、あり得ないわよね。
しかも、義母と義妹って、恐怖しかなかった。
それを、覆してくれたのは……
「マリー姉さま、起きてる?待ちきれなくて、会いに来ちゃった!」
私の……可愛い可愛い可愛い×10の、義妹のリリーだ。
「起きてるわ。リリーはもう支度は済んだの?」
私の返事に、苦笑気味でも微笑ましそうに見守ってくれる専属侍女のアイリと共に、部屋に飛び込んで来るリリー。
今の、私の光。
あの日……私が初めて侯爵家に来た日、少なくともお義母様の機嫌はあまり良くなかったと思う。
当然だ。自分の旦那様が、昔の恋人の子どもを連れて来るなんて……嬉しいはずがない。
極力大人しくしていよう、機嫌を損ねないように頑張らないとと緊張しきりの私に、あの天使は言ってくれた。
ちょっとつり目の、綺麗な銀の毛並みを纏った子猫のように可愛いあの子が。
「初めまして、お姉さま。リリアンナ=サバンズです。これから仲良くしてくださいませ!」
とっても、とっても輝いた笑顔で。
その後もお茶会に誘い出してくれて、夜の晩餐の時にはお義母様までも温かく迎えてくれた。雰囲気から察するに、リリーが何かしてくれたのだろう。
ーーー私の義妹、天使過ぎるのでは?
それに賢い。
その後の日々は、もう夢のようで。
もちろん、侯爵家の長女になった以上は、努力は惜しまない。
母さんが生きていた頃、こんなマナーなんてどこで使うのよ!って思っていたけれど、今は感謝しかない。ベースがあったからこそ、必要以上の頑張りがなくとも何とかなっている。
しかも、母さんが社交界での憧れだったとか。お義母様から聞けるなんて、なんて幸せなんだろう。
そして今日は魔力測定の日。
どんな結果になるかは分からないけれど、侯爵家の……リリーの力になれたらいいなと思う。
リリーは朝のあの後、興奮していてまだ支度は全くできてなかったみたいで(それはそれで愛おしい!)、いつも通り家族で朝食をいただき外出の準備をする。
今日はリリーとお揃いのワンピース!私を誉めちぎってくれるけれど、リリーの方が100倍かわいい。
神殿への向かう馬車内も幸せで。
その日の夜に予定の誕生日パーティーのこと、自分の好物のチョコレートケーキじゃくて、私の好きなケーキにしてくれて(メイドさんたちの微笑ましい話を盗み聞きした)、二人のお祝いって、何この愛しい生き物。思わずぎゅっと抱きしめる。
リリーがお父様にツンツンなのもかわいい。ふふっ、本当は大好きなのが、見て分かるわ。お父様は少し……だいぶヘタレさんでいらっしゃるから、ちょっとイジワルしたくなるのよね?私にはできないけれど、ちょっと分かる……かも。いえ、私も大好きよ?
測定結果は、何と、リリーは紫光ほどの魔力量が!!
きゃー!何それ何それ?!
本当、私の義妹すごすぎない?完璧すぎでしょ?どういうこと?!この場で叫ばない私を誉めて欲しいくらいなんだけど!
その後の私の結果は濃紺だった。自分の想像以上でびっくりよ。なのに、リリーが不思議と食い下がって。大神官様が改めて確認して下さったら、まさかの聖魔法って。
……それが、もしあったのなら、母さんが轢かれたあの日、あの日にもっと何かしたかった。魔法の勉強もしていなかったし、タラレバなのは分かる。でも、でも、って思う。……けれど。
「やっぱり!さすがマリー姉さまですわ!!」
と、自分のことのように喜ぶ妹を見ていたら、だんだん誇らしくなって。
引き取られた当初に思ったように、侯爵家に恩返しできたらと思えた。
何より、この誰よりも私の愛する大切な、可愛い義妹を守れるように。
ーーー二度と後悔しないように努力をしようと、改めて誓ったのだった。
ーーーなぜ?
この家に居たくないから。……私の母さんの責任もあるかもしれないけれど、この悪意だらけの空間は辛すぎる。
何より、魔力量のあるあの子に引き摺られるように、大きな悪意が近づいて来ているのが分かる。
ーーーあの子?
私の義理の妹よ。せっかく恵まれた環境と力があるのに。全てを私を恨むことに使ってしまっている。可哀想なあの子。私はやはりここへ来るべきではなかったの。
でも、どうすることもできなかった。
ーーー逃げられないの?
無理ね。……きっと、お互いに生きている限り……。でも、私には聖魔法がある。だから早く力をつけて、障気を払って、あの人も……助けなければ。
ーーーあの人?
……そう、私の愛する大切な…………わたしの………………
「ん、んんっ」
部屋に朝日が差し込み、目が覚める。
ぐっ、と伸びをする。何だろう、何だか変な夢を見ていたような……。うーん。思い出せないのだから大したことはないのだろう。
マリーア=サバンズとなって、もう四ヶ月だ。この広すぎる煌びやかな部屋にも、ようやく慣れてきた。
その、四ヶ月と少し前に母が急な事故で亡くなって、パニックになった私は魔力を暴走気味に解放してしまい、いろいろあって侯爵家に引き取られたのだ。
始めは、生活に関しては安心したのが正直な所だけど……不安の方が何倍もあった。魔力の関係で逃げ道は無かったけれど。
だって普通に庶民から貴族って、あり得ないわよね。
しかも、義母と義妹って、恐怖しかなかった。
それを、覆してくれたのは……
「マリー姉さま、起きてる?待ちきれなくて、会いに来ちゃった!」
私の……可愛い可愛い可愛い×10の、義妹のリリーだ。
「起きてるわ。リリーはもう支度は済んだの?」
私の返事に、苦笑気味でも微笑ましそうに見守ってくれる専属侍女のアイリと共に、部屋に飛び込んで来るリリー。
今の、私の光。
あの日……私が初めて侯爵家に来た日、少なくともお義母様の機嫌はあまり良くなかったと思う。
当然だ。自分の旦那様が、昔の恋人の子どもを連れて来るなんて……嬉しいはずがない。
極力大人しくしていよう、機嫌を損ねないように頑張らないとと緊張しきりの私に、あの天使は言ってくれた。
ちょっとつり目の、綺麗な銀の毛並みを纏った子猫のように可愛いあの子が。
「初めまして、お姉さま。リリアンナ=サバンズです。これから仲良くしてくださいませ!」
とっても、とっても輝いた笑顔で。
その後もお茶会に誘い出してくれて、夜の晩餐の時にはお義母様までも温かく迎えてくれた。雰囲気から察するに、リリーが何かしてくれたのだろう。
ーーー私の義妹、天使過ぎるのでは?
それに賢い。
その後の日々は、もう夢のようで。
もちろん、侯爵家の長女になった以上は、努力は惜しまない。
母さんが生きていた頃、こんなマナーなんてどこで使うのよ!って思っていたけれど、今は感謝しかない。ベースがあったからこそ、必要以上の頑張りがなくとも何とかなっている。
しかも、母さんが社交界での憧れだったとか。お義母様から聞けるなんて、なんて幸せなんだろう。
そして今日は魔力測定の日。
どんな結果になるかは分からないけれど、侯爵家の……リリーの力になれたらいいなと思う。
リリーは朝のあの後、興奮していてまだ支度は全くできてなかったみたいで(それはそれで愛おしい!)、いつも通り家族で朝食をいただき外出の準備をする。
今日はリリーとお揃いのワンピース!私を誉めちぎってくれるけれど、リリーの方が100倍かわいい。
神殿への向かう馬車内も幸せで。
その日の夜に予定の誕生日パーティーのこと、自分の好物のチョコレートケーキじゃくて、私の好きなケーキにしてくれて(メイドさんたちの微笑ましい話を盗み聞きした)、二人のお祝いって、何この愛しい生き物。思わずぎゅっと抱きしめる。
リリーがお父様にツンツンなのもかわいい。ふふっ、本当は大好きなのが、見て分かるわ。お父様は少し……だいぶヘタレさんでいらっしゃるから、ちょっとイジワルしたくなるのよね?私にはできないけれど、ちょっと分かる……かも。いえ、私も大好きよ?
測定結果は、何と、リリーは紫光ほどの魔力量が!!
きゃー!何それ何それ?!
本当、私の義妹すごすぎない?完璧すぎでしょ?どういうこと?!この場で叫ばない私を誉めて欲しいくらいなんだけど!
その後の私の結果は濃紺だった。自分の想像以上でびっくりよ。なのに、リリーが不思議と食い下がって。大神官様が改めて確認して下さったら、まさかの聖魔法って。
……それが、もしあったのなら、母さんが轢かれたあの日、あの日にもっと何かしたかった。魔法の勉強もしていなかったし、タラレバなのは分かる。でも、でも、って思う。……けれど。
「やっぱり!さすがマリー姉さまですわ!!」
と、自分のことのように喜ぶ妹を見ていたら、だんだん誇らしくなって。
引き取られた当初に思ったように、侯爵家に恩返しできたらと思えた。
何より、この誰よりも私の愛する大切な、可愛い義妹を守れるように。
ーーー二度と後悔しないように努力をしようと、改めて誓ったのだった。
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