11 / 81
第二章 夢と魔法の国
11.魔力測定
しおりを挟む
「ふんふん♪」
ちょっと心に引っ掛かりはあるものの、神殿へ向かう道すがらの私もご機嫌だ。
『サファイアの君と共に』は、ジュニア向けのファンタジー小説だったので、馬車もファンタジー。
空間魔法で前世で言えば飛行機のファーストクラスくらいの余裕があるし(前世で乗ったことはナシ)、揺れずに速い。お馬さんも魔馬で、魔法の馬車と相性がいいらしい。うーん、ファビュラス!
「すごい!やっぱり庶民の辻馬車とは違うのね……」
ほぅ……と感動したように呟くマリーアに、またホロリとする。
「マリー姉さま!今日は楽しみですね!魔力測定の後は、パーティーもあります!ケーキは果物がいっぱいですよ!」
貴族の子女の誕生日は、人をたくさん呼んで盛大なパーティーをすることが多いが、10歳は特別だ。大半が当日に神殿に行くので、家族だけで思いっきり祝う。
「ふふっ、そうね。でも、リリーの誕生日なのだから、リリーの好きなケーキにしたら良かったのに」
「だって、わたくしも果物大好きだもの!それにマリー姉さまも10歳をいっぱいお祝いできなかったでしょう?今日は一緒にお祝いよ!」
この四ヶ月で、マリーアと私も更に打ち解けた。
姉妹で丁寧語は寂しいとのマリーアの要望で、身内内では砕けて話すようになった。
今日の私の誕生日に向けて、うちの料理長にケーキのリクエストを聞かれたのだが、マリーアの大好きな果物たっぷりケーキにしたのだ。私はチョコレート派だけれど、果物も大好きなので、何の問題もない。今日はマリーアの魔力お披露目の側面もあるし、盛大にお祝いしたかったのだ。
「楽しみね!二人のお祝いだもの」
うきうきでマリーアを振り返ると、ぎゅっと強く抱きしめられた。えへ。ケーキ喜んでくれたのかな。だったら嬉しい。
「もう、二人は本当に仲良しね。お母様も入れて欲しいわ」
姉妹二人できゃっきゃしていたら、お母様に焼きもちを焼かれた。最近のお母様はすっかり素直で、これはこれで可愛い。
「もちろんですぅー」
「お義母様、大好きですー!」
二人でそう言って、ぎゅっと抱きつく。お母様の幸せそうな顔に、私たちも嬉しくなる。
「お父様は……?」
「今は女子会なので!」
父がしゅーんと項垂れる。寂しそうだが、お母様よりいろいろ、いろいろを根に持っている私は塩対応だ。そりゃあさ、私は当人じゃないんだけどね!当人は許しているんだけどね!自分の父だと思うと余計にムカつくというか。
……でも、まあ。
「もうちょっとしたら、お父様にもぎゅっとしてあげますよ」
お父様の顔が、パアッと明るくなる。
当人が許している以上、飴もあげますよ。そこはね。
とても喜んでいてくれることが分かるし。
バッドエンドにもなりたくないし、うん、ねっ。
だから、甘々も必要な訳ですよ。……そういうことにしといて下さいな。
◇
家族でわちゃちゃして、15分くらいで神殿に到着。
神殿はイメージで言うと、ギリシャの世界遺産的な?荘厳な建物だ。壁面は光の加減で白にも青にも見えて、とても神秘的。
「さて、行こうか」
お父様の声に、皆で付いていく。わあ、内装もキレイ。ステンドグラスって、誰が発明?したんだっけ?神秘的で綺麗だよね。この世界にもあるのか~。まあ、原作を考えればあるのか。
「ご機嫌よう。ようこそいらっしゃった。サバンズ侯爵家の皆様」
「大神官様。本日はお世話になります」
聖堂に入ると、既に神官様がスタンバってくれていた。しかも大神官様。偉い人だよね。
周りに人はいない。同じ誕生日の人はあんまりいないのかな?
「大神官様にわざわざお越しいただいて……」
「なに、マリーア嬢が気になっておったからの。いやすまん、もちろんリリアンナ嬢もじゃぞ」
マリーアがうちに引き取られた経緯が経緯だから、分かるけども。こんな些細な、ちょっとした言葉にも原作のリリーは引っ掛かりを感じたのかもしれない。今の私は、大神官様がマリーアの魔力を心配してとの事とわかるけどさ。
「さて、どちらのお嬢様から測定を始めましょう?」
「はい!はい!!わたくしからお願いします!」
ちょっと食いぎみに口を挟む。主役は最後にと決まっているのよ。
「ほほ。ではこちらの祭壇に置かれた水晶に魔力を流してくださいませ」
「はい!」
私は教わった通りに水晶に手をかざして魔力を流す。
水晶は徐々に光を増していく。
魔力量は光の色に表れる。赤から始まり、橙、黄、黄緑、緑、深緑、青、紺、濃紺、紫へと。聖魔法はお約束の白だ。ちなみに平均は、黄色から緑くらいだ。
光が、赤から黄色へ、黄色から緑へ、緑から青へ、そして紫へと変わった所で落ち着いた。
「これは……素晴らしいですな!紫の光とは……近年の王族でもみられなくなった魔力量ですぞ!リリアンナ嬢、沢山学ばれるがよろしい」
「……あれ?」
私、原作でそんなに魔力あったっけ?思わずじっと手を見る。
最後、ヒロインを呪おうとするのだから、それなりだったと思うけど。
……まあ、いっか。「すごいぞ、リリー!」って両親も喜んでいるし。きっとこの後のマリーアので帳消しにされてしまうだろうし。
沢山使えると分かっただけで、私は満足よ!明日からさっそく家庭教師さんに習おう!
「さて、次はマリーア嬢じゃな。こちらに」
「……はい」
マリーアが緊張した面持ちで水晶に手をかざす。
想像通り、色は順々に変わって行き……
「おお!なんと言うことだ!マリーア嬢は濃紺ですぞ!!侯爵、素晴らしいご姉妹ですな」
……あれあれ?
そんな訳はない、はず。今回、私は邪魔してないし。マリーアヒロインの開始じゃないのですか?
「ええ?!マリー姉さまが濃紺?大神官様、よく見て下さいませ!」
「リリアンナ嬢?見ると言っても…………おや?これは?」
大神官さまが改めて水晶を覗き込む。
「これは……まだ弱い光だが、淡く、白い光が輝いておる……。侯爵!やはりマリーア嬢には聖魔法の素養もありそうですぞ!なんたる僥倖!」
「なんと……まさか本当に!すごいことだぞ、マリーア」
「え、わたくしが……?本当ですか?」
マリーアは信じられないと首を振り、大人たちはちょっとしたお祭り騒ぎになっている。そりゃそうなんだけど。
「……まだ、微かでいいんだっけ?聖魔法……」
私は一人で首を傾げて考え込む。やっぱり肝心なことを忘れている気がしてならない。
まあ、血生臭い小説じゃなかったし?魔物のスタンピードが起こるとかの気配もないし?
大丈夫だよね?
ちょっと心に引っ掛かりはあるものの、神殿へ向かう道すがらの私もご機嫌だ。
『サファイアの君と共に』は、ジュニア向けのファンタジー小説だったので、馬車もファンタジー。
空間魔法で前世で言えば飛行機のファーストクラスくらいの余裕があるし(前世で乗ったことはナシ)、揺れずに速い。お馬さんも魔馬で、魔法の馬車と相性がいいらしい。うーん、ファビュラス!
「すごい!やっぱり庶民の辻馬車とは違うのね……」
ほぅ……と感動したように呟くマリーアに、またホロリとする。
「マリー姉さま!今日は楽しみですね!魔力測定の後は、パーティーもあります!ケーキは果物がいっぱいですよ!」
貴族の子女の誕生日は、人をたくさん呼んで盛大なパーティーをすることが多いが、10歳は特別だ。大半が当日に神殿に行くので、家族だけで思いっきり祝う。
「ふふっ、そうね。でも、リリーの誕生日なのだから、リリーの好きなケーキにしたら良かったのに」
「だって、わたくしも果物大好きだもの!それにマリー姉さまも10歳をいっぱいお祝いできなかったでしょう?今日は一緒にお祝いよ!」
この四ヶ月で、マリーアと私も更に打ち解けた。
姉妹で丁寧語は寂しいとのマリーアの要望で、身内内では砕けて話すようになった。
今日の私の誕生日に向けて、うちの料理長にケーキのリクエストを聞かれたのだが、マリーアの大好きな果物たっぷりケーキにしたのだ。私はチョコレート派だけれど、果物も大好きなので、何の問題もない。今日はマリーアの魔力お披露目の側面もあるし、盛大にお祝いしたかったのだ。
「楽しみね!二人のお祝いだもの」
うきうきでマリーアを振り返ると、ぎゅっと強く抱きしめられた。えへ。ケーキ喜んでくれたのかな。だったら嬉しい。
「もう、二人は本当に仲良しね。お母様も入れて欲しいわ」
姉妹二人できゃっきゃしていたら、お母様に焼きもちを焼かれた。最近のお母様はすっかり素直で、これはこれで可愛い。
「もちろんですぅー」
「お義母様、大好きですー!」
二人でそう言って、ぎゅっと抱きつく。お母様の幸せそうな顔に、私たちも嬉しくなる。
「お父様は……?」
「今は女子会なので!」
父がしゅーんと項垂れる。寂しそうだが、お母様よりいろいろ、いろいろを根に持っている私は塩対応だ。そりゃあさ、私は当人じゃないんだけどね!当人は許しているんだけどね!自分の父だと思うと余計にムカつくというか。
……でも、まあ。
「もうちょっとしたら、お父様にもぎゅっとしてあげますよ」
お父様の顔が、パアッと明るくなる。
当人が許している以上、飴もあげますよ。そこはね。
とても喜んでいてくれることが分かるし。
バッドエンドにもなりたくないし、うん、ねっ。
だから、甘々も必要な訳ですよ。……そういうことにしといて下さいな。
◇
家族でわちゃちゃして、15分くらいで神殿に到着。
神殿はイメージで言うと、ギリシャの世界遺産的な?荘厳な建物だ。壁面は光の加減で白にも青にも見えて、とても神秘的。
「さて、行こうか」
お父様の声に、皆で付いていく。わあ、内装もキレイ。ステンドグラスって、誰が発明?したんだっけ?神秘的で綺麗だよね。この世界にもあるのか~。まあ、原作を考えればあるのか。
「ご機嫌よう。ようこそいらっしゃった。サバンズ侯爵家の皆様」
「大神官様。本日はお世話になります」
聖堂に入ると、既に神官様がスタンバってくれていた。しかも大神官様。偉い人だよね。
周りに人はいない。同じ誕生日の人はあんまりいないのかな?
「大神官様にわざわざお越しいただいて……」
「なに、マリーア嬢が気になっておったからの。いやすまん、もちろんリリアンナ嬢もじゃぞ」
マリーアがうちに引き取られた経緯が経緯だから、分かるけども。こんな些細な、ちょっとした言葉にも原作のリリーは引っ掛かりを感じたのかもしれない。今の私は、大神官様がマリーアの魔力を心配してとの事とわかるけどさ。
「さて、どちらのお嬢様から測定を始めましょう?」
「はい!はい!!わたくしからお願いします!」
ちょっと食いぎみに口を挟む。主役は最後にと決まっているのよ。
「ほほ。ではこちらの祭壇に置かれた水晶に魔力を流してくださいませ」
「はい!」
私は教わった通りに水晶に手をかざして魔力を流す。
水晶は徐々に光を増していく。
魔力量は光の色に表れる。赤から始まり、橙、黄、黄緑、緑、深緑、青、紺、濃紺、紫へと。聖魔法はお約束の白だ。ちなみに平均は、黄色から緑くらいだ。
光が、赤から黄色へ、黄色から緑へ、緑から青へ、そして紫へと変わった所で落ち着いた。
「これは……素晴らしいですな!紫の光とは……近年の王族でもみられなくなった魔力量ですぞ!リリアンナ嬢、沢山学ばれるがよろしい」
「……あれ?」
私、原作でそんなに魔力あったっけ?思わずじっと手を見る。
最後、ヒロインを呪おうとするのだから、それなりだったと思うけど。
……まあ、いっか。「すごいぞ、リリー!」って両親も喜んでいるし。きっとこの後のマリーアので帳消しにされてしまうだろうし。
沢山使えると分かっただけで、私は満足よ!明日からさっそく家庭教師さんに習おう!
「さて、次はマリーア嬢じゃな。こちらに」
「……はい」
マリーアが緊張した面持ちで水晶に手をかざす。
想像通り、色は順々に変わって行き……
「おお!なんと言うことだ!マリーア嬢は濃紺ですぞ!!侯爵、素晴らしいご姉妹ですな」
……あれあれ?
そんな訳はない、はず。今回、私は邪魔してないし。マリーアヒロインの開始じゃないのですか?
「ええ?!マリー姉さまが濃紺?大神官様、よく見て下さいませ!」
「リリアンナ嬢?見ると言っても…………おや?これは?」
大神官さまが改めて水晶を覗き込む。
「これは……まだ弱い光だが、淡く、白い光が輝いておる……。侯爵!やはりマリーア嬢には聖魔法の素養もありそうですぞ!なんたる僥倖!」
「なんと……まさか本当に!すごいことだぞ、マリーア」
「え、わたくしが……?本当ですか?」
マリーアは信じられないと首を振り、大人たちはちょっとしたお祭り騒ぎになっている。そりゃそうなんだけど。
「……まだ、微かでいいんだっけ?聖魔法……」
私は一人で首を傾げて考え込む。やっぱり肝心なことを忘れている気がしてならない。
まあ、血生臭い小説じゃなかったし?魔物のスタンピードが起こるとかの気配もないし?
大丈夫だよね?
19
お気に入りに追加
85
あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。

婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした
珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。
色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。
バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。
※全4話。

どうぞお好きに
音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。
王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。

過程をすっ飛ばすことにしました
こうやさい
ファンタジー
ある日、前世の乙女ゲームの中に悪役令嬢として転生したことに気づいたけど、ここどう考えても生活しづらい。
どうせざまぁされて追放されるわけだし、過程すっ飛ばしてもよくね?
そのいろいろが重要なんだろうと思いつつそれもすっ飛ばしました(爆)。
深く考えないでください。

ドアマット扱いを黙って受け入れろ?絶対嫌ですけど。
よもぎ
ファンタジー
モニカは思い出した。わたし、ネットで読んだドアマットヒロインが登場する作品のヒロインになってる。このままいくと壮絶な経験することになる…?絶対嫌だ。というわけで、回避するためにも行動することにしたのである。

【完結】聖女ディアの処刑
大盛★無料
ファンタジー
平民のディアは、聖女の力を持っていた。
枯れた草木を蘇らせ、結界を張って魔獣を防ぎ、人々の病や傷を癒し、教会で朝から晩まで働いていた。
「怪我をしても、鍛錬しなくても、きちんと作物を育てなくても大丈夫。あの平民の聖女がなんとかしてくれる」
聖女に助けてもらうのが当たり前になり、みんな感謝を忘れていく。「ありがとう」の一言さえもらえないのに、無垢で心優しいディアは奇跡を起こし続ける。
そんななか、イルミテラという公爵令嬢に、聖女の印が現れた。
ディアは偽物と糾弾され、国民の前で処刑されることになるのだが――
※ざまあちょっぴり!←ちょっぴりじゃなくなってきました(;´・ω・)
※サクッとかる~くお楽しみくださいませ!(*´ω`*)←ちょっと重くなってきました(;´・ω・)
★追記
※残酷なシーンがちょっぴりありますが、週刊少年ジャンプレベルなので特に年齢制限は設けておりません。
※乳児が地面に落っこちる、運河の氾濫など災害の描写が数行あります。ご留意くださいませ。
※ちょこちょこ書き直しています。セリフをカッコ良くしたり、状況を補足したりする程度なので、本筋には大きく影響なくお楽しみ頂けると思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる