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第一章 サバンズ侯爵家
6.お父様の昔話とまさかのテンプレ
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お父様は、お母様に会う前にマリーアのお母様と幼馴染みで婚約者だったこと、とても大切に想っていたけれど、侯爵家でも賄い切れない程の大損失をマリーアからするとお祖父様か、当時の子爵家当主が出してしまい、泣く泣く婚約解消になったこと、を話し出した。
マリーアのお母様はお父様よりひとつ年下で、お父様はすでに学園を卒業しており、彼女の卒業を待って、結婚することになっていた頃だったらしい。
「彼女は綺麗で朗らかで、わたしの自慢の婚約者だったよ。なのに、守れなくてすまなかった」
と、お父様はマリーアに告げた。マリーアは緩く首を振った。彼女にも分かるのだろう、それが難しかったことは。
「あの、わた、くしが持っている指輪は……その」
マリーアが躊躇いがちに口を開く。私たちの前での遠慮もあるのだろう。
「お持ちになってなさいな。今となってはお母様の唯一の形見でしょう?ねぇ、旦那様」
「ああ、そうだな……ありがとう、ジョセフィーヌ。彼女にはそれしか残してあげられなかった。君さえ良ければ、持っていて欲しい」
「……!ありがとう、ございます……!!」
マリーアは胸の前で手をぎゅっと組んで泣き笑いだ。
うんうん、唯一の形見だもんね。嬉しいよね。
……この流れで思い出したけど、原作では私とお母様で取り上げていた気がする。良かった、鬼畜回避できて。
「あの頃は両家の父を恨んだものさ。特にわたしの父をね。あれだけ懇意にしていたくせに、冷たいと。……悔しいが、今となっては分かってしまうがね。共同事業の失敗で、侯爵家まで家を傾ける訳にはいかない」
お父様は、寂しさと悔しさをない交ぜにしたような顔で言った。分かるわー、大人になるってこういうことか……って思うよね。
「彼女に会うことも禁じられていたのだが、彼女が市井に下る前にどうしても会いたいと、最後だからと……セバスチャンに無理を言って、連絡を取ってもらったんだ。そして、最後の1日を二人きりで過ごした」
あー、それで盛り上がって……げふんげふん、思い出を作ったのですな。いろいろとご意見もあるでしょうが、女性として、マリーア母の気持ちも分からなくなかったり。嫌いで別れるんじゃないもんね。思い出をって思っちゃうかも。
「……あの時は迷惑をかけた。すまなかったな、セバスチャン」
セバスチャンは無言で頭を下げた。お父様と、そして、お母様にも、深く。彼のせいではないが、いろいろな気持ちが込もっているのであろう、深い深いお辞儀だった。
「その後はしばらく無気力になってしまってね。毎日を淡々と過ごしていたし、彼女以上に愛する者など現れないだろうと思っていた。そもそも貴族の嫡男である以上婚姻は絶対だし、政略は当然だ。初めの婚約が奇跡みたいなものだったのだと」
お父様は自嘲気味に笑ったあと、優しい顔をしてお母様を見つめた。
「でも、わたしは君に出会えたんだよ、ジョセフィーヌ」
お母様は信じられない顔をしてお父様を見て、震える声を出す。
「わたくしと……?」
「そうだよ。君がまた、私に光を灯してくれた」
お母様は、分からないと言ったように、瞳にうっすら涙を浮かべて首を小刻みに左右に振る。
「すまない……情けない話だが、初めに、その……君への態度は褒められたものではなかっただろう?」
お父様の反省の弁に、珍しくセバスチャンが苦笑に表情を崩す。その表情に、私はハッとする。まさか。
「まさか、お父様、初対面のお母様に『愛するつもりはない』とか、それらしいことをおっしゃったり……?」
「……そこまでの言い方ではなかったと思うが、すまん、若かったんだ」
「若いで許されますか!お父様のご事情も分かりますけれど!お母様には関係のないことですわ!!ただの八つ当たりではないですか。伯爵令嬢であったお母様からお断りはできなかったのですから、まだ気持ちの整理がつかないとお父様がきちんと前侯爵におっしゃるべきでした!」
マリーとの初対面時に、ロクデナシじゃなかったと安心したのに、結構なダメンズだよねぇ?!
「……その通りだ……すまない……」
9歳の娘に突っ込まれているのに、素直に項垂れるお父様。反省は見て取れるけど、まさかリアルに「つもりはない」話があろうとは。小説か!いや、ここは小説か?いやいや、現実、現実よ。こっそり太ももをつねる。うん、痛いわ。
「リリアンナお嬢様、仰有る通りでございますが、旦那様も心から後悔していらっしゃるので……」
「後悔がなんですの?やられた方は傷が残りますのよ!」
そんなやり取りが初手であっての無表情、そして前の恋人の子を連れてくる……そりゃ、ダメじゃん!お母様、よく私の言葉に絆されてくれたもんだよ!
「本当に仰有る通りで……しかしお嬢様は、急に大人になられたようですな。じぃは嬉しいですぞ」
「リリーは今、ロマンス小説に夢中みたいなの」
「なるほど。道理で。しっかり勉強なさっているようですな。旦那様よりしっかりされているはずです」
「まあ、セバスチャンたら、言い過ぎよ」
セバスチャンさん、いつの間にかお父様をディスっておりますが。まあね、お父様が子どもの頃から見ているもんね。彼は彼で思う所があったのだろう。お母様もちょっと楽しそうになってきているみたい。その当時のお母様が、少しは救われるといいな。
お父様は、いつもの威厳とキラキライケオジオーラが全く失くなり、大きな体を小さくしてしょんぼりしている。
まったく……それくらいの反省はしてもらわないとね!!
マリーアのお母様はお父様よりひとつ年下で、お父様はすでに学園を卒業しており、彼女の卒業を待って、結婚することになっていた頃だったらしい。
「彼女は綺麗で朗らかで、わたしの自慢の婚約者だったよ。なのに、守れなくてすまなかった」
と、お父様はマリーアに告げた。マリーアは緩く首を振った。彼女にも分かるのだろう、それが難しかったことは。
「あの、わた、くしが持っている指輪は……その」
マリーアが躊躇いがちに口を開く。私たちの前での遠慮もあるのだろう。
「お持ちになってなさいな。今となってはお母様の唯一の形見でしょう?ねぇ、旦那様」
「ああ、そうだな……ありがとう、ジョセフィーヌ。彼女にはそれしか残してあげられなかった。君さえ良ければ、持っていて欲しい」
「……!ありがとう、ございます……!!」
マリーアは胸の前で手をぎゅっと組んで泣き笑いだ。
うんうん、唯一の形見だもんね。嬉しいよね。
……この流れで思い出したけど、原作では私とお母様で取り上げていた気がする。良かった、鬼畜回避できて。
「あの頃は両家の父を恨んだものさ。特にわたしの父をね。あれだけ懇意にしていたくせに、冷たいと。……悔しいが、今となっては分かってしまうがね。共同事業の失敗で、侯爵家まで家を傾ける訳にはいかない」
お父様は、寂しさと悔しさをない交ぜにしたような顔で言った。分かるわー、大人になるってこういうことか……って思うよね。
「彼女に会うことも禁じられていたのだが、彼女が市井に下る前にどうしても会いたいと、最後だからと……セバスチャンに無理を言って、連絡を取ってもらったんだ。そして、最後の1日を二人きりで過ごした」
あー、それで盛り上がって……げふんげふん、思い出を作ったのですな。いろいろとご意見もあるでしょうが、女性として、マリーア母の気持ちも分からなくなかったり。嫌いで別れるんじゃないもんね。思い出をって思っちゃうかも。
「……あの時は迷惑をかけた。すまなかったな、セバスチャン」
セバスチャンは無言で頭を下げた。お父様と、そして、お母様にも、深く。彼のせいではないが、いろいろな気持ちが込もっているのであろう、深い深いお辞儀だった。
「その後はしばらく無気力になってしまってね。毎日を淡々と過ごしていたし、彼女以上に愛する者など現れないだろうと思っていた。そもそも貴族の嫡男である以上婚姻は絶対だし、政略は当然だ。初めの婚約が奇跡みたいなものだったのだと」
お父様は自嘲気味に笑ったあと、優しい顔をしてお母様を見つめた。
「でも、わたしは君に出会えたんだよ、ジョセフィーヌ」
お母様は信じられない顔をしてお父様を見て、震える声を出す。
「わたくしと……?」
「そうだよ。君がまた、私に光を灯してくれた」
お母様は、分からないと言ったように、瞳にうっすら涙を浮かべて首を小刻みに左右に振る。
「すまない……情けない話だが、初めに、その……君への態度は褒められたものではなかっただろう?」
お父様の反省の弁に、珍しくセバスチャンが苦笑に表情を崩す。その表情に、私はハッとする。まさか。
「まさか、お父様、初対面のお母様に『愛するつもりはない』とか、それらしいことをおっしゃったり……?」
「……そこまでの言い方ではなかったと思うが、すまん、若かったんだ」
「若いで許されますか!お父様のご事情も分かりますけれど!お母様には関係のないことですわ!!ただの八つ当たりではないですか。伯爵令嬢であったお母様からお断りはできなかったのですから、まだ気持ちの整理がつかないとお父様がきちんと前侯爵におっしゃるべきでした!」
マリーとの初対面時に、ロクデナシじゃなかったと安心したのに、結構なダメンズだよねぇ?!
「……その通りだ……すまない……」
9歳の娘に突っ込まれているのに、素直に項垂れるお父様。反省は見て取れるけど、まさかリアルに「つもりはない」話があろうとは。小説か!いや、ここは小説か?いやいや、現実、現実よ。こっそり太ももをつねる。うん、痛いわ。
「リリアンナお嬢様、仰有る通りでございますが、旦那様も心から後悔していらっしゃるので……」
「後悔がなんですの?やられた方は傷が残りますのよ!」
そんなやり取りが初手であっての無表情、そして前の恋人の子を連れてくる……そりゃ、ダメじゃん!お母様、よく私の言葉に絆されてくれたもんだよ!
「本当に仰有る通りで……しかしお嬢様は、急に大人になられたようですな。じぃは嬉しいですぞ」
「リリーは今、ロマンス小説に夢中みたいなの」
「なるほど。道理で。しっかり勉強なさっているようですな。旦那様よりしっかりされているはずです」
「まあ、セバスチャンたら、言い過ぎよ」
セバスチャンさん、いつの間にかお父様をディスっておりますが。まあね、お父様が子どもの頃から見ているもんね。彼は彼で思う所があったのだろう。お母様もちょっと楽しそうになってきているみたい。その当時のお母様が、少しは救われるといいな。
お父様は、いつもの威厳とキラキライケオジオーラが全く失くなり、大きな体を小さくしてしょんぼりしている。
まったく……それくらいの反省はしてもらわないとね!!
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